蠱惑

壺の蓋政五郎

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蠱惑『甘噛み』

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 茶箪笥の引き出しから果物ナイフを取り出しました。鞘を抜いてどちらが刃か触れてみます。右目だけだった白内障はとうとう左目も侵し視界の中心には濁った丸い皿が張り付けられているようです。僅かに残る皿の縁が私の視界になりました。一人暮らしは寂しいからと娘夫婦が犬を連れて来たのはもう三か月前です。私が寂しいと言うのはこじ付けで孫が拾ってきた子犬を住宅事情で飼えないものだから私に押し付けたと言うのが本当のところです。
「犬がいれば不審者でも安心、それに愛子がお母さんのところに遊びに来る回数が増えるし一石二鳥ね、あなた」
「ああ、本当に良かった、でも愛子がお母さんちに入りびたりになりはしないかな。逆にそれが心配」
 バカ息子にバカ嫁が笑っています。それから三か月、孫も犬に飽きたのでしょう。週に二度が二週間に一度、息子と一緒に犬の餌を持ってくるだけになりました。拾った時は掌に載るほどでしたが、こんなに大きくなるとは誰も想像していませんでした。雑種、雪のように真っ白な産毛、『シロ』と名付けました。シロは考えられない速さで成長しました。この先まだ成長するのであれば室内で飼うのは無理かもしれません。食も旺盛でバカ息子が持って来るドッグフードだけでは全然足りなくなりました。
「お母さん、少しセーブした方がいいよ。やり過ぎはシロのためにもよくない」
 押し付けて置いて勝手なことを言っています。こんな大きくなって茶碗一杯の茶色い粒では到底足りるわけがない。成長盛りに食べさせなければ弱い子に育ってします。食べ盛りは果物も食べます。私が手に触れたものは安心して食べてくれる。りんごの皮をむいているとシロが私の腕を甘噛みしています。りんごの皮むきが待てないのでしょう。
「シロ、ばあちゃんの腕を食うつもりか。離しなさい、危ないでしょ」
 私が叱ると逆に喜んでしまう。どうして喜ぶと家の中を一周するのか分かりませんが和室からキッチン、フローリングで足を滑らせてバランスを崩してもスピードを緩める気配はありません。そして私のとこに戻って来てまた甘噛みをします。叱るとまた走り出します。りんごの上に新聞紙を掛けました。シロの抜け毛が舞い上がっていずれ落ちて来ます。その光景を濁った眼の縁で感じ取って笑っています。
 食事は宅配を利用しています。片目に視界があるうちは歩いて五分ほどのコンビニへ買い物に行っていましたが、視界が奪われてからはそれも諦めました。好き嫌いが多い私は宅配食のほとんどをシロに上げていました。シロの散歩は、すぐ裏のアパートで暮らしているご家族の長女が学校帰りに家により、鞄を玄関に置いて連れて行ってくれます。彼女の家もペット飼育禁止とかで犬を飼えない事情から喜んでこの役を買ってくれました。只では申し訳ないと一回五百円のお駄賃を上げていました。母親が来てこれは困ると言われましたが、散歩中に汗を掻いて喉が渇いたときのジュース代と律儀な母親を説得しました。あちらさんは、犬が好きで娘が勝手にやっていることでアルバイトではない、それに小学五年の娘の教育のためにもよくないとの気配り、私にもよく分かります。私が逆の立場ならやはり五百円のお駄賃は拒否したでしょう。それを重々承知していても、どうしても上げたい。それは私の胸の奥にあるいやらしい一面が、近所の目を気にしているのでした。
「あばあさん、ただいま」
 シロはチーちゃんが来る気配をどうやって感じ取るのか、五分も前から玄関でお座りしています。
「気を付けてね」
 私が五百円を渡すと下駄箱の上に置いた招き猫の貯金箱に入れるようになりました。
「行ってきまーす、さあ行くよシロ」
 シロは人に吠えたことがありません。チーちゃんが声を掛けると年寄りの咳払いのように「フォン」と返事をします。下駄箱の貯金箱を持ち上げると重く、もうこれ以上は入らないかもしれない。チーちゃんが散歩を始めてからもう二か月近くになります。しっかりしているチーちゃんは水筒を持ち歩き学校の帰りに水を入れて喉の渇きを潤していました。散歩時間は一時間近く、心配になることもありますがシロの満足した様子が手に取るように感じられます。
「ありがとう。コーヒーでも入れて上げようか」
「これからお母さんが仕事だからあたしがお父さんのご飯作るの。おばあさんまた明日ね。シロ、おばあさんの言う事聞かないと散歩行かないよ」「フォン」
 こんないい子が孫なら嬉しいと嘆いてみても、諦める他にありません。シロも半年を超えて大きさだけは秋田犬の成犬と変わらないほどに成長しました。バカ息子夫婦は孫の中学受験に必死です。いくら親が力を入れようと遺伝した実力以上の結果を期待出来ません。二週間に一度の餌の配達も一月に一度になりました。それも孫はおらず「ここに置いて行くよ母さん。何か不自由があったら電話してね」と玄関に米俵みたいなドッグフードを置いて行くだけになりました。私は持ち切れないのでその袋を開けて小分けをし、階段下の物置にしまいます。入れ替えるときに零れた粒をシロが攫ってくれます。私がお椀で入れ替える腕をシロが甘噛みします。甘噛みも時に痛みを感じることがあります。シロの歯が私の神経と通じる瞬間です。
 二か月後にバカ息子が白内障の手術をするよう無理やりに私を大学病院に連れて行きました。視力は欲しいが目の手術が信用出来ませんでした。開発されたばかりの術式は九割の確率で視界が復帰するそうですが、一割の失敗が気になっていました。
「どうせ見えないならやった方がいいさ、九割だよ確率、長島だって三割がやっとだよ」
 バカ息子を構っているのが馬鹿らしくなり手術を受ける決断をしました。通院でもよかったのですが転倒でもして術後の目を傷付けてはいけないと一週間の入院生活をしました。
 そして片目の視力が回復しました。回復と言っても元通りの視力が回復したわけではありません。若い時に見た青葉や花々、その原色を再現するまでには至りません。そもそも加齢により目の機能が落ちていているからです。汚れたガラス窓を乾いた布で擦ったようなそんな視界です。それでも生活には充分な視力の回復です。いよいよ退院です。一週間がこんなに長く感じたことはありません。早く帰ってシロに会いたい。チーちゃんと交代で散歩に行こう、いや一緒がいい。日曜日にはお弁当を作って土手に遊びに行こうか。バカ息子の運転する車の後部座席で思いを巡らせていました。
「母さん、最低週一で顔を出すから、気を落とさないでね」
 バカ息子がおかしなことを言います。ドッグフードさえ持って来てくれればお前の顔など見なくてもいいと声を出さずに笑いました。家に帰ると隅々まできれいになっていました。シロの抜け毛も舞い上がりません。バカ嫁が来て掃除をしてくれたのでしょう。
「じゃ母さん今週末に又来る」
 何が寂しいのか、今にも泣きそうな顔をしてバカ息子が帰りました。気掛かりなのは飛び出して来て喜んで私の腕を甘噛みするだろうと予想していたシロがいませんでした。そうだ、この時間帯はチーちゃんが散歩に連れて行ってくれている。私は五百円玉を用意して待っていました。チーちゃんの顔も始めて見ます。シロの成長した姿を見るのも初めてです。無理やり手術に誘ったバカ息子に感謝しました。それにしても遅い。もう五時を回りました。必ず五時前には戻って来て、夜の勤めの母親に代わって夕食の切り盛りをするチーちゃんです。心配で玄関まで行くと安心しました。シロとチーちゃんが並んで立っているじゃありませんか。チーちゃんは私の予想通り可愛くて賢そうなおさげ髪で色の白い子でした。シロが私に飛び付いて来ないのは一週間振りの私に戸惑っているのでしょう。
「チーちゃん、ありがとう。おばあさんの留守の間もシロの散歩をしてくれて。はいこれ、いつものお駄賃」
 チーちゃんはそれを貯金箱に入れました。チリリリリーンと貯金箱に落ちる音がやけに長く響きました。チーちゃんは笑って手を振り帰って行きました。シロの足裏を拭いてやると私の腕を甘噛みしました。噛み方が弱く触れている感触です。おもいきり抱きしめるとふさふさの真っ白い毛が暖かい。だけどシロが意外と細いのに驚きました。私の手が抜けてしまうほどです。階段下の物入れからドッグフードを出してシロに上げました。食欲が無いようです。口にしませんでした。そうか、チーちゃんが散歩の途中で毎日美味しい物を食べさせてくれたのでしょうか。それともバカ息子が自宅から調理して与えていたのでしょうか。明日来たら聞いてみましょう。
 冷蔵庫には食材がたくさん入っています。私のためにバカ嫁が用意してくれたのでしょう。感謝しかありません。もう宅配食も断ります。近くのスーパーまでならこれだけの視覚で充分です。お風呂も台所も掃除が出来る。視界があると言うことは夢のように素晴らしいことだと実感しました。風呂を上がり床に就くとすぐに私の足元で丸くなるシロですが、今夜は来ませんでした。それも成長だなと寂しい反面嬉しくもありました。夜中にトイレに起きるとシロは玄関で丸くなっていました。私が「シロ」と声を掛けると尾を二回振って答えてくれました。私のいない一週間をここで待ち続け、ここで夜を過ごす習慣が付いたのでしょう。いずれは外で飼わなければならない。その前準備としていいことだと思いました。
 翌朝もドッグフードを口にしませんでした。冷蔵庫からハムを取り出し細かく切って与えましたがそれも口にしませんでした。
 歳を取ると眠るのが得意になります。じっとしているとすぐに眠くなります。趣味を持たずに老いると言うことは眠る時間が増えるということです。テレビも目が疲れます。そもそも面白くない。裁縫とか、絵や花、そんなことでもやっておけばと良かったと反省しました。そろそろチーちゃんが学校から帰宅する時間だと玄関に行きました。するとどうでしょう。チーちゃんが立ってお座りしているシロの頭を撫でていました。
「ごめんねチーちゃん。おばあさんね、寝てばかりいるの、気付かなかった」
 小銭入れから五百円玉を出してチーちゃんに渡すと招き猫の貯金箱に入れました。チリリリリーンと浅い貯金箱の底なのにずっと下まで落ちて行くような音でした。
「チーちゃん、シロが何も口にしないの。チーちゃんが何か上げているの?」
 チーちゃんは笑って頷きました。そしてシロに何か囁いて出て行きました。
「気を付けてね」
 下駄箱の上に鎖があります。首輪も付いています。私は玄関を出て通りを見ましたがもう二人の姿はありませんでした。私は心配になりました。万が一シロが飛び出して車にでも跳ねられたらと、いやそれを追ってチーちゃんが巻き添えにならなければと不安でした。ずっと玄関で待ち続けました。膝が痛いので框に腰掛け草履に足を載せて耳を澄ませていましたが眠ってしまいました。「フォン」と声が聞こえました。目を開けるとチーちゃんとシロが並んでいました。
「心配したの、首輪を付けていないから。大丈夫だったチーちゃん?」
 チーちゃんは笑って帰って行きました。昨夜の雨でシロの足裏や足の毛は泥水を被って汚れていると予想していましたが出掛けた時と変わらず、真っ白でふさふさの毛を揺らしています。チーちゃんが玄関に入る前に拭いてくれたのでしょうか?うちの前から通りまでは砂利道で轍に雨が溜まりどうしてもそこを通らなければ通りの向こうの公園には行けません。そうかチーちゃんが抱いて通りまで?立ち上がったらシロの方が大きい、抱えて運ぶのは無理でしょう。考えても仕方ないので諦めました。そしてドッグフードを与えると今日も口にしませんでした。そうだ、給食だ。給食を残してシロに上げていたのでしょう。でも育ち盛りのチーちゃんの給食をシロのために取り上げてはいけない。明日チーちゃんに話そう。いくら犬が好きでもいけないことは正して上げなければなりません。律儀な母親ですからそれを見つかれば怒られてしまうでしょう。その前に私からチーちゃんに話そう。この夜もシロは何も口にしませんでした。私の不安を読み取ったのか、椀の水を舐める素振りをして尻尾を振りました。
 翌日チーちゃんの帰りを待ち兼ねて玄関にいました。シロはじっとお座りをしたまま私を見つめています。シロに見つめられているうちに魔法に掛かったように眠ってしまいました。目を覚ますと目の前にチーちゃんとシロが並んでいました。
「チーちゃん、散歩に行く前におばあちゃんの話を聞いてくれる。チーちゃんはこれからどんどん大きくなるの。そのためには学校の給食をちゃんと食べなければ大きくなれないのよ。いくらシロが好きでもチーちゃんの大事な栄養を分け与えては駄目なの。分かってくれた。そう、よかった」
 チーちゃんは笑って小さく頷きました。そして五百円玉を渡すと貯金箱に落としました。私は一応チーちゃんの母親にも伝えようと裏のアパートに行きました。
「こんにちは、裏の者ですけど」
 チーちゃんのお父さんが出て来ました。そしてお母さんに取り次いでくれました。
「目の手術をされたとかお聞きいたしました。もう外出されても大丈夫なんですか?」
 先にお母さんが心配してくれました。
「ありがとうございます。近くなら移動しても問題ないほど回復いたしました。お詫びしたことがありまして」
 薄ぼやけた視界ですが母親は泣き腫らしたようです。
「もうあの子のことでしたらご心配は要りません。大好きなシロと一緒で何よりです」
 「あっそうだ」と母親は中に戻り一枚の写真をくれました。チーちゃんとシロが抱き合っている写真です。シロが小さい頃ですからうちに来て間もなくでしょう。母親は写真を見て泣いているようです。
「実は、今日お伺したのはチーちゃんが給食を我慢して持ち帰り、シロに与えているので、それをお母さんからも止めていただきたいと思いました。いやシロに悪いわけではなく、育ち盛りのチーちゃんが給食を我慢しているのが切なくてお願いに上がりました」
 母親は怪訝な顔をしました。何か私が失礼な言葉を発してしまったのでしょうか。御近所付き合いも回覧板を回す程度、会話するのも家族とだけでそれも週に一度一言二言です。歳と共に気配りも薄れてしまい、失礼なことを言ってしまったかもしれません。母親は一度中に入り父親を連れて来ました。母親が耳打ちしました。
「給食のことですけど、いつ千恵子から聞きましたか?」
 余計なことをしてしまった。
「すいません、どうかチーちゃんを叱らないでください。年寄りの早とちりとお許し願います。失礼します」
 私は逃げるように自宅に戻りました。そしてしばらくすると二人は散歩から帰って来ていました。傍にいたのにドアの開閉音が聞こえないので気付きませんでした。
「チーちゃん、ごめんねさっきチーちゃんちに行って、給食のことをお母さんに話したの。お父さんも驚いていたからおばあさん悪いことしたなと反省してたの。許してねチーちゃん」
 チーちゃんはゆっくりと首を振り笑って帰って行きました。シロを見ると尾を振って私に寄り、腕を甘噛みしてくれました。

「母さん、愛子も一緒。うちの奴は用があって来れなかった。どう、落ち着いた。一人で可哀そうだからって愛子がこれをプレゼントしたいって」
 バカ息子が孫を連れてやって来ました。退院してから丁度一週間目です。特に苦労はありません。買い物も行ける。今のところは日常生活に支障はありませんでした。
「何だい愛ちゃん、プレゼントは?」
 孫がジャジャーンと風呂敷を取ると鳥かごがありました。その中に真っ白なセキセイインコが一匹飛び跳ねています。
「うちに飛び込んで来たんだよ。おばあちゃんが一人で可哀そうだからってやさいいね愛子は」
 自宅で飼えないものだから私に持って来たのでしょう。捨て犬のシロと同じです。
「シロがいるから寂しくないよ」
 私は孫にやさしく言いました。すると孫は泣いて表に飛び出しました。
「母さん、敏感な年頃だから脅かさないでよ。あの子なりに学習したんだ。母さんにシロを預けっ放しにしたことを反省している。それに奥のチーちゃんは幼稚園の同級生だったからこの一週間ずっと悲しい思いを我慢している。その気持ちがこのインコなんだ」
 私は外で愚図る孫を宥めてインコのことを了承しました。
「だけどお前、そんな格好してうちの親戚かい?」
 バカ息子が礼服でしたので聞きました。親戚なら私も準備しなければなりません。
「裏のチーちゃんとこで初七日だから顔出しとこうと思って。母さんはいいよ、あちらさんもシロことで切ないだろうから。それじゃそのまま帰るからね。これインコの餌。水はたっぷりと入れて毎日変えた方がいい。母さんのボケ防止にもつながるし。それじゃまた来週来るから」
 勝手なことを言って出て行きました。チーちゃんのところで初七日とは、ああそれでさっきお母さんは目を腫らしていたんだ。近い親族がお亡くなりになったんでしょう。そろそろチーちゃんが学校から帰る時間です。
「シロ、シロ」
 最近は二階で時間を過ごすことが多くなったシロを呼びました。想い出しました。昨日上げた五百円玉が最後でした。バカ息子に頼んで両替させればよかった。居間から戻るとシロが玄関に座っていました。念のために財布を開けると五百円玉が一枚の残っていました。勘違いか忘れっぽいのかそのどちらにしても加齢によるものでしょう。財布を閉めて前を見るとチーちゃんが立っていました。財布を開けて中を見た一瞬のうちにチーちゃんとシロが並んでいます。
「チーちゃん、今日はお家で法要があるんじゃないの。無理しなくてもいいよ。シロの散歩は私が行くから」
 チーちゃんは笑って白を撫でました。
「そうかい、ありがとう。でも早く帰るんだよ。シロのおトイレだけでいいから」
 そう言って私はチーちゃんに五百円玉を上げました。透き通るような白い手で招き猫の貯金箱に入れました。すぐに帰ってくるだろうとじっと玄関で待ち続けましたがいつまで経っても戻って来ません。一時間を経過しました。私は外に出ました。もしやシロを連れて家に戻ったのかもしれない。礼服の数人がチーちゃんちから出て来ました。チーちゃんのお母さんが見送っています。
「チーちゃんは戻られたでしょうか?」
「おばあさん、千恵子に声を掛けてやってください」
 ボロボロと涙を流す母親に促され、中に上がりました。仏間に通され小さな祭壇に線香を上げました。そこにはチーちゃんとシロの遺影がありました。
 
 私は気を失い救急搬送されました。バカ息子から詳しく聞きました。私が白内障で入院したその日に、通りでチーちゃんとシロが車にはねられて即死したそうです。その二人は私のために天国に行くのを我慢して、一週間も続けて顔を出してくれたのでした。ショックで貧血だから、一週間の入院を薦められました。そして退院の朝、私の枕元にチーちゃんとそっくりな子が立っていました。
「あなたはチーちゃん?チーちゃんなの?」
 笑っています。
「ごめんね、おばあさんがシロの散歩をお願いしたばかりに」
 女の子は笑って首を振り私の枕元に五百円玉をそっとおきました。
「こらっ、どこの子だ」
 看護婦が叱ると女の子は走って病室を出て行きました。
「あの子追い掛けて」
 病院で盗難が続いていたので看護婦が追い掛けました。

「警備さん、女の子が走って出て行ったでしょ、他所の病室に侵入してたの、どっちに行きました?」
「女の子は出て来ませんでしたよ。ただ真っ白い大きな犬がチャペルに向かって走って行きましたよ」

 インコのシロに餌をやらないといけません。
「シロ、お前は長生きするんだよ」
 声を掛けると「フォン」と鳴きました。
 
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