【R18】乙女ゲームの主人公に転生してしまったけど、空気になれるように全力を注ごうと思います!!

はる乃

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本編

動き出した悪役令嬢*マクシミリアンside*

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昼休憩後から、俺はずっと反省していた。またしても可愛すぎるアリスの唇を貪り過ぎてしまったからだ。
アリスと一緒に居ると、つくづく自分は堪え性の無い男だなと自覚させられる。

アリスと出会う前は、自分は割りと色恋事には淡白な方だと思っていたのに。とんだ思い違いだった。
騎士としてこれでは流石に情けない。もっと鍛練を積んで精神を鍛えなければ。


「今日の鍛練はいつもより厳しくしよう」


そんな事ばかり考えていたら、いつの間にか放課後になっていた。教室に残っている生徒もほとんどいない。俺も早く寮に戻って、着替えてから訓練場へ行こうと、鞄を持って教室を出た。

すると……
前から一人の令嬢がやって来た。
見覚えのあるプラチナブロンドの長い髪に、整った顔立ちのその令嬢は、俺を見てにこりと微笑んでから、その歩みを止めた。

俺は訝しんだ顔で、その令嬢の名を口にする。


「……マリアーノ嬢」

「ご機嫌よう」


彼女はパルティンヌ公爵家のマリアーノ嬢だ。俺は以前、マリアーノ嬢がアリスに手を上げようとしていた所に居合わせた事がある。あの時は見なかった事にすると言って場を収めたが、今ならば絶対にそんな事は出来ないだろう。
自然と鋭くなってしまう瞳を隠そうともせず、俺はマリアーノ嬢へ視線を向けた。


「俺に何かご用ですか?」

「つれないのね。もっと素直に嬉しそうな顔をして下さいな」

「これが今の俺の素直な顔ですが」

「なら、照れているのね。可愛いマックス」


また勝手に愛称で……
この人には理解力というものが無いのか?

あまりにも不愉快で、思わず眉間にシワが寄ってしまう。


「前にも言いましたが、勝手に愛称で呼ぶのはお控えいただきたい。……というか、止めてくれ。迷惑だ」

「あら酷い。私達、婚約致しましたのに」


…………婚約??


「……なんだと?」

「貴方のお父様に確認するといいですわ。私達は正式に婚約したのです。婚約者なのだから、愛称で呼んでもいいですわよね?」


俺の視界が一瞬だけグラリと揺れた。
マリアーノ嬢が何を言っているのか、まるで理解できない。

俺が困惑している内に、何故かマリアーノ嬢が俺に撓垂れ掛かってきた。ほんの少し顔を赤らめて、胸に頬擦りをされて、背筋にぞわぞわと悪寒が走った。


「……私はもう少し細い方が好みだけど、鍛えられた逞しい胸も良いですわね。ドキドキしちゃう。私と婚約したのだから、もうあの女……アリス様と会っては駄目よ?」

「……っ!止めろ!!」


―――気持ち悪いっ。

俺はマリアーノ嬢の肩を掴んで、撓垂れ掛かっていた身体を引き剥がした。ドクドクと嫌な音が、身体中に響き渡っている。


「本当に照れ屋さんなのね。……それとも、あの女の魔法のせいかしら?待っていてね、マックス。あの女はもうすぐ退場する事になる。魔法も直に解けるから」

「……アリスをあの女呼ばわりするのは止めてくれ!それに、魔法魔法って何の事だ?いい加減にしろ!!」


マリアーノ嬢は一体何の話をしているんだ?
……苛々する。こんなに腹正しく思うのは久しぶりだ。

俺はマリアーノ嬢を睨み付け、その横をすり抜けるように、足早に前へと進んだ。これ以上、話をするだけ無駄だと思ったからだ。

しかしマリアーノ嬢は、何故だかまたニッコリと笑って瞳を細めた。


「学園祭の夜会では、ちゃんと私をエスコートして下さいね!」

「……っ!」


エミリーナ魔法学園では、夏期休暇前に学園祭が行われる。そしてその学園祭は来月だ。

俺がマリアーノ嬢をエスコートなんて、する筈がない。
俺が夜会でエスコートするのは、アリスだけだ!!

俺は内心でマリアーノ嬢に散々毒突きながら、その場を後にした。男子寮の自室へ戻り、急ぎ水鏡通信で父上と連絡を取る為に。

全てマリアーノ嬢の妄言である事を願いつつ、消えない胸騒ぎに不安が募る。


「……アリス……っ」


昼休憩の時は、やり過ぎたと反省したけれど、あんなに幸せな気持ちだったのに―――

今はマリアーノ嬢の言葉ばかりが耳に残る。女を殴りたいと心底思ったのは、生まれて初めてだっ!!


俺は拳を強く強く握り締め、血が出ているのも構わずに、ただただひたすら―――前だけを向いていた。



* * *

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