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第1部 第1章「七歳の朝、勇者の記憶」
第3話「双子の涙と兄の決意」
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第3話「疾走する勇者」
森の小道を、俺は風のように駆け抜けていた。
身体強化魔法「ブースト・アップ」の効果で、七歳の小さな身体が信じられない速度で地面を蹴る。一歩で三メートル以上進み、木々の間を縫うように走る。
時速八十キロ。いや、もっと出せる。でも今は周囲の状況を把握しながら進む必要があるから、これくらいが適切だろう。
周囲の景色が流れていく。木々、草むら、小さな川。この道は、村から隣町グランベルに続く唯一の街道だ。普段は商人や旅人が行き交うはずだが、今は誰もいない。
不気味なほど静かだ。
俺は走りながら、自分の身体の感覚を確かめていた。
七歳の子供の身体。身長は約一メートル二十センチ。体重は二十キロ程度だろう。小さく、華奢で、非力なはずの身体。
だが今、この身体には前世のレベル99の力が宿っている。
魔力が全身を巡り、筋肉が強化され、骨格が頑強になっている。視界は鮮明で、聴覚は研ぎ澄まされ、周囲の気配を感じ取れる。
試しに、心の中で呟いてみる。
「ステータス・オープン」
視界の端に、半透明の画面が浮かび上がった。
名前:アレン・ヴァルトハイム
年齢:7歳
種族:人間
レベル:99
HP:9999/9999
MP:9999/9999
STR(筋力):999
VIT(体力):999
DEX(器用さ):999
AGI(敏捷性):999
INT(知力):999
MND(精神力):999
LUK(幸運):999
職業:勇者(隠匿中)
スキル:
・剣聖 LV10(MAX)
・全属性魔法 LV10(MAX)
・神眼 LV10(MAX)
・身体強化 LV10(MAX)
・隠密 LV10(MAX)
・空間魔法 LV10(MAX)
・料理 LV7
・鍛冶 LV5
・錬金術 LV6
(他、習得スキル多数)
称号:
・魔王討伐者
・裏切られし勇者
・女神の寵愛を受けし者
・転生者
・???(封印中)
装備:
・短剣(魔法強化済)
・革のズボン
・シャツ
・魔法防御の下着
・身体強化の指輪
・状態異常無効のブローチ
やはり、全て残っている。
レベル、スキル、ステータス、称号。前世で積み上げた全てが、この七歳の身体に宿っている。
女神セレスティアは、本当に約束を守ってくれた。
ふと、前世のことを思い出す。
あの世界で俺は、五年間戦い続けた。異世界に召喚された時は、ただの大学生だった。剣を握ったこともなければ、魔法なんて概念すらなかった。
でも、生き延びるために戦った。元の世界に帰るために、魔王を倒すことを選んだ。
最初の頃は、毎日が死と隣り合わせだった。レベル1の俺が、ゴブリン一匹倒すのにも苦労した。仲間に助けられ、時には逃げ、何度も死にかけた。
それでも諦めなかった。少しずつ強くなった。スキルを習得し、魔法を覚え、戦い方を学んだ。
レベル10になった時は嬉しかった。レベル30で中級魔法を習得した時は、自分の成長を実感できた。レベル50を超えた頃には、一人で魔物の群れを倒せるようになっていた。
そしてレベル99。人間が到達できる最高レベル。
その時の俺は、もう最初の弱い大学生ではなかった。大陸最強の勇者。魔王と対等に戦える唯一の存在。
でも、強さは俺から多くのものを奪った。
普通の生活。平凡な幸せ。友人との他愛もない会話。
気づけば、俺は戦うための道具になっていた。王国の、貴族たちの、人々の期待という名の重荷を背負わされた、都合のいい駒。
そして魔王を倒した後、俺は不要になった。
強すぎる力を持った平民は、支配者たちにとって脅威だった。だから消されかけた。信頼していた仲間たちにさえ、裏切られた。
あの夜のことは、今でも鮮明に覚えている。
自室で休んでいた俺を襲った、暗殺者の集団。そこに混じっていた、見知った顔。
剣士ライオス。彼は俺の右腕だった。幾多の戦場を共に駆け抜けた、信頼できる仲間。
魔法使いセリナ。彼女は俺に魔法を教えてくれた。優しく、聡明で、いつも笑顔だった。
僧侶ベルナルド。彼は俺の傷を何度も癒してくれた。敬虔で、誠実で、信仰心の厚い男。
盗賊リック。彼は俺に情報収集と隠密行動を教えてくれた。口は悪いが、仲間思いの男。
その全員が、剣を俺に向けていた。
「ハルト…すまない…」
ライオスの言葉を、今でも覚えている。涙を流しながら、それでも剣を向けてきた彼の顔を。
「これも国のため…貴族たちの命令なの…」
セリナの震える声も。
「神よ、どうか許し給え…」
ベルナルドの祈りも。
「…恨むなよ、勇者」
リックの最後の言葉も。
あの瞬間、俺の中で何かが壊れた。
怒りが爆発した。レベル99の全力を解放した。暗殺者たちを薙ぎ払い、仲間たちを打ちのめした。王宮の一角を破壊し、追手を振り切り、森に逃げ込んだ。
そして、夜空に向かって叫んだ。
「女神よ! 答えろ!」
その叫びが、全てを変えた。
俺は神界に召喚され、女神と対峙した。そして、転生という選択肢を得た。
今、この世界で、新しい人生を歩んでいる。
前世とは違う。
ここには、家族がいる。
母エレナ。優しく、強い女性。貧しくても、子供たちのために必死に働く。笑顔が素敵な母親。
姉ソフィア。十三歳の、少し勝気な女の子。でも弟妹思いで、いつも俺たちを気にかけてくれる。
兄マルク。十歳の真面目な少年。責任感が強く、家族のために頑張ろうとする。
双子のレオとリナ。四歳の、無邪気で可愛い弟と妹。俺を慕ってくれる。
そして父グレン。戦争に行っているが、優しくて頼りになる父親だと、アレンの記憶にある。
この家族を、俺は守る。
前世では誰も守れなかった。いや、守ろうとしなかった。自分のことで精一杯で、他人のことまで考える余裕がなかった。
でも、もう違う。
俺には守るべき人がいる。大切にしたい人がいる。
絶対に、失わせない。
そう心に誓いながら、俺は走り続けた。
やがて、森の木々が疎らになり、開けた場所に出た。ここから先は、草原地帯だ。隣町グランベルまで、あと五キロほど。
と、その時だった。
俺の「神眼」が、何かを捉えた。
森の奥、街道から外れた場所に、三つの人影。
怪しい。
俺は速度を落とし、慎重に気配を探る。
三人の男。粗末な服を着て、腰に剣や斧を下げている。旅人や商人には見えない。動きが、あまりにも警戒的だ。
そして、彼らは街道から外れて、森の奥へと入っていく。
まさか…
嫌な予感が、胸をよぎる。
俺は「神眼」のスキルを最大限に発動させた。
視界が変わる。物理的な距離を超えて、対象の詳細な情報が見える。まるでゲームのステータス画面のように、相手のレベル、職業、スキル、装備が表示される。
三人の男たちのステータスが、次々と浮かび上がった。
名前:ガルド
年齢:32歳
種族:人間
レベル:18
職業:盗賊
名前:ボルス
年齢:28歳
種族:人間
レベル:15
職業:盗賊
名前:シン
年齢:25歳
種族:人間
レベル:13
職業:盗賊
盗賊だ。
三人とも、職業欄に「盗賊」と表示されている。
そして、彼らが向かっている方向は――
心臓が早鐘を打つ。
まさか、母さんたちが…
いや、まだ確証はない。でも、この嫌な予感は前世の戦いで何度も経験した。危険を察知する本能が、警鐘を鳴らしている。
俺は即座に決断した。
彼らを追う。
でも、正面から行くわけにはいかない。七歳の子供が盗賊を追っていると知られたら、敵に警戒される。
俺は「隠密」のスキルを発動させた。
「インビジブル」
小さく詠唱すると、身体が透明になる。いや、正確には透明になるわけではなく、光を屈折させて周囲に溶け込ませる魔法だ。
同時に、気配も完全に消す。足音、呼吸音、魔力の波動、全てを遮断する。
これで、相手がよほど高レベルの探知スキルを持っていない限り、俺の存在に気づくことはない。
そして俺は、盗賊たちの後を追い始めた。
森の中を、音もなく移動する。木々の影を利用し、常に相手の死角を取る。
盗賊たちは、何も気づいていない。油断しているのか、それとも単に警戒が甘いのか。三人で雑談しながら歩いている。
「今日の収穫はどうだ?」
ガルドという男が、他の二人に聞く。
「まあまあだな。女が二人に、男が一人」
ボルスが答える。
「女は若くて見目がいい。高く売れるだろう」
ジンが下卑た笑い声を上げる。
俺の拳が、ギリッと握りしまる。
人身売買。
この世界にも、そんな悪徳があるのか。
そして、彼らが言う「女二人と男一人」。
まさか――
母さん、姉さん、兄さん?
怒りが、全身を駆け巡る。でも、今は冷静にならなければ。感情に任せて飛び出しても、状況を悪化させるだけだ。
まずは、確認する必要がある。
俺は盗賊たちとの距離を保ちながら、慎重に追跡を続けた。
森はどんどん深くなっていく。街道から離れ、人気のない場所へ。
やがて、盗賊たちが足を止めた。
目の前に、岩壁がある。そしてその岩壁に、洞窟の入り口が口を開けていた。
「着いたぜ」
ガルドが満足そうに言う。
「今日も良い仕事だった。ボスも喜ぶだろう」
三人は洞窟の中に入っていく。
俺も、隠密状態のまま後を追う。
洞窟内部は暗いが、俺の「神眼」があれば問題ない。暗視能力も備わっているから、まるで昼間のように周囲が見える。
狭い通路を進むと、やがて開けた空間に出た。
そして、俺は息を呑んだ。
檻。
大きな鉄製の檻が、いくつも並んでいる。
そしてその中に、人々が閉じ込められていた。
男、女、子供。年齢も身なりも様々。でも全員、絶望的な表情をしている。
約三十人。
人身売買の被害者たちだ。
そして――
俺は、一つの檻に目を凝らした。
そこに、見覚えのある顔があった。
母さん。エレナ。
姉さん。ソフィア。
兄さん。マルク。
三人とも、檻の中にいた。
母さんは疲れ切った表情で壁にもたれかかっている。姉さんは怒りと恐怖で震えている。兄さんは必死に平静を保とうとしているが、その目には不安が浮かんでいる。
俺の中で、何かが弾けた。
怒り。
激しい怒りが、全身を支配する。
家族に、手を出した。
許せない。
絶対に、許せない。
でも、今は冷静に。周囲を確認する必要がある。
洞窟の奥には、さらに多くの盗賊がいた。ざっと数えて二十人以上。リーダーらしき大柄な男も見える。
神眼で確認すると、リーダーはレベル45。幹部クラスが数名、レベル30前後。残りはレベル10から20の雑魚。
全員合わせても、俺には敵わない。
レベル99の俺にとって、この程度の盗賊団など、赤子の手を捻るようなものだ。
でも、問題は人質だ。
下手に動けば、盗賊たちが人質を盾にする可能性がある。慎重に、確実に、一瞬で制圧する必要がある。
俺は冷静に戦略を練った。
時間停止魔法。
重力魔法。
拘束魔法。
この三つを組み合わせれば、一瞬で全員を無力化できる。
そして、檻を開けて家族を救出する。
問題ない。できる。
俺は深呼吸をして、魔力を集中させた。
待っていてくれ、母さん、姉さん、兄さん。
今、助ける。
――勇者の力で。
次回:第4話「無双の救出劇」
森の小道を、俺は風のように駆け抜けていた。
身体強化魔法「ブースト・アップ」の効果で、七歳の小さな身体が信じられない速度で地面を蹴る。一歩で三メートル以上進み、木々の間を縫うように走る。
時速八十キロ。いや、もっと出せる。でも今は周囲の状況を把握しながら進む必要があるから、これくらいが適切だろう。
周囲の景色が流れていく。木々、草むら、小さな川。この道は、村から隣町グランベルに続く唯一の街道だ。普段は商人や旅人が行き交うはずだが、今は誰もいない。
不気味なほど静かだ。
俺は走りながら、自分の身体の感覚を確かめていた。
七歳の子供の身体。身長は約一メートル二十センチ。体重は二十キロ程度だろう。小さく、華奢で、非力なはずの身体。
だが今、この身体には前世のレベル99の力が宿っている。
魔力が全身を巡り、筋肉が強化され、骨格が頑強になっている。視界は鮮明で、聴覚は研ぎ澄まされ、周囲の気配を感じ取れる。
試しに、心の中で呟いてみる。
「ステータス・オープン」
視界の端に、半透明の画面が浮かび上がった。
名前:アレン・ヴァルトハイム
年齢:7歳
種族:人間
レベル:99
HP:9999/9999
MP:9999/9999
STR(筋力):999
VIT(体力):999
DEX(器用さ):999
AGI(敏捷性):999
INT(知力):999
MND(精神力):999
LUK(幸運):999
職業:勇者(隠匿中)
スキル:
・剣聖 LV10(MAX)
・全属性魔法 LV10(MAX)
・神眼 LV10(MAX)
・身体強化 LV10(MAX)
・隠密 LV10(MAX)
・空間魔法 LV10(MAX)
・料理 LV7
・鍛冶 LV5
・錬金術 LV6
(他、習得スキル多数)
称号:
・魔王討伐者
・裏切られし勇者
・女神の寵愛を受けし者
・転生者
・???(封印中)
装備:
・短剣(魔法強化済)
・革のズボン
・シャツ
・魔法防御の下着
・身体強化の指輪
・状態異常無効のブローチ
やはり、全て残っている。
レベル、スキル、ステータス、称号。前世で積み上げた全てが、この七歳の身体に宿っている。
女神セレスティアは、本当に約束を守ってくれた。
ふと、前世のことを思い出す。
あの世界で俺は、五年間戦い続けた。異世界に召喚された時は、ただの大学生だった。剣を握ったこともなければ、魔法なんて概念すらなかった。
でも、生き延びるために戦った。元の世界に帰るために、魔王を倒すことを選んだ。
最初の頃は、毎日が死と隣り合わせだった。レベル1の俺が、ゴブリン一匹倒すのにも苦労した。仲間に助けられ、時には逃げ、何度も死にかけた。
それでも諦めなかった。少しずつ強くなった。スキルを習得し、魔法を覚え、戦い方を学んだ。
レベル10になった時は嬉しかった。レベル30で中級魔法を習得した時は、自分の成長を実感できた。レベル50を超えた頃には、一人で魔物の群れを倒せるようになっていた。
そしてレベル99。人間が到達できる最高レベル。
その時の俺は、もう最初の弱い大学生ではなかった。大陸最強の勇者。魔王と対等に戦える唯一の存在。
でも、強さは俺から多くのものを奪った。
普通の生活。平凡な幸せ。友人との他愛もない会話。
気づけば、俺は戦うための道具になっていた。王国の、貴族たちの、人々の期待という名の重荷を背負わされた、都合のいい駒。
そして魔王を倒した後、俺は不要になった。
強すぎる力を持った平民は、支配者たちにとって脅威だった。だから消されかけた。信頼していた仲間たちにさえ、裏切られた。
あの夜のことは、今でも鮮明に覚えている。
自室で休んでいた俺を襲った、暗殺者の集団。そこに混じっていた、見知った顔。
剣士ライオス。彼は俺の右腕だった。幾多の戦場を共に駆け抜けた、信頼できる仲間。
魔法使いセリナ。彼女は俺に魔法を教えてくれた。優しく、聡明で、いつも笑顔だった。
僧侶ベルナルド。彼は俺の傷を何度も癒してくれた。敬虔で、誠実で、信仰心の厚い男。
盗賊リック。彼は俺に情報収集と隠密行動を教えてくれた。口は悪いが、仲間思いの男。
その全員が、剣を俺に向けていた。
「ハルト…すまない…」
ライオスの言葉を、今でも覚えている。涙を流しながら、それでも剣を向けてきた彼の顔を。
「これも国のため…貴族たちの命令なの…」
セリナの震える声も。
「神よ、どうか許し給え…」
ベルナルドの祈りも。
「…恨むなよ、勇者」
リックの最後の言葉も。
あの瞬間、俺の中で何かが壊れた。
怒りが爆発した。レベル99の全力を解放した。暗殺者たちを薙ぎ払い、仲間たちを打ちのめした。王宮の一角を破壊し、追手を振り切り、森に逃げ込んだ。
そして、夜空に向かって叫んだ。
「女神よ! 答えろ!」
その叫びが、全てを変えた。
俺は神界に召喚され、女神と対峙した。そして、転生という選択肢を得た。
今、この世界で、新しい人生を歩んでいる。
前世とは違う。
ここには、家族がいる。
母エレナ。優しく、強い女性。貧しくても、子供たちのために必死に働く。笑顔が素敵な母親。
姉ソフィア。十三歳の、少し勝気な女の子。でも弟妹思いで、いつも俺たちを気にかけてくれる。
兄マルク。十歳の真面目な少年。責任感が強く、家族のために頑張ろうとする。
双子のレオとリナ。四歳の、無邪気で可愛い弟と妹。俺を慕ってくれる。
そして父グレン。戦争に行っているが、優しくて頼りになる父親だと、アレンの記憶にある。
この家族を、俺は守る。
前世では誰も守れなかった。いや、守ろうとしなかった。自分のことで精一杯で、他人のことまで考える余裕がなかった。
でも、もう違う。
俺には守るべき人がいる。大切にしたい人がいる。
絶対に、失わせない。
そう心に誓いながら、俺は走り続けた。
やがて、森の木々が疎らになり、開けた場所に出た。ここから先は、草原地帯だ。隣町グランベルまで、あと五キロほど。
と、その時だった。
俺の「神眼」が、何かを捉えた。
森の奥、街道から外れた場所に、三つの人影。
怪しい。
俺は速度を落とし、慎重に気配を探る。
三人の男。粗末な服を着て、腰に剣や斧を下げている。旅人や商人には見えない。動きが、あまりにも警戒的だ。
そして、彼らは街道から外れて、森の奥へと入っていく。
まさか…
嫌な予感が、胸をよぎる。
俺は「神眼」のスキルを最大限に発動させた。
視界が変わる。物理的な距離を超えて、対象の詳細な情報が見える。まるでゲームのステータス画面のように、相手のレベル、職業、スキル、装備が表示される。
三人の男たちのステータスが、次々と浮かび上がった。
名前:ガルド
年齢:32歳
種族:人間
レベル:18
職業:盗賊
名前:ボルス
年齢:28歳
種族:人間
レベル:15
職業:盗賊
名前:シン
年齢:25歳
種族:人間
レベル:13
職業:盗賊
盗賊だ。
三人とも、職業欄に「盗賊」と表示されている。
そして、彼らが向かっている方向は――
心臓が早鐘を打つ。
まさか、母さんたちが…
いや、まだ確証はない。でも、この嫌な予感は前世の戦いで何度も経験した。危険を察知する本能が、警鐘を鳴らしている。
俺は即座に決断した。
彼らを追う。
でも、正面から行くわけにはいかない。七歳の子供が盗賊を追っていると知られたら、敵に警戒される。
俺は「隠密」のスキルを発動させた。
「インビジブル」
小さく詠唱すると、身体が透明になる。いや、正確には透明になるわけではなく、光を屈折させて周囲に溶け込ませる魔法だ。
同時に、気配も完全に消す。足音、呼吸音、魔力の波動、全てを遮断する。
これで、相手がよほど高レベルの探知スキルを持っていない限り、俺の存在に気づくことはない。
そして俺は、盗賊たちの後を追い始めた。
森の中を、音もなく移動する。木々の影を利用し、常に相手の死角を取る。
盗賊たちは、何も気づいていない。油断しているのか、それとも単に警戒が甘いのか。三人で雑談しながら歩いている。
「今日の収穫はどうだ?」
ガルドという男が、他の二人に聞く。
「まあまあだな。女が二人に、男が一人」
ボルスが答える。
「女は若くて見目がいい。高く売れるだろう」
ジンが下卑た笑い声を上げる。
俺の拳が、ギリッと握りしまる。
人身売買。
この世界にも、そんな悪徳があるのか。
そして、彼らが言う「女二人と男一人」。
まさか――
母さん、姉さん、兄さん?
怒りが、全身を駆け巡る。でも、今は冷静にならなければ。感情に任せて飛び出しても、状況を悪化させるだけだ。
まずは、確認する必要がある。
俺は盗賊たちとの距離を保ちながら、慎重に追跡を続けた。
森はどんどん深くなっていく。街道から離れ、人気のない場所へ。
やがて、盗賊たちが足を止めた。
目の前に、岩壁がある。そしてその岩壁に、洞窟の入り口が口を開けていた。
「着いたぜ」
ガルドが満足そうに言う。
「今日も良い仕事だった。ボスも喜ぶだろう」
三人は洞窟の中に入っていく。
俺も、隠密状態のまま後を追う。
洞窟内部は暗いが、俺の「神眼」があれば問題ない。暗視能力も備わっているから、まるで昼間のように周囲が見える。
狭い通路を進むと、やがて開けた空間に出た。
そして、俺は息を呑んだ。
檻。
大きな鉄製の檻が、いくつも並んでいる。
そしてその中に、人々が閉じ込められていた。
男、女、子供。年齢も身なりも様々。でも全員、絶望的な表情をしている。
約三十人。
人身売買の被害者たちだ。
そして――
俺は、一つの檻に目を凝らした。
そこに、見覚えのある顔があった。
母さん。エレナ。
姉さん。ソフィア。
兄さん。マルク。
三人とも、檻の中にいた。
母さんは疲れ切った表情で壁にもたれかかっている。姉さんは怒りと恐怖で震えている。兄さんは必死に平静を保とうとしているが、その目には不安が浮かんでいる。
俺の中で、何かが弾けた。
怒り。
激しい怒りが、全身を支配する。
家族に、手を出した。
許せない。
絶対に、許せない。
でも、今は冷静に。周囲を確認する必要がある。
洞窟の奥には、さらに多くの盗賊がいた。ざっと数えて二十人以上。リーダーらしき大柄な男も見える。
神眼で確認すると、リーダーはレベル45。幹部クラスが数名、レベル30前後。残りはレベル10から20の雑魚。
全員合わせても、俺には敵わない。
レベル99の俺にとって、この程度の盗賊団など、赤子の手を捻るようなものだ。
でも、問題は人質だ。
下手に動けば、盗賊たちが人質を盾にする可能性がある。慎重に、確実に、一瞬で制圧する必要がある。
俺は冷静に戦略を練った。
時間停止魔法。
重力魔法。
拘束魔法。
この三つを組み合わせれば、一瞬で全員を無力化できる。
そして、檻を開けて家族を救出する。
問題ない。できる。
俺は深呼吸をして、魔力を集中させた。
待っていてくれ、母さん、姉さん、兄さん。
今、助ける。
――勇者の力で。
次回:第4話「無双の救出劇」
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