悪役令嬢は王太子の溺愛に気付いていない

はる乃

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本編

動き出すディアナ

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ゴロゴロゴロ。

「はぁ。やっぱり最推し最高……♡この小説の王子様、リーンハルト殿下とは少し違うけど、この仲間との掛け合いとか、ちょっぴり打たれ弱いところが似てるんだよね」

アーベルトルト公爵邸、自室にて。
私は天蓋付きのベッドの上で寝転がりながら、最近買ったばかりの恋愛小説を読み終え、その小説をぎゅっと抱き締めていた。

3次元のリーンハルト殿下は苦手だけど、2次元のリーンハルト殿下はやっぱり大好き。
だから、似たような王子様が出ている恋愛小説を見つけると、ついつい買っちゃうんだよね。

ベッドで読み終えた小説のページをパラパラとめくった後、私は小説をサイドテーブルへ置いて、バフッと枕に顔を突っ伏した。

「……多分、3次元でも……リーンハルト殿下は、やっぱりリーンハルト殿下なんだよね。きっと……」

誠実で、優しくて。
繊細というか、少しヘタレな部分が可愛くて。愛する人を溺愛してくれる。

「だけど……」

今の彼には、生身の身体がある。
それはつまり、彼もこの世界では“普通の男の人”だという事だ。

3次元の男の人は怖い。
平気で浮気もするし、殴ってくるし、お金だって取られちゃうし。

「でも、殿下が本当に私の最推しのリーンハルト殿下なら、絶対にそんな事…………」

駄目だ。
いくら考えても、答えなんて出ない。分からない。
もう3次元の男の人は懲りごりなのよ。だから、ずっとずっと向き合って来なかった。ずっとずっと逃げ続けてきた。

それなのに、殿下がもしかしたら、今もヒロインと仲睦まじく愛を育んでいるかもしれない。
そう思うと、胸の内がザワザワと不快に騒いだ。

「……今更だよ」

私には、リーンハルト殿下に何か言う資格なんて無い。
だから、全部蓋をする。
だって、怖くて向き合えないのに。今更、どうする事も出来ないじゃない。

そうして私は、ハッと気付いた。

「……そうだ。ゲームのシナリオだと、そろそろあの事件が起きる筈……」

リーンハルト殿下の母親は王妃様ではなく、側室なのだ。そして第二王子であるハーロルト殿下は王妃様の子。
そう。本人達の気持ちを無視した、よくある王位継承のドロドロな派閥争いだ。

王妃様はリーンハルト殿下もハーロルト殿下も可愛がっているし、能力的にも優秀だった為に、リーンハルト殿下が王位を継ぐ王太子の座についたのだけど、一部の貴族は王妃様の子であるハーロルト殿下を次の王へと推していて。
各派閥の過激派な人達が、殿下達に暗殺者を送り込んでくるんだよね。

何度も暗殺されかけて、時には脅迫されて、リーンハルト殿下は次第に追い詰められていく。

『王太子の座を返上しろ。母親を殺したお前に王位を継ぐ資格はない。』

くっそ。
酷い脅迫文だ。
産後の肥立ちが悪く、側室だったリーンハルト殿下のお母様は既に亡くなってしまっている。それを脅迫文に使うなんて反則もいいところだ。
リーンハルト殿下のお母様は、リーンハルト殿下を愛していたから産んだのよ。
お母様が亡くなったのだって、リーンハルト殿下のせいなわけないじゃない。腹立つ!

あんなの、リーンハルト殿下には見せたくない。


「…………あの脅迫文、誰が送ったんだっけ」

3次元の男の人は苦手だ。
だけど、私の最推しであるゲームのリーンハルト殿下はその脅迫文に傷付いていた。

「この世界の3次元なリーンハルト殿下も、傷付くかもしれない……」

私はゆっくりとベッドから起き上がり、薄手のショールを羽織って自室を出た。薄暗い廊下を進み、目指すは図書室。

「貴族名鑑で名前を確認しなくちゃ」

私は無意識に、進む歩を速めた。


* * *
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