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ポーカーフェイス
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「どうしてお礼を言うのですか?」
「ミリアナの優しさが嬉しかったからだ」
「へっ!?」
昨日の態度は、私の中では過去最大級の暴言と暴走だったと思う。
あの場所にいた誰もが無言のまま固まっていた。
あれはまさに悪女的行為そのものだったのだろう。
どこをどう解釈しても優しさのカケラすら思い浮かばない。
今までだってそうだった。
レインハルト様は意味不明な箇所で私にお礼を言ってくる。
お弁当のときだって、本当は我慢してくれているのに平然とした顔をしてペロリと食べてしまった。
ここで、小さいころにお父様と親子喧嘩した言ときのことを思い出した。
♦︎
五年前で私が十歳のときに王族主催のお茶会に招待されて参加したときのことだった。
『こんなに不味そうな料理など下げてしまえ!』
『申し訳ございません!!』
テーブルの上に用意されていたのは、見るからに美味しそうなご馳走だった。
言われるがままにメイド服を着た使用人らしき人をみていたらいたたまれない気持ちになってしまったのだ。
『美味しそうじゃありませんか。どうして不味いと思ったのですか?』
私が王子に対してそう言うと、周りにいた他の貴族たちは凍りつくように固まってしまった。
『私が不味いと思ったら間違いはない。それとも、まさかキミは私の判断が間違っているとでも?』
『間違っているわ。だって、ほら……』
もぐもぐもぐもぐ……。
ぱくぱくぱくぱく……。
ごっくん。
『こんなに美味しいじゃないの。食べ物を粗末にしないでくださいよね! それにこれを作った人の気持ちも考えなさいよね!』
『く……所詮は低級貴族の人間だろ。そういう奴らの味覚など信用できるものか』
『あらー、王子ったらこんなに美味しい食べ物の魅力もわからないのかしら? この味は、王都で一番人気のある一流料理人が味付けしたものですわよ。使用人さんは知っているんでしょ?』
『た、確かにそのとおりですが……』
『ち……、絶対に許さんからな。お前はもう帰れ!』
『えぇ、ごちそうさま』
この翌日、さっそくお茶会での出来事がお父様の耳に入ったようで、理不尽にも正座をさせられて大目玉を喰らった。
「ばっかもーん! 王子相手になんという無礼なことを!!」
「だって、あの王子ったら出された食べ物を手もつけずに下げろって言ったのよ? しかも、理由が『不味そうだから』って!」
「相手を選んで物事を言うのだ! 今回ばかりは王女様と陛下の止めがあってなんとか治まったが、二度と出しゃばったマネはするな!」
「なに言ってるの? 間違っているのはあの王子でしょ? どうして私が怒られなければいけないの?」
悔しくなってきた。
私はただ、食べ物を粗末にするような行為を平気でやって、その上に使用人を困らせている王子がひどいと思った。
言いたいことも言えないこんな貴族界じゃ、まるで毒を浴びているように精神的に苦しむだけじゃないか。
「……ミリアナの言いたいことはわかる。娘として考えればよくやったと褒めている。だが、やはり伯爵の立場からすれば叱責せざるを得ないのだ……」
「じゃあ……、どうしたらいいのです? 王族ってみんなワガママなのですか?」
「なにがあっても良い顔をする。いわゆるポーカーフェイスだ。これが貴族界で生き抜くには重要になってくる。覚えておきたまえ」
♦︎
あのとき、お父様から最後に言われたことを思い出した。
(そうか! レインハルト様もポーカーフェイスをして私のためにいつもお礼ばっかり言っているのね)
このことに対して否定するつもりはない。
王族がやる常識に関しては文句を言っても仕方がないだろう。
私はこの手の行為を真似するつもりはない。
絶対に意味のわからないような付き合い方はしないつもりだ。
だが、悪女になって婚約破棄してもらわないといけないため、嘘はつかせてもらう。
結局やっていることは一緒なわけだ……。
「私は優しくありませんよ。むしろワガママなんです。仕事ばかりやって私の相手をおろそかにして……。それに前も言いましたが、レインハルト様の顔も酷すぎますから! いい加減に私の気持ちに気づいていただけませんか!?」
(いい加減に愛想尽かして婚約破棄して、本当に大好きなシャーリャ様と幸せになってよ!)
私は全身全霊で今の嘘の気持ちを訴えた。
なかなかの怒声だったし、こんなことを言われてしまえばさすがに怒るだろう。
だが、私の考えていたこととはまるで真逆の行為をレインハルト様はしてくるのだった。
「むぎゅう……!?」
「あぁ、確かにミリアナの言うとおりだよ」
ぎゅっと抱きしめられてしまった。
レインハルト様の香りが漂ってくるし、私の心臓がドクンドクン激しい鼓動になってしまっただろう。
「すまなかったな。そして、ありがとう!」
レインハルト様……。
いくら演技とは言ってもやりすぎじゃありませんか?
だが、このとき私は無我夢中でレインハルト様の行為に負けてしまった。
ただただ無我夢中になっていて、ぎゅー状態から離れることはしなかった。
嘘でもいいから、こんな幸せがずっと続けばいいのに……。
「ミリアナの優しさが嬉しかったからだ」
「へっ!?」
昨日の態度は、私の中では過去最大級の暴言と暴走だったと思う。
あの場所にいた誰もが無言のまま固まっていた。
あれはまさに悪女的行為そのものだったのだろう。
どこをどう解釈しても優しさのカケラすら思い浮かばない。
今までだってそうだった。
レインハルト様は意味不明な箇所で私にお礼を言ってくる。
お弁当のときだって、本当は我慢してくれているのに平然とした顔をしてペロリと食べてしまった。
ここで、小さいころにお父様と親子喧嘩した言ときのことを思い出した。
♦︎
五年前で私が十歳のときに王族主催のお茶会に招待されて参加したときのことだった。
『こんなに不味そうな料理など下げてしまえ!』
『申し訳ございません!!』
テーブルの上に用意されていたのは、見るからに美味しそうなご馳走だった。
言われるがままにメイド服を着た使用人らしき人をみていたらいたたまれない気持ちになってしまったのだ。
『美味しそうじゃありませんか。どうして不味いと思ったのですか?』
私が王子に対してそう言うと、周りにいた他の貴族たちは凍りつくように固まってしまった。
『私が不味いと思ったら間違いはない。それとも、まさかキミは私の判断が間違っているとでも?』
『間違っているわ。だって、ほら……』
もぐもぐもぐもぐ……。
ぱくぱくぱくぱく……。
ごっくん。
『こんなに美味しいじゃないの。食べ物を粗末にしないでくださいよね! それにこれを作った人の気持ちも考えなさいよね!』
『く……所詮は低級貴族の人間だろ。そういう奴らの味覚など信用できるものか』
『あらー、王子ったらこんなに美味しい食べ物の魅力もわからないのかしら? この味は、王都で一番人気のある一流料理人が味付けしたものですわよ。使用人さんは知っているんでしょ?』
『た、確かにそのとおりですが……』
『ち……、絶対に許さんからな。お前はもう帰れ!』
『えぇ、ごちそうさま』
この翌日、さっそくお茶会での出来事がお父様の耳に入ったようで、理不尽にも正座をさせられて大目玉を喰らった。
「ばっかもーん! 王子相手になんという無礼なことを!!」
「だって、あの王子ったら出された食べ物を手もつけずに下げろって言ったのよ? しかも、理由が『不味そうだから』って!」
「相手を選んで物事を言うのだ! 今回ばかりは王女様と陛下の止めがあってなんとか治まったが、二度と出しゃばったマネはするな!」
「なに言ってるの? 間違っているのはあの王子でしょ? どうして私が怒られなければいけないの?」
悔しくなってきた。
私はただ、食べ物を粗末にするような行為を平気でやって、その上に使用人を困らせている王子がひどいと思った。
言いたいことも言えないこんな貴族界じゃ、まるで毒を浴びているように精神的に苦しむだけじゃないか。
「……ミリアナの言いたいことはわかる。娘として考えればよくやったと褒めている。だが、やはり伯爵の立場からすれば叱責せざるを得ないのだ……」
「じゃあ……、どうしたらいいのです? 王族ってみんなワガママなのですか?」
「なにがあっても良い顔をする。いわゆるポーカーフェイスだ。これが貴族界で生き抜くには重要になってくる。覚えておきたまえ」
♦︎
あのとき、お父様から最後に言われたことを思い出した。
(そうか! レインハルト様もポーカーフェイスをして私のためにいつもお礼ばっかり言っているのね)
このことに対して否定するつもりはない。
王族がやる常識に関しては文句を言っても仕方がないだろう。
私はこの手の行為を真似するつもりはない。
絶対に意味のわからないような付き合い方はしないつもりだ。
だが、悪女になって婚約破棄してもらわないといけないため、嘘はつかせてもらう。
結局やっていることは一緒なわけだ……。
「私は優しくありませんよ。むしろワガママなんです。仕事ばかりやって私の相手をおろそかにして……。それに前も言いましたが、レインハルト様の顔も酷すぎますから! いい加減に私の気持ちに気づいていただけませんか!?」
(いい加減に愛想尽かして婚約破棄して、本当に大好きなシャーリャ様と幸せになってよ!)
私は全身全霊で今の嘘の気持ちを訴えた。
なかなかの怒声だったし、こんなことを言われてしまえばさすがに怒るだろう。
だが、私の考えていたこととはまるで真逆の行為をレインハルト様はしてくるのだった。
「むぎゅう……!?」
「あぁ、確かにミリアナの言うとおりだよ」
ぎゅっと抱きしめられてしまった。
レインハルト様の香りが漂ってくるし、私の心臓がドクンドクン激しい鼓動になってしまっただろう。
「すまなかったな。そして、ありがとう!」
レインハルト様……。
いくら演技とは言ってもやりすぎじゃありませんか?
だが、このとき私は無我夢中でレインハルト様の行為に負けてしまった。
ただただ無我夢中になっていて、ぎゅー状態から離れることはしなかった。
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