お飾り結婚だからと自由にしていたら、旦那様からの愛が止まらない

よどら文鳥

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14話 ドレス

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 夜会も近づいてきたある日のこと。
 普段は自由に出かけても良いことになっているのだが、今日だけは公爵家にいるようにとハイド様が指示してきたのである。
 実家のヴィニア家で掃除をしようかと思っていたが、滅多にない指示だしハイド様に従うことにした。

 公爵家にいなければならない理由はなんなのだろうかなと思いながら、自分の部屋の掃除をエネと一緒にしている。

「ハイド様も公爵家にいるのよね?」
「奥様は本日の予定をご存知でないのですか?」

 エネが少々ビックリしたような反応をしている。
 なにか重大なイベントがあるのかもしれない。

「エネはなにがあるか知っているの?」
「本来ならば当然のことですが、奥様にとってはもしかしたら少々難あることかもしれませんね」
「えっ!?」

 多少の難題ならば頑張る。
 だって、あれだけ厳しかった社交ダンスレッスンを自称克服してきたのだから。

「それで旦那様はあえて黙っていたのかもしれません」
「気を引き締めておかないと」
「いえ、そのようなことはしなくとも大丈夫ですよ。今ここで喋ってしまったくらいのことですから。そうお気になさらず流れのままにっ!」

 ニコリと微笑むエネ。
 付き合いも長くなってきているから、彼女がこういう笑みをするのがどのようなときなのか、なんとなく察せるようになってきた。
 ああ……、またなにかとてつもない恩が増えてしまいそうな気がしていた。

 気にしていてもやがてそのときはくるのだし、今は掃除作業に没頭しよう。

 ベッドもピカピカ。
 シーツも綺麗なものにチェンジ。

「こうやって掃除を達成できたときの喜びがたまらないのよねー」
「わかります! 私も奥様のおかげで掃除の楽しみを思い出せましたし」
「そうなの?」
「はい! 奥様が楽しそうにしているところを毎日見ていたら、ああ、私も楽しく仕事をしていた日があったなあって。あ! 今は本当に毎日楽しく仕事ができていますからね!」

 初めて会ったときの表情よりも、今の方が明らかにいきいきとしているのがわかる。
 それはエネだけではなく、ここで働いているみんながそう。
 特に私がなにかしたわけではないと思う。
 ただ私が毎日楽しく生活しているだけでこうなってくれているのなら、どんどん掃除や料理、時々ハイド様の隙をついて洗濯を楽しもうではないか!

 まだ時間もあるようだし、掃除ももう少し細かい部分をやっておこうか。
 ホコリが溜まりそうな出っ張り部分や棚上も綺麗に雑巾で磨いていると、執事長のサイヴァスさんの声がドア越しから聞こえてきた。

「奥様、おくつろぎの……こほん。お楽しみのところ申し訳ございませんが、応接室へお越しくださいませ」
「応接室? ということは、来客? 清楚な格好に着替えないといけませんよね?」
「はい。決して掃除中の軽装では出ないようお願いいたします」

 サイヴァスさんの心配そうな声が聞こえてきた。
 見られていなくとも、私が今なにをしていたのかが完全に見抜かれている。
 さすが執事長サイヴァスさま!

「感心している場合ではありませんよ! すぐにお召し替えをいたしましょう」

 エネが素早く清楚な服を用意して着替えさせてくれた。

 今日は公爵家にいてほしいとハイド様。
 少々難があることだとエネ。
 これから応接室で誰かとお話をする私。

 誰がいらしたのだろうかと緊張しながら応接室へ向かい、ドアを開けた。
 ハイド様が滅多に見せない笑顔で出迎えてくれた。
 そしてもう一人、私よりもひと回りほど年上くらいと思われる美しい格好をした女性が深々とお辞儀をしてきた。

「あらあらまあまあ……やりがいのありそうな奥様だこと」
「ん?」
「妻に見合うドレスを見繕ってほしい」

 普段は雰囲気がどこか暗めなハイド様ではあるが、どこか微笑んでいる。
 ハイド様がとても楽しそう。

 なにが起こるか理解した私は、ものすごく困っている。
 ドレスなら未着用のものも多い。
 この場でこれ以上買っていただくわけにはいきませんなどと言うわけにもいかない。

 案内してくれたサイヴァスさんは、頑張れと応援の眼差しを向けてくるだけだ。

「夜会用のドレスをオーダーメイドで新調するのだよ。遠慮することはない」

 まるで私がドレスはいりませんよと知っているからこそ、ハイド様はあえてそう言ってくれたように聞こえた。
 きっと公爵家の建前上、どうしてもこのドレスは新調しなければならないものなのだろう。

「ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたします」

 私はそう言い、二人に深々と頭を下げた。
 お値段も相当なものになるだろうし、これ以上お金をかけないでほしいとは思っている。
 だが、ハイド様がとても嬉しそうにしているし、今回もお金を使うことによって国のためになるのだと思った。

「あらまあ、そんなご丁寧に……。貴族夫人で腰の低いお方なのですね」
「ああ、自慢の妻だよ」
「こんなにやる気がみなぎるのなんて……何年ぶりかしら。最高を超える仕上がりにしましょうね!」

 え、え?
 私、お飾りで結婚したんですよね?
 ハイド様は、自慢の妻だって言わなかったか?
 そう言ってくれたことはとても嬉しいと思った。

 しかし、自惚れてはダメだ。
 あくまで社交辞令として褒めてくれたのだろう。
 そう思っているのに、ハイド様の笑顔が止まらない。

 どっちなのか本当にわからなくなってきてしまうからやめてくれ。

「さあて……奥様はエメラルド色の瞳がとてもお綺麗ですね。アクセサリーとしてエメラルドの宝石を入れてみても?」
「もちろん構わないよ」
「へ?」

 宝石を取り入れたドレスになると、さらに高くなってしまう。
 それでもそんなのあたりまえだという勢いで会話が止まることがなかった。

「彼女が着飾れば世界一似合い、レイチェルがより輝けるような素敵なドレスにしてもらいたい」
「え!?」
「そして同じものを二着作ってほしいんだ」

 二度ハイド様の表情を伺った。
 なぜか楽しそうにしている。
 どう考えても法外な金額がかかってしまうというのに。
 いくらお金持ちだとはいえ、お飾りの私にそんなにお金をかけなくても……。

「お世辞ではなく本当にやりがいのありそうな奥様ですし、全身全霊作成させていただきます。ええ私も楽しみですよこれは!」
「ああ。よろしく頼むよ」

 あれよあれよと言う間に話が進んでしまい、私が入る隙がなかった。
 しかし、申し訳ないという気持ちとは別の野心もあったからこそ完全否定しなかったのかもしれない。

 綺麗なドレスを着て夜会への参加。そして死に物狂いで練習している社交ダンスを、綺麗なドレスでお披露目ができる。
 こういった今まで経験したことがないワクワクもあったのだ。

 ところで、どうして二着も同じドレスを作ろうとしているのだろう。
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