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第1部 第1章「七歳の朝、勇者の記憶」
第6話「村の朝と新たな決意」
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第6話「村の朝と新たな決意」
朝日が、粗末な木の窓から差し込んできた。
俺は二段ベッドの上段で目を覚ました。昨日とは違い、身体は軽く、力に満ちている。
そして、心も満たされていた。
家族に全てを打ち明けた。前世のこと、勇者だったこと、転生したこと。
それを、家族は受け入れてくれた。
否定せず、恐れず、ただ抱きしめてくれた。
これほど幸せなことがあるだろうか。
ベッドから降りると、下のベッドで双子がまだ眠っている。レオとリナの安らかな寝顔。昨日の朝とは違い、血色も良く、穏やかな表情だ。
そっと部屋を出ると、台所から良い匂いがしてきた。
「あら、おはよう、アレン」
母が振り返って微笑む。その手には、フライパン。空間収納から出した卵を焼いているようだ。
「おはよう、母さん。朝から料理?」
「ええ。あなたが出してくれた食材、使わせてもらってるわ。久しぶりにまともな朝食が作れる」
母の表情は明るい。昨日の恐怖から解放され、家族全員が無事で、そして未来への希望がある。
「姉さんと兄さんは?」
「もう起きてるわ。外で顔を洗ってる」
窓の外を見ると、井戸のそばでソフィアとマルクが顔を洗っていた。朝日を浴びて、二人とも清々しい表情をしている。
「アレン」
母が真剣な表情で俺を見た。
「昨日の話…まだ信じられない部分もあるけど、でも全部受け止めるわ。あなたは私の息子。それは変わらない」
「母さん…」
「それに、あなたの力で、この村の人たちを助けられるなら…それは素晴らしいことだと思う」
母が優しく微笑む。
「万能丸薬を配りたいって言ってたわね。本当にいいの?」
「ああ。三万個もあるんだ。村の人たち全員に配っても、まだたくさん残る」
「じゃあ、朝食の後、村中に声をかけましょう。村長さんにも話を通さないと」
しばらくして、家族全員が食卓に集まった。
卵焼き、パン、チーズ、果物。この家では見たことのない豪華な朝食。双子は大喜びで、ソフィアとマルクも嬉しそうに食べている。
「美味しい!」
レオが満面の笑みで言う。
「お母さん、すごい!」
リナも嬉しそうだ。
母が幸せそうに微笑む。
「アレンのおかげよ。食材があれば、私だっていくらでも料理できるわ」
朝食を終えると、俺は空間収納から丸薬の入った袋を二つ取り出し、母に渡した。一袋に万能丸薬が百個ほど入っている。
「ここの村人は約二百人弱だから、これで足りる筈だよ」
ソフィアが袋を見つめる。
「これで…村の人たちが…」
「ああ。病気や怪我で苦しんでいる人も、これで治る」
準備が整うと、俺たちは外に出た。
村の朝は静かだ。人々はまだ家の中にいるか、畑に向かっているか。活気があるとは言えない。
それもそのはず、この村は貧しい。作物はろくに育たず、税は重く、多くの家族が飢えに苦しんでいる。
俺たちはまず、村長の家に向かった。
村長の家は、村の中では比較的大きいが、それでも他の村の普通の家と同程度だ。
扉をノックすると、初老の男性が出てきた。村長のゲオルグ。白髪混じりの髪、深く刻まれた皺。この村の苦労を一身に背負ってきた顔だ。
「これは、エレナさん。昨日は大変でしたね。ご無事で何よりです」
「ありがとうございます、村長」
母が頭を下げる。
「実は、村長にお願いがあって参りました」
「お願い?」
「はい。息子のアレンが、村の皆さんに薬を配りたいと言っておりまして」
村長が俺を見る。
「アレン坊主が…? 昨日、盗賊を捕まえたという…」
「はい」
俺は前に出た。
「村長、俺は偶然、魔法の才能があって、貴重な薬を手に入れることができました。それを、村の皆さんに配りたいんです」
「薬…?」
「万能薬です。病気や怪我を治し、栄養も補給できる薬です」
村長が目を見開く。
「そんな…万能薬など…高価で…」
「大丈夫です。俺にはたくさんあります。村の全員に配れるくらい」
村長は信じられないという表情だったが、母が頷くのを見て、真剣な顔になった。
「本当に…よろしいのですか?」
「はい。この村の皆さんには、いつもお世話になっています。少しでも恩返しがしたいんです」
村長の目が潤む。
「アレン坊主…ありがとう…」
老人が深々と頭を下げる。
「この村は貧しく、多くの者が病や怪我で苦しんでおります。治癒魔法を使える者もおらず、薬を買う金もなく…見ているしかなかった…」
村長の声が震える。
「それを…救ってくださるとは…」
「村長、みんなを集めてもらえますか?」
「ああ、すぐに」
村長が鐘を鳴らした。
カンカンカン、と大きな音が村中に響く。
これは、村の集会を知らせる合図だ。
数分後、村の中央広場に人々が集まり始めた。
老人、子供、女性、若者。皆、痩せていて、服はボロボロで、疲れた表情をしている。
それでも、昨日救出された人々は、感謝の笑顔で俺を見ていた。
「あの子が…」
「私たちを助けてくれた…」
囁き声が広がる。
村長が前に出て、村人たちに説明した。
「皆の衆、聞いてくれ。アレン坊主が、我々のために貴重な薬を分けてくださるそうだ」
村人たちがざわつく。
「薬…?」
「本当か…?」
俺は前に出た。
「皆さん、おはようございます。俺はアレン・ヴァルトハイムです。今日、皆さんに万能薬を配りたいと思います」
小さな袋を掲げる。
「この中には、病気や怪我を治し、栄養を補給できる薬が入っています。一人に一粒ずつ、お配りします」
村人たちが驚きの表情を浮かべる。
「ただし、一つお願いがあります」
俺は真剣な表情で言う。
「この薬のことは、村の外では話さないでください。もし外部の人間に知られたら、悪い人たちが狙ってくるかもしれません」
村人たちが頷く。
「わかった」
「誰にも言わない」
「命の恩人の頼みだ、守るとも」
俺は母と姉と兄と一緒に、一人ずつ薬を配り始めた。
最初は、足を悪くしている老人だった。
「これを…どうぞ」
袋を渡すと、老人が涙を流した。
「ありがとう…ありがとう…この足が治れば…また畑仕事ができる…」
「きっと治りますよ。一粒食べてみてください」
老人が震える手で袋を開け、金色の丸薬を取り出す。
そして口に入れた。
数秒後――
「おお…!」
老人の顔色が変わる。足を動かしてみると、痛みがないようだ。
「痛くない…! 足が…治った…!」
杖を手放し、自分の足で立ち上がる老人。
周囲の村人たちが驚愕する。
「本当だ…!」
「魔法の薬だ…!」
次々と、村人たちに配っていく。
病気の子供を抱えた母親。
「これで…この子が…」
怪我をした若者。
「ありがとう、アレン!」
栄養失調で痩せ細った家族。
「これで…お腹いっぱいになれる…」
村人たちが次々と薬を服用し、みるみる元気になっていく。
病気が治り、怪我が癒え、痩せた身体に肉がつき始める。
広場は、歓声と涙に包まれた。
「治った…!」
「ありがとう、アレン!」
「神様のようだ…!」
俺は、その光景を見て、心が温かくなるのを感じた。
これだ。
これが、俺がやりたかったこと。
前世では、魔王を倒しても、結局は一部の権力者のためにしかならなかった。
でも、この世界では違う。
本当に困っている人たちを、直接助けられる。
その喜びが、顔に表れる。
全員に配り終えた頃には、村中が活気に満ちていた。
村長が涙を流しながら、俺の手を握った。
「アレン坊主…この恩は、一生忘れない…」
「村長、そんな大げさなこと言わないでください。俺はただのアレンです」
「いいや、あなたは我々の救世主だ」
村人たちが口々に感謝の言葉を述べる。
その中に、一人の中年女性がいた。彼女は泣きながら、小さな女の子の手を引いている。
「アレン…娘が…娘が…三年間、熱病で寝たきりだったのに…立てるようになった…!」
女の子が、恥ずかしそうに俺を見ている。頬に赤みが戻り、目には輝きがある。
「よかった…」
俺は女の子に優しく微笑みかけた。
「これからは、たくさん遊べるね」
女の子が小さく頷いて、微笑んだ。
母が俺の肩に手を置く。
「アレン…あなたは…素晴らしいわ…」
その目には誇りと愛情が満ちている。
ソフィアも感動している。
「私も…こんな風に人を助けられるようになりたい…」
マルクも決意に満ちた表情だ。
「僕も…強くなって、困っている人を助けたい」
双子も嬉しそうに飛び跳ねている。
「お兄ちゃん、すごい!」
「みんな元気になった!」
俺は家族を見回した。
この家族と一緒なら、どんなことでもできる気がした。
そして、村人たちを見回した。
かつての絶望的な表情は消え、希望に満ちた顔がそこにあった。
村長が言う。
「アレン、これから我々に何かできることがあれば、何でも言ってくれ」
「村長、一つお願いがあります」
「何だ?」
「俺は、これから冒険者になろうと思っています。魔物を倒したり、依頼をこなしたりして、お金を稼ぎたい」
村人たちがざわつく。
「冒険者…七歳で…?」
「でも、昨日盗賊を倒したんだ」
「確かに…あの子なら…」
「それで、時々村を留守にすることがあるかもしれません。その間、家族のことを見守っていてもらえますか?」
村長が力強く頷く。
「もちろんだ。あなたの家族は、我々が命をかけて守る」
村人たちも口々に言う。
「当然だ」
「恩人の家族だ、何かあったら皆で守る」
「アレンに何かあったら、この村全体で助ける」
俺は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
そして顔を上げる。
「それと、もう一つ。この村を、もっと豊かにしたいと思っています」
村人たちが驚く。
「豊かに…?」
「ええ。農業の技術を改善したり、新しい作物を育てたり、商売を始めたり。時間はかかるけど、必ずこの村を、誰もが幸せに暮らせる場所にします」
村長の目から、また涙が溢れる。
「アレン坊主…あなたは…本当に…」
「村長、俺はこの村で生まれ育ちました。この村が好きです。だから、良くしたいんです」
村人たちが拍手を始めた。
パチパチパチ、と温かい拍手が広場に響く。
その拍手の中で、俺は決意を新たにした。
この村を守る。
この村を発展させる。
家族と村人たちと一緒に、幸せな未来を作る。
それが、俺の二度目の人生の目標だ。
集会が終わり、家に戻ると、母が言った。
「アレン、今日は本当にありがとう。村のみんな、あんなに嬉しそうだった」
「俺も嬉しかったよ、母さん。人を助けるって、こんなに気持ちいいことなんだって、初めて実感した」
ソフィアが言う。
「ねえ、アレン。訓練、今日から始めるの?」
「ああ。でもまずは基礎からだ。いきなり魔法を使おうとしても、身体がついていかない」
マルクが聞く。
「どんな訓練?」
「まずは体力作り。走ったり、筋トレしたり。それから、魔力を感じる練習。魔法を使うには、まず自分の中の魔力を感じ取れないといけない」
双子も興味津々だ。
「僕たちも!」
「私も!」
「双子はまだ小さいから、遊びながら魔力を感じる練習だけでいい。本格的な訓練は、もう少し大きくなってからだ」
母が言う。
「私も…できるかしら…」
「もちろんだよ、母さん。母さんには治癒術師になってほしい。村の人たちを癒せる、素晴らしい治癒術師に」
母が優しく微笑む。
「わかったわ。頑張る」
その時、双子のレオがクスクスと笑い出した。
「ねえねえ、リナ」
「何?」
「お兄ちゃんの喋り方、おじさんみたい」
リナも笑い出す。
「本当だ! 『俺』とか『ああ』とか、おじさんみたい!」
「お兄ちゃん、七歳なのに!」
二人が笑いながら俺を見る。
その言葉に、俺は――いや、僕は――ハッとした。
そうだ。
記憶が戻ってから、ずっと前世の人格に引っ張られていた。
二十七歳で死んだ勇者、ハルト・タカハシの人格に。
「俺」という一人称。
大人びた口調。
冷静で戦略的な思考。
でも、今の僕は――七歳のアレン・ヴァルトハイムなんだ。
確かに前世の記憶はある。でも、この七年間、この家族と過ごしてきた記憶もある。
母さんに抱かれた温もり。
姉さんや兄さんと遊んだ日々。
双子が生まれた時の喜び。
この家族と過ごした、大切な七年間。
急に、今までの自分の言動が恥ずかしくなってきた。
七歳の子供が「俺」とか言って、大人びた口調で…
顔が熱くなる。
「あ、あの…」
僕は慌てて言い直す。
「ご、ごめん。最近、ちょっと変だったかも…」
母さんが優しく微笑む。
「アレン、無理しなくていいのよ。あなたは七歳なんだから」
ソフィアも頷く。
「そうだよ。前世がどうとか、勇者がどうとか、そんなの関係ない。あなたは私たちの可愛い弟なんだから」
マルクも言う。
「うん。普通に喋っていいよ」
双子が嬉しそうに抱きついてくる。
「お兄ちゃん、可愛い!」
「恥ずかしがってる!」
家族のその言葉に、心が温かくなった。
そうだ。
前世は前世。今は今。
確かに前世の記憶と経験は大切だ。でも、それに引っ張られすぎていた。
今の僕は、七歳のアレン。
この家族の一員なんだ。
「うん…これから、もうちょっと…七歳らしく…喋るね」
僕は少し照れながら言った。
家族がみんな、温かく微笑んでくれる。
「それでいいのよ」
母さんが優しく頭を撫でてくれる。
「さあ、お昼ご飯にしましょう。今日は特別に豪華にするわ」
「やった!」
双子が喜ぶ。
家族の笑い声が、家の中に響く。
温かく、優しく、幸せな音。
これが、僕の二度目の人生。
これが、僕が守りたいもの。
そして、これが、僕のこれからの日々の始まりだった。
――元勇者の少年が、家族と共に歩む、新しい物語が、今、始まろうとしていた。
その夜、ベッドに入る前に、窓の外を見上げた。
満天の星空。
その中で、一つの星が特に明るく輝いていた。
「セレスティア、見ていてくれた?」
小さく呟く。
「家族に全てを話して、受け入れてもらえたよ。それに…本当の自分を取り戻せた気がするんだ」
星が優しく瞬く。
まるで、女神が微笑んでいるかのように。
「これからは、七歳の僕として。でも、前世の経験も活かして。家族と一緒に、頑張るね」
そして、僕は安らかな眠りについた。
明日も、家族と一緒に。
新しい一日が、待っている。
次回:第7話「冒険者への第一歩」
朝日が、粗末な木の窓から差し込んできた。
俺は二段ベッドの上段で目を覚ました。昨日とは違い、身体は軽く、力に満ちている。
そして、心も満たされていた。
家族に全てを打ち明けた。前世のこと、勇者だったこと、転生したこと。
それを、家族は受け入れてくれた。
否定せず、恐れず、ただ抱きしめてくれた。
これほど幸せなことがあるだろうか。
ベッドから降りると、下のベッドで双子がまだ眠っている。レオとリナの安らかな寝顔。昨日の朝とは違い、血色も良く、穏やかな表情だ。
そっと部屋を出ると、台所から良い匂いがしてきた。
「あら、おはよう、アレン」
母が振り返って微笑む。その手には、フライパン。空間収納から出した卵を焼いているようだ。
「おはよう、母さん。朝から料理?」
「ええ。あなたが出してくれた食材、使わせてもらってるわ。久しぶりにまともな朝食が作れる」
母の表情は明るい。昨日の恐怖から解放され、家族全員が無事で、そして未来への希望がある。
「姉さんと兄さんは?」
「もう起きてるわ。外で顔を洗ってる」
窓の外を見ると、井戸のそばでソフィアとマルクが顔を洗っていた。朝日を浴びて、二人とも清々しい表情をしている。
「アレン」
母が真剣な表情で俺を見た。
「昨日の話…まだ信じられない部分もあるけど、でも全部受け止めるわ。あなたは私の息子。それは変わらない」
「母さん…」
「それに、あなたの力で、この村の人たちを助けられるなら…それは素晴らしいことだと思う」
母が優しく微笑む。
「万能丸薬を配りたいって言ってたわね。本当にいいの?」
「ああ。三万個もあるんだ。村の人たち全員に配っても、まだたくさん残る」
「じゃあ、朝食の後、村中に声をかけましょう。村長さんにも話を通さないと」
しばらくして、家族全員が食卓に集まった。
卵焼き、パン、チーズ、果物。この家では見たことのない豪華な朝食。双子は大喜びで、ソフィアとマルクも嬉しそうに食べている。
「美味しい!」
レオが満面の笑みで言う。
「お母さん、すごい!」
リナも嬉しそうだ。
母が幸せそうに微笑む。
「アレンのおかげよ。食材があれば、私だっていくらでも料理できるわ」
朝食を終えると、俺は空間収納から丸薬の入った袋を二つ取り出し、母に渡した。一袋に万能丸薬が百個ほど入っている。
「ここの村人は約二百人弱だから、これで足りる筈だよ」
ソフィアが袋を見つめる。
「これで…村の人たちが…」
「ああ。病気や怪我で苦しんでいる人も、これで治る」
準備が整うと、俺たちは外に出た。
村の朝は静かだ。人々はまだ家の中にいるか、畑に向かっているか。活気があるとは言えない。
それもそのはず、この村は貧しい。作物はろくに育たず、税は重く、多くの家族が飢えに苦しんでいる。
俺たちはまず、村長の家に向かった。
村長の家は、村の中では比較的大きいが、それでも他の村の普通の家と同程度だ。
扉をノックすると、初老の男性が出てきた。村長のゲオルグ。白髪混じりの髪、深く刻まれた皺。この村の苦労を一身に背負ってきた顔だ。
「これは、エレナさん。昨日は大変でしたね。ご無事で何よりです」
「ありがとうございます、村長」
母が頭を下げる。
「実は、村長にお願いがあって参りました」
「お願い?」
「はい。息子のアレンが、村の皆さんに薬を配りたいと言っておりまして」
村長が俺を見る。
「アレン坊主が…? 昨日、盗賊を捕まえたという…」
「はい」
俺は前に出た。
「村長、俺は偶然、魔法の才能があって、貴重な薬を手に入れることができました。それを、村の皆さんに配りたいんです」
「薬…?」
「万能薬です。病気や怪我を治し、栄養も補給できる薬です」
村長が目を見開く。
「そんな…万能薬など…高価で…」
「大丈夫です。俺にはたくさんあります。村の全員に配れるくらい」
村長は信じられないという表情だったが、母が頷くのを見て、真剣な顔になった。
「本当に…よろしいのですか?」
「はい。この村の皆さんには、いつもお世話になっています。少しでも恩返しがしたいんです」
村長の目が潤む。
「アレン坊主…ありがとう…」
老人が深々と頭を下げる。
「この村は貧しく、多くの者が病や怪我で苦しんでおります。治癒魔法を使える者もおらず、薬を買う金もなく…見ているしかなかった…」
村長の声が震える。
「それを…救ってくださるとは…」
「村長、みんなを集めてもらえますか?」
「ああ、すぐに」
村長が鐘を鳴らした。
カンカンカン、と大きな音が村中に響く。
これは、村の集会を知らせる合図だ。
数分後、村の中央広場に人々が集まり始めた。
老人、子供、女性、若者。皆、痩せていて、服はボロボロで、疲れた表情をしている。
それでも、昨日救出された人々は、感謝の笑顔で俺を見ていた。
「あの子が…」
「私たちを助けてくれた…」
囁き声が広がる。
村長が前に出て、村人たちに説明した。
「皆の衆、聞いてくれ。アレン坊主が、我々のために貴重な薬を分けてくださるそうだ」
村人たちがざわつく。
「薬…?」
「本当か…?」
俺は前に出た。
「皆さん、おはようございます。俺はアレン・ヴァルトハイムです。今日、皆さんに万能薬を配りたいと思います」
小さな袋を掲げる。
「この中には、病気や怪我を治し、栄養を補給できる薬が入っています。一人に一粒ずつ、お配りします」
村人たちが驚きの表情を浮かべる。
「ただし、一つお願いがあります」
俺は真剣な表情で言う。
「この薬のことは、村の外では話さないでください。もし外部の人間に知られたら、悪い人たちが狙ってくるかもしれません」
村人たちが頷く。
「わかった」
「誰にも言わない」
「命の恩人の頼みだ、守るとも」
俺は母と姉と兄と一緒に、一人ずつ薬を配り始めた。
最初は、足を悪くしている老人だった。
「これを…どうぞ」
袋を渡すと、老人が涙を流した。
「ありがとう…ありがとう…この足が治れば…また畑仕事ができる…」
「きっと治りますよ。一粒食べてみてください」
老人が震える手で袋を開け、金色の丸薬を取り出す。
そして口に入れた。
数秒後――
「おお…!」
老人の顔色が変わる。足を動かしてみると、痛みがないようだ。
「痛くない…! 足が…治った…!」
杖を手放し、自分の足で立ち上がる老人。
周囲の村人たちが驚愕する。
「本当だ…!」
「魔法の薬だ…!」
次々と、村人たちに配っていく。
病気の子供を抱えた母親。
「これで…この子が…」
怪我をした若者。
「ありがとう、アレン!」
栄養失調で痩せ細った家族。
「これで…お腹いっぱいになれる…」
村人たちが次々と薬を服用し、みるみる元気になっていく。
病気が治り、怪我が癒え、痩せた身体に肉がつき始める。
広場は、歓声と涙に包まれた。
「治った…!」
「ありがとう、アレン!」
「神様のようだ…!」
俺は、その光景を見て、心が温かくなるのを感じた。
これだ。
これが、俺がやりたかったこと。
前世では、魔王を倒しても、結局は一部の権力者のためにしかならなかった。
でも、この世界では違う。
本当に困っている人たちを、直接助けられる。
その喜びが、顔に表れる。
全員に配り終えた頃には、村中が活気に満ちていた。
村長が涙を流しながら、俺の手を握った。
「アレン坊主…この恩は、一生忘れない…」
「村長、そんな大げさなこと言わないでください。俺はただのアレンです」
「いいや、あなたは我々の救世主だ」
村人たちが口々に感謝の言葉を述べる。
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「アレン…娘が…娘が…三年間、熱病で寝たきりだったのに…立てるようになった…!」
女の子が、恥ずかしそうに俺を見ている。頬に赤みが戻り、目には輝きがある。
「よかった…」
俺は女の子に優しく微笑みかけた。
「これからは、たくさん遊べるね」
女の子が小さく頷いて、微笑んだ。
母が俺の肩に手を置く。
「アレン…あなたは…素晴らしいわ…」
その目には誇りと愛情が満ちている。
ソフィアも感動している。
「私も…こんな風に人を助けられるようになりたい…」
マルクも決意に満ちた表情だ。
「僕も…強くなって、困っている人を助けたい」
双子も嬉しそうに飛び跳ねている。
「お兄ちゃん、すごい!」
「みんな元気になった!」
俺は家族を見回した。
この家族と一緒なら、どんなことでもできる気がした。
そして、村人たちを見回した。
かつての絶望的な表情は消え、希望に満ちた顔がそこにあった。
村長が言う。
「アレン、これから我々に何かできることがあれば、何でも言ってくれ」
「村長、一つお願いがあります」
「何だ?」
「俺は、これから冒険者になろうと思っています。魔物を倒したり、依頼をこなしたりして、お金を稼ぎたい」
村人たちがざわつく。
「冒険者…七歳で…?」
「でも、昨日盗賊を倒したんだ」
「確かに…あの子なら…」
「それで、時々村を留守にすることがあるかもしれません。その間、家族のことを見守っていてもらえますか?」
村長が力強く頷く。
「もちろんだ。あなたの家族は、我々が命をかけて守る」
村人たちも口々に言う。
「当然だ」
「恩人の家族だ、何かあったら皆で守る」
「アレンに何かあったら、この村全体で助ける」
俺は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
そして顔を上げる。
「それと、もう一つ。この村を、もっと豊かにしたいと思っています」
村人たちが驚く。
「豊かに…?」
「ええ。農業の技術を改善したり、新しい作物を育てたり、商売を始めたり。時間はかかるけど、必ずこの村を、誰もが幸せに暮らせる場所にします」
村長の目から、また涙が溢れる。
「アレン坊主…あなたは…本当に…」
「村長、俺はこの村で生まれ育ちました。この村が好きです。だから、良くしたいんです」
村人たちが拍手を始めた。
パチパチパチ、と温かい拍手が広場に響く。
その拍手の中で、俺は決意を新たにした。
この村を守る。
この村を発展させる。
家族と村人たちと一緒に、幸せな未来を作る。
それが、俺の二度目の人生の目標だ。
集会が終わり、家に戻ると、母が言った。
「アレン、今日は本当にありがとう。村のみんな、あんなに嬉しそうだった」
「俺も嬉しかったよ、母さん。人を助けるって、こんなに気持ちいいことなんだって、初めて実感した」
ソフィアが言う。
「ねえ、アレン。訓練、今日から始めるの?」
「ああ。でもまずは基礎からだ。いきなり魔法を使おうとしても、身体がついていかない」
マルクが聞く。
「どんな訓練?」
「まずは体力作り。走ったり、筋トレしたり。それから、魔力を感じる練習。魔法を使うには、まず自分の中の魔力を感じ取れないといけない」
双子も興味津々だ。
「僕たちも!」
「私も!」
「双子はまだ小さいから、遊びながら魔力を感じる練習だけでいい。本格的な訓練は、もう少し大きくなってからだ」
母が言う。
「私も…できるかしら…」
「もちろんだよ、母さん。母さんには治癒術師になってほしい。村の人たちを癒せる、素晴らしい治癒術師に」
母が優しく微笑む。
「わかったわ。頑張る」
その時、双子のレオがクスクスと笑い出した。
「ねえねえ、リナ」
「何?」
「お兄ちゃんの喋り方、おじさんみたい」
リナも笑い出す。
「本当だ! 『俺』とか『ああ』とか、おじさんみたい!」
「お兄ちゃん、七歳なのに!」
二人が笑いながら俺を見る。
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そうだ。
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「俺」という一人称。
大人びた口調。
冷静で戦略的な思考。
でも、今の僕は――七歳のアレン・ヴァルトハイムなんだ。
確かに前世の記憶はある。でも、この七年間、この家族と過ごしてきた記憶もある。
母さんに抱かれた温もり。
姉さんや兄さんと遊んだ日々。
双子が生まれた時の喜び。
この家族と過ごした、大切な七年間。
急に、今までの自分の言動が恥ずかしくなってきた。
七歳の子供が「俺」とか言って、大人びた口調で…
顔が熱くなる。
「あ、あの…」
僕は慌てて言い直す。
「ご、ごめん。最近、ちょっと変だったかも…」
母さんが優しく微笑む。
「アレン、無理しなくていいのよ。あなたは七歳なんだから」
ソフィアも頷く。
「そうだよ。前世がどうとか、勇者がどうとか、そんなの関係ない。あなたは私たちの可愛い弟なんだから」
マルクも言う。
「うん。普通に喋っていいよ」
双子が嬉しそうに抱きついてくる。
「お兄ちゃん、可愛い!」
「恥ずかしがってる!」
家族のその言葉に、心が温かくなった。
そうだ。
前世は前世。今は今。
確かに前世の記憶と経験は大切だ。でも、それに引っ張られすぎていた。
今の僕は、七歳のアレン。
この家族の一員なんだ。
「うん…これから、もうちょっと…七歳らしく…喋るね」
僕は少し照れながら言った。
家族がみんな、温かく微笑んでくれる。
「それでいいのよ」
母さんが優しく頭を撫でてくれる。
「さあ、お昼ご飯にしましょう。今日は特別に豪華にするわ」
「やった!」
双子が喜ぶ。
家族の笑い声が、家の中に響く。
温かく、優しく、幸せな音。
これが、僕の二度目の人生。
これが、僕が守りたいもの。
そして、これが、僕のこれからの日々の始まりだった。
――元勇者の少年が、家族と共に歩む、新しい物語が、今、始まろうとしていた。
その夜、ベッドに入る前に、窓の外を見上げた。
満天の星空。
その中で、一つの星が特に明るく輝いていた。
「セレスティア、見ていてくれた?」
小さく呟く。
「家族に全てを話して、受け入れてもらえたよ。それに…本当の自分を取り戻せた気がするんだ」
星が優しく瞬く。
まるで、女神が微笑んでいるかのように。
「これからは、七歳の僕として。でも、前世の経験も活かして。家族と一緒に、頑張るね」
そして、僕は安らかな眠りについた。
明日も、家族と一緒に。
新しい一日が、待っている。
次回:第7話「冒険者への第一歩」
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追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
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+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
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パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
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◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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