【R18】乙女ゲームの主人公に転生してしまったけど、空気になれるように全力を注ごうと思います!!

はる乃

文字の大きさ
108 / 121
本編

人ではないもの 終

しおりを挟む


「幸せになってもらうのが目的なら、放っておけばいいでしょう?何故アリスお嬢様に危害を加えようとするのですか?」


ニールの質問に、デラクール伯爵令嬢はほんの少し慌てて見せた。今日のギルバートの愚行は、自分のせいではなかったのだと。ニールに嫌われたくないと、まるで言い訳をするように。


「ニール先生!!私は危害を加える気はないんです!お兄様の事はちょっと想定外で、私は悪くないって言うか…………あれ?そういえば、ニール先生はどうしてここに来られたんですか?」

「……アリスお嬢様が学園内で防御系魔法を使用なさいましたから」

「ああ、成程!あー、確かにそーゆう設定あったかも…………」


中身がみーこであり、時の精霊の眷属であるデラクール伯爵令嬢は、ニールの答えを聞いて、暫し自分の世界に入り込む。

その隙に、アリスの契約精霊である闇の最上位精霊クロは、少し苦しげな表情でニールに小さく話し掛けた。

「ニール、君はみーこの意識を奪う事が出来る?」

「さぁ?どうでしょうね。仮に意識を奪う事が出来たとして、貴方はあの化け物をどうにか出来るのですか?」

「夢の中に引き摺り込めれば何とか出来る。時の精霊の力は厄介だけど、その分奴等は多くの制約に縛られているからね」

「成程。では、やってみましょう」


その言葉を合図に、ニールとクロは行動に移った。まずは敵であるデラクール伯爵令嬢の動きを封じる為に、互いに魔法を繰り出していく。
ニールは以前騎士団長にも使用した、相手を生きたまま氷漬けにする高位魔法、【停滞する氷アイスフリージングスタグネイション】を唱え、クロは視覚を奪う【暗闇ダーク】と聴覚を奪う【静寂サイレント】、拘束する【影の鎖シャドウバインド】を展開するが、それに気付いたデラクール伯爵令嬢も【時間逆行ブレイク】で応戦していく。

時間逆行ブレイク】は繰り出す魔法を発動前の状態に戻してしまう魔法のようで、ニールとクロの魔法は瞬時に消えていってしまう。ニールは消された魔法を見て眉間にシワを寄せるが、化け物染みた魔力量を保持している為、構わず魔法を発動させていく。クロは力が弱まっているせいか、途中から魔法をあまり使わずに物理攻撃にチェンジしたようだ。人間の姿から狼の姿へと変身して、直接デラクール伯爵令嬢に襲い掛かる。身体は少し小さくなってはいるが、牙と爪を遮る為に、デラクール伯爵令嬢は防御魔法を展開した。魔法に対して【時間逆行ブレイク】が使えるのに、クロ自身にはそれを使ってこない。ここにも何か制約があるのだろう。

そして、ニールは魔法攻撃を続けながら、ある事に気付いた。その事にデラクール伯爵令嬢も気付いたのだろう。それまで涼しい顔をしていたのに、口元を醜く歪めて舌打ちをした。


「流石は私の最推しであるニール先生。もう気付かれたのですね」

「……貴女は馬鹿なんですか?そんな事を口にしたら……」

「別に構いません。だって、これも全てゲームですから」


そう言って、デラクール伯爵令嬢は自分の周りに丸いバリアを張った。


「【空間断絶シャットアウト】」

「「?!」」


ニールの魔法もクロの爪や牙も、そのバリアには全く通らない。二人は一旦攻撃を止めて、ニールが防護障壁を展開し、クロもその障壁の中へと身を潜めた。今度はデラクール伯爵令嬢が攻撃してくると思ったからだ。しかし―――


「私はここで退散させてもらいます。【空間断絶シャットアウト】はあまり長く持たないし、やっぱりニール先生相手じゃ分が悪いので」

「何……?」

『待て!僕にかけている呪いを解け!!』

クロが狼の姿故に念話を飛ばしたが、デラクール伯爵令嬢は【空間転移ゲート】を展開し、にこりと笑みを浮かべながら手を振って消えていった。

壊れかけの闇の結界の中で、ニールがクロにヒールを唱える。


『……この光の魔力はアリスの?』

「ええ。やはり光属性の魔法は、光属性を所持している方の魔力の方が効きますからね」

『人間のくせに、とことん君は規格外の存在だね』

「闇の精霊。デラクール伯爵令嬢は、アリスお嬢様と…………いや、聞いた所で何も変わりませんね」

『ああ。みーこは、あいつはもう、アリスの敵だ』

「彼女の目的は何なのですか?」

『恐らくアリスの婚約を破棄させるのが目的だと思う。序盤で相手を決めた事に腹を立てていたようだから』

「“序盤“ですか。彼女が言っていた、よく分からないシナリオの話ですね」

『そうだ。……ニール。今日の事、アリスには……』


クロがそう言いかけると、ニールは冷ややかな瞳で、口だけが弧を描いた。それは正しく嘲笑と言えるだろう。最上位精霊に対し、契約者でもないのにこれだけの態度を取れる者はそうは居ない。しかし、ニールはそんな事など歯牙にもかけず、淡々と話を続ける。


「まさか話さない方が良い、なんて言いませんよね?」

『!』

「私はアリスお嬢様に並々ならぬ熱い想いを寄せておりますが、今回は甘やかしたりしません」

『ニール!』

「結果的にアレを倒すのは私や貴方でも構いませんが、自分を狙っている者が居ると、知っているのと知らないのとでは反応がまるで違います。いざという時の対策は取っておかなくては。常に危機感を持ち、万が一誰も傍に居ない時に襲われたとしても、即座に反応出来るように」


ニールの言葉に、クロは苦々しく顔を歪めた。ニールの言っている事は正しい。クロは遠い日の事を想った。もしもアデルの恋人が、自分ではなくニールだったなら…………

彼女はきっと、あんな悲惨な最期を迎える事は無かっただろう。


『わかった。僕は力が弱まっているせいで、影の中から出る事が出来ない。アリスに……君からアリスに、話して欲しい』

「分かりました」

『デラクール伯爵令嬢の中身がみーこである事は、話すか話さないか、ニールに任せるよ』

「…………」


ニールは少し思考を巡らせてから、クロに問い掛けた。


「貴方は、話した方が良いと思いますか?」

『…………僕は、アリスが傷付く事は嫌いだ。話したくはない。だけど……』

「?」

『アリスは、違うかもしれない。アリスは知りたいと思うかもしれない。……みーこはアリスにとって、大切な友達だったから』

「……そうですか」


内心、ニールは厄介だなと思った。
相手が倒すべき敵であるなら、情けは邪魔になる。下手に情をかけて、アリスにいらぬ危険が及んだら…………

アリスはニールにとって、想いを寄せる相手であり、可愛い教え子でもある。そう、ニールは魔法を使用する戦いにおいて、甘さを不要とする非情な男であった。


「……ならば、中身の事は・・・・・話す必要ありませんね」



* * *

しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...