婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌

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霧散するもの

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 日が傾きかけた頃、ユージーンは王宮の議事堂に召喚を受けた。

 公爵邸での民衆の暴動を受け、行政官らと一部の重臣貴族が集い、臨時の貴族議会が開かれている。

 元を正せば暴動のそもそもの原因であり、目下最も緊急性の高い問題は、水の枯渇である。
 ユージーンが呼ばれた理由も、大教会への救援要請の為だった。

 当初の招聘目的とは異なれど、人命の関わる事だけに、ユージーンも仲立ちする事を快諾した。

 流石に臨時の事とあって、議場には空席が目立つ。緊急性を鑑みればやむを得ないだろう。
 国王の椅子が無いことが気に掛かったが、現国王は議会には出席せず、決議された内容は宰相の奏上をもって裁可が下されるのだという。



 閉会が告げられると、錦糸の刺繍が施された白い司祭服の男が、ゆったりと立ち上がり近づいて来た。

「クロヌス猊下、救援要請の件、仲立ちいただける事に心より御礼申し上げます。まぁ、そう長くご負担も掛からぬでしょう」

 人の良さそうな笑みを浮かべ語り掛けてくるその男は、リリアの養父であるアダム・ウィルハート伯爵だ。

「そういえば、その後、お加減はいかがですかな?」

 にこやかな声音で向けられた問いに、ユージーンは敢えて答えずに微かな笑みだけを返した。

 しばし間に降りた静寂に、彼はおどけたように肩を竦めて見せた。

「思いのほか大きな地震だったようでしてね。我らが神も、聖堂の大半が砕けるほどのお力を使われたと見られる。一朝一夕では回復せずとも、やむを得ませんな」

 アダム・ウィルハートは、自身の主張する聖堂の倒壊に纏わる説を、さも当然の事と語り、笑う。

 議事堂内では貴族や行政官達が、遠巻きに二人のやり取りに聞き耳を立てていた。

「近日中に、愛子いとしごが祈りを捧げますれば、杞憂も晴れましょうぞ。なに、お姿が見えぬのであれば、お呼びすれば良いのです」

 どこか得意げに語る内容に、ユージーンはぴくりと片眉だけ僅かに上げた。



 再び降りた静寂は、勢いよく扉を開く音で破られた。

 視線が集まる先、息を切らし駆け込んで来たのは文官の男だ。
 今度は何事かと、複数人が息を吐く音と共に、気鬱を孕むざわめきが議事堂に広がる。

「皆様こちらにお揃いとの事でしたので……ご報告致します」

 やや怯んだ表情をした後で、文官の男は議事堂内の全員に聞こえるように声を張った。

「王立治癒院より、所属する全ての治癒士において、治癒術式が発動出来なくなっているとの事です」

 男の言葉に、ざわめきはぴたりと収まった。

 文官の男は、不安げに視線をさ迷わせた後で、深呼吸すると続いて手元の委細報告書を読み上げた。

 公爵邸の暴動鎮圧で出た怪我人の手当てにあたり、水の節約のために通常の医療処置では無く治癒術式を使うべく王立治癒院に運んだところ、誰も術式を発動出来ない事が発覚したのだという。

「また、確認したところによれば、王都教会の施療院も同様で──……」

 悪い報せばかりが増えていく状況に、議事堂は気鬱の色がいよいよ濃くなる。しりすぼみに掠れゆく声で一通り報告を終えると、文官の男は逃げるようにその場を後にした。



 議事堂内にはえも言われぬ陰鬱な沈黙が降りている。しかし、そこへパンと手を叩く音が響いた。

「なるほど、なるほど。今回の報告の件は充分に考えられる事ですな」
 
 アダム・ウィルハートがうんうんと頷きながら、議事堂の中央へと歩み出ていった。貴族達の視線も意識もアダムへと集中している。

 ユージーンは怪訝な表情を浮かべた後で、そっと音を立てずに席を立ち、壁際で控えているメイアの元へと下がった。

「いやはや、皆さんご存じの通り、昨晩の地震に起因して、神の代弁者の二つ名をお持ちのクロヌス猊下でさえ、そのお力に調を来たしていらっしゃるのです! 治癒士もそれと同じ事が起きているという事でしょうな」

 アダムのよく通る声と共に、場を支配していた鬱々とした空気が徐々に和らいでゆく。
 あちらこちらで同意や納得の声が上がった。

 一方で勝手に名を出されたユージーンはといえば、壁際で気配を殺しつつも、辟易とした顔をしてこめかみを片手で抑えた。

「……猊下、昨晩、アルフレッド卿は治癒術式を使えたのですよね?」

 傍に立つメイアが小声で尋ねる。

「ああ、確かに使っていたな」

 アリシアの応急処置の為に、目の前で発動させていた記憶が確かにある。

「アルフレッドの洗礼地は、からな……」

 呟くと、思案顔で目を閉じた。
 
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