使い捨て勇者にされた俺が元魔王と一緒に、利用してきた国を飛び出して自由な冒険者を始めた話

安佐ゆう

文字の大きさ
15 / 100
第二章 巨人の街

第14話 陽気な門番

しおりを挟む
「くあ?」

 座り込んだ俺を心配そうに見上げるポチ。身体のあちらこちらを触ってみて、異常がなかったので、笑って大丈夫だと答える。
 斜面を転がる時には大きな衝撃が二、三度あったが、ほとんどはゴロゴロと転がっていたので、どうにか身体強化で耐えられたようだ。
 全身の打ち身の痛みはしかたがない。骨折しなかったことを感謝しよう。

「しかし、困るのは痛みよりもこれだなあ……」
「ぐええ……」

 俺の服は、背中の部分がもうボロボロだ。擦り切れて穴が開いたり、切れて垂れ下がったり、肌も半分以上見える。胸当ては片方の肩のところが切れて、外れかけている。大剣は少し離れた場所に転がっているが、剣を吊るすベルトは切れてどこかで落としたらしい。そばに見当たらないので、崖の途中で引っかかったのかもしれない。かろうじて靴が残っていたのはラッキーだ。腰に巻いた食料の包みを取ると、中はジーナの実がつぶれて、酷いことになっている。

「ぐちゃぐちゃだなあ。うへぇ……ベタベタするぞ」

 胸当ても外して、ポイっと投げ捨てた。どうせ穴だらけで、さして役にも立たないだろう。

「ま、いっか」
「くあ?」
「二人とも無事だったしな!」
「くえええっ!」

 立ち上がって服を叩けば、もわっと土ぼこりが舞い上がった。あまりの酷い有様に、なんだか可笑しくなってしまう。
 剣を拾って、どうせなら休憩ついでにと、食料のうち無事に残っている肉を、ポチと二人で分け合って食べた。潰れたジーナの汁で甘酸っぱい味が付いて、妙に美味くなっているのも可笑しかった。

「ふふ。あははは」
「ぐああ」
「いやあ、生きてるっていいな!肉がうまいぜ!」
「くえっ!」
「さ、町に行こうか。もういいさ、この格好で」
「くあ?」
「どうにかなるだろ」

 崖沿いに滝壺のところまで行った。岩で跳ねた水しぶきがいくつもの虹を作っている。
 絶え間ない波紋でキラキラと輝く滝壺の水をすくって、じゃぶじゃぶと顔を洗い、のどを潤す。ポチは俺の横から、滝壺に向かってザブンと飛び込んだ。落ちてくる水のそばまで行って、水の中に引き込まれそうになって慌てて戻ってくる。面白かったのか、それを何度も繰り返していた。
 滝の上の洞窟にはもう戻れそうもないが、それもまた良いだろう。
 新しい町へ。新しい出会いを求めるのだ。
 思いがけない状況になって、逆に何かが吹っ切れた気がした。

 また川に沿って歩くが、今度はゴールがどのくらい先か、滝の上から見たので分かっている。足を強化して普段歩く時の三倍ほどの速さで歩けば、二時間も経たずに崖下の森を抜けられるだろう。
 俺の歩く速さに合わせて、ポチも駆け足になる。
 森の中の景色は単調で、崖の上と違って実をつけている木はパッと見、見当たらない。ポチは相変わらず気まぐれに、ひょいっと森の中に入ってはしばらくして俺に追い付くのを繰り返していた。前はこれで美味しい食べ物を見つけてきたりしていたんだが、今回はお土産は無いようだ。
 遠くで、ウゥゥと唸る声が聞こえる。

「狼か?フェンリルだったらまずいが」
「くえ」
「遠いな」
「くえっ」

 こちらに近付いてはこないようだ。
 狼も狼型の魔獣フェンリルも、腹が減っていない時にはむやみやたらと攻撃はしてこない。念のためポチにはあまり遠くへ行かないように言い聞かせ、足を速める。
 川は徐々に幅が広くなり、向こう岸に渡るのが大変になった頃に森を抜けて草原に出た。
 膝の高さの草に覆われた平地のその向こうには、高さが身長の倍くらいだろうか、頑丈そうな壁が見える。
 人間の侵入よりは、おそらく魔物の侵入を抑えるためのものだろう。

 壁に向かって歩いて行くと、分厚い木でつくられた門が見える。門は開かれていて、その両脇に門番が立っている。
 どちらも筋骨隆々とした男で、褐色の肌に赤い髪、そして身長は俺より頭一つ分以上もでかい。その門番の一人が、俺を見て慌てて駆け寄ってきた。

「うぉ?おい、お前、大丈夫か?」

 ボロボロの姿を見て心配してくれたようだ。話しかけてくる言葉は、共通語。言葉が通じる国でよかった。

「大丈夫だ。道に迷ったんだ。すまないが町に入れてくれないか?」
「道にって……」

 いぶかし気に顔をしかめた門番は、俺たちがやってきた方向を眺めて、肩をすくめた。

「ははあ。さては崖に上ろうとしたな?大陸から来た人間はこれだから」
「まあ、死ななくて良かったじゃないか。大陸の人間はちびっこいのに元気だよな。がはははは」

 もう一人の門番も笑いながら寄ってきて、俺の背中をバシバシ叩いた。若干魔力を注いで強化しなければならない程に。

 どうせ暇なんだからと、気の良い門番が俺たちを日陰に引っぱって行くので、しばらく座って休むことになった。そのついでに、この町の事もいろいろと聞く。

 門番の名前はヨリックとゲルト。二人とも陽気で優しく、交互にいろんなことを話してくれた。
 この町の名前はアンデといい、俺が住んでいた大陸の南の海に浮かぶ大きな島国サイラードの辺境の小さな町だ。森に接しているので、魔獣の侵入を避けるために外壁を作っているが、人の出入りは厳しくない。
 俺たちがやってきた森の奥には高くそびえ立った崖があり、……まあ、俺たちはそこを落ちてきたわけだが。その崖の上には楽園があって、辿り着ければ幸せになれるという伝説があるらしい。
 その伝説を信じて崖を上り、毎年何人もの人が大怪我を負ったり死ぬことすらある。そして未だ崖の上に辿り着いた者はいない。

 伝説のおかげで、この町には昔から、大陸の人間も多くやってくる。その為か、種族の差別意識が少なく、人族だけでなく、魔族もまた入り混じって普通に生活しているようだ。元々この島に住んでいたのはヨリックやゲルトと同じように大柄で赤毛の、体格の良いサイル人と呼ばれる人々だ。ゲルトは俺と同じ黒髪の森の民も、見たことがあるらしい。

「大陸の方じゃ人族と魔族は仲が悪いらしいが、この国にくるようなやつはみんな、ぶっ飛んでるからな。いろいろ面白れえやつばっかりだぜ」
「そうなのか」
「おう。にいちゃんみてえに、ボロボロの半裸でやってくるやつも少なくねえから、心配すんな」
「そ、そうか」
「そういえばにいちゃん、金は持ってるのか?」
「……いや、それが持ってないんだ。落としてしまって」
「そうか。だったら冒険者ギルドに行ってみな。あそこはいつも日雇いの冒険者を探してるし、住む場所も貸してくれるぜ」

 ゲルトがバシバシ背中を叩きながら教えてくれた。
 船でこの国に渡った後、金がないからと町を迂回して直接崖に向かう者も多いらしい。俺は無茶をして崖上りに失敗した大陸からの冒険者ってことで、この町の冒険者ギルドにお世話になる事ができそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...