つきせぬ想い~たとえこの恋が報われなくても~

宮里澄玲

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 2人を見送った後も玄関に立っていると、一平が心配そうな顔で聞いた。
 「どうしたの? 何か気になることでもあった?」
 「あ、いえ、大丈夫です」
 「じゃあ、もうすぐ出来上がるからダイニングの方で座って待ってて」
 繭子の肩に軽く触れてダイニングテーブルに案内した。
 マスターに触れられた部分が熱い…それにさっき…たぶんマスターが倒れていた私を抱き上げて運んでくれたんだよね…。
 うわぁ…メチャクチャ恥ずかしい…繭子は顔も一緒に熱くなった。 

 手伝うと申し出ても、繭子さんはお客さんなんだからゆっくりしてて、と断られてしまった。
 それに…今、一平の自宅で2人きりでいるということを改めて認識して、ドキドキして落ち着かなかった。
 ど、どうしよう…何か気を紛らわせるようなものはないかな…。
 
 そう思いながらリビングの方に顔を向けた時、飾り棚に置いてある写真立てが目に留まった。立ち上がって写真立てに近づいた。ブルーのフレームに入っていたのは、ショートカットがよく似合っているボーイッシュな感じの女性の写真だった。キリッとしていて同性から見てもカッコイイと思える人だった。この人は誰だろう…? 繭子は気になりながらもダイニングテーブルに戻った。
 
 「お待たせ。簡単なもので申し訳ないけど」
 ほどなくしてマスターがまず繭子のところに料理の皿を置いた。それはとても美味しそうなシーフードパスタと彩り豊かな野菜たっぷりのミモザサラダだった。
 それから自分の分を運び終えたマスターが向かい側の席についた。
 「量は大丈夫そうかな。繭子さんの分は少なめにしたけど、それでも多すぎたら無理して完食しなくてもいいからね」
 「すごく美味しそう! ありがとうございます。ご迷惑をおかけした上に食事までご馳走になってしまって…。マスターにも後日必ず何かお礼をいたしますので」  
 「いいから、いいから。まずは食べよう」

 これ、ホントに美味しい…。エビやイカなどの魚介類をバター醤油で炒めて刻み海苔を散らした和風のパスタで、パスタの茹で加減も繭子の好みで、とにかく絶品でフォークを動かす手が止まらなかった。それにマスターお手製のドレッシングがかかったミモザサラダも最高だった。 
 繭子にしては珍しく料理を全て平らげてしまった。
 
 一平は食べながら繭子の様子を観察していた。食事の間、あまり会話はなかったが、繭子が美味しそうに食べてくれているのは分かった。ああ、よかった…。繭子の食欲に関してはとりあえずホッとした。
 だがそれ以外では、聞きたいことが山ほどあった。今日はなぜ過呼吸を起こして店の前で倒れていたのか、これまでにも、なぜ時々悲痛な表情をするのか、何か辛い思いをしているのか…。いい機会だ、もう聞いてしまおう。 
 「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです。夢中で食べてしまいました」
 繭子は少しはにかみながらお礼を言った。 
 「どういたしまして。美味しそうに全部食べてくれて嬉しいよ」
 せめて後片付けだけでも、と言ったが、一平が制した。
 「それより…まだ時間あるかな。もちろん帰りは送るから。大丈夫だったらソファに移動してくれる?」
 
 何だろう、と思いながらソファで待っていると コーヒーのいい匂いと共に、一平がトレイに載せたマグカップとミルクとシュガーポットを、ローテーブルに静かに置いた。
 「さっきはハーブティーだったから、コーヒーにしたんだけど、いいかな?」
 「はい、コーヒーも好きなので。ありがとうございます」
 繭子はミルクだけ入れてスプーンでゆっくり混ぜて、マグカップを口に運んだ。
 ああ、コーヒーも美味しい…。
 黙ってコーヒーを味わっていると、一平が口を開いた。
 「…繭子さん、俺にお礼がしたいって言ってたよね」
 「はい、何かご希望のものとかありますか?」
 すると、一平が切り出した。
 「ある。君に聞きたいことがあるんだ。これが俺の希望だ」 
 
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