『転生勇者の俺、家族に正体を隠さず話した結果、家族も最強になった件』

アルさんのシッポ

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第1部 第1章「七歳の朝、勇者の記憶」

第4話「無双の救出劇」

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第4話「無双の救出劇」


 洞窟の奥で、盗賊たちが酒を飲んでいた。
「今日も良い獲物が手に入ったな」
 リーダーらしき大柄な男――神眼で確認した名前はバルガ、レベル45――が、満足そうに笑っている。
「ああ、特にあの若い娘は上玉だ。貴族に売れば、金貨百枚は下らねぇ」
 部下の一人が下卑た笑い声を上げる。
「母親の方もまだ若い。三十代半ばか。需要はあるだろう」
「ガキの方は…まあ、鉱山にでも売るか」
 俺の拳が、ギリリと音を立てる。
 家族を、商品のように語りやがって。
 怒りで視界が赤く染まりそうになるが、必死に堪える。今は冷静に。感情に流されて失敗するわけにはいかない。
 俺は洞窟の構造を頭の中で整理した。
 入口から続く通路は一本道。その先に開けた空間があり、そこに檻が並んでいる。盗賊たちは奥の方で酒盛りをしている。
 人質は約三十人。全員が檻の中。
 盗賊は全部で二十三人。リーダーのバルガ、幹部が五人、一般の盗賊が十七人。さらに、入口付近に見張りが二人。
 つまり、合計二十五人。
 武器は剣、斧、弓。鎧を着ている者もいるが、ほとんどは革鎧程度。
 対する俺は――レベル99、全スキルMAX。
 勝負にすらならない。
 問題は、人質を傷つけずに全員を一瞬で制圧すること。
 俺は魔法の組み合わせを考えた。
 まず、時間停止魔法「タイムストップ」。これで盗賊たちの動きを完全に止める。ただし、この魔法は消費魔力が大きく、持続時間も短い。せいぜい三十秒程度。
 その間に、重力魔法「グラビティ・プレス」で全員を地面に押さえつける。
 そして拘束魔法「バインド・チェーン」で縛り上げる。
 最後に睡眠魔法「マス・スリープ」で眠らせて、檻に閉じ込める。
 これなら、証拠も残るし、後で役人に引き渡せる。
 よし、やるぞ。
 俺は隠密状態を維持したまま、洞窟の中央に移動した。ここなら、魔法の効果範囲に全員を収められる。
 深呼吸。
 魔力を全身に集中させる。レベル99の膨大な魔力が、身体の中で渦を巻く。
 そして――
「タイムストップ」
 世界が、止まった。
 盗賊たちの動きが完全に停止する。酒を飲もうとしていた男は、杯を口元で固まっている。笑っていた男は、口を開けたまま静止している。
 空気中の埃さえも、空中で停止している。
 時間停止魔法。時間属性の最上位魔法の一つ。この魔法が使えるのは、世界でも数えるほどしかいない。
 俺はその停止した世界の中を、自由に動ける。
 急いで次の魔法を発動させる。
「グラビティ・プレス、範囲指定――盗賊全員」
 重力魔法が発動する。盗賊たち全員の周囲に、紫色の魔法陣が浮かび上がる。
 時間が動き出した瞬間、この魔法が彼らを地面に押さえつける。
 そして、最後の魔法。
「バインド・チェーン、多重展開」
 拘束魔法の魔法陣が、盗賊たち一人一人の足元に出現する。
 準備完了。
 三つの魔法が同時発動する状態を作り上げた。
 そして、俺は時間停止を解いた。
 瞬間――
「がはっ!」
「ぐおっ!」
「なんだ、これは!?」
 盗賊たちが、一斉に地面に叩きつけられた。
 重力魔法の効果だ。通常の十倍の重力が、彼らの身体を押さえつけている。立ち上がることはおろか、顔を上げることすらできない。
 そして次の瞬間、彼らの手足に光の鎖が巻きつく。
「なんだ、これ!?」
「動けない!」
「魔法だ! 魔法攻撃だ!」
 盗賊たちが混乱の声を上げる。
 だが、もう遅い。
 拘束魔法の鎖は、魔法金属よりも硬く、どんな力でも解けない。レベル99の俺が全力で発動させた拘束魔法を、レベル40台以下の盗賊が解除できるわけがない。
 所要時間、約十秒。
 俺は隠密魔法を解除した。
 姿を現した俺を見て、盗賊たちが驚愕する。
「子供…?」
「ガキが一人…?」
「馬鹿な、子供がこんな魔法を…!」
 リーダーのバルガが、地面に押さえつけられたまま、必死に俺を睨む。
「貴様…何者だ…!」
 俺は冷たい視線を盗賊たちに向けた。
「お前たちが捕まえた人たちを、返してもらう」
 七歳の子供の声。でも、そこには前世の勇者としての威圧感が込められている。
 バルガが歯噛みする。
「ふざけるな…! こんな…ガキに…!」
「抵抗は無意味だ。大人しくしていろ」
 俺は盗賊たちに目もくれず、檻の方へ向かった。
 檻の中の人々が、驚きと希望の入り混じった表情で俺を見ている。
 そして――
「アレン…?」
 母エレナの声が聞こえた。
 俺は母たちの檻の前に立った。
 母、姉ソフィア、兄マルクの三人が、鉄格子の向こうにいる。
「母さん、姉さん、兄さん」
 三人は、信じられないという表情で俺を見つめている。
「アレン…本当に、アレンなの…?」
 母が震える声で聞く。
「ああ、俺だよ。迎えに来た」
「でも、どうして…村は…双子は…!」
 ソフィアが慌てて聞く。
「双子は無事だ。家で眠ってる。村も大丈夫」
 俺は檻の錠前を見た。頑丈な鉄製の南京錠。鍵は、恐らくリーダーが持っているだろう。
 でも、鍵なんて必要ない。
 俺は手を錠前にかざした。
「アンロック」
 解錠魔法。錠前がカチャリと音を立てて開く。
 檻の扉を開け、俺は中に入った。
「さあ、出よう」
 しかし三人は、まだ呆然としている。
「アレン…お前…今の魔法は…」
 マルクが信じられないという顔で言う。
「後で説明する。今は、早くここを出よう」
 俺は母の手を取った。
 母の手が、震えている。恐怖と安堵と混乱で、どうしていいかわからないのだろう。
「大丈夫だよ、母さん。もう安全だから」
 その言葉に、母の目から涙が溢れた。
「アレン…アレン…!」
 母が俺を抱きしめた。七歳の小さな身体を、力いっぱい抱きしめる。
「怖かった…怖かったわ…もうダメかと思った…」
「もう大丈夫だから。俺がいるから」
 姉と兄も、檻から出てきた。
「アレン…ありがとう…でも、どうやって…」
 ソフィアが涙声で言う。
「後で話す。今は他の人たちも助けないと」
 俺は他の檻に向かった。
 次々と解錠魔法で錠前を開けていく。
 人々が檻から出てくる。皆、長い間監禁されていたのか、疲労困憊している。
「ありがとう…ありがとうございます…」
 老人が俺に頭を下げる。
「お礼なんていいです。でも、まだ終わりじゃない」
 俺は地面に押さえつけられている盗賊たちを見た。
「この盗賊たちを、檻に入れる」
 母が驚いて聞く。
「檻に…?」
「ああ。役人に引き渡すために、ここで保管しておく。母さん、手伝ってくれる?」
 母が頷く。他の大人たちも協力してくれた。
 重力魔法を一時的に解除し、拘束魔法だけの状態にする。盗賊たちは動けないまま、大人たちに引きずられて檻の中に押し込まれていく。
「くそ…離せ…!」
「覚えてろ…!」
 盗賊たちが悪態をつくが、もう何もできない。
 二十五人全員を、五つの檻に分けて収容した。一つの檻に五人ずつ。
 そして俺は、最後の魔法を使った。
「マス・スリープ」
 広範囲睡眠魔法。檻の中の盗賊たち全員に効果が及ぶ。
 柔らかな光が盗賊たちを包み、次々と意識を失っていく。
「ぐ…う…」
 バルガが最後まで抵抗したが、結局は眠りに落ちた。
 これで、当分起きない。拘束魔法と睡眠魔法の二重拘束。完璧だ。
「母さん、これから隣町グランベルに行こう」
 母が戸惑った表情を見せる。
「グランベルに…?」
「ああ。兵士か冒険者ギルドに通報して、この盗賊たちを引き渡す。そうすれば、謝礼金ももらえるはずだ」
 近くにいた中年の男性が口を挟んできた。
「坊や…いや、命の恩人。確かにその通りだ。人身売買の盗賊は重罪。一人引き渡すごとに金貨一枚の謝礼が出る。それに、賞金首がいればさらに追加される」
「金貨一枚…」
 母が息を呑む。
 この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨の三種類。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚に換算される。
 金貨1枚は100万ルピナ。この貧しい村の農家が、一年働いて稼げる金額の数倍だ。
 それが、盗賊一人につき1枚。
 二十五人なら…金貨二十五枚。
 2500万ルピナ。
 この金額があれば、家族を養うどころか、村全体を救える。
「じゃあ、みんなでグランベルに行きましょう」
 俺は人々に呼びかけた。
「ここに盗賊たちを残して、町で兵士に通報します。大丈夫、檻に入れて魔法で眠らせてあるから、逃げることはできません」
 人々が頷く。早くこの場所から離れたいという気持ちが、顔に表れている。
 そして俺たちは、洞窟を後にした。
 外に出ると、日はまだ高い。昼過ぎといったところだろう。
 三十人以上の集団で、隣町グランベルへ向かう。
 道中、母が俺の隣を歩きながら、何度も俺を見る。
「アレン…あなた、本当に…」
 言葉が続かない。信じられないという表情だ。
「後でちゃんと説明するよ、母さん。今日起きたこと、全部」
 母は複雑な表情で頷いた。
 約二時間後、俺たちはグランベルの町に到着した。
 石造りの壁に囲まれた、小さいが活気のある町。人口は五千人ほどだろう。村とは比べ物にならない賑わいだ。
 門番が、大人数の俺たちを見て驚いている。
「これは…何事だ?」
 母が前に出て説明した。
「盗賊に襲われて監禁されていましたが、助けられました。兵士の詰所か冒険者ギルドに通報したいのですが」
 門番の表情が真剣になる。
「盗賊…! わかった、案内する。兵士詰所はこっちだ」
 門番に案内されて、町の中心部にある兵士詰所に向かう。
 石造りの頑丈な建物。王国の紋章が掲げられている。
 中に入ると、制服を着た兵士たちが数人いた。
 受付にいた中年の兵士が、俺たちを見て立ち上がる。
「これは…民間人の方々、どうされました?」
 母が再び説明する。盗賊に襲われたこと、洞窟に監禁されていたこと、助けられたこと。
 そして――
「盗賊たちは、洞窟の檻に閉じ込めて、眠らせてあります」
 兵士が目を見開く。
「盗賊を…捕らえた…!?」
「はい。全員で二十五人です」
「二十五人…!」
 兵士が驚愕する。
「それは…かなりの規模の盗賊団だ。どなたが捕らえたのです?」
 母が少し躊躇した後、俺を見た。
 俺は前に出た。
「俺です」
 兵士が俺を見下ろす。七歳の小さな子供。
「…君が?」
「はい。魔法を使って、盗賊たちを無力化しました」
 兵士は信じられないという表情だが、母や他の人々が頷いているのを見て、態度を変えた。
「…わかりました。詳しい話を聞かせてください。それから、現場を確認させてください」
 俺と母は、別室に案内された。
 そこで、詳しい状況を説明する。もちろん、全ての能力は隠して、「偶然魔法の才能があった」という程度に留める。
 兵士は真剣に話を聞き、メモを取っていた。
「なるほど…では、これから現場に向かいます。案内していただけますか?」
「はい」
 兵士詰所から、十人の兵士が出動した。馬車も二台用意される。
 俺と母、そして数人の被害者が、兵士たちと共に洞窟に戻る。
 約一時間後、洞窟に到着。
 中に入ると、盗賊たちはまだ檻の中で眠っている。拘束魔法も効いたまま。
「本当だ…」
 兵士の隊長が驚嘆する。
「二十五人…全員捕らえられている…」
 兵士たちが檻を開け、盗賊たちを馬車に運び込んでいく。拘束魔法は俺が解除したが、代わりに兵士たちが縄で縛り上げる。
 睡眠魔法も徐々に解除していく。目を覚ました盗賊たちは、状況を理解して絶望する。
「くそ…終わった…」
「鉱山送りだ…」
 隊長がバルガの顔を見て、目を見開いた。
「これは…『鉄腕のバルガ』!」
 バルガが舌打ちする。
「知ってるのか…」
「ああ、手配書が出ている。賞金首だ。金貨十枚の賞金がかかっている」
 金貨十枚。それだけで1000万ルピナ。
「他にも…この男は『疾風のガルド』。金貨五枚」
「こっちは『人斬りボルス』。金貨三枚」
 次々と賞金首が判明していく。
 合計すると、賞金だけで金貨三十枚。
 そして一般の盗賊への謝礼が金貨二十二枚(賞金首を除く)。
 総額…金貨五十二枚。
 5200万ルピナ。
 母が、信じられないという表情で俺を見る。
 俺も、正直驚いている。こんな大金になるとは。
 隊長が俺に向かって、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。この盗賊団は、長年この地域を荒らしていた悪党どもです。多くの被害者を出していました。それを、あなたが一人で…」
「いえ、たまたま魔法が使えただけです」
 俺は謙遜する。
「謝礼と賞金は、後日お支払いします。住所を教えていただけますか?」
 母が村の名前と家の場所を告げる。
「わかりました。一週間以内に、必ずお届けします」
 こうして、盗賊討伐は無事に終わった。
 帰りの馬車の中で、母が俺の手を握った。
「アレン…」
「何、母さん?」
「あなたは…本当に…すごい子ね…」
 その目には、驚きと、誇りと、そして少しの不安が混じっている。
「後で、全部話すよ。家に帰ったら」
 母が頷く。
「ええ…話してちょうだい。全部」
 夕暮れ時、俺たちは村に戻った。
 村人たちが、驚きと喜びで出迎えてくれる。
 そして家に帰ると、双子がちょうど目を覚ましたところだった。
「お母さん!」
「ソフィアお姉ちゃん! マルクお兄ちゃん!」
 レオとリナが飛びついていく。
 母がふたりを抱きしめる。
「ただいま、レオ、リナ…心配かけてごめんね…」
 姉と兄も、双子を抱きしめる。
 家族全員が、揃った。
 俺は、その光景を見て、心が満たされるのを感じた。
 これだ。
 これが、俺が守りたかったもの。
 これが、俺の二度目の人生で手に入れたかったもの。
 家族の絆。
 温かな団欒。
 そして――金貨五十二枚という、家族の未来を変える富。
 しばらくして、双子が落ち着くと、母が俺を見た。
「アレン…話をしましょう。全部、聞かせて」
 その目は真剣だった。優しくも、厳しくもある、母の目。
 俺は頷いた。
「わかった。全部話すよ」
 そして、長い夜が始まろうとしていた。
 家族に、全てを打ち明ける夜が。


次回:第5話「真実の告白」


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