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第9話 移動中

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 腹ごしらえも済んだので、少し休んでから移動を再開した。
 扉を開けると、またモンスターと遭遇する。目がひとつしかない大型の熊だった。
 ガルドの強さは尋常ではない。ラムティスが何もしなくても、ひとりで軽々と倒せるほどの強さだ。何者なのだろう。
 ラムティスは自分が足手まといになっているような気がしてきて、内心で自己嫌悪に陥っていた。気づけば行動の主導権はガルドが握っている。
 次の扉もまたモンスターだった。ふたりになってから、モンスターとの遭遇率が急にあがってしまったようだ。
 扉を開けると、またモンスター。
 さらに扉を開けると、またモンスター。
「……疲れた」
 ラムティスはがくりと膝をついた。怪我はしていないが、モンスターと遭遇するたび緊張や集中をするので、精神面の消耗が激しい。
「少し、休憩しよう」
 ラムティスはガルドを見上げた。
 ガルドは呆れたような眼差しでラムティスを見おろす。
「お姫様はか弱いな」
「姫ではない。王子だ」
「よくそれで、半年も自力で生きてこれたな」
「おまえのペースが早いんだ」
 ラムティスは座り込んだまま、壁に背中を預けた。
 ぼんやりしていると、ガルドが近づいてきた。
 すぐ隣に座る。内心で警戒していると、急に腕を伸ばしてきたので、ラムティスは慌ててのけぞった。
「な、なんだ」
「ハグだ」
「は?」
「ハグ」
 ガルドはなかば強引に、ラムティスを抱きしめた。慰めるように、背中や頭をぽんぽんと撫でる。
「疲れた時は人の体温に包まれるのがいい」
 まるで当然のことのように、ガルドが言った。
「人の、体温」
 ふわっと香りがした。ガルドの匂いだ。不思議と落ち着く。
 ラムティスは全身を預けて、そっとまぶたを閉じた。
 ガルドの言う通り、体温に包まれると安心し、癒される。
 この世界にはこのふたりしかいない。いがみ合うよりも、寄り添ったほうがいい。
 そう思った矢先、いきなり尻を撫でられた。
「…………っ!」
 ラムティスが目を見開く。
「……何を、して、いる」
「おまえだけ癒されるのはズルイだろ。俺にも癒しをくれよ」
「だからって、なぜ、尻」
「癒されるからに決まってんだろ」
 ガルドの手のひらは、尻を撫でまわすだけでは飽き足らないのか、さらに揉んできた。
「……ちょっ……揉む、な」
「気持ちいいか?」
 ラムティスはガルドを突き飛ばし、思いっきり平手打ちした。
「いってぇ」
 ガルドが大袈裟に、打たれた頬に手を当てる。
「冗談の通じないヤツだな」
「冗談で済むかっ!」
「やれやれ」
 ガルドが立ち上がった。
「ほら、行くぞ。休憩は終わりだ」
 ぐいっと腕をつかまれ、引っ張りあげられた。ラムティスはしぶしぶ歩き出す。
 ガルドが扉を開けた。またモンスターかもしれない。ラムティスは身構えたが、目の前に広がる光景は大浴場だった。
「……風呂……?」
 大浴場と言っても、庶民が利用するそれではなく、王宮にあるようなものだった。国王ひとりが使用人をはべらせながら、ゆったりと入るような大浴場。
 ありがたいと言えばありがたかった。しかし、困ると言えば困る。
 なぜなら、風呂に入るということは、ガルドの目の前で全裸をさらすことでもあるからだ。
(貞操の危機……!)
 だらだらと冷や汗をかくラムティスを尻目に、ガルドは嬉しそうにしていた。
「これで埃っぽさとはおさらばだな。一緒に入るぞ」
「い、いや……俺は、遠慮……」
「いいから来い。おまえも埃っぽいぞ」
 ガルドに腕をつかまれ、ラムティスは強引に引っ張り込まれた。
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