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本編
アリス始動・マックス救出作戦①
しおりを挟む「マックスから返事が来ない……」
マリアーノ様?と話した日から二日経っても、マックスから返事が来ない。私は水鏡の前でがっくりと膝をついて項垂れた。当然ぐっすり眠れる訳もなく、目の下にはくっきりと隈が出来ている。
カーテンの隙間から差し込む朝陽が痛いくらいに目に染みるわ。
これは正しく由々しき事態である。
まさか本当に監禁なんてしてないでしょうね?
もう流石に怒るよ、私は。
焦りを通り越して、少し冷静になってきました。まずは情報収集といきましょう。
マックス大好き友達のレジーと、権力者に強そうなニールたんに訊いてみようか。闇の最上位精霊であるクロにも、今回は協力してもらっちゃいます。
私の目の下にある隈のせいでアルにもめちゃくちゃ心配かけちゃってるし、レジーやニールたんに話したら、後でアルにも事情を説明しよう。
さて、レジーは多分まだ領地に居ると思うけど、学園に戻ってきてる可能性もあるよね……?
ニールたんにしても、学園と王城、どちらに居るかわからないし。
「クロ。お願いしてもいいかな?」
私がそう言うと、闇の精霊らしく、私の影の中で眠っていたクロがすぅっと出てきた。相変わらず可愛いわんこ姿だけど、今は子犬ではなく成犬の姿……要するに立派な狼っぽくなっていて、結構格好いい。まぁ頼めばいつでも子犬になってくれるけどね。
「わふっ!」
「……ごめん。多分いいよって言ってくれてるんだと思うけど、人間の言葉で喋って下さい」
私のお願いを聞いて、クロが超絶美形の青年へと姿を変えた。
やっぱり精霊の方が攻略対象より格好良いと思う。私はマックスに夢中だけど、ちょっとドキドキする。
ごめんね、マックス。
「……もっと僕を好きになればいいのに。マクシミリアンばっかりズルい。僕なんて転生する前からずっとずっとアリスが好きなんだよ?」
?!
相変わらず最上位精霊様は無断で心の中読みすぎでしょ!!
プライバシープライバシー!!
「ごめんね。……でも、アリスが幸せなら僕も嬉しいからいいかな。どうせこの世界で死んだ後も、またついていくつもりだし」
ちょっとちょっと。
今から死んだ後の話なんて止めて下さいよ。まだピチピチの10代なのに、フラグが立ったらどうしてくれるの??
「ふふ。僕のアリスを殺す奴が居たら、すぐに返り討ちにして、死ぬより辛い目に合わせてあげるよ」
恐いから。
何が恐いって、クロが恐いから。
「でも安心して、アリス。僕が傍に居る限り、絶対誰にも殺させない。必ず護ってあげるからね」
はぁ……
ありがとうございます。
それはそうと……
「じゃあ本題に入ろうか」
「宜しくお願いします」
クロがそっと目を伏せて集中している。何をしているかと言うと、特定人物の魔力探知だ。これでレジーとニールたんの居場所が分かる筈。
ハッ!待って。
「マックスの居る所は探知出来る?」
「勿論出来るよ。だけど、大まかにしか分からないな。……どうやら王城に居るみたい」
「王城に?」
「うん。……今王城にはマクシミリアンの他に、第一王子と第二王子、レジナルドが居るね。ニールは学園の研究室に居る」
「え?休日でもないのに、どうして皆王城に居るんだろう……?」
「さぁ?ただ、第二王子の魔力が弱々しい。何かあったのかもしれないね」
「エルオット殿下が?……とりあえず、王城に居るならレジーとは連絡取れないよね。一応ニールたんには予定通り訊いてみるとして……」
「第一王子は?」
「へ?」
「だから、第一王子。彼なら全部事情を知ってるんじゃない?」
いや、確かにエルオット殿下の事は知ってるだろうけど……
エルオット殿下には悪いけど、私が今一番知りたいのはマックスの居場所と身の安全でして………………
すまん、エルオット殿下。
「いや、第一王子にはファイスがついている。第一王子に直接話が入っていなくても、ファイスなら知っている可能性が高い。彼は第一王子に呼び出されない限り、ずっと王城に居るからね」
「クロみたいに、影とか別の空間に居たりしないの?」
「別の空間に居る時もあるだろうけど、ファイスはもうずっとこの国に居るからね。王城は自分の家くらいに思ってるんじゃないかな」
どんだけ長く居んのよ……
でもファイス大好きだから深く考えるのは止そう。マックスが居なかったら、私は絶対ファイスかクロに恋してたわ。
「今からでも遅くないけど。というか、体格はファイスの方が好きなんでしょう?……僕も鍛えようかな」
「いやいや、確かにファイスの体格はめちゃくちゃ好みだけども!大事なのは中身だよ、クロ。そして私の心の声を読まないように努力してもらえませんか」
これでは恥ずかしくて何も考える事が出来ん。文句も言えないし。
「……聞こえないようにする事は一応出来るけどね。さて、早く第一王子とニールに手紙を書きなよ。それとも音声通信にする?」
今出来るって言わなかった?
ねぇ、クロさん。出来るって言ったよね??
「アリス、どうかした?」
「……いえ、なんでもないです。うーん。急に音声通信をかけても水鏡の近くに居ないと出れないから……」
そうクロと話していた時、コンコンと扉を叩くノックの音が響いた。
恐らくライラが起こしに来てくれたのだろう。
しかし、私は今とても忙しい……
でも事情を全て話して巻き込むのは違う気がする。ライラは乙女ゲームとは無関係だと思うし。
「おはようございます、アリスお嬢様。ライラでございます。入っても宜しいでしょうか」
「おはよう、ライラ。入ってどうぞ」
「失礼致します」
―――ごめん、ライラ!!
「?!……ふぁ……zzz」
倒れ込むライラを寸でのところで受け止めて、クロに手伝ってもらい、近くのソファーに寝かせる。
「魔法使うの、本当に上手になったよね。アリス」
「……これも全部、ニールたんとクロのお陰だよ」
ライラを眠らせたのは闇の魔法だ。
貴族学校へ通う前は家庭教師をしてくれていたニールたんが、とても分かりやすく魔法を教えてくれた。そして貴族学校へ通っている間は、クロと放課後に沢山練習した。
二人の優秀な先生のお陰で、私は光魔法と闇魔法は高位魔法まで全て使えるようになった。……今回は出し惜しみしない。だってマックスの身の安全が掛かっているのだから。
「……クロ。ファイスと連絡取れる?」
「勿論」
「なら、ファイスに伝言をお願い。第一王子に音声通信するって」
「いいよ。音声通信するなら、傍受されないように遮音魔法も使わないと駄目だよ?」
「了解!」
―――待っててね、マックス。
絶対に助けるから。マリアーノ様の思惑通りにはしないから!
だからどうか、無事で居て!!
* * *
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