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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
突然の暗闇③
しおりを挟む「時間だな。授業はここまでだ。皆、きちんと復習しておくように」
教師にそう告げられて、3年の教室に居たアベルは右手に持っていたペンを置いた。
午前の授業が終えたアベルは手早く教科書類を片付けると、席を立って数人の友人達と共に教室を出た。
「あ~腹減ったぁ」
「昼飯、何食う?」
「僕はお肉がいいな!」
「デオンはそればっかりだな。ちゃんと野菜も食べなきゃ駄目だ」
「え~……」
「出た!アベルは本当に母さんみたいだよな!」
「うるさいぞ、ジェイド」
アベルの友人達は騎士を目指す者が多く、貴族であれば家督を継げない次男三男、平民などが多かった。そのせいか、言葉遣いも気にしない者が殆どだ。
昼食の事や午後の授業の話をしながら食堂へと向かっていると、途中の廊下で黒髪黒目の見目麗しい少女が待ち構えていたかのように立っていた。
その少女の視線は間違いなくアベルに注がれていた為、友人達はヒューと口笛を吹いて茶化しながら、バシンッ!とアベルの背中を叩いてその場から離れていく。
「いきなり痛いな!何すん……」
「羨ましいぜ、この色男!」
「ちくしょうっ!なんでお前ばっかり!この世は理不尽だっ!!」
「俺達は先に食堂に行ってるからな~」
「アベル、騎士は女の子に対して紳士に接しないと駄目だよ!」
「なっ?!おい、お前達……」
スタスタと先に行ってしまう友人達。
置いて行かれてしまったアベルは、軽く額を押さえて小さく嘆息しつつ、チラリと黒髪黒目の美少女へ視線を向けた。
「それで……君は一体、俺に何の用?ええと、多分1年生、かな?」
「はい。あの、私――――オレリア・ベルティエと申します。アベル様、私と一緒に来ていただけませんか?」
「……ここじゃ駄目なのかい?」
「ええ。……見せたいものがあるんです。貴方もきっと、目が覚める筈。お願い致します、アベル様」
「…………」
オレリアと名乗る少女の狙いが分からない。
だが、“見せたいもの”というのが何なのか、酷く気になった。
アベルは暫し逡巡した後、オレリアを見てコクリと頷いた。
「……いいよ。案内してくれ、オレリア嬢」
「良かった。ありがとう存じます、アベル様。こちらです」
そうして、アベルはオレリアの後をついて行った。
オレリアが頬を染め、熱を帯びた瞳でチラチラと自分を見てくる事に気付かないフリをして、内心で溜め息をつきながら。
……………………
…………
(これは一体どういう事だ……?)
訓練場では、ルカが戸惑いながらも授業を終わらせていた。
突然何かの気配に包まれたと思ったら、ヴィクトリアやエリック達が消えてしまっていた。恐らく違う空間へ強制的に連れて行かれてしまったのだろう。
ルカは咄嗟に幻惑の魔法を用いて、消えた四人が訓練場から消えていないように偽装し、四人が個別の訓練場へ入って行くように見せかけた。
生徒達に、彼等が消えたと騒がれ、大事になってしまったら色々と困るからだ。何より、今すぐヴィクトリアの無事を確認したい。
そうして、生徒達には『今日は各自、好きな様に魔法の訓練をして下さい。時間が来たら終わりにして結構です』と伝え、一度その場を離れた。
彼が向かったのは、いつもの庭園だ。
今日は天気が良いから、きっとそこに居るだろう。
「ああ、やっぱり此処に居ましたか。シュティ」
息を切らしながら庭園にやって来たルカは、手入れされた短い草むらの上で気持ち良さそうに寝そべっている真っ白な犬を見つけた。
自分と同じ様にヴィクトリアと契約を交わしている、聖獣シュティフェルだ。
『……なんだ、ヴィクトリアではないのか』
名を呼ばれ、顔を上げたシュティは、ルカを見てがっかりしたような顔をした。尻尾が揺れることなく、だらりと下がっている。
しかし、そんなシュティの言動は無視し、「急いで来て下さい」と告げた。
『何だ何だ?一体どうした?』
「ヴィクトリアが何者かに攫われました。恐らく、貴方の力が必要となる」
ルカの言葉を聞いたシュティは、だらけきっていた犬の姿から一変し、一瞬だけ白い煙に包まれた後、凛々しく背の高い美丈夫へとその身を変えた。
「我の力が必要だということは、魔物じゃなくて“悪魔”でも現れたってこと?」
「まだ、確証はありません。ですが……」
「どちらにせよ、我が感知出来ない相手なわけだし、ヴィクトリアが心配だ。早く案内して」
「勿論です」
「……そういえば、あの従魔二人は?」
「あの二人なら問題ありません」
シュティが気にした従魔二人とは、勿論フィルとナハトの事だ。
まだ二人にヴィクトリアの事は話していないが、ルカは気にしていなかった。何故なら、あの二人ならば既にヴィクトリアの危機を察知しているだろうと思ったからだ。
フィルやナハトは見た目に反して、まだまだ若く未熟だ。けれど、ヴィクトリアと従属契約しているあの二人には、ヴィクトリアとの間に、自分達には無い確かな絆がある。
(……少しでも追いつけたら良いのですが)
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(彼女は何も否定しない。私の人間的な部分も、魔物である部分も。私の存在を“否定”しない。それどころか……)
彼女――――ヴィクトリアは受け入れてくれる。
こんな中途半端な自分を。
そして、フィルやナハトへのものとは違っても、私とも確かな繋がりを持ち、私にも温かな気持ちを向けてくれるから。
「急ぎましょう、シュティ」
彼女の為なら、私は…………
* * *
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