使い捨て勇者にされた俺が元魔王と一緒に、利用してきた国を飛び出して自由な冒険者を始めた話

安佐ゆう

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第五章 魔族の国

第59話 帰宅とこれから

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 隊商の帰路は、少し西寄りのコースだった。行きとは違う町や村を通って、荷馬車の中身はその都度、少しずつ入れかわる。
 時には魔物が現れたり、小規模な野盗がコソコソと侵入しようとしたが、大きな混乱はなかった。イデオンの北門の広場に着くと、そこで隊商は解散する。報酬は明日になれば、ギルドを通して受け取ることができるそうだ。

「今回の護衛は楽だったな」

 エリアスが笑顔で話しかけてきた。
 西の鳶の面々は、冒険者の先輩だがいつだってこうして、気さくに接してくれる。

「そうなのか?」
「ああ。お前ら、敵に気付くのがめちゃくちゃ早いからな」
「索敵は得意なんだ」
「ヒューも遠距離魔法の使い勝手が良いって、始終ご機嫌だし、ゾラはゾラで、暇でいいって言ってご機嫌だ。仲間が機嫌良いと楽でいいぜ」
「そっちか」
「ははは。また、一緒に仕事しようなー」

 その言葉を合図に俺たちもまた、家へと帰った。
 お土産の大荷物を携えて、家のドアを開ける。
 カリンも一緒に連れて。

「わあっ、お帰りなさい」
「ただいま、シモン」

 俺達がカリンを連れてきたのを見て、少しだけ眉を上げたシモンだったが、それについては特に何も言わずにリビングに案内した。

「長旅で疲れたでしょう。さあ」

 荷物を置いて椅子に座れば、温かいスープのカップが差し出された。
 かじかんだ手をカップの熱でほぐしながら、ゆっくりと啜《すす》る。外では本格的に雪が降り始めていた。

 ◆◆◆

「なるほど、分かりました」

 イリーナの森での出来事をざっと話すと、さほど考えることもなく、あっさりとシモンが頷いた。

「せっかくだから、カリンにもこの家で暮らしてもらおうと思うんじゃが……」
「良いですよ、部屋も余ってますし。食事や掃除は当番制ですから、よろしくお願いしますね、カリンさん」
「あ、ああ、もちろんだ。こちらこそ、よろしく頼む」

 相変わらず切れ味よく、シモンが仕切ってる。
 スープで温まったあとは、パンに肉や野菜をはさんだものが出てきた。
 濃い目のソースがパンに染みて、旨い。
 話を聞きながらも、簡単につまめる食事がパパッと出てくるところなど、いっそ全部シモンに任せたいくらいだが。
 ……気のせいか、寒気が。
 そ、そうだな。当番制が良いだろう。

「ところで、その石のドラゴンですが、倒すあてはあるのですか?」
「準備をすれば、いくらかは可能性があるだろ。武器を探して、倒し方を考えるか」
「そうですね。何かあいつを抑え込めるものがあれば、戦えるはずです」

 カリンはここまでの経緯を話しているうちにふっ切れたようで、やる気満々でそう言い切った。
 とは言うものの、大きいうえに重量のある石のドラゴンだ。動きを止めるのは、強固な武器をそろえても容易ではないだろう。

「うむ。誰かに協力を願ってみるかのう」
「危険ですから、そうそう気軽には誘えませんけどね。今のところは僕もあわせて五人ですか」
「シモン?」

 元ギルド職員のシモンは、まったく戦えないわけではないがどちらかと言えば交渉術などの頭脳戦が得意だ。まさか一緒にドラゴンと戦うとは、と思わず声をかける。するとシモンはいつもの屈託のない笑顔で答えた。

「僕もですね、この一か月間、しっかりと鍛えたんです」
「この一か月と言えば、冒険者ギルドの事務だよな?」
「ん?そう言われれば、ずいぶんと肌の色が黒くなっておるの……」
「えっと、それは……仕事の後、体を鍛えていたんです。遊んでいたわけじゃないんですよ。鍛えるためですから!」
「何処で?」
「ラビの島です。ええ、あそこなら思いっきり走って汗をかくのにピッタリですから!」
「……ほう」
「仕方ないんですよ。リリアナさんがいなければ、ポチと遊ぶことも出来ませんし。せめてラビと一緒に……」

 そう言い募るシモンの顔は程よく日焼けしていて、心なしか体つきもガッシリとしてきた。この一か月、暇さえあればラビの島に行って駆けまわっていたらしい。

「海に潜るのもなかなかの腕前になったのですよ。ほら、このサンドイッチの中身、僕が捕まえた魔魚の唐揚げなんですから」

 今、まさに成長期のシモンなのだった。
 シモンがどれくらい強くなったのかはともかくとして、こうしてやる気を出してくれるのはありがたい。
 このほかにも、西の鳶の四人は、頼めば協力してくれるだろうか。作戦を考え付いたときには、冒険者ギルドで誰かを雇う必要もあるかもしれない。それも含めて、いずれ相談してみよう。

「ところでアルが合流するのは春になる予定だが、それまでは」
「それなんじゃがの、リク。それにシモンとカリンも」

 キラキラと目を輝かせて、リリアナが俺たちの顔を覗きこんだ。

「ちょっと旅に出るというのは、どうかの?」
「今から本格的に雪が降る季節ですが、大丈夫でしょうか?」
「うむ。寒いのには慣れておるし、リクもカリンも平気であろう?」
「まあな。魔力さえ枯渇しなければ、わりと平気だ」
「私もガルガラアドの北の小村の出身ですから。雪深い地方でしたので」

 心配なのは南国育ちのシモンだが、本人はいたって呑気に茶を飲んでいる。

「シモンは寒いのは平気なのか?」
「え?寒いの?苦手ですね。でもほら、見てください」

 そう言って彼が部屋の奥から持ってきたのは、モコモコの冬用装備一式だ。襟に大きな毛皮が付いたマント、滑り止めが付いた靴、丈夫そうな革手袋にも毛皮が付いている。

「僕が、寒いのは苦手だって愚痴ってたら、ギルドのみんなが良い毛皮屋さんを教えてくれたんですよ。雪国の装備って、モフモフで良いですよね!お出かけが楽しみです」

 ……心配はいらないようだ。

「で、どこに行きたいんだ?」
「うむ。皆が良ければ、一度、ガルガラアドへ行ってみようかと思っての」

 息をのむカリン。
 俺もまた、危険じゃないのか……と出かけた言葉を飲み込んで、黙って頷いた。
 そんな俺とカリンの緊迫感には全く無頓着に、シモンが陽気に会話を続ける。

「ガルガラアドですか!噂によるとあそこの雪祭りは、とっても見事なんだそうです。見れるかなあ」
「うむ。シモン、よく知っているの」
「ギルドと言うのは、噂話はよく耳に入るところなので。ただ、あそこは人族の入国を嫌いますから、一部の許可された商人しか出入りしていません。我々人族にとっては神秘の国ですね」
「やはり入国は難しいかの?」
「ガルガラアドに行くには、アルハラを通りぬけることになりますが、このところガルガラアドとアルハラは緊張が高まっていますから。アルハラでは魔族のカリンさんの入国は難しいでしょうし、ガルガラアドは魔族以外の僕たちの入国が難しいです。しっかりと変装しないと」
「変装か」
「ふふふ、僕、かなり品ぞろえの面白い魔道具屋さんを見つけたんですよ。そこなら多分、変装用の魔道具が見つかると思います。明日にでもみんなで行ってみませんか?」

 そんなシモンの提案で、明日の予定が急遽決まった。
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