神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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欲しいものとは

朧気に

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「ふー…」

 息を吐くと、仄かに空気が白く染まる。
 すっかり秋が深まり、ますます寒さが増してきた。今となっては、紅葉をしてない緑を見つける方が難しい。

 何もない空を見上げて、ふと視線を道路に戻す。道路は歩きの通行人よりも、自転車の方が多い。ここらのような田舎では、自転車がないと生活できないのだ。

「篠乃木さん?」

「…はい?」

 横から高良玉垂命こうらたまたれのみことが名前を呼ぶ。

「何かボーッとしていましたけど」

「いえ、何もないですよ」

 僕の顔を覗きこんでくる。不意に顔を近づけてきたので、反射的に目をそらしてしまう。

 本当にやめて欲しい。綺麗すぎる顔は一種の暴力なのだ。

「端から見ればデートに見えそうですね」 

 突然、そんな事を言ってくる。確かに外見は同じくらいで、二人一緒に歩いているとそんな風に見られるかもしれない。

 ただし、人間であればだ。

「むしろ、端から見れば独り言がうるさい変人に見られていると思いますよ」
「確かにそうですね」

 そう言って、クスクスと笑う。本当に、他の人には見えない彼女は、確かにそこに存在するのだ。

「ところで…」

「……はい?」

「今、どこに向かっているんですか?」

「あー、私もよく分からないのですよ」

「え…?」

 高良玉垂命が頭をかく。

「先日、欲を連呼する妖怪が喫茶店に来たでしょう?」

「ええ」

「あの妖怪、私達に呪いをかけていったみたい」

「え…?」

「そう言うわけだから、あの妖怪を探しているんです」

「…なるほど」

 妖怪に呪いをかけられるのは初めてのことだ。まあ、、これだけ妖怪に関わりやすい体質を持っていながら、今まで危害を加えられなかったのは驚きなのだけど。

「それにしても何故?」

 とりあえず、疑問を口にする。

「それは、おそらくだけど、篠乃木さんに興味を持ったから」

「やはり、からですよね?」

 彼女は深くうなずく。

「ええ、けれど私から見ても興味深いですよ?」

「……?」

「呪いと聞いて、最初にではなく、理由を聞いているから」

「確かに…」

 言われてみればそうだ。普段の僕であれば、真っ先にどんな呪いなのか聞いたはずだ。

 どうにも妖怪がらみの事柄には、俯瞰してみてしまいようだ。まるで、呪いをかけられているのが、僕ではないような感覚。

「えーと、どんな呪いですか?」

「これも確実ではないのだけど、記憶の削除、もしくは改変だと思います」

「…記憶、消されているんですかね?」

 高良玉垂命は首を捻る。

「記憶の消去や改変はされた側では、なかなか判断できないのですよ。ただ、呪いがかけられているというのは、感じることが出来るのですが」

 少し何かを思い出してみる。
 例えば、昨日の晩御飯は。さばの味噌煮だ。小学校の担任の名前は、田中先生。

 普通に思い出してしまった。拍子抜けというか、なんというか。

「記憶が混乱している感覚はなさそうですけど」

「害がなければ、それで大丈夫なのですけど、とにもかくにも直接本人に確認してみないと」

「そうですね。あ、そう言えば…」

 ふと思い出したことを話そうとして口をつぐむ。

 小さい頃、とても小さい頃。僕は飛べることを知った。色んな所へいってみたいと思った。これは知識欲。

 僕はおなかがすいた。何か食べたいと思った。これは食欲。

 人というものを知った。人はというものを持っていた。愛とはなんぞや。
 僕はなんぞや。僕は………。

「……朧気おぼろげ

 気づくと口に出していた。
 これは、誰の記憶?
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