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本編
ニセモノの娘*ルハルトside*
しおりを挟む私の名はルハルト。
現パルティンヌ公爵家の当主だ。
娘が突然、婚約したい男がいると言ってきた。相手はラジアーネ伯爵家の次男だという。
伯爵家?しかも次男??
我がパルティンヌ家は代々王家に仕えてきた歴史ある公爵家だ。
婚約するにしても、それ相応の身分の者と。それこそ次期国王となる可能性の高い、第一王子フィリップ殿下が相手としては一番望ましい。
それなのに、伯爵家?
我が娘は一体何を言っているのか。仮に王子との婚約が無理であっても、我が公爵家の娘はマリアーノただ一人。公爵家の令嬢として生まれたならば、政略結婚をするのが当たり前だ。そんな事、昔のあの子はちゃんと理解していた筈だ。
何故だ?
賢かったあの子は変わってしまった。
政略結婚であったとしても、あの子はフィリップ殿下を好いていた。だからこそ、礼儀作法も勉学もピアノも王妃教育も、あの子は人一倍頑張っていた。その政略結婚を実現させる為、殿下の婚約者となれるように。
しかし、ある時からおかしくなった。……マリアーノが階段から落ちてからだ。あの子は変わってしまった。礼儀作法や王妃教育は頑張っていたが、勉学には励まなくなった。好きだった筈のピアノにも、手をつけなくなった。
殿下に対しても、前はもっと立場を弁えていた筈なのに、今では勝手に愛称で呼んで度々注意されるようになった。それでも、やはりフィリップ殿下を慕っているのだと思って私も手を貸してきたが…………
伯爵家の次男と婚約だと?
馬鹿な。あの子はいよいよ馬鹿になってしまった。学園での成績も芳しくない。このままでは我が家の恥になってしまう。
……それならば、ある意味でこれは良い機会かもしれぬ。
急に婚約したいなどと言ってきたのは、その伯爵家の次男とやらと恋愛でもしているからだろう。
ならば、これ以上恥を曝す前に、その伯爵家に押し付けてしまえばいい。
公爵家の令嬢との婚約など、向こうからしてみれば願ってもない事だろう。急ぎ城へ出向いて、伯爵家と王家に話をつけなくては。
娘達の恋を成就させたいと言えば、誰も反対などするまい。王家との繋りならば、ディルクが子を成した時にすれば良い。
……私の可愛いマリアーノは、もういないのだ。アレはもう、マリアーノではない。
「早々に切り捨ててしまおう」
嗚呼。ニセモノだと思えば、驚く程に何かが冷めていくのが分かる。
逆に憎しみすら湧いてきそうだ。
私の可愛かったマリアーノを、何か別の得たいの知れないモノが支配しているなど。
「アレはもう、私の娘ではない」
その日の内に、私は城へ出向いて婚約の話を進めた。
突然の事でラジアーネ伯は驚いたようだったが、息子が好いている相手ならばと喜んでサインした。
どうやら、相手が誰とは知らなかったが、息子がどこかの令嬢と付き合っているという事は聞いていたらしい。
これならば、すぐに婚約の手続きも済ませられる。陛下は近衛騎士の副団長であるラジアーネ伯を気に入っているから、これで私への好感も上がるだろう。
ニセモノだが、ほんの少しは私の役に立ったようだ。
婚約さえ決まってしまえば、余程の事でもない限り破棄は出来ない。
ニセモノの娘よ。
お前の望む結果が得られたのだ。
……これで満足だろう?
* * *
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