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第二章 侯爵家の舞踏会と図書室での密会
二
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「それに八重子様だけじゃなくてよ」
鞠子は大の噂好きなので、目をきらきら輝かせて、話を続けた。
「お隣のクラスの瑠璃子様も、ご結婚がお決まりになったそうよ」
「まあ知らなかったわ」
「でもね……」
鞠子はわざとらしく桜子の耳に口を寄せ、声を落とした。
「そのお相手がね……堀田侯爵閣下なの」
「まあ……」
お気の毒という言葉を言いそうになり、あわてて飲み込んだ。
堀田侯爵は御維新で活躍された元勲、すでに六十を超えている。
昨年、奥様を亡くされたとは知っていたけれど、まさか瑠璃子様がその後添いになられるとは。
昨今、巷では女性の権利や自由恋愛が叫ばれている。
けれど、ままならぬ結婚に身を投じなければならない彼女たちを思うと、そんな話は遠い彼方のこととしか思えない。
それにけっして他人事ではなく、明日にでも、唐突に父から「嫁入りするように」と命じられるかもしれない。
こんなに天音を想っていても、彼と添える望みなんて、まるでないのだ。
それを思うといつも、桜子の胸は、針で刺されたようにチリチリと痛んだ。
鞠子は大の噂好きなので、目をきらきら輝かせて、話を続けた。
「お隣のクラスの瑠璃子様も、ご結婚がお決まりになったそうよ」
「まあ知らなかったわ」
「でもね……」
鞠子はわざとらしく桜子の耳に口を寄せ、声を落とした。
「そのお相手がね……堀田侯爵閣下なの」
「まあ……」
お気の毒という言葉を言いそうになり、あわてて飲み込んだ。
堀田侯爵は御維新で活躍された元勲、すでに六十を超えている。
昨年、奥様を亡くされたとは知っていたけれど、まさか瑠璃子様がその後添いになられるとは。
昨今、巷では女性の権利や自由恋愛が叫ばれている。
けれど、ままならぬ結婚に身を投じなければならない彼女たちを思うと、そんな話は遠い彼方のこととしか思えない。
それにけっして他人事ではなく、明日にでも、唐突に父から「嫁入りするように」と命じられるかもしれない。
こんなに天音を想っていても、彼と添える望みなんて、まるでないのだ。
それを思うといつも、桜子の胸は、針で刺されたようにチリチリと痛んだ。
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