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第1部 第1章「七歳の朝、勇者の記憶」
第4話「無双の救出劇」
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第4話「無双の救出劇」
洞窟の奥で、盗賊たちが酒を飲んでいた。
「今日も良い獲物が手に入ったな」
リーダーらしき大柄な男――神眼で確認した名前はバルガ、レベル45――が、満足そうに笑っている。
「ああ、特にあの若い娘は上玉だ。貴族に売れば、金貨百枚は下らねぇ」
部下の一人が下卑た笑い声を上げる。
「母親の方もまだ若い。三十代半ばか。需要はあるだろう」
「ガキの方は…まあ、鉱山にでも売るか」
俺の拳が、ギリリと音を立てる。
家族を、商品のように語りやがって。
怒りで視界が赤く染まりそうになるが、必死に堪える。今は冷静に。感情に流されて失敗するわけにはいかない。
俺は洞窟の構造を頭の中で整理した。
入口から続く通路は一本道。その先に開けた空間があり、そこに檻が並んでいる。盗賊たちは奥の方で酒盛りをしている。
人質は約三十人。全員が檻の中。
盗賊は全部で二十三人。リーダーのバルガ、幹部が五人、一般の盗賊が十七人。さらに、入口付近に見張りが二人。
つまり、合計二十五人。
武器は剣、斧、弓。鎧を着ている者もいるが、ほとんどは革鎧程度。
対する俺は――レベル99、全スキルMAX。
勝負にすらならない。
問題は、人質を傷つけずに全員を一瞬で制圧すること。
俺は魔法の組み合わせを考えた。
まず、時間停止魔法「タイムストップ」。これで盗賊たちの動きを完全に止める。ただし、この魔法は消費魔力が大きく、持続時間も短い。せいぜい三十秒程度。
その間に、重力魔法「グラビティ・プレス」で全員を地面に押さえつける。
そして拘束魔法「バインド・チェーン」で縛り上げる。
最後に睡眠魔法「マス・スリープ」で眠らせて、檻に閉じ込める。
これなら、証拠も残るし、後で役人に引き渡せる。
よし、やるぞ。
俺は隠密状態を維持したまま、洞窟の中央に移動した。ここなら、魔法の効果範囲に全員を収められる。
深呼吸。
魔力を全身に集中させる。レベル99の膨大な魔力が、身体の中で渦を巻く。
そして――
「タイムストップ」
世界が、止まった。
盗賊たちの動きが完全に停止する。酒を飲もうとしていた男は、杯を口元で固まっている。笑っていた男は、口を開けたまま静止している。
空気中の埃さえも、空中で停止している。
時間停止魔法。時間属性の最上位魔法の一つ。この魔法が使えるのは、世界でも数えるほどしかいない。
俺はその停止した世界の中を、自由に動ける。
急いで次の魔法を発動させる。
「グラビティ・プレス、範囲指定――盗賊全員」
重力魔法が発動する。盗賊たち全員の周囲に、紫色の魔法陣が浮かび上がる。
時間が動き出した瞬間、この魔法が彼らを地面に押さえつける。
そして、最後の魔法。
「バインド・チェーン、多重展開」
拘束魔法の魔法陣が、盗賊たち一人一人の足元に出現する。
準備完了。
三つの魔法が同時発動する状態を作り上げた。
そして、俺は時間停止を解いた。
瞬間――
「がはっ!」
「ぐおっ!」
「なんだ、これは!?」
盗賊たちが、一斉に地面に叩きつけられた。
重力魔法の効果だ。通常の十倍の重力が、彼らの身体を押さえつけている。立ち上がることはおろか、顔を上げることすらできない。
そして次の瞬間、彼らの手足に光の鎖が巻きつく。
「なんだ、これ!?」
「動けない!」
「魔法だ! 魔法攻撃だ!」
盗賊たちが混乱の声を上げる。
だが、もう遅い。
拘束魔法の鎖は、魔法金属よりも硬く、どんな力でも解けない。レベル99の俺が全力で発動させた拘束魔法を、レベル40台以下の盗賊が解除できるわけがない。
所要時間、約十秒。
俺は隠密魔法を解除した。
姿を現した俺を見て、盗賊たちが驚愕する。
「子供…?」
「ガキが一人…?」
「馬鹿な、子供がこんな魔法を…!」
リーダーのバルガが、地面に押さえつけられたまま、必死に俺を睨む。
「貴様…何者だ…!」
俺は冷たい視線を盗賊たちに向けた。
「お前たちが捕まえた人たちを、返してもらう」
七歳の子供の声。でも、そこには前世の勇者としての威圧感が込められている。
バルガが歯噛みする。
「ふざけるな…! こんな…ガキに…!」
「抵抗は無意味だ。大人しくしていろ」
俺は盗賊たちに目もくれず、檻の方へ向かった。
檻の中の人々が、驚きと希望の入り混じった表情で俺を見ている。
そして――
「アレン…?」
母エレナの声が聞こえた。
俺は母たちの檻の前に立った。
母、姉ソフィア、兄マルクの三人が、鉄格子の向こうにいる。
「母さん、姉さん、兄さん」
三人は、信じられないという表情で俺を見つめている。
「アレン…本当に、アレンなの…?」
母が震える声で聞く。
「ああ、俺だよ。迎えに来た」
「でも、どうして…村は…双子は…!」
ソフィアが慌てて聞く。
「双子は無事だ。家で眠ってる。村も大丈夫」
俺は檻の錠前を見た。頑丈な鉄製の南京錠。鍵は、恐らくリーダーが持っているだろう。
でも、鍵なんて必要ない。
俺は手を錠前にかざした。
「アンロック」
解錠魔法。錠前がカチャリと音を立てて開く。
檻の扉を開け、俺は中に入った。
「さあ、出よう」
しかし三人は、まだ呆然としている。
「アレン…お前…今の魔法は…」
マルクが信じられないという顔で言う。
「後で説明する。今は、早くここを出よう」
俺は母の手を取った。
母の手が、震えている。恐怖と安堵と混乱で、どうしていいかわからないのだろう。
「大丈夫だよ、母さん。もう安全だから」
その言葉に、母の目から涙が溢れた。
「アレン…アレン…!」
母が俺を抱きしめた。七歳の小さな身体を、力いっぱい抱きしめる。
「怖かった…怖かったわ…もうダメかと思った…」
「もう大丈夫だから。俺がいるから」
姉と兄も、檻から出てきた。
「アレン…ありがとう…でも、どうやって…」
ソフィアが涙声で言う。
「後で話す。今は他の人たちも助けないと」
俺は他の檻に向かった。
次々と解錠魔法で錠前を開けていく。
人々が檻から出てくる。皆、長い間監禁されていたのか、疲労困憊している。
「ありがとう…ありがとうございます…」
老人が俺に頭を下げる。
「お礼なんていいです。でも、まだ終わりじゃない」
俺は地面に押さえつけられている盗賊たちを見た。
「この盗賊たちを、檻に入れる」
母が驚いて聞く。
「檻に…?」
「ああ。役人に引き渡すために、ここで保管しておく。母さん、手伝ってくれる?」
母が頷く。他の大人たちも協力してくれた。
重力魔法を一時的に解除し、拘束魔法だけの状態にする。盗賊たちは動けないまま、大人たちに引きずられて檻の中に押し込まれていく。
「くそ…離せ…!」
「覚えてろ…!」
盗賊たちが悪態をつくが、もう何もできない。
二十五人全員を、五つの檻に分けて収容した。一つの檻に五人ずつ。
そして俺は、最後の魔法を使った。
「マス・スリープ」
広範囲睡眠魔法。檻の中の盗賊たち全員に効果が及ぶ。
柔らかな光が盗賊たちを包み、次々と意識を失っていく。
「ぐ…う…」
バルガが最後まで抵抗したが、結局は眠りに落ちた。
これで、当分起きない。拘束魔法と睡眠魔法の二重拘束。完璧だ。
「母さん、これから隣町グランベルに行こう」
母が戸惑った表情を見せる。
「グランベルに…?」
「ああ。兵士か冒険者ギルドに通報して、この盗賊たちを引き渡す。そうすれば、謝礼金ももらえるはずだ」
近くにいた中年の男性が口を挟んできた。
「坊や…いや、命の恩人。確かにその通りだ。人身売買の盗賊は重罪。一人引き渡すごとに金貨一枚の謝礼が出る。それに、賞金首がいればさらに追加される」
「金貨一枚…」
母が息を呑む。
この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨の三種類。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚に換算される。
金貨1枚は100万ルピナ。この貧しい村の農家が、一年働いて稼げる金額の数倍だ。
それが、盗賊一人につき1枚。
二十五人なら…金貨二十五枚。
2500万ルピナ。
この金額があれば、家族を養うどころか、村全体を救える。
「じゃあ、みんなでグランベルに行きましょう」
俺は人々に呼びかけた。
「ここに盗賊たちを残して、町で兵士に通報します。大丈夫、檻に入れて魔法で眠らせてあるから、逃げることはできません」
人々が頷く。早くこの場所から離れたいという気持ちが、顔に表れている。
そして俺たちは、洞窟を後にした。
外に出ると、日はまだ高い。昼過ぎといったところだろう。
三十人以上の集団で、隣町グランベルへ向かう。
道中、母が俺の隣を歩きながら、何度も俺を見る。
「アレン…あなた、本当に…」
言葉が続かない。信じられないという表情だ。
「後でちゃんと説明するよ、母さん。今日起きたこと、全部」
母は複雑な表情で頷いた。
約二時間後、俺たちはグランベルの町に到着した。
石造りの壁に囲まれた、小さいが活気のある町。人口は五千人ほどだろう。村とは比べ物にならない賑わいだ。
門番が、大人数の俺たちを見て驚いている。
「これは…何事だ?」
母が前に出て説明した。
「盗賊に襲われて監禁されていましたが、助けられました。兵士の詰所か冒険者ギルドに通報したいのですが」
門番の表情が真剣になる。
「盗賊…! わかった、案内する。兵士詰所はこっちだ」
門番に案内されて、町の中心部にある兵士詰所に向かう。
石造りの頑丈な建物。王国の紋章が掲げられている。
中に入ると、制服を着た兵士たちが数人いた。
受付にいた中年の兵士が、俺たちを見て立ち上がる。
「これは…民間人の方々、どうされました?」
母が再び説明する。盗賊に襲われたこと、洞窟に監禁されていたこと、助けられたこと。
そして――
「盗賊たちは、洞窟の檻に閉じ込めて、眠らせてあります」
兵士が目を見開く。
「盗賊を…捕らえた…!?」
「はい。全員で二十五人です」
「二十五人…!」
兵士が驚愕する。
「それは…かなりの規模の盗賊団だ。どなたが捕らえたのです?」
母が少し躊躇した後、俺を見た。
俺は前に出た。
「俺です」
兵士が俺を見下ろす。七歳の小さな子供。
「…君が?」
「はい。魔法を使って、盗賊たちを無力化しました」
兵士は信じられないという表情だが、母や他の人々が頷いているのを見て、態度を変えた。
「…わかりました。詳しい話を聞かせてください。それから、現場を確認させてください」
俺と母は、別室に案内された。
そこで、詳しい状況を説明する。もちろん、全ての能力は隠して、「偶然魔法の才能があった」という程度に留める。
兵士は真剣に話を聞き、メモを取っていた。
「なるほど…では、これから現場に向かいます。案内していただけますか?」
「はい」
兵士詰所から、十人の兵士が出動した。馬車も二台用意される。
俺と母、そして数人の被害者が、兵士たちと共に洞窟に戻る。
約一時間後、洞窟に到着。
中に入ると、盗賊たちはまだ檻の中で眠っている。拘束魔法も効いたまま。
「本当だ…」
兵士の隊長が驚嘆する。
「二十五人…全員捕らえられている…」
兵士たちが檻を開け、盗賊たちを馬車に運び込んでいく。拘束魔法は俺が解除したが、代わりに兵士たちが縄で縛り上げる。
睡眠魔法も徐々に解除していく。目を覚ました盗賊たちは、状況を理解して絶望する。
「くそ…終わった…」
「鉱山送りだ…」
隊長がバルガの顔を見て、目を見開いた。
「これは…『鉄腕のバルガ』!」
バルガが舌打ちする。
「知ってるのか…」
「ああ、手配書が出ている。賞金首だ。金貨十枚の賞金がかかっている」
金貨十枚。それだけで1000万ルピナ。
「他にも…この男は『疾風のガルド』。金貨五枚」
「こっちは『人斬りボルス』。金貨三枚」
次々と賞金首が判明していく。
合計すると、賞金だけで金貨三十枚。
そして一般の盗賊への謝礼が金貨二十二枚(賞金首を除く)。
総額…金貨五十二枚。
5200万ルピナ。
母が、信じられないという表情で俺を見る。
俺も、正直驚いている。こんな大金になるとは。
隊長が俺に向かって、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。この盗賊団は、長年この地域を荒らしていた悪党どもです。多くの被害者を出していました。それを、あなたが一人で…」
「いえ、たまたま魔法が使えただけです」
俺は謙遜する。
「謝礼と賞金は、後日お支払いします。住所を教えていただけますか?」
母が村の名前と家の場所を告げる。
「わかりました。一週間以内に、必ずお届けします」
こうして、盗賊討伐は無事に終わった。
帰りの馬車の中で、母が俺の手を握った。
「アレン…」
「何、母さん?」
「あなたは…本当に…すごい子ね…」
その目には、驚きと、誇りと、そして少しの不安が混じっている。
「後で、全部話すよ。家に帰ったら」
母が頷く。
「ええ…話してちょうだい。全部」
夕暮れ時、俺たちは村に戻った。
村人たちが、驚きと喜びで出迎えてくれる。
そして家に帰ると、双子がちょうど目を覚ましたところだった。
「お母さん!」
「ソフィアお姉ちゃん! マルクお兄ちゃん!」
レオとリナが飛びついていく。
母がふたりを抱きしめる。
「ただいま、レオ、リナ…心配かけてごめんね…」
姉と兄も、双子を抱きしめる。
家族全員が、揃った。
俺は、その光景を見て、心が満たされるのを感じた。
これだ。
これが、俺が守りたかったもの。
これが、俺の二度目の人生で手に入れたかったもの。
家族の絆。
温かな団欒。
そして――金貨五十二枚という、家族の未来を変える富。
しばらくして、双子が落ち着くと、母が俺を見た。
「アレン…話をしましょう。全部、聞かせて」
その目は真剣だった。優しくも、厳しくもある、母の目。
俺は頷いた。
「わかった。全部話すよ」
そして、長い夜が始まろうとしていた。
家族に、全てを打ち明ける夜が。
次回:第5話「真実の告白」
洞窟の奥で、盗賊たちが酒を飲んでいた。
「今日も良い獲物が手に入ったな」
リーダーらしき大柄な男――神眼で確認した名前はバルガ、レベル45――が、満足そうに笑っている。
「ああ、特にあの若い娘は上玉だ。貴族に売れば、金貨百枚は下らねぇ」
部下の一人が下卑た笑い声を上げる。
「母親の方もまだ若い。三十代半ばか。需要はあるだろう」
「ガキの方は…まあ、鉱山にでも売るか」
俺の拳が、ギリリと音を立てる。
家族を、商品のように語りやがって。
怒りで視界が赤く染まりそうになるが、必死に堪える。今は冷静に。感情に流されて失敗するわけにはいかない。
俺は洞窟の構造を頭の中で整理した。
入口から続く通路は一本道。その先に開けた空間があり、そこに檻が並んでいる。盗賊たちは奥の方で酒盛りをしている。
人質は約三十人。全員が檻の中。
盗賊は全部で二十三人。リーダーのバルガ、幹部が五人、一般の盗賊が十七人。さらに、入口付近に見張りが二人。
つまり、合計二十五人。
武器は剣、斧、弓。鎧を着ている者もいるが、ほとんどは革鎧程度。
対する俺は――レベル99、全スキルMAX。
勝負にすらならない。
問題は、人質を傷つけずに全員を一瞬で制圧すること。
俺は魔法の組み合わせを考えた。
まず、時間停止魔法「タイムストップ」。これで盗賊たちの動きを完全に止める。ただし、この魔法は消費魔力が大きく、持続時間も短い。せいぜい三十秒程度。
その間に、重力魔法「グラビティ・プレス」で全員を地面に押さえつける。
そして拘束魔法「バインド・チェーン」で縛り上げる。
最後に睡眠魔法「マス・スリープ」で眠らせて、檻に閉じ込める。
これなら、証拠も残るし、後で役人に引き渡せる。
よし、やるぞ。
俺は隠密状態を維持したまま、洞窟の中央に移動した。ここなら、魔法の効果範囲に全員を収められる。
深呼吸。
魔力を全身に集中させる。レベル99の膨大な魔力が、身体の中で渦を巻く。
そして――
「タイムストップ」
世界が、止まった。
盗賊たちの動きが完全に停止する。酒を飲もうとしていた男は、杯を口元で固まっている。笑っていた男は、口を開けたまま静止している。
空気中の埃さえも、空中で停止している。
時間停止魔法。時間属性の最上位魔法の一つ。この魔法が使えるのは、世界でも数えるほどしかいない。
俺はその停止した世界の中を、自由に動ける。
急いで次の魔法を発動させる。
「グラビティ・プレス、範囲指定――盗賊全員」
重力魔法が発動する。盗賊たち全員の周囲に、紫色の魔法陣が浮かび上がる。
時間が動き出した瞬間、この魔法が彼らを地面に押さえつける。
そして、最後の魔法。
「バインド・チェーン、多重展開」
拘束魔法の魔法陣が、盗賊たち一人一人の足元に出現する。
準備完了。
三つの魔法が同時発動する状態を作り上げた。
そして、俺は時間停止を解いた。
瞬間――
「がはっ!」
「ぐおっ!」
「なんだ、これは!?」
盗賊たちが、一斉に地面に叩きつけられた。
重力魔法の効果だ。通常の十倍の重力が、彼らの身体を押さえつけている。立ち上がることはおろか、顔を上げることすらできない。
そして次の瞬間、彼らの手足に光の鎖が巻きつく。
「なんだ、これ!?」
「動けない!」
「魔法だ! 魔法攻撃だ!」
盗賊たちが混乱の声を上げる。
だが、もう遅い。
拘束魔法の鎖は、魔法金属よりも硬く、どんな力でも解けない。レベル99の俺が全力で発動させた拘束魔法を、レベル40台以下の盗賊が解除できるわけがない。
所要時間、約十秒。
俺は隠密魔法を解除した。
姿を現した俺を見て、盗賊たちが驚愕する。
「子供…?」
「ガキが一人…?」
「馬鹿な、子供がこんな魔法を…!」
リーダーのバルガが、地面に押さえつけられたまま、必死に俺を睨む。
「貴様…何者だ…!」
俺は冷たい視線を盗賊たちに向けた。
「お前たちが捕まえた人たちを、返してもらう」
七歳の子供の声。でも、そこには前世の勇者としての威圧感が込められている。
バルガが歯噛みする。
「ふざけるな…! こんな…ガキに…!」
「抵抗は無意味だ。大人しくしていろ」
俺は盗賊たちに目もくれず、檻の方へ向かった。
檻の中の人々が、驚きと希望の入り混じった表情で俺を見ている。
そして――
「アレン…?」
母エレナの声が聞こえた。
俺は母たちの檻の前に立った。
母、姉ソフィア、兄マルクの三人が、鉄格子の向こうにいる。
「母さん、姉さん、兄さん」
三人は、信じられないという表情で俺を見つめている。
「アレン…本当に、アレンなの…?」
母が震える声で聞く。
「ああ、俺だよ。迎えに来た」
「でも、どうして…村は…双子は…!」
ソフィアが慌てて聞く。
「双子は無事だ。家で眠ってる。村も大丈夫」
俺は檻の錠前を見た。頑丈な鉄製の南京錠。鍵は、恐らくリーダーが持っているだろう。
でも、鍵なんて必要ない。
俺は手を錠前にかざした。
「アンロック」
解錠魔法。錠前がカチャリと音を立てて開く。
檻の扉を開け、俺は中に入った。
「さあ、出よう」
しかし三人は、まだ呆然としている。
「アレン…お前…今の魔法は…」
マルクが信じられないという顔で言う。
「後で説明する。今は、早くここを出よう」
俺は母の手を取った。
母の手が、震えている。恐怖と安堵と混乱で、どうしていいかわからないのだろう。
「大丈夫だよ、母さん。もう安全だから」
その言葉に、母の目から涙が溢れた。
「アレン…アレン…!」
母が俺を抱きしめた。七歳の小さな身体を、力いっぱい抱きしめる。
「怖かった…怖かったわ…もうダメかと思った…」
「もう大丈夫だから。俺がいるから」
姉と兄も、檻から出てきた。
「アレン…ありがとう…でも、どうやって…」
ソフィアが涙声で言う。
「後で話す。今は他の人たちも助けないと」
俺は他の檻に向かった。
次々と解錠魔法で錠前を開けていく。
人々が檻から出てくる。皆、長い間監禁されていたのか、疲労困憊している。
「ありがとう…ありがとうございます…」
老人が俺に頭を下げる。
「お礼なんていいです。でも、まだ終わりじゃない」
俺は地面に押さえつけられている盗賊たちを見た。
「この盗賊たちを、檻に入れる」
母が驚いて聞く。
「檻に…?」
「ああ。役人に引き渡すために、ここで保管しておく。母さん、手伝ってくれる?」
母が頷く。他の大人たちも協力してくれた。
重力魔法を一時的に解除し、拘束魔法だけの状態にする。盗賊たちは動けないまま、大人たちに引きずられて檻の中に押し込まれていく。
「くそ…離せ…!」
「覚えてろ…!」
盗賊たちが悪態をつくが、もう何もできない。
二十五人全員を、五つの檻に分けて収容した。一つの檻に五人ずつ。
そして俺は、最後の魔法を使った。
「マス・スリープ」
広範囲睡眠魔法。檻の中の盗賊たち全員に効果が及ぶ。
柔らかな光が盗賊たちを包み、次々と意識を失っていく。
「ぐ…う…」
バルガが最後まで抵抗したが、結局は眠りに落ちた。
これで、当分起きない。拘束魔法と睡眠魔法の二重拘束。完璧だ。
「母さん、これから隣町グランベルに行こう」
母が戸惑った表情を見せる。
「グランベルに…?」
「ああ。兵士か冒険者ギルドに通報して、この盗賊たちを引き渡す。そうすれば、謝礼金ももらえるはずだ」
近くにいた中年の男性が口を挟んできた。
「坊や…いや、命の恩人。確かにその通りだ。人身売買の盗賊は重罪。一人引き渡すごとに金貨一枚の謝礼が出る。それに、賞金首がいればさらに追加される」
「金貨一枚…」
母が息を呑む。
この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨の三種類。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚に換算される。
金貨1枚は100万ルピナ。この貧しい村の農家が、一年働いて稼げる金額の数倍だ。
それが、盗賊一人につき1枚。
二十五人なら…金貨二十五枚。
2500万ルピナ。
この金額があれば、家族を養うどころか、村全体を救える。
「じゃあ、みんなでグランベルに行きましょう」
俺は人々に呼びかけた。
「ここに盗賊たちを残して、町で兵士に通報します。大丈夫、檻に入れて魔法で眠らせてあるから、逃げることはできません」
人々が頷く。早くこの場所から離れたいという気持ちが、顔に表れている。
そして俺たちは、洞窟を後にした。
外に出ると、日はまだ高い。昼過ぎといったところだろう。
三十人以上の集団で、隣町グランベルへ向かう。
道中、母が俺の隣を歩きながら、何度も俺を見る。
「アレン…あなた、本当に…」
言葉が続かない。信じられないという表情だ。
「後でちゃんと説明するよ、母さん。今日起きたこと、全部」
母は複雑な表情で頷いた。
約二時間後、俺たちはグランベルの町に到着した。
石造りの壁に囲まれた、小さいが活気のある町。人口は五千人ほどだろう。村とは比べ物にならない賑わいだ。
門番が、大人数の俺たちを見て驚いている。
「これは…何事だ?」
母が前に出て説明した。
「盗賊に襲われて監禁されていましたが、助けられました。兵士の詰所か冒険者ギルドに通報したいのですが」
門番の表情が真剣になる。
「盗賊…! わかった、案内する。兵士詰所はこっちだ」
門番に案内されて、町の中心部にある兵士詰所に向かう。
石造りの頑丈な建物。王国の紋章が掲げられている。
中に入ると、制服を着た兵士たちが数人いた。
受付にいた中年の兵士が、俺たちを見て立ち上がる。
「これは…民間人の方々、どうされました?」
母が再び説明する。盗賊に襲われたこと、洞窟に監禁されていたこと、助けられたこと。
そして――
「盗賊たちは、洞窟の檻に閉じ込めて、眠らせてあります」
兵士が目を見開く。
「盗賊を…捕らえた…!?」
「はい。全員で二十五人です」
「二十五人…!」
兵士が驚愕する。
「それは…かなりの規模の盗賊団だ。どなたが捕らえたのです?」
母が少し躊躇した後、俺を見た。
俺は前に出た。
「俺です」
兵士が俺を見下ろす。七歳の小さな子供。
「…君が?」
「はい。魔法を使って、盗賊たちを無力化しました」
兵士は信じられないという表情だが、母や他の人々が頷いているのを見て、態度を変えた。
「…わかりました。詳しい話を聞かせてください。それから、現場を確認させてください」
俺と母は、別室に案内された。
そこで、詳しい状況を説明する。もちろん、全ての能力は隠して、「偶然魔法の才能があった」という程度に留める。
兵士は真剣に話を聞き、メモを取っていた。
「なるほど…では、これから現場に向かいます。案内していただけますか?」
「はい」
兵士詰所から、十人の兵士が出動した。馬車も二台用意される。
俺と母、そして数人の被害者が、兵士たちと共に洞窟に戻る。
約一時間後、洞窟に到着。
中に入ると、盗賊たちはまだ檻の中で眠っている。拘束魔法も効いたまま。
「本当だ…」
兵士の隊長が驚嘆する。
「二十五人…全員捕らえられている…」
兵士たちが檻を開け、盗賊たちを馬車に運び込んでいく。拘束魔法は俺が解除したが、代わりに兵士たちが縄で縛り上げる。
睡眠魔法も徐々に解除していく。目を覚ました盗賊たちは、状況を理解して絶望する。
「くそ…終わった…」
「鉱山送りだ…」
隊長がバルガの顔を見て、目を見開いた。
「これは…『鉄腕のバルガ』!」
バルガが舌打ちする。
「知ってるのか…」
「ああ、手配書が出ている。賞金首だ。金貨十枚の賞金がかかっている」
金貨十枚。それだけで1000万ルピナ。
「他にも…この男は『疾風のガルド』。金貨五枚」
「こっちは『人斬りボルス』。金貨三枚」
次々と賞金首が判明していく。
合計すると、賞金だけで金貨三十枚。
そして一般の盗賊への謝礼が金貨二十二枚(賞金首を除く)。
総額…金貨五十二枚。
5200万ルピナ。
母が、信じられないという表情で俺を見る。
俺も、正直驚いている。こんな大金になるとは。
隊長が俺に向かって、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。この盗賊団は、長年この地域を荒らしていた悪党どもです。多くの被害者を出していました。それを、あなたが一人で…」
「いえ、たまたま魔法が使えただけです」
俺は謙遜する。
「謝礼と賞金は、後日お支払いします。住所を教えていただけますか?」
母が村の名前と家の場所を告げる。
「わかりました。一週間以内に、必ずお届けします」
こうして、盗賊討伐は無事に終わった。
帰りの馬車の中で、母が俺の手を握った。
「アレン…」
「何、母さん?」
「あなたは…本当に…すごい子ね…」
その目には、驚きと、誇りと、そして少しの不安が混じっている。
「後で、全部話すよ。家に帰ったら」
母が頷く。
「ええ…話してちょうだい。全部」
夕暮れ時、俺たちは村に戻った。
村人たちが、驚きと喜びで出迎えてくれる。
そして家に帰ると、双子がちょうど目を覚ましたところだった。
「お母さん!」
「ソフィアお姉ちゃん! マルクお兄ちゃん!」
レオとリナが飛びついていく。
母がふたりを抱きしめる。
「ただいま、レオ、リナ…心配かけてごめんね…」
姉と兄も、双子を抱きしめる。
家族全員が、揃った。
俺は、その光景を見て、心が満たされるのを感じた。
これだ。
これが、俺が守りたかったもの。
これが、俺の二度目の人生で手に入れたかったもの。
家族の絆。
温かな団欒。
そして――金貨五十二枚という、家族の未来を変える富。
しばらくして、双子が落ち着くと、母が俺を見た。
「アレン…話をしましょう。全部、聞かせて」
その目は真剣だった。優しくも、厳しくもある、母の目。
俺は頷いた。
「わかった。全部話すよ」
そして、長い夜が始まろうとしていた。
家族に、全てを打ち明ける夜が。
次回:第5話「真実の告白」
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
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「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
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パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
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+++++
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幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
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羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
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◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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