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第二章 侯爵家の舞踏会と図書室での密会
五
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ボールルームでは、それは美しく着飾った男女が笑いさざめきあっていた。
天井にはシャンデリアが輝き、白いクロスをかけたテーブルの上には、見たこともないようなお料理やお菓子がずらりとならんでいる。
そして、いたるところに飾られている色とりどりの花々が華やかな雰囲気をいっそう盛り上げている。
部屋の奥にはステージが設えてあり、楽団がワルツを演奏していた。
その音楽にのせて、部屋の中央では数組の男女が優雅にダンスを披露している。
まるで物語の一場面を見るようで、桜子はうっとりとため息をついた。
でも、気持ちが浮き立ったのはほんの一瞬。
すぐに心は灰色の雲に覆われてゆく。
踊りの輪のなかに入る気になれず、桜子は壁際に置かれた椅子に腰かけ、ぼんやりと踊りに興じる人々を眺めていた。
突然、視界が遮られ、桜子は驚いて顔をあげた。
彼女の目の前には、軍服に身を包んだ背の高い男性が立っていた。
「踊らないか」
その不躾な誘いを桜子はすげなく断った。
「申し訳ございません。不調法ゆえ踊れませんので」
「ずいぶんつれないな、桜子。俺は一目で気づいたのに。わからないのか。高志だよ」
「えっ、高志さん?」
桜子はふたたび目を上げ、あらためてその男性をみつめた。
よく見れば、確かに幼なじみの面影があった。
細谷高志。
細谷侯爵の長男で桜子より五歳年上の二十三歳。
ここ中島家と同様、細谷家もかつては百万石近い石高があった大大名。
爵位でも資産面でも、桜子の生家である吉田家を圧倒的に超えている。
桜子は幼いころから、居丈高に相手を圧倒する高志が苦手だった。
「お久しぶりです。前にお会いしたのは、たしか忠明様と姉の婚礼の時でしたかしら」
高志は尊大に顎を上げ、桜子を見つめた。
「美しくなったな、桜子。以前はただの子供だったのに」
貴方は少しもお変わりになっておりませんこと。
その人を見下す視線も尊大な話ぶりも何もかも。
心のなかでそう毒づいてから、桜子は椅子から立ちあがった。
天井にはシャンデリアが輝き、白いクロスをかけたテーブルの上には、見たこともないようなお料理やお菓子がずらりとならんでいる。
そして、いたるところに飾られている色とりどりの花々が華やかな雰囲気をいっそう盛り上げている。
部屋の奥にはステージが設えてあり、楽団がワルツを演奏していた。
その音楽にのせて、部屋の中央では数組の男女が優雅にダンスを披露している。
まるで物語の一場面を見るようで、桜子はうっとりとため息をついた。
でも、気持ちが浮き立ったのはほんの一瞬。
すぐに心は灰色の雲に覆われてゆく。
踊りの輪のなかに入る気になれず、桜子は壁際に置かれた椅子に腰かけ、ぼんやりと踊りに興じる人々を眺めていた。
突然、視界が遮られ、桜子は驚いて顔をあげた。
彼女の目の前には、軍服に身を包んだ背の高い男性が立っていた。
「踊らないか」
その不躾な誘いを桜子はすげなく断った。
「申し訳ございません。不調法ゆえ踊れませんので」
「ずいぶんつれないな、桜子。俺は一目で気づいたのに。わからないのか。高志だよ」
「えっ、高志さん?」
桜子はふたたび目を上げ、あらためてその男性をみつめた。
よく見れば、確かに幼なじみの面影があった。
細谷高志。
細谷侯爵の長男で桜子より五歳年上の二十三歳。
ここ中島家と同様、細谷家もかつては百万石近い石高があった大大名。
爵位でも資産面でも、桜子の生家である吉田家を圧倒的に超えている。
桜子は幼いころから、居丈高に相手を圧倒する高志が苦手だった。
「お久しぶりです。前にお会いしたのは、たしか忠明様と姉の婚礼の時でしたかしら」
高志は尊大に顎を上げ、桜子を見つめた。
「美しくなったな、桜子。以前はただの子供だったのに」
貴方は少しもお変わりになっておりませんこと。
その人を見下す視線も尊大な話ぶりも何もかも。
心のなかでそう毒づいてから、桜子は椅子から立ちあがった。
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