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33 克服させる

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「レイナ?」

 ツバキが私に声をかけてきて、ハッとした。
 思い出したりしていると自分の世界に入ってしまうことがあって、固まってしまう癖がある。

「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。さ、中へ行きましょ! ダルムさんも待ってるし」

 自分の世界に入ってしっかりと過去を思い出したことで理解できた。
 なるほど……、そういうことだったのか。
 ツバキの態度を見て、はっきりとわかった。

 あのときの男性恐怖症の患者さんが変装していたツバキだったんだ!
 レオン様は途中からツバキだとわかったのだろう。
 でも、私自身は全く知らないからずっと黙っていたんだ。

 その後にダルムさんの件があって、前を向こうとしているツバキを押そうとして、ダルムさんを紹介したんだろう。
 ツバキも前を向いて頑張っていこうと、男恐怖症のことは今まで私に黙っていたに違いない。
 でも、実際に会ってみてやはり苦手だったというわけで、今カミングアウトしたんだろう。

 レオン様が、私とツバキだけで行ってきて良いと、むしろ前向きに言っていたことが少し違和感だったけれど、こういう事情なら納得ができた。

 さて、そうなると治癒魔法で治せなかったツバキのことをしっかりとフォローしなくちゃね。
 まだ治癒施設で唯一治せていない患者なのだから。

 店の中に入ると、ツバキはいささかテンション上がり気味で周りを見渡していた。

「こういう店、入るの初めてなのよね~」
「ワショク(和食)っていう珍しいジャンルなんだけど、とっても優しくて美味しいよ。ダルムさんお手製なんだって」
「ふぅ~ん。……なおのこと今回こそ……!!」

 ツバキは何かを決心するような顔つきで、小声で呟いた。
 よくは聞こえなかったが、彼女が何を考えているのかくらいはわかる。

「お待たせしました。本日のスペシャルコースです」

 そう言って料理を運んでくれたのはダルムさんではなく、ここの女性従業員。

 ツバキは上がることもなく料理を見てテンションが上がっているようだ。
 それは私も同じである。
 前回とはまた違った見たこともない料理が次々と出てきたのだ。

「オーナーはまだ厨房で調理中なので、先にお二人で召し上がってくださいとのことです」
「え? でも……」
「料理も熱いうちに召し上がられた方が美味しいので」

 少し躊躇はしたが、よくよく考えたら堅苦しい面会で来たわけではない。
 今日はあくまで紹介するという程度の流れなので、お言葉に甘えて先にいただくことにした。
 ツバキがものすごい勢いで食べていく。


ーーーーーーーーーー

【後書き】
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今年一発目に新作投稿した作品のお知らせです。

『新たな恋愛をしたいそうで、婚約状態の幼馴染と組んだパーティーをクビの上、婚約破棄されました~クビにされたけど王子様からスカウトされました~』

主に恋愛とざまぁがメインですが、その中にファンタジー要素を取り入れてみました。
こちらも是非よろしくお願いいたします。
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