95 / 121
本編
マックスとのデート③
しおりを挟む『探し物は何ですか?』
私が訊いてみても、ニールたんは探し物が『何』なのか教えてくれなかった。ただ優しく瞳を細めて、口元に人差し指を立ててから『面白いものですよ』と言った。
去り際、ニールたんはそっと私の額に指で触れた。
『しばらくはこれで大丈夫でしょう。残りの夏期休暇、どうか健やかにお過ごし下さい』
円を描くように指が動いていた。
ニールたんは私に何をしたのだろう?相変わらず謎な人だけど、悪い人ではないし、健康で過ごせるようなおまじないの一種だろうか?
ニールたんが居なくなってから、マックスの方へ視線を向けると、マックスは何だか少しぼんやりしていた。
「マックス?……どうかしましたか?」
「…………」
「マックス?」
珍しい。
こんなにぼんやりしているマックスは初めて見たかもしれない。
何か少し、いつもと違う気がする。
一体どうしたんだろう?
「あっ……すみません、ぼんやりしてしまって。せっかくアリスと一緒に居るのに。カフェに入りましょうか」
「……はい。入りましょう」
少し気になったけれど、マックスの笑った顔を見て、私も微笑んだ。
今日はせっかくのデートだもの。楽しまなきゃね!
* * *
カフェで軽い昼食を取った後、街でお店を見て回り、一緒に夕食を食べてから馬車に乗って帰路に着く。
帰りの馬車でも少しイチャイチャしてしまった。けど、何だか少し違う。この間のお仕置きの時のようになりかけたのだが―――
「マックス……だ、だめ……これ、以上は……」
「は……アリスっ……」
「ひ、あ!……ま、マックス!!」
「―――っ?!」
マックスが勢いよく私から離れた。目を見開いていて、マックスの動揺が伝わってくる。
本当に、今我に返ったという表情のマックスを見て、私は違和感を感じた。
「……すみません。昼間、自重すると言ったばかり、なのに……」
「マックス?」
マックスの顔が、何故だか少し青褪めて見えた。
「マックス、私なら大丈夫ですから」
私がマックスを抱き締めると、マックスは少しだけ肩を揺らしてから、優しく私を抱き締め返した。
「大事にしたいのに。……前々から自分に堪え性が無いとは思っていましたが、これでは堪え性以前に、ただの獣ですね」
自嘲気味に、そう口にするマックスが痛々しく見えて、私の感じていた違和感が更に確信を帯びて増していくのが分かった。
今、マックスが我に返る瞬間、私の額が少し熱かった。
『…………健やかにお過ごし下さい』
ニールたんは何か知っているの?
夏期休暇明けにマックスを借りたいって言ったのも、何か関係があるの?
私は邸に帰り着くまでの間、マックスをぎゅっと抱き締めながら、胸の内の不安がこれ以上拡がらないようにと願った。
……水鏡通信で、ニールたんに連絡してみよう。
* * *
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,874
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる