17 / 65
第1部 第4章「新たな脅威」
第17話「東の森の脅威」
第17話「東の森の脅威」
町への昇格式の翌々日、早朝。
僕たちは東の森への調査に出発した。
メンバーは、僕、母さん、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル。
そして、町の冒険者十人。
合計十五人のパーティーだ。
双子は、ゲオルグさんに預けた。
泣きながら見送ってくれる。
「お兄ちゃん、気をつけてね!」
「早く帰ってきてね!」
「うん、大丈夫だよ。すぐに帰ってくるから」
僕は二人の頭を撫でた。
「レオ、リナ、留守番お願いね」
「…うん」
二人が渋々頷く。
ゲオルグさんが言う。
「アレン、無理はするなよ」
「わかってます。調査するだけですから」
僕たちは町を出発した。
東の森は、町から徒歩で三時間ほどの場所にある。
深い森で、普段はあまり人が入らない。
魔物の目撃情報が増えているというのが、領主からの報告だった。
森の入口に着くと、僕は全員に身体強化魔法をかけた。
「ブースト・アップ、マイルド」
柔らかな光が全員を包む。
視力、聴力、反射神経が高まる。
「みんな、警戒してね。何が出るかわからない」
全員が頷く。
僕たちは慎重に森の中に入っていった。
森の中は薄暗かった。
木々が鬱蒼と茂り、太陽の光が遮られている。
でも、神眼があれば問題ない。
僕は周囲を警戒しながら進む。
しばらく進むと、最初の魔物と遭遇した。
ゴブリンの群れ。十体ほど。
「前方にゴブリン十体」
僕が囁くように告げる。
冒険者たちが武器を構える。
「行くぞ」
ソフィア姉さんが先頭に出る。
剣に炎を纏わせ、ゴブリンに斬りかかる。
一閃。
ゴブリンが倒れる。
マルク兄さんも、後方から弓で支援する。
風を纏った矢が、次々とゴブリンを射抜く。
町の冒険者たちも、訓練の成果を発揮して戦う。
数分で、全てのゴブリンが倒された。
「やった!」
冒険者の一人が喜ぶ。
「でも、気を抜かないで。これからが本番だよ」
僕たちはさらに奥に進んだ。
森の奥深く。
そこで、僕は強い魔力を感じた。
「みんな、止まって」
全員が立ち止まる。
「前方に、強い魔力を感じる。レベル40くらいの魔物が…三体」
冒険者たちが緊張する。
「レベル40…」
「俺たち、大丈夫か?」
「大丈夫。僕たち家族がメインで戦う。みんなは後方支援をお願い」
僕たちは慎重に近づいた。
そこには――
巨大な狼のような魔物が三体いた。
体高は二メートル以上。鋭い牙と爪。黒い毛並み。
「ダイアウルフ…」
僕は呟いた。
ダイアウルフ。レベル40前後の強力な魔物だ。
普通、こんな場所には現れない。
三体のダイアウルフが、僕たちに気づく。
唸り声を上げて、こちらに向かってくる。
「姉さん、左! 兄さん、右から支援! ノエル、中央を僕と一緒に! 母さんは後方で回復待機!」
全員が配置につく。
ダイアウルフが襲いかかってくる。
速い!
ソフィア姉さんが左のダイアウルフと対峙する。
「フレイムブレード!」
炎を纏った剣が、ダイアウルフの前脚を斬る。
「ガルルル!」
ダイアウルフが怯む。
その隙に、ソフィア姉さんが追撃。
でも、ダイアウルフは素早く避ける。
右では、マルク兄さんが矢を放ち続けている。
風を纏った矢が、ダイアウルフの身体に次々と命中する。
でも、皮が厚くて、致命傷には至らない。
僕とノエルは、中央のダイアウルフを相手にする。
「ノエル、槍で牽制して!」
「わかった!」
ノエルが槍を構えて突く。
ダイアウルフが避ける。
その瞬間、僕が魔法を放つ。
「アイスランス!」
氷の槍が、ダイアウルフの脇腹に突き刺さる。
「ガァァァン!」
ダイアウルフが倒れる。
一体目、撃破。
でも、残り二体がいる。
そして――
森の奥から、さらに強い魔力を感じた。
「まずい…もっと強いのが来る!」
僕が叫んだ瞬間――
巨大な影が飛び出してきた。
体高三メートル以上の、巨大なダイアウルフ。
いや、これは――
「アルファダイアウルフ…!」
レベル50以上の、ダイアウルフの群れのリーダーだ。
アルファダイアウルフが咆哮する。
「ガァァァァァァン!」
その咆哮に、残り二体のダイアウルフが勢いづく。
三体が同時に襲いかかってくる。
「みんな、下がって!」
僕は町の冒険者たちに叫ぶ。
「これは、僕たち家族だけで相手にする!」
冒険者たちが後退する。
家族五人で、三体のダイアウルフと対峙する。
「姉さん、兄さん、ノエル! 残り二体を頼む! アルファは僕が引き受ける!」
「わかった!」
三人が残り二体のダイアウルフと戦い始める。
僕はアルファダイアウルフと対峙する。
でも――
僕は本気を出すつもりはない。
家族の訓練として、できるだけ見守るつもりだった。
それに、レベル50程度のアルファなら、本気を出せば一瞬で倒せる。
だから、適度に受け流しながら、家族の様子を確認する。
アルファダイアウルフが突進してくる。
僕は軽く避ける。
爪が振り下ろされる。
剣で受け流す。
牙が迫る。
横に移動して避ける。
全て、余裕を持って対処できる。
ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも、見事な連携でダイアウルフと戦っている。
成長したな、と思いながら――
その時だった。
森の入口の方から、小さな声が聞こえた。
「お兄ちゃん…!」
僕は驚いて一瞬だけ視線を向けた。
そこには――
レオとリナがいた。
「レオ!? リナ!?」
なんでここに!?
その一瞬の隙を――
別のダイアウルフが見逃さなかった。
森の影から、四体目のダイアウルフが飛び出してくる。
僕の死角から。
完全な不意打ち。
僕は気づいていない。
アルファダイアウルフとの戦いに集中していたからだ。
でも――
レオとリナは見ていた。
「お兄ちゃん、危ない!」
二人が同時に叫んだ。
その瞬間――
二人の身体が、光に包まれた。
「ブースト・アップ!」
身体強化魔法――
二人が、自力で発動したんだ!
光に包まれたレオとリナが、信じられない速さで走り出す。
四歳の子供とは思えない速度。
そして――
レオが雷の玉を作る。
「えい!」
雷の玉が、ダイアウルフの顔面に命中する。
バチッ!
「ギャン!」
ダイアウルフが怯む。
リナも光の玉を投げる。
「お兄ちゃんを守る!」
光の玉がダイアウルフの目を眩ませる。
ダイアウルフの注意が、レオとリナに向く。
その瞬間――
僕は気づいた。
死角からのダイアウルフ。
そして、そのダイアウルフの注意を引いているレオとリナ。
「レオ、リナ!」
僕の中で、何かが弾けた。
――家族が、危険だ。
次の瞬間――
僕の身体が、強烈な光に包まれた。
「ブースト・アップ、フルドライブ」
本気の身体強化魔法。
レベル99の元勇者としての、真の力。
僕の姿が、消える。
いや、あまりに速すぎて、見えないだけだ。
一瞬で、レオとリナの前に立つ。
そして――
ダイアウルフの牙が僕に迫る前に――
僕の拳が、ダイアウルフの顎に入る。
ゴッ。
ダイアウルフの巨体が、浮き上がる。
そして、十メートル以上も吹き飛んで、木に激突する。
ドガァァァン!
木が折れる。
ダイアウルフは、もう動かない。
一撃。
次に、僕はアルファダイアウルフに向き直る。
もう、手加減はしない。
アルファが反応する前に――
僕は一歩踏み出す。
一瞬で、アルファの懐に入る。
そして――
全力の拳を、アルファの腹に叩き込む。
ドガァァァン!
アルファダイアウルフの巨体が、折り曲がる。
そして、地面に叩きつけられる。
地面が揺れる。
クレーターができる。
アルファダイアウルフは、もう動かない。
一撃。
レベル50以上のアルファダイアウルフを、素手の一撃で倒した。
静寂。
全員が、呆然としている。
「これが…本気のお兄ちゃん…」
ソフィア姉さんが震える声で呟く。
「速すぎて…見えなかった…」
マルク兄さんも信じられないという表情だ。
「一撃で…アルファを…」
ノエルも驚愕している。
町の冒険者たちは、何が起きたのかすら理解していない。
「え…今…何が…」
母さんも、驚きを隠せない。
「アレン…あなた…」
僕は深呼吸して、身体強化魔法を通常レベルに戻す。
そして、レオとリナに駆け寄る。
「レオ、リナ、大丈夫?」
二人は無事だ。
でも、自分たちが何をしたのか、まだ理解していないようだ。
「お兄ちゃん…僕たち…光って…」
「すごく速く動けた…」
僕は二人を抱きしめた。
「よく頑張ったね。二人が僕を助けてくれたんだよ」
「え…?」
「身体強化魔法を、自分で使えるようになったんだ。レオもリナも」
二人が驚く。
「僕…魔法…?」
「私も…?」
「うん。『お兄ちゃんを守りたい』って強く思ったから、魔法が発動したんだよ」
レオとリナの目から、涙が溢れる。
「お兄ちゃん…守れた…?」
「うん。二人のおかげで、僕は助かったよ。ありがとう」
僕は二人を抱きしめる。
母さんが駆け寄ってくる。
「レオ、リナ…!」
母さんも二人を抱きしめる。
ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも集まってくる。
「双子ちゃんたち、すごいね」
ノエルが微笑む。
「四歳で、自分で身体強化魔法を…」
ソフィア姉さんも驚いている。
僕は周囲を確認する。
残りのダイアウルフは、家族が倒している。
全滅だ。
「みんな、お疲れ様」
町の冒険者たちが、恐る恐る近づいてくる。
「あ、アレン代表…今のは…」
「すみません。本気を出しすぎました」
僕は少し照れながら言う。
「普段は、こんなに本気出さないんですけど…家族が危険だったので」
冒険者たちが頷く。
「い、いえ…すごかったです…」
「あれが…代表の本当の力…」
家族も、まだ驚いている。
「アレン…あなた、普段はずっと手加減してたの…?」
母さんが聞く。
「うん。本気を出したら、訓練にならないから」
ソフィア姉さんが言う。
「私たち…アレンには全然敵わないんだね…」
「そんなことないよ。姉さんたちも、すごく強くなってる」
マルク兄さんが言う。
「でも…レベル差って、こんなに違うんだね」
「レベルが上がれば、姉さんたちももっと強くなるよ」
少し休憩を取った後、僕はレオとリナに事情を聞いた。
「どうして、ここに来たの?」
二人が泣きながら答える。
「お兄ちゃんが…心配で…」
「ゲオルグおじいちゃんが、お昼寝してる時に…こっそり…」
「そっか…」
僕は二人の頭を撫でる。
「心配してくれて、ありがとう。でも、危険だから、次は来ちゃダメだよ」
「うん…ごめんなさい…」
二人がしゅんとする。
でも、僕は微笑む。
「でも、二人が身体強化魔法を使えるようになったのは、すごいことだよ」
「本当…?」
「うん。四歳で自分で魔法を使えるなんて、すごいんだよ」
レオとリナが少し嬉しそうになる。
「これから、ちゃんと訓練しようね」
「うん!」
町に戻ると、ゲオルグさんが慌てて駆け寄ってきた。
「二人が…いない…! すまない…わしが昼寝をしている隙に…」
「大丈夫です。ここに」
僕はレオとリナを見せる。
「すまない…本当にすまない…」
「いえ、大丈夫です。むしろ、良いことがありました」
僕はレオとリナが身体強化魔法を自分で使えるようになったことを説明した。
ゲオルグさんが驚く。
「四歳で…自力で…」
「はい。家族の絆の力です」
その夜、家族全員が屋敷のリビングに集まった。
「レオ、リナ、今日はびっくりしたよ」
僕が言うと、二人が照れたように笑う。
「僕、お兄ちゃんを守りたかった」
「私も」
「二人のおかげで、僕は助かったよ。ありがとう」
二人が嬉しそうに微笑む。
「でも、勝手についてきたのは悪かったね」
二人がしゅんとする。
「ごめんなさい…」
「これからは、ちゃんと訓練しようね」
母さんが優しく言う。
「うん!」
二人が元気よく返事する。
ソフィア姉さんが言う。
「それにしても…アレンの本気、すごかったね」
マルク兄さんも頷く。
「一瞬で、アルファダイアウルフを倒すなんて…」
ノエルも言う。
「私、初めて見た。アレンの本当の強さ」
僕は少し照れる。
「普段は、あんな風に戦わないよ。家族が危険だったから、つい…」
母さんが微笑む。
「家族を守るための力ね」
「うん。僕にとって、家族が一番大切だから」
家族全員が、温かく微笑む。
「私たちも、アレンが大切よ」
母さんが言う。
「僕も」
「私も」
レオとリナも元気よく叫ぶ。
「僕も!」
「私も!」
僕は家族を見回した。
みんなの笑顔。
温かな雰囲気。
これが、僕の宝物だ。
その夜、窓の外を見上げると、満天の星空が広がっていた。
でも、もう星に話しかけたりしない。
恥ずかしいから。
「セレスティア様、見てくれてた?」
心の中で呟く。
「レオとリナが、身体強化魔法を使えるようになったよ。家族の絆の力で」
「これからも、家族みんなを守っていくね」
そして、僕は眠りについた。
明日も、家族と一緒に。
新しい一日が、待っている。
次回:第18話「領主への報告と新たな決意」
町への昇格式の翌々日、早朝。
僕たちは東の森への調査に出発した。
メンバーは、僕、母さん、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル。
そして、町の冒険者十人。
合計十五人のパーティーだ。
双子は、ゲオルグさんに預けた。
泣きながら見送ってくれる。
「お兄ちゃん、気をつけてね!」
「早く帰ってきてね!」
「うん、大丈夫だよ。すぐに帰ってくるから」
僕は二人の頭を撫でた。
「レオ、リナ、留守番お願いね」
「…うん」
二人が渋々頷く。
ゲオルグさんが言う。
「アレン、無理はするなよ」
「わかってます。調査するだけですから」
僕たちは町を出発した。
東の森は、町から徒歩で三時間ほどの場所にある。
深い森で、普段はあまり人が入らない。
魔物の目撃情報が増えているというのが、領主からの報告だった。
森の入口に着くと、僕は全員に身体強化魔法をかけた。
「ブースト・アップ、マイルド」
柔らかな光が全員を包む。
視力、聴力、反射神経が高まる。
「みんな、警戒してね。何が出るかわからない」
全員が頷く。
僕たちは慎重に森の中に入っていった。
森の中は薄暗かった。
木々が鬱蒼と茂り、太陽の光が遮られている。
でも、神眼があれば問題ない。
僕は周囲を警戒しながら進む。
しばらく進むと、最初の魔物と遭遇した。
ゴブリンの群れ。十体ほど。
「前方にゴブリン十体」
僕が囁くように告げる。
冒険者たちが武器を構える。
「行くぞ」
ソフィア姉さんが先頭に出る。
剣に炎を纏わせ、ゴブリンに斬りかかる。
一閃。
ゴブリンが倒れる。
マルク兄さんも、後方から弓で支援する。
風を纏った矢が、次々とゴブリンを射抜く。
町の冒険者たちも、訓練の成果を発揮して戦う。
数分で、全てのゴブリンが倒された。
「やった!」
冒険者の一人が喜ぶ。
「でも、気を抜かないで。これからが本番だよ」
僕たちはさらに奥に進んだ。
森の奥深く。
そこで、僕は強い魔力を感じた。
「みんな、止まって」
全員が立ち止まる。
「前方に、強い魔力を感じる。レベル40くらいの魔物が…三体」
冒険者たちが緊張する。
「レベル40…」
「俺たち、大丈夫か?」
「大丈夫。僕たち家族がメインで戦う。みんなは後方支援をお願い」
僕たちは慎重に近づいた。
そこには――
巨大な狼のような魔物が三体いた。
体高は二メートル以上。鋭い牙と爪。黒い毛並み。
「ダイアウルフ…」
僕は呟いた。
ダイアウルフ。レベル40前後の強力な魔物だ。
普通、こんな場所には現れない。
三体のダイアウルフが、僕たちに気づく。
唸り声を上げて、こちらに向かってくる。
「姉さん、左! 兄さん、右から支援! ノエル、中央を僕と一緒に! 母さんは後方で回復待機!」
全員が配置につく。
ダイアウルフが襲いかかってくる。
速い!
ソフィア姉さんが左のダイアウルフと対峙する。
「フレイムブレード!」
炎を纏った剣が、ダイアウルフの前脚を斬る。
「ガルルル!」
ダイアウルフが怯む。
その隙に、ソフィア姉さんが追撃。
でも、ダイアウルフは素早く避ける。
右では、マルク兄さんが矢を放ち続けている。
風を纏った矢が、ダイアウルフの身体に次々と命中する。
でも、皮が厚くて、致命傷には至らない。
僕とノエルは、中央のダイアウルフを相手にする。
「ノエル、槍で牽制して!」
「わかった!」
ノエルが槍を構えて突く。
ダイアウルフが避ける。
その瞬間、僕が魔法を放つ。
「アイスランス!」
氷の槍が、ダイアウルフの脇腹に突き刺さる。
「ガァァァン!」
ダイアウルフが倒れる。
一体目、撃破。
でも、残り二体がいる。
そして――
森の奥から、さらに強い魔力を感じた。
「まずい…もっと強いのが来る!」
僕が叫んだ瞬間――
巨大な影が飛び出してきた。
体高三メートル以上の、巨大なダイアウルフ。
いや、これは――
「アルファダイアウルフ…!」
レベル50以上の、ダイアウルフの群れのリーダーだ。
アルファダイアウルフが咆哮する。
「ガァァァァァァン!」
その咆哮に、残り二体のダイアウルフが勢いづく。
三体が同時に襲いかかってくる。
「みんな、下がって!」
僕は町の冒険者たちに叫ぶ。
「これは、僕たち家族だけで相手にする!」
冒険者たちが後退する。
家族五人で、三体のダイアウルフと対峙する。
「姉さん、兄さん、ノエル! 残り二体を頼む! アルファは僕が引き受ける!」
「わかった!」
三人が残り二体のダイアウルフと戦い始める。
僕はアルファダイアウルフと対峙する。
でも――
僕は本気を出すつもりはない。
家族の訓練として、できるだけ見守るつもりだった。
それに、レベル50程度のアルファなら、本気を出せば一瞬で倒せる。
だから、適度に受け流しながら、家族の様子を確認する。
アルファダイアウルフが突進してくる。
僕は軽く避ける。
爪が振り下ろされる。
剣で受け流す。
牙が迫る。
横に移動して避ける。
全て、余裕を持って対処できる。
ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも、見事な連携でダイアウルフと戦っている。
成長したな、と思いながら――
その時だった。
森の入口の方から、小さな声が聞こえた。
「お兄ちゃん…!」
僕は驚いて一瞬だけ視線を向けた。
そこには――
レオとリナがいた。
「レオ!? リナ!?」
なんでここに!?
その一瞬の隙を――
別のダイアウルフが見逃さなかった。
森の影から、四体目のダイアウルフが飛び出してくる。
僕の死角から。
完全な不意打ち。
僕は気づいていない。
アルファダイアウルフとの戦いに集中していたからだ。
でも――
レオとリナは見ていた。
「お兄ちゃん、危ない!」
二人が同時に叫んだ。
その瞬間――
二人の身体が、光に包まれた。
「ブースト・アップ!」
身体強化魔法――
二人が、自力で発動したんだ!
光に包まれたレオとリナが、信じられない速さで走り出す。
四歳の子供とは思えない速度。
そして――
レオが雷の玉を作る。
「えい!」
雷の玉が、ダイアウルフの顔面に命中する。
バチッ!
「ギャン!」
ダイアウルフが怯む。
リナも光の玉を投げる。
「お兄ちゃんを守る!」
光の玉がダイアウルフの目を眩ませる。
ダイアウルフの注意が、レオとリナに向く。
その瞬間――
僕は気づいた。
死角からのダイアウルフ。
そして、そのダイアウルフの注意を引いているレオとリナ。
「レオ、リナ!」
僕の中で、何かが弾けた。
――家族が、危険だ。
次の瞬間――
僕の身体が、強烈な光に包まれた。
「ブースト・アップ、フルドライブ」
本気の身体強化魔法。
レベル99の元勇者としての、真の力。
僕の姿が、消える。
いや、あまりに速すぎて、見えないだけだ。
一瞬で、レオとリナの前に立つ。
そして――
ダイアウルフの牙が僕に迫る前に――
僕の拳が、ダイアウルフの顎に入る。
ゴッ。
ダイアウルフの巨体が、浮き上がる。
そして、十メートル以上も吹き飛んで、木に激突する。
ドガァァァン!
木が折れる。
ダイアウルフは、もう動かない。
一撃。
次に、僕はアルファダイアウルフに向き直る。
もう、手加減はしない。
アルファが反応する前に――
僕は一歩踏み出す。
一瞬で、アルファの懐に入る。
そして――
全力の拳を、アルファの腹に叩き込む。
ドガァァァン!
アルファダイアウルフの巨体が、折り曲がる。
そして、地面に叩きつけられる。
地面が揺れる。
クレーターができる。
アルファダイアウルフは、もう動かない。
一撃。
レベル50以上のアルファダイアウルフを、素手の一撃で倒した。
静寂。
全員が、呆然としている。
「これが…本気のお兄ちゃん…」
ソフィア姉さんが震える声で呟く。
「速すぎて…見えなかった…」
マルク兄さんも信じられないという表情だ。
「一撃で…アルファを…」
ノエルも驚愕している。
町の冒険者たちは、何が起きたのかすら理解していない。
「え…今…何が…」
母さんも、驚きを隠せない。
「アレン…あなた…」
僕は深呼吸して、身体強化魔法を通常レベルに戻す。
そして、レオとリナに駆け寄る。
「レオ、リナ、大丈夫?」
二人は無事だ。
でも、自分たちが何をしたのか、まだ理解していないようだ。
「お兄ちゃん…僕たち…光って…」
「すごく速く動けた…」
僕は二人を抱きしめた。
「よく頑張ったね。二人が僕を助けてくれたんだよ」
「え…?」
「身体強化魔法を、自分で使えるようになったんだ。レオもリナも」
二人が驚く。
「僕…魔法…?」
「私も…?」
「うん。『お兄ちゃんを守りたい』って強く思ったから、魔法が発動したんだよ」
レオとリナの目から、涙が溢れる。
「お兄ちゃん…守れた…?」
「うん。二人のおかげで、僕は助かったよ。ありがとう」
僕は二人を抱きしめる。
母さんが駆け寄ってくる。
「レオ、リナ…!」
母さんも二人を抱きしめる。
ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも集まってくる。
「双子ちゃんたち、すごいね」
ノエルが微笑む。
「四歳で、自分で身体強化魔法を…」
ソフィア姉さんも驚いている。
僕は周囲を確認する。
残りのダイアウルフは、家族が倒している。
全滅だ。
「みんな、お疲れ様」
町の冒険者たちが、恐る恐る近づいてくる。
「あ、アレン代表…今のは…」
「すみません。本気を出しすぎました」
僕は少し照れながら言う。
「普段は、こんなに本気出さないんですけど…家族が危険だったので」
冒険者たちが頷く。
「い、いえ…すごかったです…」
「あれが…代表の本当の力…」
家族も、まだ驚いている。
「アレン…あなた、普段はずっと手加減してたの…?」
母さんが聞く。
「うん。本気を出したら、訓練にならないから」
ソフィア姉さんが言う。
「私たち…アレンには全然敵わないんだね…」
「そんなことないよ。姉さんたちも、すごく強くなってる」
マルク兄さんが言う。
「でも…レベル差って、こんなに違うんだね」
「レベルが上がれば、姉さんたちももっと強くなるよ」
少し休憩を取った後、僕はレオとリナに事情を聞いた。
「どうして、ここに来たの?」
二人が泣きながら答える。
「お兄ちゃんが…心配で…」
「ゲオルグおじいちゃんが、お昼寝してる時に…こっそり…」
「そっか…」
僕は二人の頭を撫でる。
「心配してくれて、ありがとう。でも、危険だから、次は来ちゃダメだよ」
「うん…ごめんなさい…」
二人がしゅんとする。
でも、僕は微笑む。
「でも、二人が身体強化魔法を使えるようになったのは、すごいことだよ」
「本当…?」
「うん。四歳で自分で魔法を使えるなんて、すごいんだよ」
レオとリナが少し嬉しそうになる。
「これから、ちゃんと訓練しようね」
「うん!」
町に戻ると、ゲオルグさんが慌てて駆け寄ってきた。
「二人が…いない…! すまない…わしが昼寝をしている隙に…」
「大丈夫です。ここに」
僕はレオとリナを見せる。
「すまない…本当にすまない…」
「いえ、大丈夫です。むしろ、良いことがありました」
僕はレオとリナが身体強化魔法を自分で使えるようになったことを説明した。
ゲオルグさんが驚く。
「四歳で…自力で…」
「はい。家族の絆の力です」
その夜、家族全員が屋敷のリビングに集まった。
「レオ、リナ、今日はびっくりしたよ」
僕が言うと、二人が照れたように笑う。
「僕、お兄ちゃんを守りたかった」
「私も」
「二人のおかげで、僕は助かったよ。ありがとう」
二人が嬉しそうに微笑む。
「でも、勝手についてきたのは悪かったね」
二人がしゅんとする。
「ごめんなさい…」
「これからは、ちゃんと訓練しようね」
母さんが優しく言う。
「うん!」
二人が元気よく返事する。
ソフィア姉さんが言う。
「それにしても…アレンの本気、すごかったね」
マルク兄さんも頷く。
「一瞬で、アルファダイアウルフを倒すなんて…」
ノエルも言う。
「私、初めて見た。アレンの本当の強さ」
僕は少し照れる。
「普段は、あんな風に戦わないよ。家族が危険だったから、つい…」
母さんが微笑む。
「家族を守るための力ね」
「うん。僕にとって、家族が一番大切だから」
家族全員が、温かく微笑む。
「私たちも、アレンが大切よ」
母さんが言う。
「僕も」
「私も」
レオとリナも元気よく叫ぶ。
「僕も!」
「私も!」
僕は家族を見回した。
みんなの笑顔。
温かな雰囲気。
これが、僕の宝物だ。
その夜、窓の外を見上げると、満天の星空が広がっていた。
でも、もう星に話しかけたりしない。
恥ずかしいから。
「セレスティア様、見てくれてた?」
心の中で呟く。
「レオとリナが、身体強化魔法を使えるようになったよ。家族の絆の力で」
「これからも、家族みんなを守っていくね」
そして、僕は眠りについた。
明日も、家族と一緒に。
新しい一日が、待っている。
次回:第18話「領主への報告と新たな決意」
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。