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それまでのことは?
しおりを挟むここで俺の、簡単な説明をしておくとしよう。
俺は、前世返りの罹患者だ。
まるで病気みたいな言い方だけど、他に言いようもなかったらしく、この世界ではそれで呼び方が定着して広まってしまっているのだから仕方ない。
いつ前世返りしたのかというと、まだ小さかった五歳か六歳の、その辺。
その前の記憶は一切無く、沢山の子供達と一緒に檻に入れられていた記憶が、一番古い。
これは後から聞いた話だが、まあこの世界では良くある話。
誘拐されて奴隷としてどっかの変態貴族に売られた結果、全てに絶望して前世返りを発症した、らしい。
それまでぬくぬくと貴族の子供として育っていた俺には、そんな過酷な状況に耐えられる精神は無かったようだ。
虐待を受けた子供が自分を守る為に、その記憶を消したり、もう一人の自分を作って多重人格となるような、そんな精神的な疾患の同類として、前世返りは存在する。
故に、平民の子供のような強い精神を持たない、貴族の子供が前世返りになりやすいのは、必然なのかもしれない。
だがそんな世界にたった一人、放り込まれた俺の心中はというと。
異世界転生キター!とか、そんな呑気な事を考える余裕なんて全く無く、隣に居た子供が栄養失調や病気やストレスで死んでいく地獄に、絶望しない訳がなかった。
見目が良い俺は毎日飯には困らなかったが、問題はその他の子供達だ。
俺を見て恨めしそうに睨む骨と皮だけのような子供達。
口答えすれば殴られ、誰かと仲良くなればその子が見せしめに、なんの躊躇いもなく、戯れに殺される。
中身が成人男性な俺が次第にその場所で孤立し、悪意の捌け口として疫病神であるかのように扱われるのに、そんなに時間は掛からなかった。
そんな毎日に、俺はキレた。
もしかしたらそこで俺の精神はぶっ壊れたのかもしれない。
俺の死生観がそこで全て狂った事だけは、理解出来た。
人間なんて屑しか居ない、醜悪なこんな世界で生きるなんて嫌だ、そう強く思った事は覚えている。
で、キレた俺に何が起きたのかと言うと、体にあった魔力が暴走して、吹っ飛ばした。
檻も、建物も、人間も、俺以外の全てを何もかも跡形もなく消し飛ばした。
その結果、ようやく発見された俺は無事に保護され、この世界の両親の元へと戻されたのだ。
前世返りの弊害か、泣いて謝る両親を見ても、何も思わなかった。
愛されてたんだろうなー、とは思ったけど、それだけ。
両親は俺が前世返りしていると知ると、めちゃくちゃ落ち込んで、必死になって前世返りについて調べたり、色々やってくれた。
結果判明したのは、この国でも前世返りは30年ぶりで、俺が建国史上五人目という事だけ。
異世界転生した、という前世返りも、居たには居た。
でも、今まで前世返りした奴らは、きっと凄く良い人間だったんだろう。
国が豊かになるように、色々やったという逸話を聞かされたり、本で見たりした。
彼等先人のお陰で、前世返りが優遇されやすい環境になっていたのは本当に有難い事だ。
だけど、俺は誰も信用出来なかった。
打算と、演技と、その他色々で、なあなあに生きていた。
早く死んで、元の世界に帰りたかった。
そんな俺に、訪れた転機。
かつての愛猫。
大好きで、大事で、かけがえのない存在。
老衰で、俺の腕の中で冷たくなっていった小さな命。
もう二度と、失いたくないと思っても、仕方ないんじゃないだろうか。
そっとクロを撫でると、嬉しそうに頭を擦り付けてくる女の子の姿に、頬が緩んだ。
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