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第二章 侯爵家の舞踏会と図書室での密会
四
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***
二十分ほどして、桜子をのせた馬車は中島家に到着した。
父母とともに馬車から降りると、中島家の子息、忠明と桜子の姉の梅子が出迎えた。
「桜子、よく来てくれましたね」
穏やかな笑みを浮かべて姉がこちらに歩み寄ってきた。
「お姉様、お久しゅうございます」
桜子は西洋の姫のようにスカートをつまんでお辞儀をした。
四つ違いの姉は、三年前、この家の跡継ぎである中島忠明と祝言を挙げた。
「さあ、こちらに」
燕尾服に身を包んだ忠明が、桜子たち三人に室内に入るよう促した。
「まあ、なんと素晴らしいお館ですこと。西洋の城もかくやとばかりの豪華さですわね」
母が忠明に世辞を述べたてた。
御維新前は五十万石を超える大大名だった中島家のお屋敷の豪華さは、吉田家の比ではない。
純日本風の母屋のほかに、このたび、外国の賓客を招くために壮麗な洋館を新築された。
今夜はそのお披露目を兼ねた催しであった。
「梅子、身体の調子はどうだ。何カ月目だったかな。だいぶ目立ってきたな」
父がそう言うと、姉は頬を赤らめ答えた。
「七カ月です。どうぞ、ご心配なく。お義母様や忠明様が、とてもよくしてくださいますから」
「そうか。それは良かった。だが、大事にしなければいけないよ」
「はい」
「お義父上。どうぞご心配なきように。私がついておりますから」と忠明も請け合った。
姉は笑みを浮かべて夫である忠明を見上げ、彼も優しい笑みを返した。
微笑ましいほど、仲睦まじい。
姉は幼いころから忠明を慕っていた。
そんな方と結婚できたなんて。
姉はなんて幸福なんだろう。
なんの障害もなく、好きなお方と添えたのだから。
それに引きかえ、わたくしは……
自らの恋の先行きを思うと、とてもではないが、舞踏会に浮かれる気分にはなれなかった。
***
それから、父母は出会う人皆に、桜子を紹介して歩いた。
沈む気持ちと裏腹に笑顔でいなければならないのは、苦痛以外の何物でもない。
「お母様、あちらのお部屋に行ってもよろしいですか?」
知り合いと楽しげに語らっている母にそう言い残し、桜子はひとりで一際にぎやかな奥の間に向かった。
愉し気に踊りに打ち興じている人々なら、自分のことなどに関心を抱くこともないだろう、と。
二十分ほどして、桜子をのせた馬車は中島家に到着した。
父母とともに馬車から降りると、中島家の子息、忠明と桜子の姉の梅子が出迎えた。
「桜子、よく来てくれましたね」
穏やかな笑みを浮かべて姉がこちらに歩み寄ってきた。
「お姉様、お久しゅうございます」
桜子は西洋の姫のようにスカートをつまんでお辞儀をした。
四つ違いの姉は、三年前、この家の跡継ぎである中島忠明と祝言を挙げた。
「さあ、こちらに」
燕尾服に身を包んだ忠明が、桜子たち三人に室内に入るよう促した。
「まあ、なんと素晴らしいお館ですこと。西洋の城もかくやとばかりの豪華さですわね」
母が忠明に世辞を述べたてた。
御維新前は五十万石を超える大大名だった中島家のお屋敷の豪華さは、吉田家の比ではない。
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「七カ月です。どうぞ、ご心配なく。お義母様や忠明様が、とてもよくしてくださいますから」
「そうか。それは良かった。だが、大事にしなければいけないよ」
「はい」
「お義父上。どうぞご心配なきように。私がついておりますから」と忠明も請け合った。
姉は笑みを浮かべて夫である忠明を見上げ、彼も優しい笑みを返した。
微笑ましいほど、仲睦まじい。
姉は幼いころから忠明を慕っていた。
そんな方と結婚できたなんて。
姉はなんて幸福なんだろう。
なんの障害もなく、好きなお方と添えたのだから。
それに引きかえ、わたくしは……
自らの恋の先行きを思うと、とてもではないが、舞踏会に浮かれる気分にはなれなかった。
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それから、父母は出会う人皆に、桜子を紹介して歩いた。
沈む気持ちと裏腹に笑顔でいなければならないのは、苦痛以外の何物でもない。
「お母様、あちらのお部屋に行ってもよろしいですか?」
知り合いと楽しげに語らっている母にそう言い残し、桜子はひとりで一際にぎやかな奥の間に向かった。
愉し気に踊りに打ち興じている人々なら、自分のことなどに関心を抱くこともないだろう、と。
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