神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

華絵

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 出雲にいってから数週間がたったころ、ここらの地域もやっと冬らしくなってきた。

 大学生の身分でありながら特にすることがない僕は、例によっての喫茶店に足を伸ばしていた。

 旧暦の神無月も終わり、そろそろ喫茶店を開いていてもおかしくない時期だが、扉の前には休業中の札が掲げられていた。

 今日も開いていないか。

 扉の前で一人ため息をつくと、引き換えそうと足を門の方に向ける。

「こんにちは」

 そこにはいつの間にかさとりの姿があった。

 黒々とした和装に、相も変わらず幼い見目の彼の姿は不思議とどうに入っていて、少し面白い。

「ここで会うのは2回目ですね」

 1回目はいわずもがな朧気の時のことだ。
 
「ええ、覚さ……人夜途ひとのよみちさんは高良玉垂命さんに会いに来たんですか?」

「ただ何となく見に来ただけかな。そんなことよりも、名前覚えてくれてるなんて、うれしいなぁ」

 そう言って人夜途はこぼれるように笑う。
 
「科斗は何をしに…って、見ての通りか」

「はい、珈琲を飲みたくて」

 人夜途の言葉に頷き、そう答える。

「そうなのかなぁ」

 気づくと人夜途は、僕の顔と数センチの距離から目を覗き込んでいた。

「………!?」

「そういう表情はしてないけどね」

 人夜途は顔を遠退ける。

「様々なものへの好奇心の表現かな」

 好奇心か。
 自覚が無いわけではない。ただ、他人に妖怪に覚られるほど、感情がだだ漏れているとは思わなかった。

「そんな君に1つ面白い話を聞かせてあげよう」

 人夜途は空中であぐらをかく。

「面白い話ですか」

「そう、と言ってもついさっき見たものなんだけど…」

「ここから北に歩いて3つ目の水辺に、真っ白な何かで落書きがされているんだ」

「落書き?」

 オウム返しに聞き返す。

「そうそう、最初は近所の子供か悪ガキの仕業だと思ったんだけど、上から見たら驚いたよ、大きな花の絵になってたからね」

「上から見たって、飛んで見たってことですよね?」

「そうそう、いい質問だよ」

 人夜途は拍手をする。

「人は地面しか歩けないから、地上に大きな絵を描こうとすると歪むんだ。ただ、その絵は僕が思わず見とれるほどに美しかった。まるで、天から直接絵を描いたようにね」

 人夜途はその光景を思い出すように、目を細める。

「どう、面白かったかい?」

「ええ、とっても」

「見に行こうか」

 人夜途はそう言うと、手を掴む。
 そのまま、引き上げられるように中に浮く。

「ちょ………」

 反論するまもなく、中空を引きずられるように喫茶店の屋根を越える。

 体重を支えているのは手のみの筈だが、不思議と手が痛むことはない。むしろ…。

「……浮いてる」

 歩いていくなら10分はかかる道のりを、文字通り飛ぶように行く。

 手を引く人夜途の横顔は少し楽しそうで。

「あそこの水辺だ」

 人夜途は水辺の一角を指し示すと、急上昇する。
 幅30メートルくらいだろうか、川辺に描かれた巨大な花が浮かび上がる。

 本当に、巨大だ。

 細部まで描きこまれていて、白の濃淡が花に命を吹き込んでいる。


 それはまるで神のための絵。
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