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第1章 怪しげな依頼

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「とりあえず、さ。おれの顔を立てると思って、話だけ訊きに行ってくれない? こっちから連絡すれば、迎えに来てくれる手筈になってるから」

「今、スグですか? それもひとりで?」

「おれ、これからちょっと外せない用事があるんだよ。でも先方は急いでるみたいでさ。どうしても今日中に来てほしいんだと」

 うーん。どうしよう。

 なにしろ無茶苦茶な話だし。

 でも、この7年、事務所から理不尽な仕事を押し付けられたことはないしなぁ。

 嫌だと言えば、絶対、無理強いはされない。

 この業界の人としては珍しく、酒井さんはあくどい人間じゃない。
 いや、どっちかと言えばお人好しすぎるぐらいだ。

 本当にまずい仕事だったらはじめから受けないだろう。

 わたしは酒井さんの目を見据えた。
「断れないんですよね。違います?」

 酒井さんはぽんと膝を打った。
「さすが来栖ちゃん。話が早いね。昔からいろいろ世話になってる人を通しての依頼なのよ。それに最近、うちの経営、かなりきつくてさ。引き受けてくれたら、ほんと、助かるんだよね」

 酒井さんは手を合わせて拝むフリをする。
 
 もー、しゃーないなー。

 こういうとき、頼まれると断れない性格がひょっこり顔を出してしまう。
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