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第1章
第四話 襲撃
しおりを挟む「お楽しみだったみたいじゃないかぁ」
一人で自慰にふけっている中、突然見知らぬ者が現れた事に頭を殴られたような衝撃が走る。
火照った体はすぐには冷めないが、ディーンの事しか考えられなかった呆けた頭は急速に冷え、高速で回転し始める。
どうして? いつから?
相手の発言を聞く限り、相手は自分の行為を見ていたようだ。
目の前にいるのは自分とは比べようもないほどの美女。大きな丸い顔につぶれた小さな鼻。蔑んだような視線を向ける一重の小粒な目など、その美しさを完璧に言葉にするのは大変だろう。
そんな美女に自分の恥体を見られた。羞恥心から顔に血が上る。死んでしまいたいくらいだ…。
しかし、その美女がメルに剣を突きつけると、顔から、いや、体全体から血の気が引いた。先ほどとは違う汗が背中を流れる。
相手が盗賊の類いであることを理解したメルは、とっさに思考を巡らす。
相手は美しいスタイルであることと引き換えに動きは鈍重そうだ。今近くにあるナイフだけでも、相手を制圧するのは簡単だろう。
そう思い、ナイフに手を伸ばすと同時に美女の後ろから声がした。
「おい、抵抗するのはやめとけよ」
「頭を傷つけたら、死ぬよりひどい目にあうかもねえ?」
現れたのは長い槍を携えた屈強な男と、剣を持った細身の男。どちらもかなり腕がたつようで、魅力的だ。
こんな美女に侍る取り巻きなのだから、当たり前だろう。
こんな状況なのに、自分には絶対手に入らないその光景が、とてつもなく羨ましかった。
ともかく、こんな奴等相手にとても一人で敵いそうにはない。ナイフへ伸ばした手を引くと、相手の出方を伺う。
「何が目的なんだ。私を襲っても、大したものは持っていないぞ」
「はん、それはあたしたちが決める事だ。あんたはそこに跪いて、両手を出しな」
言うとおりにすると、細身の男がメルの両手を縄で縛る。
これからどうなるのだろう。自分は本当に大したものは持っていない。ただ森をさまよっているだけなのだから。
あるとすれば、故郷の村から持ち出した剣ぐらいだろうか。人間の街で売っていたどの剣よりも、使い勝手が良かった。
それから――――――
(……そうだ、ディーン!)
ディーンが危ない。ディーンは珍しい真っ白な髪をしているから、どんな目に合うか分からない。最悪、殺されてしまうかもしれない。
(なぜ、こんな大人しく縛られてしまったんだ……)
全ては自分が自慰にふけって、油断していたせいだ。いつもなら魔獣の襲撃に備えて警戒しているのに、と悔やむがそれは遅すぎた。
なればこそ自分の命に引き換えてもディーンを守るべきだった。彼はまだ弱っているし、何より自分の事を信頼してくれている。
「あっはっは! 遂にやったぜ!」
「変な光を目指して来たら、大当たりだったな!」
「でもすげえお宝ってわけじゃないっすけどねぇ」
三人が笑って会話をしながら、夜営地を物色し始める。
なんとかしてディーンを逃がさなくてはいけない。焦りが募る。
「でも、仮面つきだぜ? 見世物小屋にでも売れば高く売れるだろうさ!」
仮面付きとは私のような醜すぎて仮面を着けている者の事だろうか。
その直後、恐れていた事が起こった。
「おはようございます……」
そう挨拶をしながらテントからディーンが出てきた。
ディーンはこちらを見て目を見開くと何かを叫ぼうとした。私の事を心配してくれたのだろうか。
しかし、テントの近くにいた屈強な男がディーンを即座に蹴り飛ばした。
「ぁがっ!」
ディーンは腹を抑えてその場にうずくまる。
「やめろぉぉぉおお!!」
とっさに叫ぶと、女頭に後頭部を殴られた。ディーンを殴った男への怒りからか、痛みはそこまで感じない。
「へえ。仲間が居たのかい」
男がディーンを無理矢理立たせ、顔を上げさせる。苦しげな顔を見ると、胸が張り裂けそうだった。
「しかも、男とはねえ……。仮面付きなら仮面付きと一緒かと思ったが」
女がメルの方を見て嘲笑うように言う。
「頭、食料とか夜営道具ばかりで金目のものは何もないですよぉ。変な剣がありましたけど、それ以外は全くですよぉ」
「ふむ。それじゃあ……獲物はこいつらだけって訳か」
物色し終えた細身の男が女頭にそう報告すると、女頭はこちらとディーンを交互に見ながら値踏みするような視線を向けてくる。
「それで……あんたらはここで何をしてたんだ?」
女頭の質問に正直に答える。
「私は、この森で旅をしているだけだ。」
「それじゃあ、犯罪を犯して逃げている訳じゃないのかい?」
「ああ、もちろんだ! だから私たちを捕まえても、金は手に入らないぞ」
なんとか命だけでも見逃してもらえるように説明する。犯罪者を国に売って金を稼ぎたいのなら、私たちとは関係がない。
だが、
「懸賞金なんてもんは欲しかねーんだよ。あたし達はグランデール王国の貴族からお宝を盗んで来たんだ。だから、追っ手に終われてる。」
そうメルの言葉を否定すると、女頭は困った顔をして続けた。
「でもさあ、この森にまでは追っ手はこないけど、ずっと過ごすのは大変だろう? 追っ手が来ないような国まで逃げたいわけよ」
「で、その為には金がいる。だからって、盗んだものを売れば足がつく。だろう?」
そこまで言い終えると、満面の笑みを浮かべながら、最後にこう言い放った。
「そこで、だ。あんたみたいな仮面付きは見世物として金になる。一部の物好きは高値で買ってくれるらしいんだよ。ま、すぐに殺されるだろうけどさ。それに、仮面付きを救おうなんて奴はだれもいねーから、捕まらない。だから、あんたは必要なんだよ」
そんな事で必要とされても全く嬉しくない。
それでも、私を助けてくれるような者がいないのは本当だ。
メルが言葉に詰まっているとディーンが叫んだ。
「メルを売るなんてやめろ!」
ディーンがメルと呼んでくれたことに、身を案じてくれた事に嬉しくなる。こんな状況なのに。
女頭は顔をしかめてディーンの方へ向く。
「それで、あんたはなんなんだい? 仮面付きと親しいみたいじゃないか。もし仲間なら、あんたは殺すかねえ。なかなか良い男だけど、その白髪がマイナスポイントだ。弱々しく見えるし、ダサい。このメル?ってやつを助ける為にチクられたら、たまったもんじゃないしねえ。」
女頭がディーンの顔を撫でながらそう言う。
メルは、ディーンに触るな!、と叫びたい衝動をなんとか抑えるのに精一杯だった。
「そいつは、一昨日初めて会ったんだ。だから、私と親しいわけじゃない。それに、記憶を失ってるみたいだから、それで少し面倒を見ていただけ。私はどうなっても良いから、そいつだけは助けて……」
懇願するメルに、女頭は目を向けもしない。
「へえ。随分泣かせる話じゃねえか」
突然浮かべたうすら笑いに、メルは嫌な予感がした。同情してくれたようにはとても見えない。
「それじゃあさ、記憶を失ってるって事は、仮面付きの素顔も覚えてないのか?」
相変わらずディーンの顔を撫でながらそう聞く女頭に、ディーンは黙ってうなずく。
それを聞いて女頭が浮かべる満面の笑み。嫌な予感は的中した。
「やっぱりね。それじゃあさ、この仮面付きの仮面を剥がして、白髪の反応を見てみるってのはどうだい? きっと素顔を見たら、さっきみたいな格好良い言葉は言えなくなるだろうねぇ」
「そいつは良い! 仮面付きの素顔を初めて見た奴の反応ってのは、本当に笑えるからな」
「最近殺ししか面白い事なかったから、大賛成っす!!」
そんな三人の笑い声にメルは心を貫かれたようだった。
視界がぼやけ、涙がにじむ。
それだけは
それだけはやめてくれ
「知らないかもしれないけど、この女は世界中に嫌われるような醜い女なんだよ。だから、顔を隠してるんだ。こいつはあんたを騙してたんだよ」
違う。そうじゃない
私はただ、ただ一緒に過ごしたかっただけ
騙すつもりなんてなかった……!
「あはは! あんたも残念だったね! 仮面付きが人並みに男と過ごすなんて無理な話なんだよ! あんたみたいなモンスターは、さっさと討伐されちまえば良いのさ!」
そうかもしれない
自分はこの世界に要らない存在なのかもしれない。
生まれるべきではなかったのかもしれない
それでも、それでも――――――
「私だって……私だって一度で良いから恋をしてみたかった! こんな見た目でも、女と生まれたからには男と一夜を過ごしてみたかった! 誰かと……家族になりたかった…………! それを願うのが、そんなにいけない事なのか!? 醜いというだけで、一生を笑い者として生きていかなきゃいけないのか!?」
遂に醜い欲望が心から溢れ、口から飛び出た。
ディーンには完全に嫌われただろうな。心の中で謝る。
でも、もう理性がほとんど吹き飛んでしまって自制できない。
「お前達はこんな思いをしたこともないくせに! お前達に私の気持ちが分かるはずがないのに!!」
今日だけじゃない。これまでも蔑まれながら、ずっと溜め込んできた思いをぶちまけてやった。
なんだかスッキリした気分だった。
「あっはっはー!! 仮面付きが……願うだあ? そんなん許されるわけねーだろ!」
「こんな奴等となんて、100万ギル詰まれてもヤりたくないね!」
「おいおい、100万ギルなら俺はヤれるぜ? でもとにかく、あんたの気持ちなんか分からなくて結構だ」
女頭が笑い飛ばし、細い男が追い討ち、屈強な男が締め括った。
ひどい言われようだ。でも、それが私にはふさわしいのだ。
ディーンの表情はよく見えなかった。
どうせ仮面を剥がされるのなら、ディーンに蔑んだ目線を向けられるのなら、先に殺してほしかった。
しかし、それを頼んでも無駄だろう。彼らは心から、このショーを楽しんでいる。
細身の男が近づいてきてメルの仮面に手をかける。
今さら抵抗はしない。ただ、泣き顔を見られないように、涙をこらえるだけ。
だって恥ずかしいだろう?
「さーて!! それでは世にも奇妙な仮面付きの素顔をご覧あれ!!」
そんな陽気な音頭と共に、メルの仮面は取り払われた。
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