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本編
断罪の始まり①
しおりを挟むエミリーナ魔法学園、夏期休暇前の学園祭。
この日は、貴族平民関係無く、盛装で祭りを楽しむのが学園での決まりである。
衣装に関しては無償での貸し出しもあり、ドレスを買えない平民への配慮もされている。
アリスは落ち着いた色合いの深いワインレッドのドレスを着ていた。マクシミリアンからの贈り物である。
本当はマクシミリアンの瞳の色に合わせたかったが、ボルドーだと落ち着きすぎてしまう為に、ワインレッドにしたようだ。アクセサリーは白く輝くダイヤモンドで統一してある。桜色の髪とアメジストのような瞳のアリスに、とてもよく似合っていた。その隣に騎士の盛装をしたマクシミリアン。色は黒だが、袖口や首元の刺繍は金色と臙脂色で、胸元にアリスの瞳の色に合わせたネックレスをつけている。
マクシミリアンのエスコートで、アリスが会場入りした。中には沢山の生徒と父兄達。
そしてその中央には、殿下達と悪役令嬢であるパルティンヌ公爵家のマリアーノが勝ち誇ったような顔で立っていた。
* * *
「紳士淑女の皆々様!!私はパルティンヌ公爵家の娘、マリアーノですわ!!学園祭を始める前に、皆様にお伝えしなければならない事があります!!こちらにご注目を!!!」
マリアーノ様(仮)の…………
面倒だからマリアーノ様でいいか。マリアーノ様の呼び掛けで、学園祭の会場に集まっている人々が一斉に会場中央へ注目した。
マリアーノ様の視線は、今会場入りした私とマックスに真っ直ぐ向けられている。
……こんなに大勢の注目を集めて自ら浴びるとか、マリアーノ様恥ずかしくないのかな?転生前はアイドルでもしていたのだろうか。
私がマリアーノ様の出方を窺っていると、マックスが私の腰を優しく引き寄せてくれた。耳元に口を近付けて、「大丈夫」と囁いてくれる。
ちょ!!
足に力入んなくなっちゃうから!!
めちゃくちゃキュンときたから!!
ひゃ~~~密着し過ぎ!!そしてマックス格好良すぎっ!!
ときめき過ぎて涙目になっていたら、何をどう勘違いしたのかマリアーノ様が更に自信満々な笑みで、私の名を呼んだ。
「そちらにいらっしゃる、リトフォード侯爵家のアリス様!!前に出てきて下さる?」
人を指で差すなっ!!
前世でも人の事を指で差すなと一度くらいは言われた事あるでしょ?!
私はありますよ!!
まさか無いのが普通……?
そんな事を考えつつ、私は前へ出た。マックスも一緒で、ずっと私に寄り添ってくれている。
マリアーノ様の近くには殿下達が居るから、まるで私が断罪されるみたいに見えるけど、マックスが居てくれるから全然恐くない。
「アリス様、貴女は禁じられている魅了の魔法を使っていらっしゃいますね?」
マリアーノ様の質問に、会場中がざわめいた。「まさか」とか「本当に?」なんて言葉が聞こえてくるが、私は動じない。マリアーノ様から視線を逸らさずに、ハッキリと否定した。
「いいえ。魅了の魔法なんて使っておりません」
「ハッ!そんな見え透いた嘘、誰が信じると思いますの?」
「マリアーノ様は、何故私が魅了の魔法を使用していると思われたのですか?」
「何故って、そんな事も分からないの?魅了の魔法でも使わなきゃ、貴女程度の女に、殿下達が惑わされる訳ないじゃない!本当に頭の中がお花畑なのね」
マリアーノ様、ちょっと口悪すぎでしょ。父兄の皆様はマリアーノ様の言い分に驚いてるよ。気付いてないの?
まぁ無理もないか。意外に女生徒達の何人かはマリアーノ様の言葉を真に受けてるっぽいし。
「私もそう思いますわ!リトフォード侯爵令嬢は、殿下達だけでなく、義理の弟であるアルフォンス様にも魅了の魔法をかけているに違いありません!」
「コドウェル先生にも贔屓されていらっしゃるわ!!あれも魅了の魔法のせいだったのですね!!」
「 元平民のくせに、なんて身の程知らずなの?!」
アルやニールたん、マックスのファンがマリアーノ様の話に乗ってきた。君達、言いたい事は分かるよ。ニールたんなんて、常に「アリスお嬢様」呼びだったし、贔屓と言われても、ある意味仕方ないと言うか……
「私がアリスお嬢様を贔屓していると?おかしな事を仰いますね。贔屓して当然の方を贔屓して何が悪いのですか?」
オイイイイイイイイイッッ?!!
ちょ、ニールたんは黙っててくれる?!
怒るとこおかしいから!!どっちかって言うと、この場合悪いのはニールたんだからね?!!
贔屓して何が悪いんだって、言ってる事おかしいから!!!
「ほ、ほら!やややっぱり魅了の魔法ですわ!」
ニールたんの言葉に、さっきの女生徒がビクッと肩を揺らし、青褪めながら「やっぱり」と口にする。
そりゃ瞳孔開いた目で見られたらビビるって。
「コドウェル先生。申し訳ありませんが、少し黙っていて下さい」
「アリスお嬢様がそう仰るなら」
忠犬か。
魅了の魔法だって思われても仕方ないような振る舞いは控えてくれませんか。
「ほーら。皆様、これで分かったでしょう?アリス様は魅了の魔法を使用し、気に入った殿方を惑わせるアバズレ女なのです!!よって、今ここで断罪しなければなりませんわ!!王国の反逆者を捕らえなさい!!」
マリアーノ様の命令で、恐らくパルティンヌ公爵家の私兵と思われる者達が、私とマックスを取り囲んだ。
「アリス様の隣にいらっしゃる、ラジアーネ伯爵家のマックスは丁重に扱って頂戴ね。彼も魅了の魔法の被害者なのだから」
「はっ!承知いたしました!」
「ふふ。さあ、アリス様。少し早いけれど、貴女には退場していただきますわね。どうぞご機嫌よう♪」
マリアーノ様が嬉しそうに、にっこりと笑いながらそう言った。
けれど、私は今日の企みを事前に知っていた。マリアーノ様の傍に居たフィーとレジーが、私に視線を合わせて頷く。
反撃開始だ!!
* * *
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