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第33話 エルマノ皇子とマリーナ王女の結婚の真実
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エルマノ皇子とマリーナ王女の結婚の真実
サンジャンの町の教会で、
エルマノ皇子とマリーナ王女の結婚の誓いの鐘が鳴った、その夜。
宿を丸ごと借り上げているという第二皇子一行の動きは、
秘密裏に隠されていた。
だが、二人の結婚は多くの人に語られていた。
そして、夜半過ぎ――。
エマのパワーストーン店の扉が、静かに叩かれた。
「……こんな時間に?」
ロドリゲスが護衛をしながら、エマが怪訝な表情で扉を開けると、
訪問者はエルマノ皇子の侍従エドマンだった。
立ち話もできないので、応接室へと案内する。
背筋を正している礼儀正しい男。
年齢は30半ばぐらいだろうか。
落ち着いた目が印象的だ。
帝国第二軍を陰で支える、実務の要である。
応接室には店主で聖女のエマ、眠そうな顔のペネロペ皇女、
師匠ロドリゲス、剣聖フエルテが,
テーブルを囲むように座っていた。
エドマンは一礼する。
「遅い時間の訪問、深くお詫び申し上げます。
それから、本日は弁明に参りました」
「弁明?」
エマが眉をひそめる。
「エルマノ様の名誉のために。
そして、皇女殿下に誤解されたままにしないために」
その言葉に、ペネロペの瞳がわずかに揺れた。
「わたくしは、お兄さまを信じていますわ」
その姿を見て、エドマンはほっと胸を撫でおろしてから、
静かに語り始めた。
――事の発端は、マリーナ王女と剣聖フエルテの婚約解消が決まった後に届いた、
フランセ王国からの一通の密書だった。
送り主は、フランセ王国の側妃アンネット。
マリーナ王女の母である。
密書にはこう書かれていた。
『マリーナとフエルテ殿の婚約が解消された。
なので、今度は第二皇子エルマノ殿下との婚約を提案したい。
そして――持参金として、フランセ王国そのものを差し出す』と。
「……国を?」
エマが思わず声を上げる。
「はい。現在のフランセ王の悪政は、もはや国を滅ぼす段階にあると。
それに側妃アンネット様は王に深い恨みを抱いているとのことでした」
さらに密書にはこう綴られていた。
『自分と現国王フランセの命は助けなくてよい。
だが、どうか娘のマリーナと息子フェリップの命だけは見逃してほしい』と。
室内が重くなる。
「……母親としての責務を感じていたのですね」
エマが小さく呟く。
エドマンは頷いた。
「さらに、マリーナ王女と婚姻すれば、現国王を討つ大義名分が得られる。
数年後、混乱が収束した段階で王国を併合するのが良い――と」
それは、皇帝が耳を傾けるに十分な提案だった。
実際、皇帝は興味を示した。
エドマンは一度言葉を区切る。
「そこで陛下は、エルマノ様に相談されました」
皇帝の執務室で密かに行われた会談は、すぐに終わった。
エルマノの答えは、即座だった。
――断る。
理由はただ一つ。
『マリーナ王女の気持ちが大切だから』
ロドリゲスが納得しながら小さく相槌を打つ。
「あいつらしいな」
エドマンは続ける。
皇帝は問うた。
『良いのか? このままでは、マリーナ王女が戦乱に巻き込まれて死んでしまうぞ。
それでも良いのか』と。
フランセ王国は既に崩壊寸前。
それを支えていたのはスペイラ帝国の存在だった。
だが、その頼りの綱を、フランセ王国は断ち切ってしまったのだ。
今の状態のままでは、周辺国が動けば、滅亡は時間の問題だった。
沈黙の末、エルマノ皇子は条件を出した。
『婚約はする。だが、王国の治安が安定した後、
マリーナ王女自身の意思で婚約を解消できるようにすること。
それが受け入れられるなら』と。
「……ま、まさか、今回の結婚は?」
フエルテは、疑問を投げかける。
「偽装でございます」
きっぱりとエドマンは答えた。
「教会も承知の上。正式な婚姻登録はされていません」
エマが目を丸くする。
「え、それって……」
エドマンは力強くうなずいた。
「そうです。エルマノ様は、王女を運ぶために抱き上げただけで、
それ以上は触れておりません」
ペネロペが小さく息を呑む。
「では、ペンダントは?」
「今は事態が急変しているため、強制的に洗脳しています。
それもマリーナ王女の命を守るためです。
王国の混乱が収まれば、その後はペンダントを外し、王女の意思に委ねると」
エドマンは後ろめたさを感じたのか、少しだけ目を伏せた。
「エルマノ様は仰いました。マリーナ王女を愛している。
だからこそ、自分を選ぶかどうかは彼女が決めてほしい、と
寂しげな笑みを浮かべていました」
部屋に静寂が落ちる。
ロドリゲスが鼻で笑った。
「エルマノらしいな、そんなことだと思ったぜ」
ペネロペが感嘆の声を挙げる。
「お兄様、素敵ですわ」
「片想いの相手に、そこまでするなんて?」
エマがちょっと驚いているとペネロペが嬉しそうに口を開く。
「お兄さま、愛する女性を前に、どこまでも純愛を貫くのが素敵ですわ」
目をうっとりとさせて、両手を斜めに合わせて可愛く微笑む。
エマはペネロペの発言に同意しながら呟く。
「あの見た目とは反対に、ピュアな人なのね……?」
あの筋肉の塊が。
あの威圧感の権化が。
すべてを蹂躙するかのような存在の中身が実は……。
ペネロペは、思い出すように、口元を緩めた。
「……お兄様は、昔から優しかったでしたわ」
子供の頃。
欲しい玩具を妹に譲り、
自分は木剣を振っていた兄。
綺麗な花を集めて花の冠を作り、
ペネロペの頭を飾ってくれたこともあった。
可愛いものが好きなピュアな心を持った、マッチョな戦士。
だから、王女に恋をしても、相手のことばかり考えすぎて、躊躇していたのだ。
「お兄さまは見た目は怖いですが……中身は乙女なのですわ」
エドマンは深々と頭を下げた。
「昼間の行動をご理解いただき、安心いたしました」
エマが小さく笑う。
「誤解していたわ、魔王みたいな姿だったから」
「まあ、筋肉で首輪を砕いた時点で誤解も何もねぇけどな」
ロドリゲスが肩をすくめる。
フエルテは窓の外を見る。
「となると、これからの問題は、フランセ王国ですね」
アンネットの復讐。
スカイドラゴンの動き。
崩れかけた王政。
これからすべきことは、確実に増えている。
エドマンは静かに告げた。
「エルマノ様は、これからも王女の命を守るために動きます。
そして、必要であればフランセ王国を討つ覚悟もお持ちです」
それは愛ゆえの決断。
愛のための武力、守るために武力の使用。
ペネロペは立ち上がった。
「では、わたくしは、お兄さまたちを見守りますわ」
兄が覚悟を決めたなら、
妹は見守ることを決める。
夜は静かに更けていく。
戦いの前の、最後の静寂。
だがその静けさの裏で、
戦争への歯車は確実に回り続けていた。
◇
そして――同じ頃。
猫耳亭の宿の一室。
窓辺に立つエルマノは、眠るマリーナを見つめていた。
「……マリーナ、僕は君を必ず守りぬく、死なせはしない」
その声は小さく、誰にも届かない。
筋肉の巨躯とは裏腹に、
胸の内は、ただ一人の女性を想う青年のものだった。
子供の頃から可愛い物が好きだった。
妹のペネロペより可愛い存在はいないと思っていた時期もあった。
だが、金髪の美しいマリーナ王女を見て、体に衝撃を走るのを感じた。
かわいいと、妹以上に可愛いという存在がいることに驚きを感じた。
しかし、エルマノの気持ちは彼女に届かなかった。
それでも良かった。
彼女が幸せならば。
そう言い聞かせながらもフエルテとの婚約が上手く行ってないの知り、
見苦しいことに時折、手紙を出したこともあった。
この見た目ゆえに、誤解されていることもあったかもしれない。
それでも、エルマノの中には彼女に対する片想いの愛で満ちていた。
救われない愛に生きることも、また一つの愛の形なのかもしれない。
だから、マリーナ王女が婚姻するまでは、婚約者を作らなかった。
そして、今、彼女はそばにいる。
彼女を守るために偽装結婚はした。
だが、彼女に必要以上に触れることはしない。
やがて訪れる選択の日。
その時、彼女は誰を選ぶのか。
そして、それが自分であって欲しいと願う気持ちと、
選ばれなかったら諦めようと、エルマノは真剣に考えていた。
エルマノ皇子とマリーナ王女の複雑な恋の行方は、
今はまだ誰にも分からなかった。
サンジャンの町の教会で、
エルマノ皇子とマリーナ王女の結婚の誓いの鐘が鳴った、その夜。
宿を丸ごと借り上げているという第二皇子一行の動きは、
秘密裏に隠されていた。
だが、二人の結婚は多くの人に語られていた。
そして、夜半過ぎ――。
エマのパワーストーン店の扉が、静かに叩かれた。
「……こんな時間に?」
ロドリゲスが護衛をしながら、エマが怪訝な表情で扉を開けると、
訪問者はエルマノ皇子の侍従エドマンだった。
立ち話もできないので、応接室へと案内する。
背筋を正している礼儀正しい男。
年齢は30半ばぐらいだろうか。
落ち着いた目が印象的だ。
帝国第二軍を陰で支える、実務の要である。
応接室には店主で聖女のエマ、眠そうな顔のペネロペ皇女、
師匠ロドリゲス、剣聖フエルテが,
テーブルを囲むように座っていた。
エドマンは一礼する。
「遅い時間の訪問、深くお詫び申し上げます。
それから、本日は弁明に参りました」
「弁明?」
エマが眉をひそめる。
「エルマノ様の名誉のために。
そして、皇女殿下に誤解されたままにしないために」
その言葉に、ペネロペの瞳がわずかに揺れた。
「わたくしは、お兄さまを信じていますわ」
その姿を見て、エドマンはほっと胸を撫でおろしてから、
静かに語り始めた。
――事の発端は、マリーナ王女と剣聖フエルテの婚約解消が決まった後に届いた、
フランセ王国からの一通の密書だった。
送り主は、フランセ王国の側妃アンネット。
マリーナ王女の母である。
密書にはこう書かれていた。
『マリーナとフエルテ殿の婚約が解消された。
なので、今度は第二皇子エルマノ殿下との婚約を提案したい。
そして――持参金として、フランセ王国そのものを差し出す』と。
「……国を?」
エマが思わず声を上げる。
「はい。現在のフランセ王の悪政は、もはや国を滅ぼす段階にあると。
それに側妃アンネット様は王に深い恨みを抱いているとのことでした」
さらに密書にはこう綴られていた。
『自分と現国王フランセの命は助けなくてよい。
だが、どうか娘のマリーナと息子フェリップの命だけは見逃してほしい』と。
室内が重くなる。
「……母親としての責務を感じていたのですね」
エマが小さく呟く。
エドマンは頷いた。
「さらに、マリーナ王女と婚姻すれば、現国王を討つ大義名分が得られる。
数年後、混乱が収束した段階で王国を併合するのが良い――と」
それは、皇帝が耳を傾けるに十分な提案だった。
実際、皇帝は興味を示した。
エドマンは一度言葉を区切る。
「そこで陛下は、エルマノ様に相談されました」
皇帝の執務室で密かに行われた会談は、すぐに終わった。
エルマノの答えは、即座だった。
――断る。
理由はただ一つ。
『マリーナ王女の気持ちが大切だから』
ロドリゲスが納得しながら小さく相槌を打つ。
「あいつらしいな」
エドマンは続ける。
皇帝は問うた。
『良いのか? このままでは、マリーナ王女が戦乱に巻き込まれて死んでしまうぞ。
それでも良いのか』と。
フランセ王国は既に崩壊寸前。
それを支えていたのはスペイラ帝国の存在だった。
だが、その頼りの綱を、フランセ王国は断ち切ってしまったのだ。
今の状態のままでは、周辺国が動けば、滅亡は時間の問題だった。
沈黙の末、エルマノ皇子は条件を出した。
『婚約はする。だが、王国の治安が安定した後、
マリーナ王女自身の意思で婚約を解消できるようにすること。
それが受け入れられるなら』と。
「……ま、まさか、今回の結婚は?」
フエルテは、疑問を投げかける。
「偽装でございます」
きっぱりとエドマンは答えた。
「教会も承知の上。正式な婚姻登録はされていません」
エマが目を丸くする。
「え、それって……」
エドマンは力強くうなずいた。
「そうです。エルマノ様は、王女を運ぶために抱き上げただけで、
それ以上は触れておりません」
ペネロペが小さく息を呑む。
「では、ペンダントは?」
「今は事態が急変しているため、強制的に洗脳しています。
それもマリーナ王女の命を守るためです。
王国の混乱が収まれば、その後はペンダントを外し、王女の意思に委ねると」
エドマンは後ろめたさを感じたのか、少しだけ目を伏せた。
「エルマノ様は仰いました。マリーナ王女を愛している。
だからこそ、自分を選ぶかどうかは彼女が決めてほしい、と
寂しげな笑みを浮かべていました」
部屋に静寂が落ちる。
ロドリゲスが鼻で笑った。
「エルマノらしいな、そんなことだと思ったぜ」
ペネロペが感嘆の声を挙げる。
「お兄様、素敵ですわ」
「片想いの相手に、そこまでするなんて?」
エマがちょっと驚いているとペネロペが嬉しそうに口を開く。
「お兄さま、愛する女性を前に、どこまでも純愛を貫くのが素敵ですわ」
目をうっとりとさせて、両手を斜めに合わせて可愛く微笑む。
エマはペネロペの発言に同意しながら呟く。
「あの見た目とは反対に、ピュアな人なのね……?」
あの筋肉の塊が。
あの威圧感の権化が。
すべてを蹂躙するかのような存在の中身が実は……。
ペネロペは、思い出すように、口元を緩めた。
「……お兄様は、昔から優しかったでしたわ」
子供の頃。
欲しい玩具を妹に譲り、
自分は木剣を振っていた兄。
綺麗な花を集めて花の冠を作り、
ペネロペの頭を飾ってくれたこともあった。
可愛いものが好きなピュアな心を持った、マッチョな戦士。
だから、王女に恋をしても、相手のことばかり考えすぎて、躊躇していたのだ。
「お兄さまは見た目は怖いですが……中身は乙女なのですわ」
エドマンは深々と頭を下げた。
「昼間の行動をご理解いただき、安心いたしました」
エマが小さく笑う。
「誤解していたわ、魔王みたいな姿だったから」
「まあ、筋肉で首輪を砕いた時点で誤解も何もねぇけどな」
ロドリゲスが肩をすくめる。
フエルテは窓の外を見る。
「となると、これからの問題は、フランセ王国ですね」
アンネットの復讐。
スカイドラゴンの動き。
崩れかけた王政。
これからすべきことは、確実に増えている。
エドマンは静かに告げた。
「エルマノ様は、これからも王女の命を守るために動きます。
そして、必要であればフランセ王国を討つ覚悟もお持ちです」
それは愛ゆえの決断。
愛のための武力、守るために武力の使用。
ペネロペは立ち上がった。
「では、わたくしは、お兄さまたちを見守りますわ」
兄が覚悟を決めたなら、
妹は見守ることを決める。
夜は静かに更けていく。
戦いの前の、最後の静寂。
だがその静けさの裏で、
戦争への歯車は確実に回り続けていた。
◇
そして――同じ頃。
猫耳亭の宿の一室。
窓辺に立つエルマノは、眠るマリーナを見つめていた。
「……マリーナ、僕は君を必ず守りぬく、死なせはしない」
その声は小さく、誰にも届かない。
筋肉の巨躯とは裏腹に、
胸の内は、ただ一人の女性を想う青年のものだった。
子供の頃から可愛い物が好きだった。
妹のペネロペより可愛い存在はいないと思っていた時期もあった。
だが、金髪の美しいマリーナ王女を見て、体に衝撃を走るのを感じた。
かわいいと、妹以上に可愛いという存在がいることに驚きを感じた。
しかし、エルマノの気持ちは彼女に届かなかった。
それでも良かった。
彼女が幸せならば。
そう言い聞かせながらもフエルテとの婚約が上手く行ってないの知り、
見苦しいことに時折、手紙を出したこともあった。
この見た目ゆえに、誤解されていることもあったかもしれない。
それでも、エルマノの中には彼女に対する片想いの愛で満ちていた。
救われない愛に生きることも、また一つの愛の形なのかもしれない。
だから、マリーナ王女が婚姻するまでは、婚約者を作らなかった。
そして、今、彼女はそばにいる。
彼女を守るために偽装結婚はした。
だが、彼女に必要以上に触れることはしない。
やがて訪れる選択の日。
その時、彼女は誰を選ぶのか。
そして、それが自分であって欲しいと願う気持ちと、
選ばれなかったら諦めようと、エルマノは真剣に考えていた。
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