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また森に行ってしまう。
いっそ街の方が良かったかとさえ思うが、そうなると今度は私がダメだ。
多人数より少人数、少人数より独りを好んでいるからだ。
私は歩いている。
依然として振り返らない。
少女はまた何も喋らない。
まだ明るいとはいえない木々は、それでも目一杯腕を伸ばしている。
私はそこの奥の方で座り込んだ。
少女も続く。
「おい」やはり私の方から声をかけなければならないようだ。
「はい」
「なんでついて来るんだ」
「ダメかな」さっきからそんなことばっかりで逃げている。その逃げ方がなんだか一番凛として、勇ましいからたまったものではない。
だからダメだと言いずらくなる。
少女が言葉を連ねて重ねれば重ねるほど私の口は小さくなっていく。
しかしそれでは進展しない。
だから、進展させようとすることが間違いなのだろうと思った。
放っとけばいいのだ。
そっとしていれば、いつかは消えるのだろうと。
しかし少女はあまりに頑固だった。
私の真横で同じ方を向いていた。
私は立ち上がった。
もうそろそろ予定時刻だ。
少女は座ったまま大人しいかぎりだ。
私が過ぎようとすると「あのさ、今からしようとしてる事は、たぶん面倒なんだよ」と切り出してきた。
「え」
「それ」少女は私の持っている紐を指差す。
「私も死んだ人を見たことはあるけどさ、殺したことは、まだないと思う」
私は瞳孔が開く気がした。
そして「そんなこと言ったって、お前がいるだけで、お前が存在しているから、他の誰かはきっと死んでいるんだ」とスラスラと話してしまう。
「やめたら?」少女の言葉には、不思議な力がこもっていた。
「やめたら?」私が何も言わないのを見ると、だんだん勝ち誇ったように宣言した。
「やめたら、何もならない」私はそう返すのがやっとだった。
「何もならない?」少女は復唱した。
「そう、なんにも。変えられないんだよ、ずっと」
少女は口を歪める。
「変えてないだけじゃん」
「失敗したから」私はそう言って、紐を少女に投げた。
少女はそれを掴む。
「貰っていいの?」
「ああ、もう要らないから」
私は誰にともなくそういった。
影は尚更なりを潜めてきていた。
いっそ街の方が良かったかとさえ思うが、そうなると今度は私がダメだ。
多人数より少人数、少人数より独りを好んでいるからだ。
私は歩いている。
依然として振り返らない。
少女はまた何も喋らない。
まだ明るいとはいえない木々は、それでも目一杯腕を伸ばしている。
私はそこの奥の方で座り込んだ。
少女も続く。
「おい」やはり私の方から声をかけなければならないようだ。
「はい」
「なんでついて来るんだ」
「ダメかな」さっきからそんなことばっかりで逃げている。その逃げ方がなんだか一番凛として、勇ましいからたまったものではない。
だからダメだと言いずらくなる。
少女が言葉を連ねて重ねれば重ねるほど私の口は小さくなっていく。
しかしそれでは進展しない。
だから、進展させようとすることが間違いなのだろうと思った。
放っとけばいいのだ。
そっとしていれば、いつかは消えるのだろうと。
しかし少女はあまりに頑固だった。
私の真横で同じ方を向いていた。
私は立ち上がった。
もうそろそろ予定時刻だ。
少女は座ったまま大人しいかぎりだ。
私が過ぎようとすると「あのさ、今からしようとしてる事は、たぶん面倒なんだよ」と切り出してきた。
「え」
「それ」少女は私の持っている紐を指差す。
「私も死んだ人を見たことはあるけどさ、殺したことは、まだないと思う」
私は瞳孔が開く気がした。
そして「そんなこと言ったって、お前がいるだけで、お前が存在しているから、他の誰かはきっと死んでいるんだ」とスラスラと話してしまう。
「やめたら?」少女の言葉には、不思議な力がこもっていた。
「やめたら?」私が何も言わないのを見ると、だんだん勝ち誇ったように宣言した。
「やめたら、何もならない」私はそう返すのがやっとだった。
「何もならない?」少女は復唱した。
「そう、なんにも。変えられないんだよ、ずっと」
少女は口を歪める。
「変えてないだけじゃん」
「失敗したから」私はそう言って、紐を少女に投げた。
少女はそれを掴む。
「貰っていいの?」
「ああ、もう要らないから」
私は誰にともなくそういった。
影は尚更なりを潜めてきていた。
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