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二人目の王子様

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シナリオを遂行する為、僕はとりあえず比較的接触しやすいセーラさんから接触する事にした。
とはいえ魔法クラスと治癒クラスじゃ、偶にある合同授業でくらいしか顔を合わせない。
なので、お昼ご飯に誘ってみる事にしました!
普段の昼食は中庭のテラスで、ファルクと一緒に食堂で包んで貰ったお弁当を食べてたんだけど、今日は騎士クラスが行軍訓練で居ないから丁度良い。

そう思って午前の授業が終わった後、すぐさま治癒クラスの教室の前まで来たんだけど……。

──女の子をご飯に誘うのって難易度高くない……!?

今更、根本的でそして致命的な壁にぶち当たり、僕は頭を抱えた。
チラ、と様子を窺うとセーラさんは女生徒何人かとお喋りに興じているようだ。
あの女子の空間に行って「やぁ、セーラさん。良かったら僕と一緒にランチでもどうかな?」って声掛けるの!? 僕が!?
ないないないない!
そもそも他のクラスの教室に入るのもちょっと抵抗あるんだけど!

動物園の熊のようにウロウロ、チラチラ、ウロウロを繰り返しているうちに、教室内に居る生徒達がどんどん減っていく。皆昼食を食べに何処かに行ったのだろう。
きっとセーラさんもそろそろ席を立ってしまう。

「……」

……僕には……無理だ……。身の丈に合った別の作戦を考えよう……。

ガックリと項垂れながら踵を返そうとした時、ぽんと肩を叩かれる。
ぱっと顔を上げるとそこには──。

「る、ルカス殿下……!?」

繊細で美しい顔立ちと、絹のような輝きを放つ淡いブラウンの長い髪。女性的なように見えて骨格はしっかりと男性のそれで、手足はすらりと長い。常に湛えられた微笑みはたおやかで、でもどこか怖い。

ルカス・シルヴァレンスが僕を見下ろしていた。

ルカスはダリオンの腹違いの弟で、攻略対象の一人だ。
ゲームだと所謂『糸目キャラ』で、ファンからは腹黒そうとか裏切りそうとか最終的に主人公を庇って死にそうとか好き勝手言われていた。
実際のシナリオでは多少毒は吐くものの、そこまで腹黒い訳では無かったがまぁ、見た目のイメージのせいだろう。
ただ、この世界の一般生徒が言うような百合の花のように美しく穏やかで優しいだけの男じゃないのは確かだ。

なんでルカスが……!?

「治癒クラスに何か用ですか? レイルくん」
「えっ、あ、いえ……! な、なんでもないです……」

そ、そうか。ルカス殿下は治癒クラスだから……っていやいや、そうだとしてもなんで僕に話しかけてくるんだ!? 親切!?
っていうか……

「なんで……僕の名前……」

ルカス殿下はキョトンと目を丸くすると、可笑しそうに笑った。

「そりゃあ、知っていますよ。キミは従兄弟の大切な子なんですから。それに、昔ファルクの誕生日会で会ったこともある筈ですよ?」

──お前も黒歴史を掘り返すのか……!! なんで皆忘れててくれないんだ……!
カッと顔が熱くなる。きっと僕の顔は茹でダコのように真っ赤になっているだろう。

「その節は……で、殿下の前でお恥ずかしい所を……。わ、若気の至りでして……」

しどろもどろな僕を見てルカス殿下はくすくす笑った。

「昔から子うさぎのようで可愛かったですけど、変わりませんね。ファルクが宝物のように隠してしまいたくなる気持ちも分かります」
「いえ、あの……」

僕は完全に萎縮してしまい、制服の裾を握りながらこの気まぐれな嵐のような邂逅が早く終わる事を祈っていた。

「それで、本当はうちのクラスに何か用があったんでしょう? 言ってごらん」

歳下の子を甘やかすような口調でそう言われ、僕は同級生の女の子に声を掛ける事すら出来ない自分が無性に恥ずかしくなった。

「……セーラ・エーテリアさんに用があったんですけど、友人と談笑しているようなのでまたの機会にしようと思っていたんです」

ルカス殿下は片眉をあげると視線をセーラさん、僕の順番に動かして顎に手を当てた。

「浮気とは感心しませんね、レイルくん。ま、良いでしょう。ファルクには内緒にしておいてあげます」
「うわき……?」

僕が首を傾げていると、ルカス殿下は「少し待ってて」と言い残して教室へと入って行った。
あ。まさか。

案の定ルカス殿下はセーラさんに声を掛けていた。セーラさんは物凄いびっくりして、椅子を倒していた。周りの子達も顎が外れそうなくらいに口を開いている。
そりゃそうなるよね、僕も経験あるから分かる。
ルカス殿下による最高に紳士的で完璧なエスコートで、僕の元まで連れてこられたセーラさんは、突然無実の罪で連行された被疑者みたいな表情をしていて申し訳なさが凄かった。

「じゃあまたね、お二人さん」

紳士的に去っていこうとするルカス殿下に慌てて声をかける。

「あ、ありがとうございました! 殿下」
「どういたしまして。お礼は今度、鷲寮のサロンで一緒にお茶してくれるだけで良いですよ。ファルクには内緒で、私とも浮気しましょう」

唇に人差し指を当ててそう言うと、ルカス殿下は長い髪を靡かせながら優雅に去って行った。

──だから浮気ってなんなんだ!

とにかくもの凄く揶揄われたと言う事だけは分かる。やはりネットの意見は正しかった。ルカス殿下は一筋縄ではいかない。

なんだかどっと疲れて肩を落としながら、僕は巻き込んでしまった被害者へと顔を向けた。
セーラさんは依然として呆然としていた。

「あの……一緒にランチでもどう……?」

そう言った僕の笑顔は多分引き攣ってたと思う。
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