魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

そのものの くびを はねよ!

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 どのくらい時間が経ったのだろうか。
 俺の省エネモードが働いて、いつの間にか眠っていたようだ。

 身を起こしながら闇の結界を解くと、ヒカリゴケの淡い光が物置の中を照らした。
 埃のかぶった家具や箱といった荷物が、乱雑に積み重ねられている。

「バルト?」

 先程まで一緒に床の上で座っていたバルトの姿はそこにはなかった。

  帰ったのだろうか。

 ぐるりと視界を巡らせると、物置の扉が僅かながら開いていて、床に白い光を伸ばしているのが見える。
  恐らく彼が開けていってくれたのだろう。

 扉を開けて俺は外に出た。
 途端に眩しい光が目に飛び込んでくる。

「う~、朝日が目にしみるのぅ」

 眩しさに目を細めて確認すると、そこは屋内の廊下だった。
 物置部屋の前には窓があり、そこから太陽の光が目一杯、俺に向かって降り注いでいた。
 廊下は光に満ちあふれている。

 ずっと暗い中にいたので、周囲があまりにも眩しすぎて目を開けることも、動くこともできずに固まってしまった。

 じっと待つこと数分は経っただろうか。
 やっと目も慣れたことだし、行くべきところはただ一つ。

「はぁ~、助かったぁ」

 すっかり忘れていたトイレなワケで。

 部屋を出て、廊下の突き当たりを右に曲がったところにあった。
 俺の記憶に間違いがなければ、エルアルトの店でコーヒー牛乳を七杯も飲み干したあと、一度も行っていない。

 どれだけ俺の膀胱(ぼうこう)は我慢強いのだ。

 すっきりしたことだし、手を洗うついでに顔も洗った。
 敵陣の中でこんな堂々としている捕虜は俺だけじゃないだろうか。
 それはまあ、自分が魔法使いだからという自負もあるからで。
 そう簡単にやられる気は毛頭ない。

 とりあえず、ちょっとした武器にはなるだろうと トイレにあった純白のスリッパを拝借することにした。
 この際、ばっちいとかそういうのは考えないことにする。
 むしろ、そのばっちいのが武器になる。

 俺は手にしたスリッパをジャージのゴムに束さんだ。
 今更ながら、ここが敵陣の中であるということを思い出し、俺はそっと辺りの様子をうかがいながら家の中を歩く。
 昨夜、男達の話からすると、ここは長老の家らしいのだが。

「長老は甘い!」

 うわ、びっくりした。

 突然、近くの部屋から男の怒鳴り声と何か割れる音が聞こえてきた。
 しかも近い。

「ファルメールに最終警告として、 あの男の首を送るべきだ! こちらが大人しくしているのを良いことに、あのバカが調子に乗るんだぞ!」

 男が興奮しているのか、バンバンと何かを叩いている。
 テーブルだろうか。

 おいおいおい、物騒なことを口にしているじゃないか。
 そこまで恨まれているのか、あのファルメールのおっさんは……。
 恨まれついでに俺に火の粉が降りかかるのは勘弁してくれ。
 巻き込まれるのはゴメンだ。

「まぁまぁ、落ち着きなさい。無駄に血を流してはならぬ」

 しわがれているが、落ち着いた深い声が聞こえてくる。
 恐らく長老だろう。

「これで最後だ! もう一回、ヤツがこちらに危害を加えた場合……捕虜の首をはねる!」

 ヤバイ、足音がこっちに向かってくるぞ。

 俺は元来た道を猛ダッシュで引き返した。
 間一髪、ドアが開け放たれる音と同じく、自分はトイレに飛び込んでいた。
 荒々しい足音が徐々に遠ざかっていく。

 長居は無用だ。
 俺の中で答えはたった一つ。

 何と言われようと俺はこの仕事から手を引く。


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