神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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ひととなか

やしろの中に

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 場所は変わって、ここは出雲大社の本殿の中。 

 ここもやはり、外観からは想像できないほどの奥行きと広さがある。さらには、中庭に池まであるのだから、本当にどうやっているんだ。

さながら、披露宴の会場のように、様々な料理が並ぶ大広間。

 広大な畳の上に、立食式のテーブルが並ぶ。和風と洋風が入り交じるちぐはぐな風景。
 神々は思い思いのところに立ち、心落ち着くところに座る。

「いやあ、この時期が来るともう一年が過ぎたと感じるものだな」

「まったく、気が緩みすぎではないか?」

 ある神が言い。
 ある神が呆れる。

ーー ーー ーー

「あっちに旨そうな肉があったぞ」

 そう呼んだのは、宇迦之御霊だったりする。

「本当に?」
「ほら、こっちじゃ」

 呼ばれた高良玉垂命は宇迦之御霊の言葉につられるように、彼女の後をおう。

 二柱が品定めをしているテーブルには、和食を始め、フレンチやイタリアンもある。

「これじゃ。ろーすとびぃふ」

 赤々とした肉に、子供のような目で向ける光景は、とても穀物神には見えないが

「美味しそうね」
「そうじゃろ?」

 そう言って、宇迦之御霊は美味しそうにローストビーフを頬張る。

「おお、おこうさん、お久しぶりです」

 そこに、一人の男神が話しかける。

 その姿を例えるとするなら、さながら平安時代の貴族だろうか。黒い衣に烏帽子姿。現代の人間としてはあり得ない格好だが、神の格好かと言われれば、それもなにか違う。

「道真くん、久しぶり」
「おこうさん、それと宇迦之御霊殿も元気そうで何よりです」

 道真は笑う。

「うむ、それにしても、お主がここに来るとは珍しいこともあるものじゃ」

「はい、たまには縁結びに興じるのも良いかもしれないと」

「そうか、神もたまには遊ばぬといかんからの」

「神が本気で遊んだら、日ノ本は終わりですよ」

 道真はおどけたように言う。
 ただ、あながち冗談で済ませることもできない。彼の神は泣いただけで、津波を起こし、地を揺らし、空を鳴動させたのだから。

「ああ、遊びと言えば、お二人は出るのですか?」
「出ると言うと?」

 二人は首をかしげる。

「相撲ですよ」

「相撲はのぉ、汚れるから嫌じゃ」
「私もでないよ」

 宇迦之御霊は子供のような理由で嫌がり、高良玉垂命は首を振る。

「そうですか、残念です。お二人が出たらもっと面白くなりそうなのに」

「私は勝負事が怖い。昔に戻ってしまいそうで」

 そう言う高良玉垂命の目は、怖いというめをしていない。いうなれば、獲物をみる目、高揚の目、と言ったところか。

「…そうでした。今の話は忘れてください」
「ええ、もちろん」

 そう言った高良玉垂命の目は、すでに普通の目に戻っている。

ーー ーー ーー

「なかなか、見つかりませんね」

 夏奈子がため息のようにそんな言葉をもらす。

「…そうだね」

 空は相も変わらず青いが、ふと腕時計を見ると、すでに5時を指していた。

 ここが神域だからなのか、もう夕暮れのはずなのに、青い空が広がっているのはさすがは神の力だ。

「まあ、そう簡単に見つかったら、ここまで来た意味がなくなっちゃうしね」

「そうですね」

 とりあえず、時間も時間なので、旅館に戻ることにする。

 鳥居を抜けると、急に人のざわめき、空が赤く染まっていた。神域の境目がそこにあるということなのか、大国主神が出してくれたのか。

ーー ーー ーー

「あやつら、人の子だったか?」
 一人の神がそう呟いた。
 その呟きは誰の耳に入ることもなく、黄昏の空に消えた。
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