蠱惑

壺の蓋政五郎

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蠱惑『落し穴の淵』

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♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ  ♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ

 私が友達と遊ぶのは放課後の鬼ごっこです。いつも鬼役をやらされています。瞼を閉じてその上に豆絞りの手拭いをきつく結わきます。曇りの日などは真っ暗になります。友達は私を落とし穴に誘い込みます。落とし穴は浅く膝ぐらいです。私は落とし穴があると気付いています、友達も私が承知で落ちていると気付いています。コミュニケーションでしょうか。足を止めては私が鬼役をやる必要はなくなってしまいます。落とし穴の中は大概水が張ってあります。泥と混じりグチャグチャです。知らん振りして落ちると皆が喜んでくれます。手拭いを外し穴から這い出ます。もう落とし穴に誘った友達は消えていません。ひろ子ちゃんだけが私を待っていてくれます。ちっちゃなハンカチで私の汚れた顔を拭ってくれます。靴の中の泥を地べたで叩いて落としてくれます。
「早苗ちゃん、先生に言い付けようよ」
「言っても無駄よ。それに遊んでもらえるだけ嬉しいの。友達と遊んで帰るとお母さん喜ぶから」
 そしてある放課後   ♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ 落とし穴に誘われました。私は知らん振りして落ちました。そこには板に打ち付けた釘が仕掛けてあり、靴底から甲に抜け出たのです。痛さを我慢して這い上がりました。ひろ子ちゃんが地べたに座り両手で板を掴んで、私の靴底に足を掛けて抜いてくれました。ジンジンと涙を誘う痛みを堪えていました。
「お医者さん行こう、そうだ学校の保健室行こう」
「お母さんに怒られるから我慢する」
 母には腹痛と嘘を吐いて二日間学校を休みました。治るだろうと我慢していましたが膝から下がパンパンに腫れ上がりました。
「どうしたのこれ」
 母親はハムのような私の足に驚きました。母に心配を掛けたくないと黙っていたのが災いでした。翌日私の足は切り落とされました。それからずっと車椅子生活となりました。
 小学を卒業し中学校でもひろ子ちゃんが私を支えてくれました。
「義足をね、作ってくれるってお医者さんが」
「そう、それはよかったね」
 ひろ子ちゃんはそれほど喜んではいないようです。中学二年生の時に義足で学校へ通うようになりました。
「ありがとう、ひろ子ちゃん、明日からは一人で通学出来るわ」
「よかったね」
 何となく寂しそうでしたがひろ子ちゃんのことより一人で歩ける嬉しさで一杯でした。義足をして三日目でした。体育の時間に外した義足が無くなりました。
「どこに置いたの?」
 ひろ子ちゃんは自分のことのように心配してくれました。私が泣くと一緒になって泣くのです。その日はひろ子ちゃんの肩に支えられて家まで帰りました。
「ありがとう、うちの早苗はいいお友達を持って幸せ、いつまでもお友達でいてあげてね」
 そしてまた車椅子生活が始まりました。勿論私を押してくれるのはひろ子ちゃんでした。新しい義足が出来るまで車椅子生活に逆戻りです。学校ではそのことが問題になっていました。
「あまり、生徒を疑うのもアレだし、どうでしょう、学校から義足を寄付する形でご家族にもご了承願うと言うのは」
 校長にこう諭された担任は翌日家に来ました。
「お母さん、進学、就職といずれにしても大事な時期です。生徒達を刺激しないようにと校長からのお願いです。早苗ちゃんご本人の紛失と言うことでご理解いただけないでしょうか」
「早苗は虐められているのですか?いつもニコニコしながら友達と仲良くしている話をしてくれますが」
 母親は心配になった。生活のためとはいえ結果娘を見放していたのではないだろうか。一時間四百五十円のパートの梯子をしても日に五千円。これ以上生活を切り詰めると言うことは食事を減らすことである。
「早苗さんはとても素直ないい子です。親友がいないまでも友達と仲良くやっています。特に吉沢ひろ子さんは早苗さんの障害を心身共に支えてくれています。その献身ぶりは中学でも話題になっています」
「そうですか、あの子は私が心配しないように学校の不満は一切口にしません。いつも楽しかった。お母さんのお陰だと私を励ましてくれます」
「お母さん、校長から、新しい義足を学校からプレゼントしたいと申しておりました。穏便に済ませていただくよう心からお願いいたします」
 その晩母は私にそのことを話した。
「そう言えば、私がどこかに忘れたような気がしてきた」
 母はやさしく頷きました。そして私の義足紛失事件は私の置忘れで持ち去られたことになりました。こんな大事な義足を無くす訳がありません。体育の時間に汗を掻いて外し、片足跳びで洗面所に行った五分もしないうちに消えたのです。誰にも使えない私の足が一人でどこかへ行ってしまったのでしょうか。
 私には犯人探しなど出来ません。私がクラスから嫌われるのが恐いからではありません。母が心配するからです。学校の指導通りにすることが母の不安も負担もそして不審も闇に隠せる。その闇を照らす光は悪なのです。

 新しい義足が私の元に届いたのはもう卒業式の前でした。それまでひろ子ちゃんが私の足でした。ひろ子ちゃんがいなければ私は通学出来ませんでした。そして卒業式には新しい義足で出席することが出来ました。校長先生から卒業生代表として挨拶を頼まれました。一所懸命考えて書いた私の言葉に、担任が書き足した一文がありました。私はここまで育ててくれた母に感謝し、ずっと付き添ってくれたひろ子ちゃんの勇気を称える文章にしました。担任が付けたした文章は
『二年生の終わりに義足を無くし、校長先生の意で先生方から寄付を集め新しい義足をプレゼントしてくれました』その時スカートを少したくし上げる。そのまま三秒ほど間を置く。『この学校に来てよかった、ここに並ぶ先生方に出遭えてよかった。ありがとうございます』
 鍵カッコの間に赤ペンでパフォーマンス入りの説明付きでした。私はしっかりと読み上げました。在校生も先生方も、父兄も泣いています。会場には母親も来ています。母の涙は私の文章ではなく、破傷風で足を切り落としたことだと思います。拍手喝采の中舞台から降りる階段でひろ子ちゃんが走りより私を支えてくれました。又拍手が湧きました。この拍手は私ではなくひろ子ちゃんにです。私が前列に座るとひろ子ちゃんは母の隣に座りました。私が視線を送ると腰のあたりでちっちゃく手を振りました。よく見るとひろ子ちゃんは母と似ています。
 高校は母の負担を考えて公立高校にしました。私立で設備の整っている学校を紹介してくれましたが母の収入ではとても無理で諦めました。ひろ子ちゃんは成績優秀なのに私と同じ高校を選択しました。
「ひろ子ちゃん、自分の道を進んで。私はなんとかなるから」
 私のために彼女の人生の大切な時間を失って欲しくなかった。
「いいの、早苗ちゃんが心配するのはおかしいよ。私が決めた人生だから」
 入学式には二人で行きました。私の母もひろ子ちゃんの母も式には来られませんでした。
「早苗、お母さんもっと頑張るからね、早苗はお友達と仲良くしてね。勉強なんか出来なくてもいい、早苗の笑顔がお母さんの元気の源だからね」
 母は十二時間以上のパートを熟していました。しかし母が今までより三時間も増やした収入も私の学費を賄うまでには及びませんでした。
「お母さん、仕事を替える。夜だけどずっと条件がいいの」
「無理しないで、私もアルバイトする。今度便利なお店が出来たのよ、七時から夜の十一時までやってるの、学校の帰りに四時間ぐらい働けるは」
 母は悲しい目で私を見つめていました。
「早苗にそんなことさせたらお母さんの夢が壊れてしまうの。大丈夫、夜だから食事の支度は出来ないけど我慢してね」
 それから母は夜の勤めになりました。毎夜終電で帰宅する母の息はアルコール臭でした。終電に間に合わない日は電話をくれました。しかし三か月が過ぎ半年が過ぎる頃には欲朝帰りが常習となり、電話もしなくなりました。
「お母さん、すごく疲れているみたい、少し休んだら」
「お前の為なら火の中水の中さ、楽しい学校生活を楽しんでくれればいいの。それにお母さんこの仕事が楽しいの。楽しくてお金になる一石二鳥」
 私が帰宅と同時に出掛ける母の化粧も身なりも今までの母では考えられないくらい派手になりました。白髪も染めてパーマをかけ、胸元も割れて見えます。私は母の仕事内容は聞いていませんでした。夜のパートは知り合いからの紹介と母は言っていました。心配でひろ子ちゃんに相談しました。
「夜の仕事してからお母さんが変わったの。お仕事は高給で私も嬉しいの、でも母の変化が恐いの。知人から紹介されたらしいけど私はどんな仕事か知らないし、母は教えてくれないと思うの、一度仕事先を見たいわ、母の働く姿見て安心したいけど誰が紹介したか分からないし。でもひろ子ちゃんに打ち明けて少し安心した。聞いてくれてありがとう」
 ひろ子ちゃんの一々頷くやさいい目を見ていると不安も少し緩むのでした。
「いいよ、連れて行ってあげる」
 その時はどういう意味か分かりませんでした。母に仕事を紹介した知人がひろ子ちゃんの知人であるだろうと想像しました。そして指定された店の前に行きました。古い四階建てのビルの鉄骨階段を上がった二階がその店でした。「クラブ光」と言う店です。私は鉄骨階段を上がり踊り場で待っていました。ひろ子ちゃんの言われた通りに。そして二時間が過ぎた頃に店から顔を出したのが母でした。踊り場の私には気付いていません。私は顔を隠すように母を見ていました。酔った男の人と抱き合っています。男の人の手は母のミニスカートの中に侵入しています。母が喘ぎ声を上げました。私は恥ずかしくて階段を駆け下りました。しかし転倒して義足が外れてしまいました。外れた義足を左手に持ち片足跳びでビルの壁に寄り掛かりました。
「大丈夫?」
 階段から下りてきたのはひろ子ちゃんでした。
「どうして?なんでひろ子ちゃんが階段から下りてきたの」
「それよりお母さんに会ったでしょ。元気で頑張って働いていたでしょ。早苗ちゃんのために必死なのよ。さあ私の肩に捕まって、家まで送るから」
 そして壊れた義足を修理に出しました。ひろ子ちゃんがわざわざ持って行ってくれたのです。
「修理には一月以上掛かるらしいわ。それまで私で辛抱しなさい」
 ひろ子ちゃんは笑って言いました。暫くは車椅子に逆戻りです。私を押すのはひろ子ちゃんです。母には学校で転んだと嘘を吐きました。娘にあんな姿を見られたら悲しいだろうと思ったからです。でも母があんな仕事をするなら高校を辞めてもいいと考えるようになりました。義足があればスーパーのレジぐらい出来る。母と二人で働けば充分暮らしていける。そして母に相談しました。
「お母さん、実はお母さんの仕事先に行って見てしまったの。勝手なことしてごめんなさい。お母さんのことが心配で不安な毎日だったから。ねえ、お願い、夜の仕事辞めて」
 私は母に縋りつきました。
「どうして?早苗は高校生活を楽しく送ればいいのよ。お小遣いが足りないなら増やしてあげる。心配しないで、それに早苗にいい報告があるの」
 母は札入れから一枚の写真を出して見せてくれました。そこには男とその男に肩車された女の子が写っています。
「どこのひと?」
「もう十五年前の写真だから早苗も気が付かないかもしれない。肩車の子はひろ子ちゃんが幼稚園の頃、そしてお父さん。いい人よひろ子ちゃんのお父さん。いい報告はね、その男の人とお付き合いしているの。結婚するかもしれない。そしたら早苗とひろ子ちゃんは姉妹になるのよ。どう驚いた」
 母は笑っていつまでもその写真を見ています。私は驚きで声も出ませんでした。それに写真の男と昨夜抱き合っていた男の人とは別人です。写真の男は背が高く、昨夜の男は母より低かった。
「ひろ子ちゃんにも話したの?」
「勿論よ、そもそもひろ子ちゃんの紹介だもの、喜んでいたわ」
 どうして昨夜ひろ子ちゃんは私に話してくれなかったのでしょうか。
「もしかして夜のお仕事を紹介してくれたのもひろ子ちゃん?」
「ひろ子ちゃんがお父さんに相談してくれたの、やさしい親子ね」
 私は愕然としました。夜の仕事を紹介し、父親まで母に紹介したひろ子ちゃんの魂胆が読めませんでした。このことをひろ子ちゃんに正したら機嫌を悪くするかもしれない。義足が治るまでの間はひろ子ちゃんが私の手足です。ひろ子ちゃんから打ち明けるまで辛抱することにしました。でも私が母から聞かされているのを知っているはずです。どうして打ち明けてくれないのでしょう。それにあの時確かにひろ子ちゃんは私が待つ踊り場より上から下りて来た。何か企みがあるのかもしれない。お母さんはきっと騙されているんだわ。
「お母さん、私は反対、ひろ子ちゃんのお父さんと結婚には絶対反対、どうしてもと言うなら私家を出るわ」
 生れて初めて母に反抗しました。母は私の頬を張りました。そして泣き崩れしゃがみ込みました。そのままその日は母との会話はありませんでした。それでも母はいつものように厚化粧をして出かけて行きました。私は登校したくありませんでしたが、毎朝ひろ子ちゃんが迎えに来てくれるので仕方なく通学しました。そろそろ一か月が経ちます。義足が治るころです。治っていれば杖を突いてでも自分で取り行こうと考えました。私がひろ子ちゃんのお世話になっているから母を巻き込んでしまう。ひろ子ちゃんから自立しなければ解決しない。電話をしました。
「ああ、どうですかその後の調子は、身体の成長に伴い接触する部分に痛みが発生することはありませんか、早め早めの調整をお勧めしますよ」
「あの、壊れて修理に出していたんですけど、治ったでしょうか?」
「えっ何時?預かればすぐに僕の所に回るはずだけど、ちょっと待って、確認するから」
 ひろ子ちゃんは修理に出していませんでした。翌日登校途中にひろ子ちゃんに押されながら正しました。
「ひろ子ちゃん、私の義足どうしたの?」
 ひろ子ちゃんはいきなり走り出しました。歩道からガードレールの切れ間を利用して車道に出ました。そして信号のある交差点の真ん中で私を置き去りにしたのです。行き過ぎる車が警笛を鳴らします。トラックの運転手が「死にてえのか」と怒鳴り付けました。信号が変わり路線バスが停車したまま私が邪魔で動けません。運転手が降りて来ました。運転手が車椅子に触れる瞬間ひろ子ちゃんが割って入りました。運転手に謝罪して歩道に戻りました。私は怖くてひろ子ちゃんに声を掛けられません。ひろ子ちゃんは楽しそうに歌を口ずさんでいます。
「♪おてて、つないで」
 学校では信号が変わった交差点で私が立ち往生しているのをひろ子ちゃんに助けてもらったと伝わり、みんながひろ子ちゃんを英雄視しました。私は先生に相談しました。ありのままを話しましたが先生はきつい目をして私を睨み信用してくれませんでした。
「先生に何を話したの?」
 帰り道にひろ子ちゃんから聞かれました。私は黙っていました。するとひろ子ちゃんは橋を渡らず、土手の歩道に進路を変えました。車椅子を土手に直角に向けました。勾配がきついので転がれば川まで転落します。
「ねえ、早苗ちゃん、先生に何を相談してたの?」
「恐い、お願い止めて、落ちたら死んじゃうわ」
「じゃあ話しなさい、先生に何を話したの」
「今朝のこと、でも先生は信用してくれなかったわ」
 そして元の橋に戻りました。
「義足が何処にあるか知りたい」
「ええ、治してなくてもいいから返して欲しいの、お願いひろ子ちゃん」
 そうして自宅ではなく小学校の方へ押されて行きました。そして行き着いたところは私が足を失った落し穴です。学校の裏の、鉄塔の下の、工事現場の資材置き場があり全然当時と変わっていませんでした。
「懐かしいねここ」
 ひろ子ちゃんは工事現場からシャベルを持ち出して来ました。
「叱られるわよひろ子ちゃん、勝手に使っては」
「知らないの、これあたしのシャベル、早苗ちゃんの落し穴はあたしが掘ったの」

♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ  ♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ
 ひろ子ちゃんは歌いながら落し穴を掘り返しました。
「やめてひろ子ちゃん」
 ひろ子ちゃんは言う事を聞いてくれません。もう辺りは薄暗くなってきました。土は意外と柔らかくシャベルで土が放り投げられて行きます。一時間もするとひろ子ちゃんの膝ぐらいまで下がりました。
「ごめんなさい、先生に相談した私が悪かったの。ごめんなさい、もうひろ子ちゃんに逆らうことはしないわ」
「うるさい、お前の幸せが憎いのよ、あんなやさしいお母さんがいることがお前の罪なのよ。どうしてお前に居てあたしに居ないの。父親に抱かれる娘の気持ちがお前に分かるか」
 そう言って私にシャベルの土を掛けました。私は怖くて謝ることしか出来ません。大声で助けを求めても辺りに民家はありません。それに何をされるか分かりません。暗くなって来ました。鉄塔の囲いに結わき付けられた丸太電柱の電球が点きました。傘の中を蛾が飛び回っています。羽が傘に当たり粉が落ちて風に乗り私の方に飛んで来ました。
♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ  ♪鬼さんこちら、手の鳴る 方へ
 電球に照らされたのはひろ子ちゃんでしょうか。なんか身体つきが変わってしまったような気がします。
「ほら一本出てきた」
 ひろ子ちゃんが掴んで高く掲げたのは鉄の塊でした。穴から出て来て私に差し出しました。私は受け取りました。泥が付いていてなんだかわかりません。泥を払い電球にさらしてみるとどういう事でしょう、ひろ子ちゃんに修理をお願いした私の義足です。私は怖くて投げ捨てました。するとひろ子ちゃんがまた穴から出て来ました。
「何をするの止めて」
 ひろ子ちゃんは私の足に無理やり繋ごうとしています。接続部に付いた湿った土の感触が膝に当たり冷たい。
「立ちなさい。立ちなさい」
 恐ろしい顔で睨み付けます。仕方なく私は立ち上がりました。
「歩きなさい、歩きなさい」
 私は痛さを我慢して車椅子に片手を添えて回りました。
「掘りなさい、お前が掘りなさい」
 私は泣きながら落し穴に入りました。足がもつれて転んでしまいました。
「大丈夫、早苗ちゃん、気を付けないと危ないよ。私がいないと駄目なんだからもう」
「だ、大丈夫です」
「そうかそれなら早く掘れ」
 穴の中で膝を付く私の前にシャベルを放り込みました。私は掘りました。穴はもう下半身が埋まるくらいまでになりました。じわじわと水が湧いています。ぐじゅぐじゅの中でシャベルに手応えを感じました。手で探ると細長い金属でした。もしやと思いスカートで拭いてみるとそれは中学生の時、体育の時間で外して誰かに盗まれた私の義足でした。
「どうして、どうしてあの時の義足がここあるの?」
「一人で歩いて来たんだろ、ぴゅんぴょん、ぴょんぴょんと片足跳びでさ」
 ひろ子ちゃんは穴の上で笑っています。
「もっと掘れ、面白いもんが出て来るぞ」
 もう穴は私の腰当たりです。湧き水とシャベルから漏れた柔らかい土でぐっしょりになりました。そしてシャベルの先に何かが当たりました。ひろ子ちゃんには気付かれないようにその物を手で探りました。
「どうした?何かに当たったか。隠さないで出してみろ」
 私はその板状の物に手を滑らせました。突起物、先端が尖っている。これは私が小学生の時に鬼ごっこをしていて、この落し穴に落ちた時に踏んだ五寸釘です。この釘のせいで私は破傷風になり、足を切断したのです。
「ほら、見つかったんだろ、釘の刺さった板が。お前の両足もいでやるさ、そしてお前は一生私の押す車椅子に乗る。お父さんはお前のお母さんと結婚してあたしのお母さんになるんだ。喜ぶよお母さん、ねえ早苗ちゃん」
♪鬼さんこちら  手の鳴る方へ
 
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