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ひととなか
ことわかこに
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「あら、倭建命」
高良玉垂命が口にした名前は、日本に生まれたなら誰しもが聞いたことがある名前だった。
西は九州、東は東北まで日ノ本を武力をもって制圧し平定した。神話における英雄と言えば、多くはこの神のことをさす。
「八百万の神が集うこの場で、英雄のあなたがこんな所にいていいの?」
「英雄ね。そんなものは大昔のことさ。いつまでも英雄と呼んでくる神など、下心が透いて見える」
倭建命はゆうに2メートルはあろうかと思われる巨体を震わせ、笑う。
「あいかわらず、達観しているのね」
「ふむ、神と言えど私は元は人の身。天から連なるものと言われても、未だに理解できるものではないな」
倭建命の威光か、ここが深奥なのか、ふと見渡すと回廊には人も神も動くものの気配さえも消えてしまっていた。
まるでここが人から忘れ去れた場所かのように。
「ところで、うまく獣に化けてはいるが、そのもの達は人であろう?」
唐突に倭建命がこちらに顔を向ける。
注意を別のところに向けていた僕は、突然のといに直ぐに答えられず、固まってしまう。
おそらく、後ろを歩いていた夏奈子も同じような状態だろう。
「ハッハッハ。そんなに緊張しなくとも良い。そなたたちをとって食おうというわけではない」
倭建命は豪快に笑う。
「なぜわかったの?」
高良玉垂命は問う。
「ふむ…、強いて言うなれば英雄の勘だ」
「英雄の勘ね」
高良玉垂命は訝しげな表情で、倭建命を見る。
「つまりはそのものらは我々を見ることができるということか」
「そうよ」
「噂は本当だったのか。大丈夫、他言はしないさ。とくに一部の天津神にはね」
「噂って?」
高良玉垂命はオウム返しに聞き返す。
「出雲に人の子が二人、紛れ込んでいるってね」
倭建命は声を潜める。
「……でも、見える人が二人いたところで、なにか良いことでもあるんでしょうか?」
凝り固まっていた口をこじ開け、言葉を吐き出す。
「それは単純に興味もあるし、二人を巫女にすれば名をあげることだって簡単だろうさ」
「…なるほど……」
聞いてしまえば単純な理由で、まるで人が起こすいざこざのようだ。
「なんと言うべきか…」
「実に、くだらんだろう?」
倭建命はぞんざいに言う。
そうだとも違うとも言えず。ただ、ひとつ明確にわかることは、僕がこの話題をすること事態が、実にくだらないってことか。
「だが、時々、くだらんことが良い結果になったりもするものさ」
倭建命は「日本を創ったりね」と事も無げに付け加える。
これをくだらないこととするあたり、人と神との価値観の違いを思い出させる。
「昔から変わらないものですよ」
高良玉垂命は言う。
「そういえば……」
先を続けようとして、口をつぐむ。
先程まで青々としていた空が、急激に夕方になり、夜になってしまってのだ。
もともと、昼だったことが嘘だったかのように、そこは暗く月明かりがひときわ輝く。
「……これは」
「おや、もうこんな時間か…」
倭建命が呟く。
「神域は天と月読命の神威が強く、逢魔時が訪れるまもなく、夜に変わるのです」
二人のヒトの表情を見て、高良玉垂命がいう。
逢魔時がない。どうりで出雲大社には妖怪の類いがいないわけだ。
「何か気になるところでも?」
高良玉垂命がこちらを向いて言う。
「いえ………そろそろ、宿に戻る時間だなと」
「それでしたら、送りましょう」
高良玉垂命はそう言うと、二人に息を吹き掛ける。息で吹き掛けたとは思えないほどの強風が起こり、思わず目を瞑る。
自転車のベルがなる。
目を開くとホテル前の大通りだった。
「これがなければ、夢だと疑ってしまいそうですね」
夏奈子は烏の文字が書いてある面を掲げる。
「まったくだよ」
神域にはなかった黄昏を見上げると、数多の龍が天に上るところだった。
「現実でよかったと思う」
高良玉垂命が口にした名前は、日本に生まれたなら誰しもが聞いたことがある名前だった。
西は九州、東は東北まで日ノ本を武力をもって制圧し平定した。神話における英雄と言えば、多くはこの神のことをさす。
「八百万の神が集うこの場で、英雄のあなたがこんな所にいていいの?」
「英雄ね。そんなものは大昔のことさ。いつまでも英雄と呼んでくる神など、下心が透いて見える」
倭建命はゆうに2メートルはあろうかと思われる巨体を震わせ、笑う。
「あいかわらず、達観しているのね」
「ふむ、神と言えど私は元は人の身。天から連なるものと言われても、未だに理解できるものではないな」
倭建命の威光か、ここが深奥なのか、ふと見渡すと回廊には人も神も動くものの気配さえも消えてしまっていた。
まるでここが人から忘れ去れた場所かのように。
「ところで、うまく獣に化けてはいるが、そのもの達は人であろう?」
唐突に倭建命がこちらに顔を向ける。
注意を別のところに向けていた僕は、突然のといに直ぐに答えられず、固まってしまう。
おそらく、後ろを歩いていた夏奈子も同じような状態だろう。
「ハッハッハ。そんなに緊張しなくとも良い。そなたたちをとって食おうというわけではない」
倭建命は豪快に笑う。
「なぜわかったの?」
高良玉垂命は問う。
「ふむ…、強いて言うなれば英雄の勘だ」
「英雄の勘ね」
高良玉垂命は訝しげな表情で、倭建命を見る。
「つまりはそのものらは我々を見ることができるということか」
「そうよ」
「噂は本当だったのか。大丈夫、他言はしないさ。とくに一部の天津神にはね」
「噂って?」
高良玉垂命はオウム返しに聞き返す。
「出雲に人の子が二人、紛れ込んでいるってね」
倭建命は声を潜める。
「……でも、見える人が二人いたところで、なにか良いことでもあるんでしょうか?」
凝り固まっていた口をこじ開け、言葉を吐き出す。
「それは単純に興味もあるし、二人を巫女にすれば名をあげることだって簡単だろうさ」
「…なるほど……」
聞いてしまえば単純な理由で、まるで人が起こすいざこざのようだ。
「なんと言うべきか…」
「実に、くだらんだろう?」
倭建命はぞんざいに言う。
そうだとも違うとも言えず。ただ、ひとつ明確にわかることは、僕がこの話題をすること事態が、実にくだらないってことか。
「だが、時々、くだらんことが良い結果になったりもするものさ」
倭建命は「日本を創ったりね」と事も無げに付け加える。
これをくだらないこととするあたり、人と神との価値観の違いを思い出させる。
「昔から変わらないものですよ」
高良玉垂命は言う。
「そういえば……」
先を続けようとして、口をつぐむ。
先程まで青々としていた空が、急激に夕方になり、夜になってしまってのだ。
もともと、昼だったことが嘘だったかのように、そこは暗く月明かりがひときわ輝く。
「……これは」
「おや、もうこんな時間か…」
倭建命が呟く。
「神域は天と月読命の神威が強く、逢魔時が訪れるまもなく、夜に変わるのです」
二人のヒトの表情を見て、高良玉垂命がいう。
逢魔時がない。どうりで出雲大社には妖怪の類いがいないわけだ。
「何か気になるところでも?」
高良玉垂命がこちらを向いて言う。
「いえ………そろそろ、宿に戻る時間だなと」
「それでしたら、送りましょう」
高良玉垂命はそう言うと、二人に息を吹き掛ける。息で吹き掛けたとは思えないほどの強風が起こり、思わず目を瞑る。
自転車のベルがなる。
目を開くとホテル前の大通りだった。
「これがなければ、夢だと疑ってしまいそうですね」
夏奈子は烏の文字が書いてある面を掲げる。
「まったくだよ」
神域にはなかった黄昏を見上げると、数多の龍が天に上るところだった。
「現実でよかったと思う」
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