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第二章 巨人の街

第17話 服を買う

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 冒険者ギルドでの初仕事は無事終えた。トイレ掃除を一時間と素材の処理を二時間で済ませて、即日払いで金を受け取る。三時間働いて合計で500ゴールドの収入は、この町ではわりがいいとは言えない。けれど真面目に働けば普通に暮らせる程度の収入ということだ。

 素材の処理で解体があったので、ギルドのシャワー室をタダで借りられたのはラッキーだった。いや、ラッキーと言うよりは俺の状態を見てそう言う仕事をまわしてくれたのかもしれない。それほどボロボロで、酷い姿だったようだ。見かねたシモンが着替えを貸してくれたほど……。

「風呂上りには、これを貸すので着てくださいね」
「あ、ああ、済まない」
「いいんですよ、僕の予備の着替えだから少し小さいかもしれないけど。今日はリクさんが解体してくれたんで、僕にそっちの仕事が回ってこなかったからちょうど良いです」

 シモンは十代後半に見える。童顔と屈託のない笑顔がまだまだ子供っぽさを感じさせる。しかし一人前に背はひょろっと高くて、俺とあまり変わらないから、服は着ることができた。そして俺が風呂に入っている間、風呂の外でポチと遊んでいたようだから、実はそっちが目的だったのかもしれない。
 シモン……あなどれないやつ!

 その後は久しぶりにちゃんとした部屋で寝て、翌朝の目覚めは気分も爽快。

「くああ?」
「ああ、おはよう」
「くえ」

 一人前の朝食をポチと分け合って、腹も落ち着いた。今日はまずは買い物だ。
 町は南北に通るメインストリートで二分されている。東側は川に近く、最初に町ができたのはこちら側だ。今は綺麗に整備され、町の有力者や比較的裕福な人々の住居が多い。
 西側には小さな家がたくさん建っている。迷路のように路地が入り組んでいて、迷いやすい。ところどころにある広場には小さな市が立ち、下町の活気にあふれている。

 メインストリートには大きな商店や宿屋、市場などが集まっていて、大きな商会や冒険者ギルドなどの団体の事務所もここにある。その東西両方の裏通りには、小さな商店や食堂などが軒を連ねていて、冒険者は西側の裏通りの店を利用することが多い。

 そんな町の情報を、一緒に朝食をとっていた冒険者に聞き出して、最初に西側の裏通りにある古着屋へ行くことにした。
 宿屋のハンナにも聞いていたその古着屋は、道具屋、武器屋、防具屋などの中古屋が並ぶ古物商店街とも言える場所にあった。店先にまではみ出すほど、所狭しといろいろな服が置いてある。予算が少ないので、ごくごく簡素な服を選ぶ。あちらこちらがツギハギだが、昨日まで来ていたものよりはずいぶんいい。着替えと肌着を二組買って200ゴールドだった。

 さて、服屋を出て次は武器と防具でも見に行こうか。それとも何か食べ物でも……。
 そう思って外に足を向けた時、店のオヤジが声をかけてきた。

「よう、にいちゃん、そりゃあお前さんの狐か?」

 振り返るとポチが、一枚の服を引きずってこちらに歩いてこようとしている。

「あ、こら、ポチ!」
「ぐええ」

 取りあげようとしたが、ギリっと噛みついて、引っぱっても放そうとしない。
 結局その服も買い取ることになってしまった。しかもたった一枚で俺の二組の着替えと同じ値段!

「ポチ、お前に何か美味いもんでも食べさせてやろうと思ったのに。金がなくなっただろ」
「ぐええっ」
「しかたねえ。また働くか。そういえばお前、女の子だったよなあ。服が欲しいのか」
「くえっ」

 早々にお金を使い果たして、あっという間にギルドに逆戻りだ。
 と、店を出たとたんにポチが、今買った服をくわえて、飛ぶように駆けていった。慌てて追いかけたが、路地に入ってしまい見失う。

「ポチ、おーい、ポチ!」

 路地は人気もなく、いくつも枝分かれして奥へと続いている。
 こんな所に入り込んで、誰かに攫われたりしたらどうするんだ。まったく!

「一体どこに隠れてるんだ、ポチーッ!」
「そう大きな声で叫ぶでない。リク」

 右側の小道から現れたのは、真っ白い髪を腰まで伸ばした赤い瞳の、簡素なワンピースを着た美しい少女だった。
 それはあの時戦った魔王と同じような姿ではあった。けれど頬を染めてはにかんで笑う少女は、あの時の魔王とは全く別人のように見えた。

「ポチ……な、のか?」
「そう驚くことでもあるまい。もうとっくに分かっておったであろうに」
「いや。あ、ああ。確かに。だが……」
「ほんに、そなたが私の服を燃やしてしまったときには、どうしてくれようかと思ったわ。だがまあ……あの魔道具を燃やしてくれたのには、感謝している。だからこの服を買ってくれたことで、許してやろう」

 ふふふ、と笑いながら、質素なワンピースの小さな刺繍を嬉しそうに撫でる少女。
 そしてそのまま、一緒に冒険者ギルドへと戻ることになったのだ。

 ◆◆◆

「どうしたんですか、リクさん!そんな子どもを連れてきて。それとポチは?」

 ギルドの受付に近付くと、シモンが奥から飛んできた。
 答えようとする俺を押しのけて、ずいっとポチが前に出た。

「私は子どもではない。冒険者登録をしてリクと組んで働くゆえ、手続きを頼む。それとポチは私の家で留守番をしておるゆえ、心配するな」
「お嬢さん、どう見ても十歳ちょっとにしか見えませんよ」
「失礼な!実年齢は言うに及ばず、見た目年齢とて十五になっておるわ!」

 プンプン怒り始めたポチは可愛かったが、なだめた。いろいろ聞いてくるシモンの質問も適当にかわして、三十分ほど話してようやく登録をする。

「お名前は?」
「……うむ。リリアナ・ルーヌテルンという」

 ポチ、改め、リリアナが仲間になった。
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