悠久の大陸

彩森ゆいか

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第68話 原作のことは好き?

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「で、次はどこに行く?」
 リュウトに問われ、ナツキは慌てた。
「え、あぁ、え、えぇと……」
 もうまともに思考が働かなかった。
 リュウトがさくさく話を進めていく。
「メインストーリーはどこまで進んだんだっけ? そう言えばナツキはこのゲームの原作のことはどう思ってる?」
「だ、大好き……っ!」
 ナツキは思わず大声をあげた。
 リュウトが驚いた様子で目を丸くしている。
「原作小説は全部読破したし、コミカライズの単行本も読破したし、アニメも全部見てるし、だからゲームの世界にも」
 トークイベントの件で落ち込んだり、妙に熱くなったり、よくわからない状態になってしまってはいたが、原作が好きだという気持ちがなくなったわけではなかった。
 ただ、那月を見る雪平海咲のあの眼差しだけは、脳裏に張りついたように消えなかった。
 見られているだけなのに、脱がされているような気分だった。
 トイレで凝視されたからだろうか。
 リュウトを見ていると、なぜかあの時の雪平海咲を思い出す。なぜだろう。
「そうか。それは嬉しいな」
 リュウトが破顔した。
「俺も悠久の大陸が大好きなんだ。ナツキは、こないだのイベントは行った?」
「うん」
 リュウトが含みのある笑みを浮かべた。
「実は俺もいたんだ」
「えっ?」
 一緒に行く約束をしていたが、リュウトは用事があると言ってこなかったはずだ。なのに実はいたとはどういうことなのか。
「行けなくなったんだけど、用事が思ってたよりも早く切り上がって。急げば間に合う状態だったから、実はいたんだ」
「そうだったんだ……」
 釈然としなかったが、納得するしかなかった。
「もしかしたらすれ違っていたかもな」
 リュウトが笑った。
 ナツキは内心でぎくりとした。リアルのナツキはゲーム内のナツキとそれほど姿が変わらない。スオウと辰泰はぜんぜん違うが、ナツキと那月はほぼ同じだ。
(もしかして気づかれた?)
 イベントにはたくさんの人がいた。いちいち他の客の顔など見ていなかったが、あの中のどこかにリュウトもいたのだろうか。
「今度、原作の話でもしよう」
 リュウトはそこで話を終わらせた。

 メインストーリーがまだ途中までしかクリアできていないので、それを進めることになった。リュウトのサポートがあれば、強い敵も怖くない。
 驚くほどさくさくとメインストーリーは進んで行き、ナツキのレベルもあがったし、武器もアイテムも増えた。モンスターと戦うのもだいぶ慣れた。
 やってもよし、やらなくてもよしなメインストーリーは、アップデートと共に新エピソードが追加されてとても長い物語になっている。一気にすべてをクリアするのは無理なので、ゆっくりマイペースに進めるのが正しいやり方だ。
「今度、ゲームに新しいシステムが搭載されるんだ」
 メインストーリーが一段落したところで、リュウトが言った。
「新しいシステム?」
「うん。家を持つことができるようになるんだ」
「家?」
「そう。レベルの高い低い関係なく、ある条件さえクリアすれば、誰でも家を持てるようになるんだ。家と言っても、デジタルデータだけどね、ゲームだから。内装も庭も好きなようにカスタマイズできるし、邪魔なアイテムをクローゼットに置いていけるようにもなる。内装は課金アイテムもあるけど、無料アイテムでもわりと楽しめるだろうから。畑を作ることもできるし、錬金術も自宅でできるようになるし、武器や薬の精製もできるようになる。もちろん、セックスも」
 意味深な目で見られて、ナツキはどきりとした。
「俺の家でしてもいいし、ナツキの家でしてもいいし、スオウの家でしてもいい。アダルト空間だから、エッチなアイテムも手に入るし、作ることもできる」
「へ……へぇ……」
 ナツキは思わずたじろいだ。
 そんなアイテムをゲットしたらナツキの身体で試されるだけなので、平静ではいられない。なんとか阻止できないだろうかと思ったが、きっと無理だろう。うっかり忘れていたが、以前も妙なものを装着させられたではないか。
「エッチなアイテムは外でも使えるんだ。アダルト空間だからね、なんでもありなんだよ」
「そうなんだ」
 ナツキは当たり障りなく笑ってやり過ごした。リュウトの眼差しはとても冗談を言っているような感じではなく、本当に今すぐ目の前にアイテムを出してきそうでもある。
「だいぶ戦って少し疲れたし、宿屋に行こうか、ナツキ」
(やっぱりーっ)
 ナツキは内心で焦った。またセックスの時間がきてしまった。
「いいアイテム持ってるんだ。ちょっと使ってみないか」
(あぁ、やっぱりーっ)
 本当に持っていた。そうだろうと思ってたよ、と内心でナツキは叫んだ。
 メインストーリーを進めていたので、今はロンディンという街にいた。初心者の村からは相当離れた場所だ。リュウトのおかげでやっと遠出できたのだが、やはりそれだけでは済まなかった。
 腕をつかまれ、引っ張られる。有無を言わさない勢いで宿屋へと向かっていく。
 その時だった。
「おい」
 聞き覚えのある声に、ふたりは同時に振り返った。
 スオウが仁王立ちで腕を組んで立っていた。
「探したぞ」
「これは奇遇だな。俺たちはこれから宿屋に行くんだ。一緒にナツキを鳴かせないか」
 リュウトがとんでもない申し出をする。ナツキは内心で激しく焦った。
 スオウは真顔で返事をする。
「いいだろう。誘いに乗った」
「ちょっ、スオウ」
 戸惑い慌てるナツキにはお構いないしで、ふたりで話を進めていってしまう。
 結局ナツキはふたりに連れられ、宿屋へと向かう羽目になった。
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