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「チーズ」
千鶴は固まってしまった。
今まで黙りこくっていた赤ん坊が急に話したからだ。
「チーズ」俺はもう一度言った。
練習はそりゃあしたぞ。

ウグイスだって鳴くのに練習がいるのだ。
知ってますか、生まれて間も無く発声練習を始めるウグイスを。
「ホー、ホケ、ホッ」
そして
「ホーキョ、ホケケケケケケキョ、ホケティオ」
最後に
「ホー、ホケキョ」
となったりするんだ。
見てたら分かる。
分かる気がする。
…ここに来る前、俺が住んでいたところは、ウグイスはいたよ。
ここにも、やっぱりいる。
ツンと上を向いているようなんだ。

千鶴は涙目になって「もいっかい、もいっかい」と頼んでくる。
「チーズ、チーズ」どうだ、参ったか。
その夜帰ってきたおじいさんも急かしてくる。
「ジージ」これも練習したんだ。
ごめんね、名前で言えなくて。
それでもおじいさんは狂ったみたいになってたよ。

ウグイスが鳴くのは、春夏秋冬の中でいつでしょうか?
いつも鳴いてますか。
春の感じが強いですか。
今は冬から春にかけての頃です。
ウグイスがこちらを見てる。
俺はもうフラフラ歩けるよ。
勝手にしたら千鶴が黙ってないけれど。

それでも陽気な光とまだ残る寒さ。
冬の間も大変だった。
寒いのなんのって。
暖房機能付きクーラーとかあったらいいよなー
俺死ぬのかなーって思ったもんなー

それでも騒ぐ子じゃないから千鶴は俺を背負いながら仕事をすることはとうとうなかった。
でも夏は冷たいように、冬はあったかいようになんとかしてくれた。
夏には脱水気味、冬はしもやけ、ひび割れみたいになったけど、俺強いんだ。

どれだけ暑くても自分の背丈以上の水には入らなかったし、どれほど寒くても日に近寄らなかった、俺の勝ち。
こうして時も過ぎていきます。
ゆったりとした流れは、それでも自分を大きくさせるだけはあって、そして、とても面白い。


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