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本編1 『幼少期』

第15話 9歳。ゲームシナリオと男泣き

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春の日差しが気持ち良い。優しい太陽が照らし心地よい風が吹き抜ける。
青葉が色づき始め、澄んだ空気が漂い、春の始まりを感じずにはいられない。
馬車から顔を出し深呼吸をすると、心が落ち着きを取り戻し、穏やかな一日が始まるな…と感じ…うっ…

いや、穏やかな一日が始まるハズだった。そう。私がポロっと、迂闊にポロっとしなければ。

「口にチャック、マジで付けたい」と、そう思った。


侯爵 「ベリー。アルヴィンが『賢者』っていうのは、一体どういう事なのか教えてくれないかい?ん?」


はい、黙ってたら、また聞かれました。顔を近付けてーからの、パパンの「ん?」頂きましたぁ。


セバス 「旦那様、もうベリー邸に到着します。その件はこの様な場所でお話する内容では有りません。
ベリーお嬢様。『称号持ち』は、国に報告義務が御座います。ですのでアルヴィン坊ちゃんが、もしでもでも『称号持ち』ならば教えて頂ければと思います」


セバスさん、丁寧な口調なのに、「教えろコノヤロー」って副音声が聞こえる。


「お父様、セバスさん。教えるのは全然良いんですけど、ここではちょっと……
あと話す前に、ユージと打ち合わせをしたいので、後日屋敷に伺います」


侯爵 「ユージーン殿下……なるほど、『転生者』にしか分からない話なのだね?
あい、分かった。では2日後の午後、ベリーの屋敷に伺う事にしよう。良いなセバス」


セバス 「2日後…奥様の茶会の日ですね。ではその予定に合わせて仕事をしなければいけませんね。おっほっほ」


ピアーズの茶会!?

うへぇ…貴族的イヤミが飛び交う中で、紅茶と砂糖の塊クッキーを召し上がる、あの茶会か。

盛りっ盛りのドレスに身を包み、ド派手な扇子をパーンってして口元を隠し、「おほほほほ」ってする、茶会。いや、『血矢会ちゃかい』。

まぁ、血の矢は降らんけどさ。『イヤミ』という矢が降り注ぐぜ。グッサグッサと。そして心の中で血を流す。怖いわ~。「血矢会ちゃかい

そんな想像してガクブルしていたら、パパンは詰込み仕事に肩を落とし頭をプルプルしていた。

(お父様ファイト!)


「有能な秘書がほしい……」そう呟いたパパン。セバスさんに、「私めがおりますよ」と、慰められて漸く復活した。


侯爵 「そういえば、1週間後にジュノン殿下の生誕祭があるな。王都の街で催し物もあるが、ベリーは行くのか?」


「わお。生誕祭……そっか、殿下って兄様と同級生…素敵なパーティーになりそうですねぇ。
催し物って、祭りみたいな感じですか?楽しそうですね!護衛’sに連れてってもらおうかなぁ」


ん?……あ"あ"あ"!生誕祭、社交デビュー!シナリオ開始イベント!キャロルが攻略対象と出会う日!

いや、ゲームとここは擬似世界。似てるだけ!って、頭では思ってるんだけど、どうしても連動して考えちゃうんだよね。

キャロル美亜なんて、絶対ゲームの世界だって思ってるよ。原作とストーリーが違うけど、「イフストーリ」とか、「バッドエンドルート」とか考えてそう。

いま修道院にいるのも、ストーリーの一部だって思って、攻略対象が迎えに来るのを待ってるんじゃ?

想像出来てしまう自分がイヤだぁぁ。ヤツの思考がよめてしまうぅぅ。

はっ!そうだ、出会いイベントよ!このシチュエーションを逃すキャロル美亜じゃないわ!

絶対にヤツは現れる……修道院をどうやって抜け出すのか分からないけど……来る……きっと来る……


侯爵 「ベリー?どうしたんだ?頭抱えて蹲って。馬車酔いしたか?」


セバス 「お顔も真っ青ですね。もうすぐ屋敷に着きますが、一旦止まりましょうか?」


ダメだわ。心配させてしまった。不確定な未来に怯えてても仕方ない。
そうよ、私はパーティーに参加しないもん。もしキャロル美亜が来ても会う事はないわ。


「いえ。大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけなので、そのまま進んで下さい」


侯爵 「そうか?なら、このまま帰るが……異変を感じたら言いなさい。侍医のキャスパルを呼ぶから」


セバス 「では、予めキャスパル先生に連絡を入れておきましょうか」


うわぁ。キャスパル先生、懐かしい!産まれたばかりの頃、私を心配して様子見に来てくれてたんだよ。

侍医の必要は無いけど、また会いたいなぁ。


侯爵 「お!今度は嬉しそうだな。感情があっちこっちと忙しいものだな。あっははは。ベリーは笑顔が一番だ」


セバス 「ええ旦那様。そうで御座いますな。さて到着致しましたね。ではお嬢様、2日後に伺いますね」


「はい!お父様、セバスさん、2日後の午後、お待ちしております!」


コンコン

サイラス 「ベリー様、到着致しました。お疲れ様でした。お手を」

「ありがとう」 サイラスのエスコートで馬車を降り、「ではな」と、去って行くお父様達に手を振って見送った。



朝早くからの馬車移動と、色々と考えて疲れたので、グイッと伸びをして、長い長い息を吐き出した。

雲ひとつ無い真っ青な空を見上げ、「う~ん、いい天気」と呟いた瞬間、顔面にビタッとムチムチボディの変態兎が貼り付いた。


「ぶっ!!」


《大変だよベリーちゃん!おったまげぇの、びっくらげぇだよ!》


いや、そのセリフまさに!この状況に!おったまげぇの、びっくらげぇだわ!

何故に顔面ダイブしてるん?鼻潰れるわ!


ユージ 「ウル、何か報告があっても顔面ダイブは辞めたげて。鼻血ブーになっちゃうから」


痛かったから腹ブー攻撃だ!「ブーーー!!ブブブー!」


《ぎゃははは!やめ、やめてベリーちゃん!お腹ブルブルするぅ!ごみぇんにょ~!》


「ふふん。参ったか!で、今度は何の情報をお持ち致しましたの?ヤミーちゃんは?」


いつも2人でいるのに、今日はいないな。ま~た恋物語を仕入れに行ってるのかな。
最近のヤミーブームが、浮気とか不倫とか「昼ドラか!」って言いたくなるような内容なんだよね……

いや、意外と面白いんだわこれが。ははは!


サイラス 「ベリー様、お話は屋敷の中で聞きましょう。ウル様、先ずは中に入ってからお願い致します」


《はいは~い。先に行ってるねぇ》 ぴゅんっと、飛んで行ったウルに苦笑しながら3人で屋敷に入り、
ハクに「お帰りなさいませ。ウルがサロンでお待ちです」と言われ、チビ達にワラワラされながら向かった。

サロンに入り定位置に座り、小犬神族のポチが入れてくれた緑茶を飲み、「ふぅぅ。ポチありがとう」と息を吐き出したところで、ウル劇場が始まった。


《ちょ~っと長くなるよ。サイラスも座って!今は護衛お休みね》


サイラス 「いえ…あ、はい…承知致しました」


ユージ 「サイラス大丈夫だって。屋敷は結界が張ってあるから危険は無いし、ウルが「長い」って言うなら相当だと思うぞ」


サイラス 「くっ…ベリー様、御前失礼して座らせて頂きます」


サイラスは真面目だからね。うんうん。今は座りなさい。


《ゴホン。え~では、本日の報告をします。行き先は『北の修道院』偵察相手はキャロルでした。
ベリーちゃんが「嫌な予感がする」と言っていたので、見に行ってきましたぁ。結果!修道院にキャロルは居ませんでした!》


「んな!?」

ユージ 「マジかよ」

サイラス 「!?」


《で、で、「どゆこと?」と思って、思い付く所を探したんだけどぉ、実家とか、草むらとか、森の中とかぁ。
でも居なくてぇ。「死んだ?」「死んだかも」と、ヤミーちゃんと話ながら外道に沿って飛んでたわけです》


身振り手振りで説明してくれるのは良いんだけど、家の形を表現したいんだろうけど、それコマネチだから!三角は上!屋根は上!
『草むら』で、草生やさないで!ここ部屋の中だから!死んだフリもやめなさい!話の内容より動きに目がいって気が散る!

ユージが笑い堪えて頬プルプルしてるじゃん!サイラスなんて口開けて目だけで動き追ってるよ。
ポチなんて、いきなり草生えたのに吃驚して、尻尾が股の間にグルンってなってるし。


《で!ココから吃驚するよ!なんと、なんと……キャロルは修道女の衣装を着て荷馬車に乗ってました!!なぜ分かったかって?……鑑定したんだよ~ん。
だって、凄い不自然だったんだもん。荷馬車に乗る修道女なんて居なくない?しかも服がダボダボでさ》


ユージ 「はぁ…腹痛ぇ。腹筋つるかと思ったわ。
で、ダボダボの修道服着て脱走か。誰か襲って服奪ったか?暴力に躊躇いなさそうだもんな」


サイラス 「……修道服を奪って、何かの配達をしに来た荷馬車に乗り込み院を脱出した……そういう事でしょうか。
でも、自分の修道服ってどうしたんですかね?支給されてないんですかね」


ベリー「……」

開いた口が塞がらないわ。たぶん、脱走して向かう先は王都。行くのは王城。日にちは生誕祭の日!


《いやぁ、8歳で修道女って前代未聞だから、サイズの合う服が無いんじゃない?だから奪ったのかもね。
行き先はシュタイザー邸だと思うよぉ。たぶん、生誕祭に行くためにドレスをゲット!しに行くんじゃないかな?》


「あ、ドレス。そうよね、修道服やボロ服じゃ生誕祭へ行っても恥かくだけだもんね」


ユージ 「いや、本当にシュタイザー邸へ行ったとしても、ドレスなんかあるか?採寸して仕立てないとだろ?」


サイラス 「ん?生誕祭って、第一王子の?パレードが見たいってだけで脱走してきたんですかね?
なら、ドレスなんて必要有ります?パーティーに出れるわけでもないのに」


「そのパーティーに出ようとしてるのよ。いや、正確には王城と会場の間の廊下ね。そこで誰かに声を掛けられるのを待ってる……ってだけの為に脱走してきたのよ」


あ、理解出来なくてサイラスが停止しちゃった。


ユージ 「シナリオオープニングな。迷子になって泣いてるシーン。って、良く考えたら招待状も無いのに王城に入れるわけないわ」


《ん~。でも、デビュタントって貴族子女の義務だったよね?だったら、侯爵邸に『ストロベリー・ディ・シュタイザー』宛の招待状があるんじゃない?
もしそれが屋敷にあって、キャロルが手に入れたら王城に入れるよね。ドレスも既製品を買えば済むし》


ほうほう。ウルちゃん冴えてますね。確かにね。そう考えると方法ってあるもんだね。

ストロベリー病弱設定→キャロル美亜ガリガリ→辻褄合う。

桃色髪&紫眼のベリー↔薄金髪&ヘーゼルアイのキャロル美亜キャロル美亜のほうが実娘っぽい。

と、いうことは、『ストロベリー』として会場に入れちゃうわけだ。偽物だけど。


サイラス 「あの。何から突っ込めば良いのか…
まず、なぜ話が噛み合ってるんです?しかも、「こうなる」って知ってるような口振りですよね?
そして、なんで渡り廊下で待ち伏せするんです?それだけの為に脱走?しかも通常は入れない王城に入れる?
理解しようと思っても、全く理解出来ませんが!先読みスキル?予言のスキル?未来予知?」


「あー。ごめんねサイラス混乱させちゃって。招待状云々は完全に憶測ね。キャロルならそうするんじゃ?的な。
で、『渡り廊下で待ち伏せ』に関しては、『物語の冒頭だから』キャロルはそうするのが当然だと思ってて、それをする為に何がなんでも王城へ入りたいわけよ」


ユージ 「そういう事。渡り廊下で迷子のフリして、誰かに声を掛けてもらうのを待ってる。
対象は、ジュノン殿下、セルビス殿下、アルヴィン侯爵令息、隣国王子ユージーン、俺な。あとデイビッド」


それが王道ルート。で、その場で誰にも会わなかったら、学園で出会う『ライオット伯爵子息』ルートになるか、聖女として魔国に招かれ、夜会で出会う『ヴァルキル魔国王子』ルートになる。

その全ルートをクリアしてから現れる、ルカリス王子とジェルド辺境伯が隠しルートキャラ。
その2人との絡みは、魔王討伐に向かう『聖女と護衛』という関係で出会い、最終的に結婚。

……という『乙女ゲーム』の出会いイベントの話を、ユージが饒舌に語ってくれました。く、詳しい。

だけども、だっけ~ど。サイラスは脳が理解するのを拒否してるのだろう。百面相しながらブツブツと何か呟いてらっしゃる。

そして思考が終わったのか、真剣な顔でユージを見詰め口を開いた。


サイラス 「すまんユージ。まっっったく!理解できん!まず、何故その高貴な方々が声を掛けてくると決まっている?アルヴィン様と、デイビッド様が渡り廊下を歩くのは分かる。普通の貴族だからな」


そうね。会場行くのに通るところだからね。招待客は歩くよね。


サイラス 「が!殿下方やユージは王族だろ?渡り廊下は歩かんだろ。専用通路があるんだから」


そうなんだ!まぁ、ゲームでの演出だから歩いてたんだろうね。じゃなきゃヒロインに会えないし。


サイラス 「でだ!学園でライオット伯爵子息?に出会うのも無理だろ?キャロル嬢は修道女で学園に通えないんだし」


そうね。だから、『ワンコ子息ライオット』ルートは無しだと思う。それに、キャロル美亜ってワンワン系男子苦手だし。眼中にないんじゃないかな。


サイラス 「それと、魔国へ招かれて夜会で王子と出会うのも無理だ。キャロル嬢は聖女じゃないんだから。
もし何かのキッカケで会ったとしても、『ヴァルキル王子』は、今は王太子で既婚者だ。王子も既に産まれてる。出会って何をする?恋?無理だろ。アホか。
で?ルカと現辺境伯様に出会うのが、聖女と護衛としてってのも有り得ない!聖女じゃないし!」


わお!「聖女じゃない」2回も言ったよ。さり気にアホって言ってるよ。ちょっとサイラスくん、ご乱心してきたぞ。大丈夫?


サイラス 「大体、辺境伯様が護衛なんてしないだろ!聖女じゃないし!キャロル嬢は聖女じゃないし!キャロル嬢が聖なる乙女?断じて無い!!あれが純新無垢な聖女?絶対有り得ない!聖女じゃない!」


やべぇ、サイラスが完全に壊れた。「聖女じゃない」×3だよ。って、ユージがニヨニヨしてる!やめなさい!
ウルはサイラスの真似しないの!


サイラス 「ふぅ…すみません。取り乱しました。
『おとめゲームのキャラとルート』っていうのは、私なりの解釈ですが、遊戯盤…チェス盤みたいなのに、男性の登場人物達が並んでて、キャロル嬢という駒が一人ずつ攻略していく…という前世の遊び?ですか?
『キャラ』っていうのが登場人物で、『ルート』っていうのが攻略までの道筋…という感じですかね?」


ユージ 「凄っ!サイラス頭いいな!概ね当たってる。
王城とか学園という遊戯盤に、殿下達という駒がいて、キャロルという駒が道筋に沿って進み、男性を攻略するっていう前世の遊び道具があったんだよ。で、キャロルが主人公、所謂ヒロインってヤツな。んで、恋路を邪魔するキャラが悪役令嬢ストロベリーなわけ」


サイラス 「ああ!それで『ヒロイン』とか『悪役令嬢』って言ってたのか。その前世の遊び道具に出てくる『キャラ』ってのと名前が同じだから、混合しちゃったわけだ。空想と現実は違うのに」


「この神星キュリオスを創る時に、前世の遊びの世界を参考にしたから、登場人物が同じ名前なのよ。
だからキャロルは「ヒロインよ」「聖女よ」「主人公よ」って言ってたわけ」


ユージ 「ここはゲームの世界じゃなくて、現実世界。みんな意思があって生きてる。人には過去があり、未来がある。世界にも歴史がある。ゲームはクリアすれば終わりだけど、人生って死ぬまで続くだろ?
それをキャロル嬢は分からないんだよ。だから物語と同じように進めようと動いてるわけ」


《そうゆうことぉ。その物語の始まりが、ジュノン殿下12歳の生誕祭で、その日行われるデビュタントなのさ。そして、キャラに出会うのが渡り廊下なのぉ。
だから、修道院から脱走して、パーティーに出るため必死にもがいてるのでぇす》


サイラスは、「はぁ、なるほど」と、納得していた。理解力凄いな!若いからか?そうなのか?
2日後パパンに説明しなきゃなのに、理解出来るだろうか?外交官などやってるから、頭は良いだろうけど……

ユージに説明任せて、私は傍観者に徹しよう。うん。


サイラスが理解したところで、「2日後、パパンに今のもっと掘り下げた話をする事になった」と、ユージに伝えたら、胡乱な目をされた。

「どのルートの誰の話を具体的に掘り下げるんだ?」と言われたので、「アルが『賢者』の称号持ちだって話」と伝えたら、「なんでよりによってそこだよ!!」と、怒られた。

頭グリグリされた。痛い……


ユージ 「仕方ない。教える約束したのなら話すさ。懇・切・丁・寧に!じっくり、ゆっくりな」


わお!怖い!目が笑ってないよぉ。いつもだけど……


「あ、じゃあ、どう話すか一緒に考えようよ。ジュノン殿下ルートしか知らないけど」


ユージ 「はんっ!」


うーわー超バカにされたぁ!一瞥して「はんっ!」ってされたぁ!


《ベリーちゃん。ユージに任せなよぉ。お口チャックしてたほうがスムーズに話が進むと思うよぉ。ベリーちゃんが話すと絶対にややこしくなるってぇ》


くっ……ウルにまでバカにされた。酷いぃ……私の味方はサイラスだけよ。


サイラス 「そうですね。内容を知らないベリー様が話に加わるとダメな気がしますね。ジュノン殿下を攻略する『ルート』ってのしか知らないなら黙ってましょうね」


「もう!もう!みんなしてぇ!分かったも~ん。置物のように無でいるも~ん。
あ、そうだ!ルカとかエドとかビットには教える?エドは対象者じゃないけど、なんか狙われてたよね?
ルカとビットは対象者だしさ。と、いうか、仲間だし情報の共有はしときたいよね」


ユージ 「ははは。ごめんねベリー。口尖らせて可愛いなぁ、もう。まぁ、説明は任せとけって。
ルカとエドは、生誕祭に参加しないだろうから今度で良いだろ。ビットもまだエスコート役で参加は無いだろうし、とりあえず教えるのは侯爵だけで良いんじゃないか?」


サイラス 「え?ルカは王子として参加じゃないですか?エドはSランクなので呼ばれてますよね?
それより、ユージも参加ですよね?あなた一応王子殿下でしょ?
だから、キャロル嬢が何する気か分からないので気を付けて下さいよ」


そうだよ。ルカはエルフ族の代表で参加、ユージはスウィーティオ国の代表で参加だよね。
さすがに王子の生誕祭パーティーに、影武者は使えないでしょ。

あらら……私の彼氏モテモテで大変じゃないの?どっかの姫に見初められたらどうするんだろ。

もしそうなったら私どうする??諦めて、「どうぞ」って出来るだろうか……いや、無理ね。ユージは渡せないわ。

そうならないように、認識阻害のメガネ掛けさせようかな。変な虫が寄り付かないように……


ユージ 「ああ。俺は参加しないよ。正妃の息子が参加予定だ。ユージーン王子殿下は要らない子なんだよ。
そんなヤツを国の代表として参加させないだろ。ルカも同じ感じじゃないか?放逐息子と放蕩息子は厄介者って事だ。エドは煌びやかな世界が苦手だから不参加だよ」


え、そうなんだ。そういう話を聞くと、「本当に擬似世界なんだなぁ」って実感するわ。

強制力があって、ゲーム通りの展開になって、悪役令嬢はストーリーから漸く解放されて、第2の人生が……

って感じの小説を読んだことあるけど、私が転生した世界が、そんな展開を迎える、強制力のある世界じゃなくて良かったよ。

そんな事を考えながら「ふ~ん」「へぇ」と言ってたら、真面目な男サイラスが立ち上がって吠えた。


サイラス 「そんな!厄介者なんて誰が言ってるんです!?ユージが側妃の息子だからですか?そういう事ですか!?
なぜ、お腹を痛めて産んだ子を愛してあげれないんですか!ルカの放蕩理由は分かりませんが、境遇が良かったら放蕩なんてしませんよね!
ベリー様だって…くっ…色彩が似てないってだけで…うっ…産まれた直後ですよ…うぅ…」


《サイラスぅ…そうだよね、酷いよね、うぇぇん》


サイラス 「ベリー様は…転生して…魂が大人だったから、傍にウル様が居たから…生きられた…うっ…
普通の赤ん坊なんて…うぅ…そんな状況になったら、死んでしまうんですよ…うっ…
ユージも、ベリー様も、あっけらかんとし過ぎなんですよ……もっと憤って下さいよ!!」


いや、もう、めっちゃ泣くじゃん。男泣きじゃん。もらい泣きしちゃうじゃん。ウルなんて号泣してるし。

全く…サイラスは優しい男だね。


ユージ 「俺達の為に、泣いて怒ってくれるサイラスは優しいなぁ。心の底から仲間として信頼できると感じるよ。
ありがたい存在だって改めて実感したわ。俺の代わりに怒ってくれてありがとな」


「私もありがとう。あの時出会ったのがサイラスで良かったよ。優しくて、頼りになる護衛さん。これからも宜しくね」


サイラス 「私もベリー様の護衛になれて良かったと、心から思ってます!今後とも宜しくお願い致します。
ユージも。お前が護衛パートナーで心強いと思ってるよ。こちらこそいつもフォローありがとな」


ユージ 「おう。なんか照れるな。ははは」

《うんうん。いいね、いいねぇ。男の友情!》

サイラス 「あの~。俺が泣いたのは忘れて下さいね。」

「「「それはムリ~!あははは」」」


みんなで絆と友情を確かめあって笑い合っていたら、《大変だぁ~!》と、ヤミーちゃんが慌てて部屋に飛び込んで来た。

ヤミーちゃんは今まで何をしていたのか。大変な事とは何だ。これ以上の大変ネタはいらない。

一瞬静まり返った部屋に、ゴクンと生唾を飲み込む音だけが響いた。
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