神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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ひととなか

出雲の神

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 そこはまるで、神々の街。

「うわあ、本当に神様だらけですね」

 夏奈子は辺りを見回してそう言う。

「ホントに」

 ここは門前通りにある蕎麦屋さんだ。ちょうどお昼時もすぎて席はすいていたのだけど、ここでも神様が蕎麦を食べていた。

 ということは、店員自体が神様だということなのだけれど。

 ここまで、神様が溢れかえっていると、八百万の神という表現も誇張ではない気がする。

「これからどうします?こんなに神様がいるんじゃ、探すのも一苦労だとおもうんです」

 夏奈子は運ばれてきた出雲そばを口にしつつ、そう言う。

「まあ、なんとかなるとは思うよ」

 少しの確信を持ってそう答える。
 高良玉垂命のことだから、面倒な……いや、何か面白いことに巻き込まれているんじゃないかと思うのだ。

「そうですか?」

 夏奈子は首をかしげる。

「なんとなくだけどね。境内にはぃ………」

 ちょうど、出雲そばが運ばれてきて、言葉を止める。丸い重箱に入っている割りこそばだ。

「おお、美味しそう」

 出雲そばは直接重箱の中につゆをかけて食べるのだが、それがなかなかにインパクトがある。

「いただきます」


 蕎麦を食べ終わって、一息ついて外に出ると、改めて大きな神社だなと思う。

「美味しかったですね」

 隣を歩く夏奈子が言う。

「そうだね」

 ここで、気の効いた言葉を言えないのが、僕という人間である。

 参道には日本人と神の他には外国人も結構多い。ふと古めかしい日本語が聞こえたかと思うと、隣からは英語が聞こえてきたりする。

「君たちは人の子かね?」

 ふと声がした方を見ると、一人のサラリーマンがいた。

 さっぱりと切られた短い黒髪に、鋭い目は、できる社会人という雰囲気が醸し出されている。

「…そうですけど、どなたですか?」
大国主神おおくにぬしのかみと言って通じるかな?」

「大国主神って、あの七福神の大黒天ですよね!?」

 夏奈子が確認する。
 大黒天を知らない人でも、七福神を知らない人はいないだろう。そのくらい有名な神様だが、どんな神様なのか知っている人は少ないと思う。

 見ての通り、大国主神はサラリーマンだ。

「そうだ。珍しいと思ってね、何しろ人の子が神域に入ることなんて久しぶりだ」

 そう言われて周りを見渡すと、今までそばにもいたはずの外国人が一人もいない。
 何より、秋のはずなのに不思議と暖かいのだ。

「気づきませんでした。いつの間に神域に入っていたんだろう」

 素朴な疑問だ。

「出雲大社は私の社殿だ。私が引き入れたのさ」

「引き入れたって、」

「神が見える人なんて、今も昔もそれほど多いものじゃない。純粋に僕の好奇心のせいさ」

 そう言って、笑う大国主神の表情は少し陰りがあって。

「むしろ、神様の好奇心の的になれるなんて、嬉しいくらいですよ」

「そう言ってくれると嬉しい。ただ、神の注目を浴びて良かった試しなんて、ほとんどないよ。…良くも悪くもね」

「……え?」

 僕と夏奈子は首をかしげる。

「君たちも気をつけるといい。本当に、神なんて人間以上に欲に忠実な存在なんだ」

 神は欲という等号のイメージがいまいちつかめない。

 高良玉垂命、朧気、宇迦之御霊もこのひとたちは一様に欲がないように見えるのだ。

「そうなんですか……?」
「まあ、現代いまは大丈夫さ。せっかく出雲に来たんだ。存分に観光して、存分に縁結びの祈願をするといい」

 大国主神はそう言うと、神々の喧騒の中に消えた。
 
「あ、高良玉垂命さんが何処にいるか聞けば良かった」

 僕の出した間抜けな声は、誰かに届いたのだろうか。
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