細波

Nick Robertson

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家の中はまたシンとしていて、あたりには違った、例えば冷めた空気が漂っている。
私は周りを見渡した。
一面が少し古い、しかし綺麗な、木で覆われているような家だ。
木目がびっしりと張り付いていて、黒々しいくらいだった。
もともと薄暗いのにな…私はそう思って身震いした。
大分冷え込んでいる。
もう寝てしまおうか。
ストーブの内側なんてなお暗い。
見ているだけで落ち着いた憂鬱になって、とても火をつけようとも思えない。
白い布で覆われたベッドだけが異様に浮き上がって見えた。
が、そんな儚い想いも一瞬だけで布団の中は固く、冷たいままである。
私は全てを諦めてソファに座った。
食事をしなければならないかな、とぼんやり思った。
しかしそれさえも捨てた。
どうせもう、すぐに帰るのだ。
いつここを発つかも分からなくなっていたが、おそらくもうすぐだった。
そうしてまた死んでしまおう。
そのくらいが丁度いいのかもしれないなと思った。
蜘蛛の巣が隅に細く伸びていた。
こんな所で獲物は取れないだろう、おそらく飢えて死ぬのだ、と私は考えた。
それでもなぜここに巣を構えたのだろう。
私には分からないことが山ほどあって、その上にグラグラと揺れている。
ソファは不思議と私を覚醒させてくれた。
そこらの冷たさか、また自分が生み出した悩みからか、それはわからない。
自分にはうっすらと練りつく苦しみがある。
将来への不安と一言で言い表すにはあまりにもかわいそうなそれは、私に微笑んで消えていく。
そういえば、今日あった少女はどこへ住んでいるのだろう。
私はそんなことまで考えた。
ここをまっすぐ行ったところの街の中だろうか。
私はそのままじっと瞼を合わせた。
クルクルと音を立てて思いがよぎる。
もしかしたら自分が思いの横を抜いているのかもしれない。
そんなことをしても原点なんて見えてこないのに。
何も起こらないはずなのに、そんなこと分かっているはずなのに、まだそうやってあがこうとする。
まだ受け入れられないでいる。
これを「逃げ」と言うのだろうか。
もしそうならそれでもいい。違うならそうでもいい。
何でもいいから、掬って欲しかった。
自分だけ、そっとした手で。
ふっと小さな波が立つ。
それは目には見えないくらいの波紋を生み出して広がって、それから私は別天地へ行くのだーーと、そんなことまで思うと途端に目を覚ます。
そう、上から水をかけられたように、正面からはたかれたように。
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