悪役令嬢は王太子の溺愛に気付いていない

はる乃

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本編

守りたい者

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あの後、リーンハルト殿下は私が持っている封筒について、何も聞いてこなかった。気にしてはいたようだけど、私の必死な様子に、忘れたフリをしてくれたみたい。

(ご安心下さい、リーンハルト殿下!犯人の顔はバッチリはっきり覚えていますからね!もう二度と脅迫状が届かないように、私が成敗してみせます!!)

こうして意気込んだ私は、翌日、学院に着いて早々に、犯人を裏庭へと呼び出す果たし状を送ったのだが――――


私はうっかり忘れていた。
本当に私はどうしてしまったのだろうか?
私は自分がアーベルトルト公爵家の娘なのだから、公爵家の権力を見せつけてやれば簡単よ!!なんて思って、うっかり忘れてしまっていた。

自分が超がつくほどの男嫌いだったという現実を――――!

どうする?
どうする?
もう呼び出しの果たし状は犯人の机に忍ばせてきてしまったのに。
……すっぽかしちゃう?
いや、でも、そんな事をしたら、犯人に怖じ気付いたと思われて余計に舐められてしまうかもしれないわ。

脅迫状を増やされたら困るし。
怖いけれど、ここはやっぱり私が―――

「ディアナ」

私が教室にある自分の席でそう考え込んでいると、昨日至近距離で何度も聞いてしまった声が私の名を呼んだ。

私はビクリと肩を震わせてから、恐る恐る声のした方へ振り向く。
するとそこには、前世の最推しにして3次元の男であるリーンハルト殿下の姿があった。

「リーンハルト殿下……」


……………………
…………

時はほんの少し遡り、ディアナの元へ訪れる少し前。


(……昨日は本当に幸せだった)

僕は未だかつて感じたことのない幸せを噛み締めていた。

(いや、ずっと資材室に閉じ込められていたディアナの事を思えば、幸せだった等と不謹慎だとは思うが……)

あんなに近くでディアナと話をして、彼女に触れた、なんて初めてではないだろうか?

婚約者を伴う夜会等でも、エスコートする為に腕と手は触れ合っているが、あんな風に抱き締めたりする事は無かった。

(……柔らかかったし、良い匂いがした。それに、あんな風に顔を真っ赤にするなんて……)


可愛すぎるディアナを思い出して、悶絶しそうになる自身を叱咤しながら、僕は馬車へと乗り込んで学院へと向かった。

馬車の中で色々と思考を巡らせる中、ディアナが持っていた茶色い封筒。あれが何なのか気になった。
昨日はディアナの態度を見て忘れたフリをしてしまったが、怪しい人物を目撃したのは事実だし、その怪しい人物は王太子である僕の呼び掛けを無視して走り去るという不敬罪に処されても可笑しくない愚行まで犯している。

ディアナは誰が資材室に鍵をかけたのかは分からないと言っていたが、その割りに、帰りがけに怪しい人物の事を訊いたら、鍵をかけた人とは違う人ですと言い切っていた。

それらを踏まえて推察するに、ディアナは鍵をかけた者を知っていると見ていいだろう。
何故、自分を閉じ込めた者を庇うんだ……?

(まさか、弱味でも握られているのか?僕の可愛いディアナを脅すなんて万死に値する所業だ)

鍵をかけた人物の特定はそう難しくない。……状況から考えれば、ディアナを閉じ込めた人物と、あの時の怪しい人物は同一人物だと思ったが……

ディアナを閉じ込めた理由はなんだ?
アーベントルト公爵への警告か?
ディアナが大事ならば、僕との婚約を辞退しろ、という事か。
それとも、ディアナに不埒な行為をする為に…………?

僕は拳をぐっと握り締めた。
考えるだけで吐き気がする。
僕のディアナに手を出そうだなんて、そんな奴は八つ裂きにしてやる。

「……ディアナは嫌がるかもしれないが、極力傍に居るようにして、僕がディアナを守らないと」

男性全般が苦手らしいディアナ。
無理に改善してもらおうとは思わないが、せめて婚約者である僕には慣れて欲しいと思う。
婚約者になってから何年も経っているのに、僕はディアナが男が苦手だと知らなかった。
もっと歩み寄らなければ。

「僕達に必要なのは、お互いを知る時間だ」

まぁ、僕は前からディアナとの仲を深めたくてデートに誘ったり色々と行動はしていたけどね。
毎回居留守や仮病を使われて、全て撃沈してきたけど………………
本当に悉く………………

あれ?
大丈夫だよね?
ディアナは男性全般が苦手であって、僕個人が死ぬほど嫌い、とかじゃないよね?

大丈夫だよね?
僕、大丈夫だよな?

「殿下、学院に到着致しました」
「……………」
「殿下?」
「……………………………………分かった」

とりあえず、休み時間になったらディアナに会いに行こう。

僕はどうしようもない程の不安に襲われつつ、馬車を降りて学院へ向かったのだった。


* * *
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