蠱惑

壺の蓋政五郎

文字の大きさ
11 / 21

蠱惑『親父のエスコート』

しおりを挟む
「行けない」 
 そう父から電話があったのは三月の日曜日だった。 
「行けないってどうして?」 
「わからないんだ」 
「わからないって俺んちが?」 
「わからないんだよ」 
 父は怒って電話を切ってしまった。この時父が認知症の始まりであることに気付いていなかった。父は三年前に三度目の離婚をし独り暮らしの七十六歳、私が長男の正雄、康夫、義男の三兄弟でいずれも所帯を持ち、上二人は子供もいる。父にすれば孫が四人である。父の家と一番近くに暮らす三男の義男に電話を入れた。 
「親父がおかしなことを言って電話を切ったんだ。家に来る予定だったけど『行けない、わからない』と怒って電話を切った」 
「行かないじゃなくて行けない?」 
「そう行けないだ」 
 義男は散歩がてらに様子を見に行くと約束してくれた。そして仕事帰りに父宅に寄り二人で酒を飲んだ。別段変わった風もなく飲んだくれ二人は焼酎の四リットルを半分空けたらしい。義男は家の電話番号と簡単な地図を書いて説明したら『何回も行ってるから分かってる』と一蹴されたと笑っていた。 
「特に問題ないと思う、忘れっぽいのは齢のせいだ、来週そっちに行くらしい。電話で確認取ってくれ」 
 そして約束の二日前に確認した。そして当日。 
「行けない」 
 先週と同じだった。それに父は酔っている。 
「行けないって、一昨日約束したじゃないか、どうして?泊まって行くように段取りしてるのに」 
「わからないんだよ」 
「わからないって何が?」 
「いいよ」
 親父は受話器を叩き付けた。私はすぐに掛けた。受話器が外れている。先週は義男にお願いしたから次男の康夫に電話をした。自分が動くのは最後と決めていた。それは幼い頃からの我が家の風習と言うか家訓と言うか、二人の弟はそれを理解していたし、父がそうするように教育した。 
「親父がさ、少しおかしいんだ。先週家に来ると言って『行けない』と断りの電話があり、義男に訪問してもらったんだが今週もまた『行けない』って電話を切った。折り返し電話したら受話器がちゃんと掛かってない。それにかなり酔っていた」 
「ああ、早上がりして行ってくるよ」 
「悪いな」 
「気にすんな、親父と一か月ぶりだから中トロでも買って一杯やってくる。電話入れるよ」 
 幸か不幸か家族全員が酒好きである。電話の後家内の好美が心配してくれた。 
「お父さん大丈夫?」 
「うん、今夜康夫が行ってくれる」 
「言いにくいけど認知症の始まりじゃない、うちの実家のおばあちゃんがそう、母が言うには昔のことはよく覚えていて繰り返し話するけどさっき話したことはすぐに忘れて覚えていないって、お父さんもそうじゃない?」 
 好美は私が気にしていたことをずばっと言い切った。そうなって欲しくないという神頼みがあった。それで認知症と言う言葉を打ち消していた。 
「うん、大丈夫だと思うよ、あの親父だよ、大酒飲みで女好きで馬鹿騒ぎが好きな男がそういう病気には掛からないよ絶対に、向こうから逃げて行くよ」 
「ならいいけど」 
 ぽつんと相槌を打って家内は客室に行った。私の小心を悟っていた。
 そして翌日康夫からも先週の義男と同じような答えが返って来た。 
「親父んとこに泊まった、と言うより飲み過ぎて帰るのが面倒になったから」 
「様子どう?」 
「酒飲んでいる時はまったく問題ないな、会話の中で昔の話はよく出て来る。ほらいつもの、雪解けが始まると背の低いトンネルが出来てそこに山菜が生える話さ」 
「親父には褒められるけどお袋には危ないからと叱られるあの話しだな」 
 二入で笑い合った。父に問題ないと康夫から聞いて安心した。 
「あなた、お客さんです」 
 客室から好美が呼んだ。それから一週間後のことだった。私は父の訪問を諦めていた。あの『行けない』と言う一言を避けるためだけだった。もう一回言われたら次は私の番である。 
「おい、驚くな、警察から電話で親父を保護したらしい」 
 義男からの電話だった。 
「それでどうする?」 
「俺今夜集まりがあって、康夫が駄目ならキャンセルするつもりだったけど康夫が行くって。後は康夫が帰ってから相談しようよ」 
「迷惑掛けるな」 
「気にするな。昔からそうじゃないか、そうしないと親父に叱られる」 
 義男は笑って電話を切った。 
「一度お父さんのとこに行きましょう」 
 好美が晩酌の時に口にした。私もそう考えていたが二人切りじゃ行けない。 
「仁美か和正呼ぶか」 
「仁美がいいわよ、子供を学校に送れば時間があるでしょ。明日あたしから言っとくわ」
   好美が実の親のように父のことを心配してくれる。私は何より嬉しかった。 
「ありがとう」 
「お父さんが私をエスコートしてくれたんだから、あなたと知り合ってからずっと」 
 そうして一週間後の金曜日に出掛けることに決まった。康夫の話では父は警察署で震えていたらしい。帰り道が分からなくなり、迷い込んだ路地から路地、雨が降りバス停で考え込んでいる所を近所の人に声を掛けられた。『おじさん、道に迷ったの?』父は頷いた。『ここで待ってなよ、動いちゃ駄目だよ』と自分が着ていたジャンパーを父の背に掛けて警察に通報した。その人は家族に認知症がいて、父の素振りですぐに気付いた。こうして私達は父の認知症と付き合うことになった。

「危ないわよお父さん」
 長女の仁美が私達夫婦を気遣ってくれた。実家には康夫も義男を来ていた。部屋に上がる。
「おい、好美じゃないか、そうかよく来たな」
 私より先に妻の好美を労わった。
「お父さん、手を出して、あっお父さんだ、心配してたのよ。お父さんはね、心の病よ、みんなでお父さんを守るから心配しないでね」
 父は好美の頬を撫ぜた。
「お父さんは病気じゃないぞ、お父さんが病気でどうする。お前を誰が守るんだ」
 そう言って父は笑った。
「お父さん、カレーを作るからね、仁美が手伝ってくれる」
 仁美は私達兄弟の空気を察した。
「お母さん、買い物行こう、おじいちゃんちの冷蔵庫ビールと梅干しかない」
 好美も仁美の呼び掛けで事情を察して立ち上がった。
「危ないから出掛けるな、何もなくてもいいから」
 父が好美を心配した。
「大丈夫お父さん、仁美がいるから」
 二人は気遣いからの買い出しに出掛けた。
「父さん、はっきり言う。父さんは認知症だよ。だけど俺達がいるから心配するな。そのために集まった」
 義男が口火を切った。はっきりと現実を話した。私なら病気のことを曖昧に進めただろう。だがこれでもう何も隠さずに話し合いが出来る。
「いいか、これは極論だからな、ここからどこまで下げて行けるか相談したい」
 康夫はこうことわりを入れて話を続けた。
「親父の最善は何か?兄弟三人で出来ることで一番のベストは何か考えた、それは三人共離婚して親父と四人で生活する。これが究極の親父メニュー。三人ともそれなりに収入はあるからかなり楽な生活が出来ると思う。兄貴用に部屋を改築して、客間を造る。親父の介護は三人で毎日交代制にする。どうだ?」
 確かに父にとっては最高の暮らしが戻る。その一方で最悪の悲劇が複数発生する。康夫の極論からレベルを下げる話し合いになった。
「俺はこの身体だしな、ろくな介護出来ないかもしれないな」
 私が弱音を吐くと「いいんだ、そんなこと」と尖った口調で父が言った。
「兄貴はいてくれるだけでいいんだ。親父の話し相手になってくれればいいさ、なあ義男」
「そうさ、昔と一緒さ、俺と康夫が先に動いて兄貴は最後の砦さ」
 苦しい慰めをもらった。
「こういうのはどうだ?俺と康夫兄で交代でここに寝泊まりする。昼は兄貴に居てもらう。親父の話し相手さ、お喋りは病の進行を止める効果ありだ」
 義男が言ったが、そう簡単じゃない。
「兄貴の足が無いな、毎日仁美に送り迎えさせることは出来ないしな」
 こんな議論がずっと続いた。好美と仁美はとっくに買い物から帰りキッチンからカレーの匂いがして来た。父の好きなカレーは具沢山でビーフもジャガイモもごろごろしている。人参は少なく小さめ、玉ねぎは食感がしっかりしているやつ。酒のつまみになるからである。カレーも出来上がり話し合いの輪に好美が入って来た。父の後ろに座り肩を揉みだした。
「ああっ気持ちいい、さすがプロだな」
 父は好美に任せるがままになっていた。
「こういうのはどうかな、親父を交代で泊める。一週間交代とか、どう親父?」 
 義男が訊いた。
「心配してくれんのはいいが大丈夫だ」
 こうして話を聞いていると本当に認知症なのか疑ってしまう。一人暮らしが三年続き、その間の寂しさを私達は考えていなかった。酒の量が進み、さらに症状を悪化させてしまった。認知症など他人事と思っていた。月一の電話、それも二分。この家は土地が借地で建物だけが親父の物である。大家の広い敷地の中にある。建物は古く二束三文、財産もない。国民年金は地代で消えて生活費は兄弟で分担していた。金さえ送れば問題なく生きていると考えていた。
 話はまとまらなかった。
「大の大人が三人も揃って何やってるの」
 気の強い好美がいつまでもまとまらない議論を割いた。
「あなた、お父さんにはうちに来ていただきましょう」
 仁美が拍手した。父に寄り添い「じいちゃんおいで、おいで」とはしゃいだ。
「お父さんはうちに来てもらうことでいいでしょうか、康夫さん、義男さん?」
 いままでの議論は好美の一言で全部素っ飛んだ。我等兄弟は何を話し合っていたのだろうか。実にくだらない、自分の面子と都合だけを考えていただけだったのかもしれない。この世に送り込んでくれた父のことなど抜きにして、話しを難しくしていたのだ。兄弟二人は「お願いします」とはっきり言った。
「ありがとうございます。お父さん、明日から一緒に生活するよ。私達夫婦の目になって下さいね」
「ずっとそうだよ、お父さんだぞ」
 好美は泣いているようだった。父の鼻水を吸う音がする。そして我が家で三人の生活が始まった。父が一人暮らしをしていた時より兄弟達は頻繁に顔を出すようになった。そして来るたびに僅かだが見舞金を置いて行く。好美の考えでその金は使わずに父の葬儀費用に充てようと積み立てた。マッサージ業もそこそこ順調だったので、父の生活費も問題なかった。父は私達の目となり近所への買い物もエスコートしてくれる。好美が玄関を出るとすぐに脇に寄り腕を組んだ。
 そして五年の歳月が流れ父の病状もそれなりに進行し、康夫や義男が尋ねて来ても思い出せない時もあった。私達夫婦には父の顔色や目付きが分からないので仁美や兄弟達から聞き出した。
「不安そうな目をしているねじいちゃん」
 仁美が心配そうに言った。そして私達が一番心配していたことが起きてしまった。私達が客室で仕事中に父は脳梗塞を起こしたのである。炬燵に腰まで潜り仰向けのままじっとしていた。私達に気遣いさせまいとずっと天井を見上げていたらしい。好美が休憩で上がっても父の不調には気が付かなかった。
「忙しいのか?」
 父の姿を見ればすぐにおかしいと気付くが私達にはそれが出来ない。そして気付いたのは孫を連れて訪ねて来た仁美だった。
「おじいちゃん、おかしい、おじいちゃんおかしいよ」
 救急車で運ばれた。私は搬送を共にした。
「父さん、どこか痛くないの?どうして我慢してたの?」
「どこも痛くないさ、大丈夫だよ」
 スローな喋りは忙しない救急車のサイレンすらも巻き込んでしまう。隊員の動きも父の喋りにつられているように感じる。
 
父が入院して二月が経った。私達がもう少し早く気付いていれば後遺症も少なくて済んだと担当医から説明があった晩に、好美は一晩中泣き続けた。この時ほど視覚障害を恨んだことはなかった。弟二人が交代で毎日見舞いをしてくれている。病院は駅からバスで、バス停から十分も歩く。私達夫婦には、困難な場所にあった。仁美の亭主が都合のよい日曜日に見舞いに行くようにしていた。
「父さんのリハビリが始まったよ」
 義男が訪ねて来て報告してくれた。
「どうだ、父さん?ちゃんと看護師さんの言う事聞いているかな」
「それがさ、何て言うのかな。そもそもやる気ないと言うか。どうしてそんなことしなきゃいけないんだって感じで、若い看護師さんが一生懸命手取り足取りやっているのに薄ら笑いを浮かべてさ。それやってどうなるって顔してる」
 義男は思い出して笑っていた。
「お父さんらしい」
 好美が喜んでいた。
「それで親父の状態は?」
「やっぱり進んでいるな、それに戸惑っているような感じだ」
「戸惑うって?」
「どうしてここにいるのかなって感じだ。麻痺しているけど痛みが有るわけじゃないし、苦しいわけじゃない。それなのにどうしてここにいるのかなってそんな風に俺には感じられた」
「ちゃんと義男のこと覚えているか?」
「ナースステーションの廊下で車椅子に座ってさ、いつも誰かを待っているんだエレベーターから降りるのを。俺がエレベーターから下りて向かって行くのを顔を斜に構えてさ、じっと睨むように見ているんだ。その距離が初めはエレベーター降りてすぐにニコっとしたんだが、昨日は二メートルぐらいまで近付いてやっとニコっとした。俺の考えた親父の脳はこうなんだ。歯車がうまく噛み合わず想い出そうとしたところでカタッと外れてんだな。でもさ、それがたまにうまく噛み合うことがあるんだ。おい義男って声を掛けられると嬉しい」
 義男はまた寄ると言って帰った。

 一週間後に康夫が訪ねて来た。
「親父には参った」
「どうした?」
 康夫が想い出して笑っている。
「俺が車椅子の親父に『ヨウッ』って手を上げたら上げ返してさ、ナースステーションで事務を執っていた婦長に『ママ、うちの息子来たからなんか見繕ってやって』ってスナックにでもいるように振る舞っていたよ」
「楽しいわねお父さん、それじゃ看護婦さんはホステスさんに見えるんだ」
 好美が喜んでいた。笑い話であっても私達兄弟にとっては深刻な父の状態である。だが好美にとっては父が父らしいところが嬉しいようだ。それは病が進行しようと父が父でなくなるわけではない。父の根を好いてくれている。上辺の葉が枯れようと散ろうとそれは抜け毛と変わらないのだ。全てを忘れてしまっても生きてきた証と言うか根が枯れるわけではない。根枯れすなわち死である。それまでは上辺がどう変化しようと同じである。惑わされるのはむしろまわりの連中である、そう私のように体裁ばかり気にして生きてきた。

 康夫の報告から二週間後に夫婦で見舞いに行った。夕食も済んで病室に入った。
「じいちゃん、見舞いに来たよ」
 仁美が声を掛けた。
「じいちゃんお母さん見て笑ってるよ」
「お父さん、わたしよ、好美よ、覚えてるでしょ」
 好美の声は大きい。
「当たり前だよ、好美、よく来たな。なんかあるかな」
「何も要らないよお父さん、手を握らせて」
「駄目お母さん、手と足を結わかれてる」
「どうして、どうしてよ?駄目よ解いてあげなさい」
 仁美の亭主がナースを呼んだ。担当の男性看護師が来た。
「ダメダメ、解いたらどっか行っちゃうよ。どっか行って怪我でもしたえらいことだ。そのくらい分かるでしょ」
 看護師が太い声で言った。
「どっか行くってどこに行ったの?ねえどこに行ったの、誰かに迷惑掛けたの?」
 好美が看護師に噛み付いた。
「あくまでも安全のために固定しているんだ、どっかに行ってしまってからでは遅いんだよ。一晩中この患者に付きっ切りじゃないの。この病院にはこういう患者がたくさんいるんだよ。あんた目が不自由なんだな、見えりゃ分かるさ、悪巧みしそうな目付きしてるぜこのおやじ」
「何てこと言うんだあんた、それでも看護師かあんた、あんたみたいなやつが窓から放り投げるんだよ」
 仁美の亭主が看護師に怒りを露わに言い放った。
「投げ捨てる気持ちも分からないでもない」
 看護師に仁美の亭主が飛び掛かった。
「止めて、止めて」
 仁美が声を上げる。
 警備員が二人来て仁美の亭主を押さえ付けた。
「警察呼びますよ」
「トイレ」
 父の声がした。
「お父さん、トイレ?私が連れて行く」
 好美が父の手枷を外そうとすると担当医が来た。
「お帰り下さい、なんですかあなた方は、まわりの患者さんが迷惑していますよ。お帰り下さい」
「いや、帰りません、お父さんをトイレに連れて行きます。あなた手伝って」
 私は好美の肩を抱きました。
「いやよあなた、お父さんを家に連れて帰りましょう」 
 私はもがく好美をギュッと抱き締めました。
「いや、いや。お父さん」
 仁美と亭主が泣き叫ぶ好美の両脇を抱えて部屋を出ました。私は警備員に介錯され部屋を出ました。後ろで父の嗚咽が聞こえました。

 結局父を引き取ることは出来ませんでした。康夫にはまだ手の掛る子が二人いる。義男夫婦には子供がいないが二DKでは物理的に無理があった。それに私達夫婦では父の容態すら感じることが出来ない。脳梗塞が再発しても前回のように気付いて上げられない。好美もそのことを心配し諦めるのでした。介護の世界はあの看護師の言い分が正当化される仕組みになっている。他人に危害を加える可能性もゼロじゃないから手枷足枷を嵌められる。トイレに行きたくても漏らせばいいと諭される。それが慣れるまでの苦しさは本人以外に分からない。
 
 一年が経った。父はすっかり元気をなくしていた。リハビリも中止してほとんど車椅子の生活になった。立ち上がれるし歩くことも出来る。だけどその気が失せていると担当医が説明した。
「そうさせたのは病院の仕組みじゃありませんか、寝る時は手枷足枷、昼は車椅子に固定、トイレはお漏らし、それでどうして歩く気力がありますか?」
 好美が担当医に返す。好美のハンデに担当医も遠慮して反論はしない。父は衰弱していった。
 
 三重の好美の実家で大きなマッサージ店を出してくれることになり私達はその厚意に甘えることにしました。これは結婚する前からの両親との約束でもあった。私が心配なのは父のことだけです。
「いいさ、俺と康夫兄で、面倒見るし、なんかあれば連絡する」
 そして最後になるかもしれない面会に家族で行った。エレベーターを上がる。義男が解説してくれた。
「親父が見てるよこっちを。あれ立ち上がった、こっちに歩いて来るよ、珍しいなあ」
「あらお父さんやる気になったの」
 ナースが父を冷かした。
「親父歩いているのか?」
 私は義男に訊いた。
「ああ、こっちに向かって歩いて来るよ」
「危ないよ転んだら」 
 好美が心配した。
「壁に手を伝って歩いてる。笑った、親父が笑った。ほら好美姉さんの前にいるよ」
「お父さん、元気ですか?」
 好美が父の手を握った。父が好美の腕に腕を回した。
「ありがとうお父さん、エスコートしてくれるの、結婚式の日みたいね」
「お前は危ないからな」
 父の歯車は噛み合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...