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第1章

第三話 抑えられぬ欲望

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 すっかり日も落ちて、あたりを照らすのは目の前の炎だけ。
 メルは焚き火の前で夕食の用意をしながら先ほど交わしたディーンとの会話と、ここ数日の事を思い返していた。


 一昨日の夜、青年が湖のほとりで意識を失ってから、少しぼーっとしていたものの、急いでテントへと運び横たえると、服を脱がせて体を拭いた。

 青年の体を丘の上の夜営地まで運ぶよりも、服を脱がせるのが一番難しかった。
 青年を起こさないようにするのに気を遣ったからではない。いや、もちろんそれもある。だが一番は、初めて間近に目にする若い男の体を見て興奮する自分を抑制することだった。

 服を脱がしている間は心臓がドンッドンッと激しく鳴って、苦しいぐらいだった。
 優しげな顔とはギャップを感じさせる厚い胸板。そしてくっきりと割れた腹筋。女の自分の腹筋は、少し盛り上がっているだけで心底気持ち悪いのに、男の割れた腹筋には欲情するのは何故なのだろう。今まで考えた事もなかった。あー、凄く色っぽい。

 そして、下半身。
 下半身が一番難しかった。下着を脱がせたらそこにあるのは、今までに一度も見たことのない、男性の性器。

 メルは父親の性器さえ見たことがなかったのだ。ずっと見てみたかった男性の性器。故郷の村では、セックスの話で盛り上がっている集団も居たが、メルは会話に参加できなかった。
 だが、女の方が性欲が強いこの世界で、自分だけが我慢するなんて事はできない。愛し合う男に自分が激しく犯される事を妄想しながら自慰にふけった回数は数えきれない。心が酷く傷つけられてからは自慰をする気力さえはなくなってしまったが。

 その夢にまで見た男性器を見れると思うだけで下腹部が熱くなった。あんな感覚は初めてだったかもしれない。
 村でサラッと聞いた話によると、男性器の太さは大きいもので親指より少し太いぐらいで、長さは中指ぐらいだと言う。
 心を落ち着けながら、意を決してディーンの下着を取り除くと、そこにあったのはもちろん雄々しさを感じさせる男性器。
 話のものと比べると、目の前の男性器は長さは少し、太さはかなり勝っていた。
 その男性器を見ただけで更に下腹部がキュゥンと切なくなり、息も荒くなった。ずっとこのまま観察をしていたい。いや、触ってみてはダメだろうか。どうせ起きはしない。ほんの少し、少しだけ…………。

 ダメだ、メル。落ち着けー落ち着けー。
 そんな度が過ぎた醜い欲望を制すると、あまり体を見ないようにしながら青年の体を拭いた。体を見てしまえば、また自制するのが辛くなってしまうから……。
 股のあたりを念入りに拭いたのは、排泄する場所に汚れが溜まらないようにである。顔が完全に緩んでいたのは、久々に感じる他人の温もりに安心したからだ。きっと。
 よく考えれば青年の体は冷えていたのだが、気にしたら負けだ。

 それからは自分の替えの服を青年に着せて、毛布を被せた。
 メルは濡れてしまった服と皮の鎧を脱ぐと「同じタオル」で体を拭き、とりあえず薄いシャツと下着、短いズボンだけ着用すると、ディーンのそばで控える事にした。
 いつ起きても良いようにほとんど眠らずに。
 持っている毛布は全て青年にかけていたため寒かったが、隣にまだ自分を嫌っていない人がいる。それだけで冷たい夜も乗り切れた。
 仮面は絶対に外さなかった。

 青年は、次の日は目を冷まさなかった。食事を用意して待っていたのに。少し残念。

 そしてその次の日、つまり今日、青年は目を覚ました。
 青年は目を覚ますと、まずはこちらを見てだらしない格好をしている体に注目していた。
 それはそうだろう。こんな醜いスタイルの体が目の前に、しかもほぼ下着姿で居たら、不快な気持ちになるに違いない。
 なんとか言い訳をしたが、効果はあっただろうか。その後はチラチラ胸の方を見ていたが、そこまで気にしている様には見えなかった。テントの中がやや暗かったのが幸いしたか。ほんと、ごめんね。

 青年に状況を説明しても、記憶を失っているようで、自分の名前以外何も覚えていなかった。

 ディーンと名乗った青年にメルも自分の名を告げた。顔は絶対に見せられないし、エルフであることも言えるはずがなかった。人間の社会において、エルフとはあまりの醜さの為に伝説となった嫌悪の象徴のような種族らしいから。
 長く尖った耳は仮面に木の葉をつけて隠している。

 しかし、顔を隠している理由は聞かれた。
 顔が醜いからであると知らないのかと思ったら、案の定気づいたようで、謝られた。謝られたが、自分の事を命の恩人と言って敬ってくれた。年は近そうなのに終始敬語なのが不満だったが、自分の醜さを気にしていないような態度のディーンに、メルはもう心を掴まれていた。

 一緒に記憶を取り戻す旅をしようなんていう、あまりに身の程知らずな願いにも、まるでディーンもそれを望んでいるかのように、笑顔で了承してくれた。
 本当に嬉しかった。夢のようだった。

 だから調子に乘った。
 浮かれて質問をしたのが失敗だった。
 その後の反応も酷かった。

 ディーンの口から、「美しい女性」という言葉が出た瞬間、心に冷たいナイフを突き立てられたようだった。
 記憶を失っているから、もしかしたら女性の記憶もないかもしれない。そうすれば比較する対象が居なくて、自分の事も受け入れて貰えるかもしれない。

 僅かに感じたそんな甘い希望はまたもや砕け散った。


 それからは、なんとか……いや、無理矢理だろう。会話を終わらせてディーンから離れた。
 酷い態度だったと思う。ディーンには何の責任もないのに、まるで彼がメルを傷つけたような態度を取ってしまった。

 それからは、ただただ呆然としていた。
 自分の事が心から情けなかった。
 体も醜くて、心も自分の欲望を優先するように醜い。これではまるで、おとぎ話に出てくる邪神『ディーヴァ』のようではないか。

 そうは思うのに―――――

「どう……して…………」
 ディーンの事を思い出すだけで下腹部が疼いて仕方がない。
 あの立派な男性器を思い出すだけで、頭がぼうっとする。

 犯して欲しい。私を彼のものにして欲しい。
 私のこんな歳まで捨てられなかった処女を、あの男性器で破り捨ててメチャクチャにして欲しい。よがり狂う程に絶頂させて欲しい。そして、彼の子種を私の奥の奥に流し込んで欲しい。

 料理を終えた手を水で洗うと、その手をゆっくりと自分の下半身へと伸ばす。

「こんなの……ダメ……なのに……」
 足から力が抜け、股が開いていく。
 下着越しに性器に触れると、もうそこは愛液でグショグショだった。

「ああっ……ふあぁ……ッ!」
 下着の上から割れ目に沿ってなぞる、それだけで軽く達してしまいそうだった。
 もうすぐディーンが起きてくるかもしれない。すぐにやめなくてはならない。それなのに、そう思えば思うほどに体が熱くなっていった。

「アッ……ぁぁん……ハァ……ハァ……あぁぁ……ッ!!」
 欲望のままに性器を愛撫し、敏感なクリトリスに指を擦り付ける。
 クチュクチュと耳まで響く淫音さえ心地が良い。

「あっ……こんなの……んッ……ぜったいダメ……なのに……いぃ……ッ!」
 左手で割れ目をなぞり、右手でクリトリスを愛撫する。段々と激しさを増す行為に、快楽が絶頂へと向かっていく。
 誰もいない静かな夜に、メルの淫らな声が響き渡る。

「アッ……アッ……ああぁ……もうダメ……イっちゃう! ディーンに……聞かれちゃうかもしれないのに……」
 心を寄せるディーンに聞かれる、そんな背徳感が快楽に拍車をかける。
 そして、熱く火照った体をのけ反らせて大きく絶頂した。

「ハァハァ……ほんとにイッちゃう……ぁぁ……イクッ…アッアッ……あぁぁ~ッ!  イクッ!  イクぅぅぅ~ッッ!」
 淫らな叫びとともに、秘部からは愛液がドポドポとこぼれ落ちる。

「ぁぁ……あ……ぁ……」
 絶頂の余韻に浸り、呆けているメル。さらに下着の下に手を差し込もうとしている様子は、さながら性の欲求にとりつかれた淫魔のようだった。

 そんなメルを背後からの物音が瞬間的に現実へと引き戻す。

「……!! ディーン!?」
 そう言葉を発しながら振り返ったメル。

 しかしそこに居たのはディーンではなく―――――― 

「お楽しみだったみたいじゃないかぁ」

 冷酷な笑みを浮かべる、月のような美女だった。
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