お飾り結婚だからと自由にしていたら、旦那様からの愛が止まらない

よどら文鳥

文字の大きさ
21 / 25

21話 訪問者

しおりを挟む
 こんなに幸せな生活が続いて良いのだろうか?
 ……と、ふと思ってしまう。

 お父様の領地運営はハイド様の手助けもあり順調。
 夜会をキッカケに仲良くなったみんなで定期的にお茶会をして女子会。
 お飾りでなくなったから、家事や掃除といったことができなくなってしまうかと思ったら、やりたいことなら自由にして構わないとハイド様からの許可を得た。おかげで使用人のみんなと一緒に布団干したり掃除したり料理もしたり。
 ハイド様との夜もようやく覚悟が決まり、時々夜明けまで寝れないこともある。

 今日は若干の寝不足ではあるが、やることは変わらない。
 午前のお掃除タイムが終わり、午後はエネたちとのティータイムでテラスで満喫中だ。

「奥様がここに住まわれてからもう四ヶ月になるのですね」
「あっという間でしたわ。奥様が来られてからは時間が過ぎるのが早い気がしますもの」
「楽しくなりましたものね。改めてありがとうございます」
「いえいえ、私はなにもしていないよ。むしろ……」

 おいしい食事、毎日違う服を着て自由な時間、夜はハイド様との時間、どれも幸せすぎて感謝したいのは私の方だ。

「お取り込み中失礼いたします」
「あら、どうしたのですかサイヴァスさん?」
「ガルム=バケットさんが奥様にご面会を希望されたいと申しておりまして……」

 表情がいつもより引きつった状態になっているのはそのせいか。
 ガルムは実質出入り禁止としている。そもそも元婚約相手がここに来ること自体がとんでもない話である。
 そのため、万が一来られた場合はハイド様に話が進んでいく。
 しかし、ハイド様はタイミング悪く外出中だ。

「用件はお聞きになられましたか?」
「言葉をそのままお伝えしますと、『レイチェルにしか頼めないことだから答えられない、ただしレイチェルを奪う気はない、それどころではないんだ今は』と申しておられたそうです」
「なにかあったのでしょうね」
「その……今にも死にそうな表情をしておられていたそうです」

 それを聞いて断ることができなくなってしまった。
 サイヴァスさんが状況まで説明してきたということは、本当に危機的状況でガルムを放置していたら死にかねないといったところだろう。

「わかりました。至急応接室へガルムさん’’だけ’’お通しください」
「かしこまりました。旦那様に代わり、私が命をかけてでもお守りしますゆえご安心を」
「冗談に聞こえないのが恐いですね」

 信用しているわけではない。
 あくまでも緊急性が高いから仕方なく話を聞くというだけである。
 これでろくでもない話だったとしたら、今後ガルムと関わることは一切なくなる。
 領土関係のお隣付き合いも終わるだろう。

 ♢

 応接室にはすでにガルムが待っていた。
 椅子に座ることもなく立ったままそわそわとしている。
 挨拶をしようとしたが、その前にガルムの交渉がいきなり始まった。

「金貨を……貸してほしいんだ……」
「はい?」
「レイチェルは金持ちだろ? 領地の金もたくさんあるだろ……?」

 今までとは違い、明らかに焦っているガルム。
 私の護衛役として同行してくれているサイヴァスさんは、早速ガルムを追放しようと動く。だが、それは私が止めた。

「ひとまず落ち着いてください。なにがあったのか話してくれますか? 今後とも’’可能であれば’’お隣同士の領主関係は良好にしていきたいと思っていますし」

 すでにガルムに対しての信用などない。それでも子爵側の領民が直接困るようなことがあるのならば助けられることは助けたい。
 そう思って話は聞く体制になっているのだ。

「金が……盗まれた」
「具体的には?」
「……父上の金が盗まれた」

 ガルムの言っている詳細はなんとなく想像がついた。
 おそらくはガルムの父親、つまりガルム=バケット子爵が領地運営用に管理していたお金がなくなったということだろう。
 その情報はお兄様経由で知っている。

「そうですか」
「なぜ他人行儀なんだ!?」
「他人でしょう?」
「いや……それはそうかもしれないが、もっと温情ある反応とか……そういったことをしてくれないのか?」

 バケット子爵が訪ねてこられたら違う反応をしていたことは間違いない。
 ガルムも本当のことを話してくれていれば、ほんの少しは同情していたかも知れないが……。

「具体的にはいくらほど盗まれてしまったのですか?」
「全部だ……」
「全部と言いますと?」
「領地で使う用の金全てだ」

 横にいるサイヴァスさんも、この件はなにがあったのかなんとなく知っている。
 私が話したわけではないが、噂というものは自然の広がっていくものだ。

「それほどの大事件にもかかわらず、どうしてバケット子爵は公言しないのでしょうか」
「それはわからない。とにかく大変な状況なんだ! だから力を貸してほしい!」
「おかしいでしょう? それほどの大金を盗まれたのなら、本来であれば国へ報告。そして国家勢力をあげてでも犯人探しをしますのに」
「そ……そうだが……」

 ガルムの口調が徐々にゆったりとしていく。
 まるで威厳ある態度が減っていくかのように。
 私は、こう答えるしかないだろう。
 ガルムに鋭い視線を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月 瑠々奈
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...