異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第二章 工業都市ボルドー

2-34 異空間改修作業

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「つ、疲れたぞぉ~」

 宿へと帰りつくなりベッドにヘッドダイビングをきめる。風呂に入りたいけど、ちょっとだけこうさせておくれ……。

(確実にそのまま寝るだろ。シャンとして汗流してこいよ)
(肉体があれば私が背中を流すことも出来るのですが)

 ……マジで? いやいや、仮に君が人化できるようになっても、そんなアダルトなのはちょっと遠慮しておきます。

 時刻は夕刻、未だ雨。

 冒険者組合の訓練場で朝から昼飯まで、さらに昼飯からこの時間まで。ヴィクターたちと共に大訓練場でひたすら連携や戦闘方法の確認に時間を費やした。

 異形の魔物セルケトの討伐が三日後と急なため、俺も全力で協力することに決めたのだが──。

(まさかお前さんが、あの傭兵団たちを蹂躙じゅうりんしたゴーレムで訓練を行うとはな。人目が無いとはいえ、やり過ぎだろうに)

 そう、訓練用として「灰色の義手」を壊滅させた蜘蛛くも型ゴーレムを創ったのだ。それも文字通りの全力で。

 大訓練場の大きさに合わせ二回りほど小型化されたが、我がゴーレムの強さは常軌じょうきを逸している。これならヴィクターやレルミナの相手も十分に務まるだろう、と考えていたのだが。

「まさか俺の力作が簡単にぶっ壊されるとはなあ。それも一対一で。武器が模擬剣じゃないだけであんなに強くなるもんなのか」

(人と戦うのと魔物を想定して戦うのでは違うということでしょうね。彼らの動きはロウとの模擬戦の時より、更に洗練されていましたから)

 はがねをも凌ぐ強度を誇るゴーレムたちをなます切りにしていったレルミナもさることながら……ヴィクターの強さは凄まじいものだった。

 なにせあのゴーレムを三体同時に相手取り、どころか粉砕し、あまつさえもっと数を出せとさえ言ってのけたのだ。あの時は「おめーは魔族かよッ!?」と内心大いに動揺したものだ。

(あれは英雄と呼ばれる連中と同等の力を持ってそうだ。人相にんそうが悪いが)
(体力、膂力りょりょく、判断力、そして魔力。いずれも並外れた水準の傑物なのです。悪人面ですが)

 曲刀が人相を語るとはこれ如何いかに。

 そんなこんなでなかばヤケクソ気味に全力で強化を加えたゴーレムを十体創り出し、三人で連携という名の大乱戦。見事全員ぼろ雑巾となった。

 個としては桁違いの強さを持つ二人だが、連携となるとそうはいかない。

 ヴィクターは「サラマンドラ」の長だけに咄嗟のフォローは上手いが、他人同然の俺に合わせて動くなど不可能だ。レルミナ至っては元より孤高の冒険者、連携など望むべくもない。

 他方ゴーレムは、俺の記憶や自分たちの経験を通して学習を重ねていく戦闘マシーンである。

 こちらの連携を崩すというより、こちらの連携が上手くいかないように誘導していく方が効果的だと判断されてからは、あっという間だった。

 俺の掌底がヴィクターの大盾を吹き飛ばし、レルミナの斬撃をヴィクターの剣が妨げ、ヴィクターのシールドバッシュがレルミナの着地点に直撃する。そうやって自滅して隙を晒した間に料理されてしまったのだ。我が子ながら、中々どうしてやるものよのう

(ロウのいやらしい性格をそのまま受け継いだようなゴーレムたちだからな。ククッ、あの女の攻撃を妨害してしまった時のヴィクターの表情、笑えたぞ)

 見ている分には楽しかっただろうが、こっちはレルミナの怒気で冷や汗ダラダラだったんだぞ、本当に。

 曲刀たちと他愛もない話をしている内に気力が充填じゅうてんされてきたので、汗と疲れを洗い流すべくレッツバスタイム。テンションアゲアゲで服を脱ぎ去り浴室へ突入する。

「うひょー!」

 湯船最高! お風呂最強! たまらず、俺も絶叫! 奇声が俺の鼓膜こまくを揺さぶる! だけど防音魔法で問・題・ナシ! フゥーッ!

 無駄にハイテンションでバスタイム。半端に疲れているときは何故かハイになってしまうのだ。理由は分からない。

◇◆◇◆

 三十分程至福の時間を過ごし、浴室を後にする。去りがたい気持ちがあってこその旅立ちなのだ。

 風呂から上がり気分を一新すれば、再び魔法研究の時間である。

(また空間魔法の研究ですか? ロウも精が出ますね)

「まだ色々と試してみたいことがあるからな。と言っても、今からやるのは新しい試みじゃなくて今まで創った魔法の挙動実験みたいなものだけど」

 机の上に置いてある曲刀たちに説明しながら、「異空間」を発動させる。

 考えてみれば、魔力操作の上達に伴いこの魔法や「転移門」の発現にかかる時間も随分短縮された。手の平程度の小型の門であれば、もはや秒で顕現が可能だ。始めは一分ほどかかっていたことを考えると、上達を実感できる瞬間でもある。

(異空間ですか。一体何を実験するんですか?)

「最初に『異空間』を創った時、物凄い時間が掛かっただろ? あれは異空間を文字通り創造したからなんじゃないかって考えてな。あの時はあり得ないと切って捨てたけど、自分が魔神と知った今なら案外あり得そうな話だ」
(なるほど、言われてみれば……)

「つまりは、仮に自分で創造した空間なら、ある程度好き勝手にできるんじゃないかって実験だ。とりあえず、空間につないだ後、広くするよう魔力を流し込んで、拡張の想像をしてみたけど……駄目だ、真っ白で分かりづらい」

 金貨袋やバックパック、いつぞやの石の大太刀など様々なモノが散乱する異空間だが、元からある程度の広さがあったため変化がつかめない。

 軽く息を吐き、意を決して中に入ることにする。何、俺は魔神だ。仮に出られなくなっても何とかなるだろう。多分。

「おぉ~。これが俺の空間だと思うと、なんだか感動する」

 蛮勇ばんゆうと共に異空間へ侵入。
 距離感を見失う白一色の視界、思いのほか硬い感触の地面、そして清浄な空気。自ら創造しておいてなんだが、奇妙な空間だ。

 そんな中、一歩、二歩。手を突き出しビビりながら前へと進むと、三歩目で硬質な壁に接触。

 驚かせやがって……あんまり広くなっている感じがしないな。

「まずは内部での拡張が可能かどうか、だな」

 外側からは不発だったのかもしれないと考え、異空間の内部で魔力を練り拡張実験を行う。

 うむ、壁に魔力が引き抜かれていく感覚がある。これなら成功しそうだ。

 果たして、突き出していた手から壁の感覚が消失する。拡張成功だ。
 ただし、どれくらい広がったのかは分からない。

 ……あれ? 欠陥空間じゃねこれ。

 呆然としつつも、ならば距離感が分かるようにすれば良いじゃないと魔法を試すことにする。とりあえずは地面と床の色を変えてみるべし。

「う~ん? 何も変わらんなー。魔力は減るんだけど」

 勢い込むも異空間に変化無し。酷いぜ神様。

 俺が創った空間だからといって、何でもかんでも出来るわけではないということか。

 とりあえず空気があって拡張可能、ついでに地面も丈夫そうってことで満足しよう。人目につくことは無いし、何ならここで日課の套路とうろを行うのも良いかもしれない。

 殺風景なのも何なので、土魔法で石のテーブルと椅子を幾つか用意する。ついでにラグっぽい円形のマットをこれまた土魔法でそれっぽく創り、雰囲気をシャレオツにする。

 真っ白な空間にできたいこいの場。ただし大太刀やらバックパックが散らばっている。……まずは整理しなきゃな。

◇◆◇◆

「──ふぅ。こんなもんかなー」

[──、──]

 三十分程かけての模様替え。
 内容は荷物の整理や距離を把握するための目印配置、ついでに等身大ドレイクのゴーレムの作成といった具合だ。

 石像ドレイクはいつか創ってみたいと思っていただけで、特に意味は無い。強いて挙げるなら天井の高さの把握に使えたか?

 彼には後ろ脚で立ち上がってもらったが、二足立ち体高十数メートルとなっても天井には届かなかったので、異空間の天井までの高さはかなりありそうだ。この辺もおいおい調べていこう。

[──……]

「すぐに会えるんだからそう寂しそうな顔すんなよ。じゃあなーって、あれ?」

 俺の去ろうとする気配を感じ取り寂しそうな顔する石竜に別れを告げ、きびすを返したが──帰るための門が無かった。

「そういやそうだったわー門で繋いでたんだったわー」

 途中から曲刀たちの念話も届いていなかったけど、完全に忘れていた。熱中すると頭からスルッと抜けるんだよな……ギルタブからどやされそうな予感がする。

 とはいえ無ければ創れば良い話。異空間に繋げる時とは逆に、「ピレネー山の風景」の一室を想像する。

 考えてみれば「転移」でしょっちゅう実践していることだ。何のことは無く異空間と宿を繋ぐ門が生成された。

((っッ!?))

 部屋に戻ると曲刀たちの驚きを含んだ念話を受信。帰ってきて驚かれるってのも酷い話だ。

(ロウっ! ご無事でしたかっ!? もう帰ってこれなくなったものかと思ってましたよ!)
(ハァ~……無事だったか。お帰り。今回は流石に俺も肝が冷えたぞ。あんまり後先考えずに行動するなよ?)

「は? 何でそんなに深刻そうな雰囲気なんだ?」

 過剰とも言える曲刀の反応ぶり。ギルタブなんて、鞘に収まったまま机の上でガタガタと小刻みに震えている。ポルターガイストか?

(深夜になるまでなんの音沙汰も無ければ、心配するに決まってるじゃないですかっ!)

「へ?」
(何だかんだ、俺たちはお前さんのことを認めてるんだよ。だから勝手にいなくなられちゃ、その、なんだ。……困る)

 普段の軽そうな雰囲気が鳴りを潜め真面目な調子で語る男の声。サルガスのデレとか誰が得なんだよマジで……でも、夕方に始めて今は深夜か。なるほど。

「心配かけて悪かった。弁明しとくと、俺の感覚ではせいぜい夕飯の時間になったくらいの時間しか経ってない、そんな感覚だったんだがな。深夜と聞いてこっちもビックリだ」

(そういうことでしたか。異空間との接続が途絶えた時、時間の流れも変わるのかもしれませんね)
迂闊うかつに利用できるもんじゃないな。しかし、向こうで何をやってたんだ?)

 理由を説明すると割とすぐに納得してくれる曲刀たち。話題を変えようとしているあたり、案外取り乱したことを恥ずかしがっているのかもしれない。い奴らよ。

「空間を拡張したり、整理したり、真っ白じゃ距離感が分からなくなるから目印置いたり、そんな感じだな。床が硬いし人目を気にすることないから鍛錬にも使えるかと思ってたけど、時間の流れが違うんじゃ難しいか」

(その点は門の維持に気を払えば解決すると思いますよ。私たちもロウが異空間の拡張を行っている時までは、ロウを感じ取れていましたから)
(ロウがうっかり忘れるなんてことが無ければ、な)

 ギルタブの案に乗っかりかけたところで、サルガスが一気に落とす発言。やらかした手前ぐうの音も出ない。しかしそこで妙案が閃く。

「俺一人ならサルガスの言う通り忘れるかもだが、お前たちのフォローがあれば大丈夫だな!」

 秘儀・他力本願たりきほんがん之術! 中島太郎なかじまたろう流処世術之四でもあるこれは、場合によっては物事の解決を図る際極めて有効な手段となりうる。

(ふふっ、そこまで言うのなら仕方がありませんね)
(どうなんだそれ。開き直りすぎだろう)

 しめしめ、チョロいもんだぜ。サルガスには効かなかったがギルタブに効けば問題なし。

 思わぬ出来事で時間を浪費してしまったが、訓練を行う格好の場を手に入れたのは僥倖ぎょうこうだった。これで明日から気兼ねなく套路を行えることだろう。

 既に深夜に突入していたため、浴室で軽く身体を流した後は寝台へダイブ。今日も濃い一日だった。というより、中島太郎としての記憶が目覚めてから今日に至るまで、濃くない日など無かったか。

 明日も濃く良い日にするべく、英気を養うためにも就寝だッ! おやすみなさい!
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