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第1章 怪しげな依頼

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「お、来栖ちゃん。来たね」
 所長の酒井さんが席を立って出迎えてくれた。

 彼は現在、55歳。
 相撲の親方と間違えられるほど大柄で、最近、お腹周りがますますやばいことになってる。
 人の良さがにじみ出ている柔和な笑顔がトレードマーク。

 学生時代に現役女子大生を出演させるテレビ番組をプロデュースして大当たりをとり、その勢いのままこの事務所を立ち上げたそうだ。

 今は全盛期と比べれば、だいぶ落ちぶれているけれど、売れっ子を何人か抱えていて、なんとか事務所を維持している。

 わたしのような〝その他大勢タレント〟のマネージメントは彼が一手に引き受けていた。

「はい、留守電聞いたので」

「うん。ちょっと変わった案件なんだけどさ、まあ、こっち来てよ」
 酒井さんは所長席の隣の椅子を指さした。

「えーと、どこやったっけ」
 そう言いながら、デスクの上を占領している書類をあれこれ探って、ようやく一通の茶封筒を見つけだした。

「あっ、これだ、これだ。あのさ。ある人からの依頼で、これから2カ月ほど、住み込みで働いてほしいんだけど」

 住み込み? なんじゃ、そりゃ?
 ここは家政婦事務所じゃなかったはずだけど。

「あの、話がまったく見えないんですけど」

「そりゃそうだよね。おれもさ、詳しくことはよくわかんないんだけどさ」

「えっ、詳細も聞かずに話を受けたんですか?」
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