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3話
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奇跡的に無事に家へたどり着いた。
王都の中でも貴族が住む住宅街は比較的平和なため、昔のように悪党に襲われるリスクも低い。
家の中へ入ると、驚いた表情を浮かべながらお父様が玄関越しにやってきた。
「フィアーナじゃないか。公爵家に行っていたのではないのか?」
「いえ……、今日でそれもおしまいです。申しわけございません」
私は泣きたい気持ちを必死に押さえながら頭を深く下げた。
お父様からは、なんとしてでもレオルド様をモノにしろと言われていたのだ。
だが、今回私から逃げだすような行為をしてしまった。
ひたすら謝罪するしかできない。
「つまり、次期公爵のお方とダメになったのだな」
「はい……。申しわけありません」
「これはマズい……。マズいぞ……」
お父様が頭を抱えながらとても困った表情を浮かべていた。
「そうですよね。王家との婚約をダメにしてしまったのですから」
「いや、そういうことではない」
「へ?」
「フィアーナがとんでもなく厄介な者と婚約を結ばされ兼ねない……」
思いもしなかった返答に、私はわけがわからず混乱した。
今まで貴族としての地位を確立していくために、レオルド様と愛人関係であったとしてもなんとか婚約に持っていくよう命じられているのだと思っていたからだ。
私としては、レオルド様のことを愛しすぎているため、もちろん全力で頑張るつもりでいた。
「次期公爵様と私が結ばれたら鼻が高いとおっしゃっていたではありませんか」
「表向きにはそのように言ってきた。だが、どこでボロがでるかわからないからな。今まで本音はずっと隠していたのだよ……」
「本音と言いますと」
「実は、フィアーナには前から縁談が来ていたのだよ。デルム侯爵からな……」
「あぁ、最近ご両親を無くしてしまい繰り上がりで侯爵になったあのお方……」
私よりちょっとだけ年上にして、若き侯爵様。
デルム侯爵のご両親も手を焼くほどの荒くれようで悪評も凄まじかった。
不幸にもご両親は事故で亡くなってしまったのである。
これがきっかけでデルム侯爵は貴族に対してやりたい放題の暴虐っぷりに磨きがかかってしまった。
とんでもないマズい人に目をつけられていたものだ。
恐怖で身体が自然とガクガク震えはじめてしまった。
「たとえ愛人関係であったとしても、運が良ければフィアーナと結ばれてくれさえすれば助かると思っていた。デルム様も公爵相手に逆らうことはできまい……。だが、もしも愛人関係が解消されたことを知られたら……」
レオルド様に失恋したうえ、王都の中で最も近づきたくない相手と無理やり婚約が決まってしまいそうな状況である。
レオルド様との恋愛が上手くいかなかった時点で、もう諦めるしかないだろう。
「遠かれ近かれ、いずれバレるかと思います。せめて、自ら報告して少しでも相手の機嫌を損ねないようにするよう努めようかと……」
「どうすることもできない父を許してくれ……」
「いえ、お父様のせいではありません。少なくとも、最高爵位のところへ嫁げるのですから、本来は喜ぶものでしょう」
少しでも前向きな発言をしておかないと、怖くなって逃げだしてしまいそうだった。
せめてレオルド様のことをキッパリと諦めがついてからだったらまだ我慢はできたかもしれない。
まだ気持ちの整理ができていない状況で、別の相手に嫁ぐというだけでも、ハードルが高いのだ。
「一ヶ月くらいは様子を見ても良いと思うのだが」
「いつバレるかわかりませんからね……。明日明後日は無理としても、来週には挨拶に伺えるよう、気持ちも整理しておきます」
「私のほうでも、少しでもマシな婚約になれるよう協力する。……とは言っても、相手側のほうが地位は上。我が家が伯爵ですまない」
「そんなことありません。お父様が管理している領地で住んでいる領民は幸せそうにしているではありませんか。私も何度か家族旅行も兼ねて遠乗りしましたよね。何度行っても素晴らしい場所だと思っていますよ」
いっそのこと、逃げだしてお父様の領地でひっそりと暮らしたいとまで思ってしまう。
レオルド様と結ばれたら、彼を連れて一緒に領地で何日か婚約旅行をしたいなぁなどと淡い考えすらあったのだ。
それくらい、お父様の領地は良い環境だし領民にも恵まれている。
もちろんデルム様と一緒に領地へなど微塵も思わない。
むしろ、なにか余計なことをされてしまいそうで怖いくらいだ。
あぁ……。今もレオルド様のことばかり考えてしまう。
何日かは家で大人しくさせてもらい、早く気持ちを切り替えられるようにしなければ……。
だが、翌日、信じられない出来事がおきたのである。
「フィアーナ……、最悪の客人のお出ましだ」
「え? まさか……」
「デルム侯爵様が応接部屋で待っている」
まさか、愛人関係は終わったことがもうバレてしまったのだろうか……。
急いで身支度を整え、デルム侯爵の待つ部屋へ向かった。
王都の中でも貴族が住む住宅街は比較的平和なため、昔のように悪党に襲われるリスクも低い。
家の中へ入ると、驚いた表情を浮かべながらお父様が玄関越しにやってきた。
「フィアーナじゃないか。公爵家に行っていたのではないのか?」
「いえ……、今日でそれもおしまいです。申しわけございません」
私は泣きたい気持ちを必死に押さえながら頭を深く下げた。
お父様からは、なんとしてでもレオルド様をモノにしろと言われていたのだ。
だが、今回私から逃げだすような行為をしてしまった。
ひたすら謝罪するしかできない。
「つまり、次期公爵のお方とダメになったのだな」
「はい……。申しわけありません」
「これはマズい……。マズいぞ……」
お父様が頭を抱えながらとても困った表情を浮かべていた。
「そうですよね。王家との婚約をダメにしてしまったのですから」
「いや、そういうことではない」
「へ?」
「フィアーナがとんでもなく厄介な者と婚約を結ばされ兼ねない……」
思いもしなかった返答に、私はわけがわからず混乱した。
今まで貴族としての地位を確立していくために、レオルド様と愛人関係であったとしてもなんとか婚約に持っていくよう命じられているのだと思っていたからだ。
私としては、レオルド様のことを愛しすぎているため、もちろん全力で頑張るつもりでいた。
「次期公爵様と私が結ばれたら鼻が高いとおっしゃっていたではありませんか」
「表向きにはそのように言ってきた。だが、どこでボロがでるかわからないからな。今まで本音はずっと隠していたのだよ……」
「本音と言いますと」
「実は、フィアーナには前から縁談が来ていたのだよ。デルム侯爵からな……」
「あぁ、最近ご両親を無くしてしまい繰り上がりで侯爵になったあのお方……」
私よりちょっとだけ年上にして、若き侯爵様。
デルム侯爵のご両親も手を焼くほどの荒くれようで悪評も凄まじかった。
不幸にもご両親は事故で亡くなってしまったのである。
これがきっかけでデルム侯爵は貴族に対してやりたい放題の暴虐っぷりに磨きがかかってしまった。
とんでもないマズい人に目をつけられていたものだ。
恐怖で身体が自然とガクガク震えはじめてしまった。
「たとえ愛人関係であったとしても、運が良ければフィアーナと結ばれてくれさえすれば助かると思っていた。デルム様も公爵相手に逆らうことはできまい……。だが、もしも愛人関係が解消されたことを知られたら……」
レオルド様に失恋したうえ、王都の中で最も近づきたくない相手と無理やり婚約が決まってしまいそうな状況である。
レオルド様との恋愛が上手くいかなかった時点で、もう諦めるしかないだろう。
「遠かれ近かれ、いずれバレるかと思います。せめて、自ら報告して少しでも相手の機嫌を損ねないようにするよう努めようかと……」
「どうすることもできない父を許してくれ……」
「いえ、お父様のせいではありません。少なくとも、最高爵位のところへ嫁げるのですから、本来は喜ぶものでしょう」
少しでも前向きな発言をしておかないと、怖くなって逃げだしてしまいそうだった。
せめてレオルド様のことをキッパリと諦めがついてからだったらまだ我慢はできたかもしれない。
まだ気持ちの整理ができていない状況で、別の相手に嫁ぐというだけでも、ハードルが高いのだ。
「一ヶ月くらいは様子を見ても良いと思うのだが」
「いつバレるかわかりませんからね……。明日明後日は無理としても、来週には挨拶に伺えるよう、気持ちも整理しておきます」
「私のほうでも、少しでもマシな婚約になれるよう協力する。……とは言っても、相手側のほうが地位は上。我が家が伯爵ですまない」
「そんなことありません。お父様が管理している領地で住んでいる領民は幸せそうにしているではありませんか。私も何度か家族旅行も兼ねて遠乗りしましたよね。何度行っても素晴らしい場所だと思っていますよ」
いっそのこと、逃げだしてお父様の領地でひっそりと暮らしたいとまで思ってしまう。
レオルド様と結ばれたら、彼を連れて一緒に領地で何日か婚約旅行をしたいなぁなどと淡い考えすらあったのだ。
それくらい、お父様の領地は良い環境だし領民にも恵まれている。
もちろんデルム様と一緒に領地へなど微塵も思わない。
むしろ、なにか余計なことをされてしまいそうで怖いくらいだ。
あぁ……。今もレオルド様のことばかり考えてしまう。
何日かは家で大人しくさせてもらい、早く気持ちを切り替えられるようにしなければ……。
だが、翌日、信じられない出来事がおきたのである。
「フィアーナ……、最悪の客人のお出ましだ」
「え? まさか……」
「デルム侯爵様が応接部屋で待っている」
まさか、愛人関係は終わったことがもうバレてしまったのだろうか……。
急いで身支度を整え、デルム侯爵の待つ部屋へ向かった。
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