【完結】どろどろの恋をしてしまったのです

よどら文鳥

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1話

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 私フィアーナは、両親から一人で王都へ遊びに行ってはだめだと口を酸っぱくして教育されてきた。
 だが、今日はどうしても欲しい絵本の発売日であり一人で買いには行けない。
 両親にお願いして、一緒に買い物に同行してもらった。

 私は絵本が手に入ると夢中になり、一人はしゃいで走ってしまう。
 不運にも、両親はアクセサリーが売っている店に視線を預けていた。
 私は好奇心のまま、一人でどんどんと進んでしまい、やがて迷子になってしまった。

「おかあさま……おとうさま……どこー?」

 人通りの少ない裏路地へ迷ってしまったら、怖そうな男たちに囲まれてしまった。

「迷子かい?」
「おいおい、ずいぶんと高そうな服着てんじゃねーか。貴族の子じゃね?」
「しかも、ガキのくせに超可愛らしい顔してんじゃん」

 街では怖い人がたくさんいると聞いたことがある。
 おそらくこの人たちがそうだ。
 一緒に両親を探してくれるような感じには思えない。
 それどころか、私の手を力強くぐいっと引っ張ってきた。

「いたい! はなしてー!」

 必死に抵抗するが、当時六歳の私ではどうすることもできなかったのだ。

「金になりそうだから服は全部ひっぺがせ! 奴隷商に引き渡せばかなりの金になりそうだ。その前に遊びたい奴は好きにしろ」
「「おうっ!!」」

 何人もの男が私に近づいてくる。
 イヤらしそうな目つきで……。

「へっへっへ……」
「いやーーーーー!!」

 嫌らしい視線を向けられていて、気持ち悪い。
 こんなことになってしまうなら、はぐれないように気をつけるべきだった。
 もしも助かるなら、絶対に両親の言いつけは守りたい。
 後悔しても遅いのである。

 ……と、思っていたのだが。

「ぐふぅぇえええ!」
「がはぁっ……」
「いやん……」

 私を襲ってきた男たちが次々と倒れていくではないか。
 命令をしていたボスのような男もいつの間にか地面に倒れていた。

「キミ、大丈夫か?」

 年は私よりちょっと上くらい。
 顔は年齢の割には男前でハンサムで私好みであった。

「ありがとう……」
「少々腕が腫れてしまっているな。誰か、この子に水で冷やしたタオルを」
「え?」
「安心して良い。ゴミを片付けた彼らは僕の護衛だから」
「助けてくれたのね……。ありがとう」
「礼などいらない。たまたまキミが人通りの少ない道へ一人で入っていく姿を見たのでね。それに、コイツらは僕の父上が追っていた悪党集団かもしれない」

 ハンサムな男はニコリと微笑み、私はこのとき、幼かったレオルド様に初恋をしてしまったのだ。
 それから、ずっとレオルド様のことだけを愛してきた。

 そんな彼との出逢ったころのユメをみていた。

♦︎♦︎♦︎

「フィアーナよ、今日はひと晩俺といてくれるか?」
「はい。レオルド様のもとにいられるなんてありがたき幸せ……。よろしくお願いいたします!」

 ついに、私フィアーナの番がやってきた。
 レオルド様を独占できるのは、およそ二十日ぶりである。
 そっとレオルド様の座っているソファーの横に私も腰掛け、彼の腕をギュッと掴んだ。

「ふふふふふふふふふふっ♪」
「すまないとは思っているが、俺には何人も愛人がいることを伝えたではないか。なぜそんなに嬉しそうなのだ?」
「せっかくレオルド様の部屋で二人きりなのですよ。今はそういう苦しくなることは言わないでほしいですね……」
「あぁ、すまない」

 レオルド様が私に近づいてくる。
 私の心臓のドキドキが激しくなっていく。
 このままベッドへ連れていってくれても構わないと思ってしまう。
 今の流れならば、今回こそは……と思っていた。
 しかし、レオルド様と触れることはなく、そのまま離れようとしてしまった。

「どうして離れてしまうのでしょう……?」
「フィアーナはこの部屋で好きに過ごしてくれて構わない。俺は仕事があるから、終わったら戻ってくる」
「承知しました」

 レオルド様は私を残して部屋から出てしまった。
 今日は私が指名されたのに、ひとりぼっち。
 まだ日が暮れるまで時間があるし、今のうちに寝ておくことにした。
 レオルド様と夜通し一緒に過ごせるのに、寝てしまったらもったいない。

 レオルド様のベッドをお借りして、まぶたを閉じた。

 レオルド様はもうすぐ大人になられるというのに、婚約者が決まっていない。
 婚約相手を見定めているようで、大勢の女性と毎日交流している状況だ。
 私もその中の一人。
 無理もない。彼は彫刻刀で彫ったような素晴らしい顔立ち、そしてピシッと整った清楚な格好をしていて、誰もが好むような美男子でもある。
 レオルド様の婚約者候補の中には、王族や侯爵令嬢まで含まれている。
 地位だけで言えば、伯爵令嬢である私が敵うような相手ではない。

 だが、私はあの日からレオルド様のことをずっと慕っていた。
 誰よりも彼のことを愛していると思っている。
 どうしたら彼は私に振り向いてくださるのだろうか……。

 レオルド様のことを考えているうちに、ふかふかのベッドに意識を預けた。
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